【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part13 生きろ――アークエンジェルVSエターナル

 

 

 同様の光景は、熾烈な戦闘を続けるアークエンジェルでも目撃されていた。

 光となって爆散していった連合艦・ホウジョウ。その炎の軌跡から宙へと舞い散っていく、無数の白い四肢をも。

 ブリッジのあちこちから、吐き気を抑えたような呻き声が響く。

 ミリアリアの背後からもメイリンが、我慢し続けるくらいならとばかりに、さっさと嘔吐袋へ吐き出す音が聞こえてきた。だがすぐに、彼女の気丈な報告も凛と響く。

 

「艦長! 

 敵機動要塞とウーチバラの接触により、セレブレイト・ウェイヴの照射角度が既に30度以上逸れています! これなら……!」

「やはりオギヤカはウェイヴの核? でも、光自体は止まっていない……」

 

 無数のデブリとなり舞い散っていく、かつて「人」だった「もの」。

 それを睨みながら、マリューは改めてぎりっと唇を噛みしめた。

 山神隊から報告されていたのは、オギヤカは要塞としての役目と同時に、セレブレイトウェイヴの照準や収束など、制御を司るシステムを搭載しているということだった。

 フラガとレイラの証言によりそれは確たる事実となり、さらにオギヤカのリングの中心に『子宮』と呼ばれるウェイヴの主動力があるのも分かっている。そして、『子宮』が既にフレイの手で奪われていることも。

 しかしセレブレイトウェイヴは、行き場を失いつつはあるものの、未だ拡大を止めていない。

 

「だとすれば──

 オギヤカではなくウーチバラそのものに、まだ何かがあるというの? 

『子宮』と同等の何かが」

 

 ウーチバラ内部の詳細については、レイラからも聞きだすことは出来なかった。口を閉ざしていたのではなく、単純に知らされていないのだろう。

 そう判断したマリューは、即座に指示を出していた。

 

「アークエンジェルはウーチバラ港部に向け、このまま全速前進! 

 山神艦長の意思を無駄にしてはならない。住民救出の為、何としてもウーチバラ内部への突破口を開く!!」

 

 低重力の中、エターナルからの猛攻に大きく揺さぶられつつも叫ぶマリュー。

 今、アークエンジェルはアカツキと、不意に援護に来たデスティニーによって何とか守られている。

 アカツキは既に限界が来ているが、デスティニーはそんなアカツキさえも護るように縦横無尽に動き、両手甲部からビームシールド発生装置──ソリドゥス・フルゴールを最大限に展開しつつ、エターナルの無数の火線からアークエンジェルを庇っていた。

 その状態でアロンダイトを振りかぶり突進するデスティニー。シンの叫びが、ブリッジにも響いてくる。

 

《この船を落とさせはしない! 

 今でも憎いけど──あんたらは、キラさんの帰る場所でもあるんだ!!》

 

 かつて敵だったはずの紅の翼は、今もアークエンジェルとは敵対する者のはずだ。

 しかしそのパイロットたるシン・アスカは、今確実に自らの意思でアークエンジェルを護り、ラクス一世の意思へ立ち向かおうとしている。

 その強烈な闘志が、紅蓮に輝く翼からもはっきりと感じ取れた。

 憎悪や怨讐に囚われるのでも、誰かの意思に左右されるのでもない。

 敵味方関係なく、自分が守りたいものを守ろうとする、若い鮮烈な魂。

 その背は、かつてアークエンジェルを護る為に空から舞い降りてきた、青い翼を思い出させた。

 どれほど傷ついても、それでも帰る場所──アークエンジェルへ戻ってきた、キラ・ヤマト。

 あの時のフリーダムの勇姿が、今のデスティニーと重なる。

 紅に輝く翼を凝視しながら、マリューは冷静に告げた。

 

「デスティニーパイロットね。援護、感謝します。

 ですが本艦はこれより、ウーチバラへの突貫を強行する。自らの良識に従って我々を守った貴方を、これ以上危険に晒すわけにはいきません。

 並びに──」

 

 メインモニターが光条で溢れ、激しく縦に揺さぶられ傾くブリッジ。

 そんな中でも、マリューはクルーたちを振り返る。

 

「総員、退艦を命じます。

 貴方たちまで、むざむざ命を捨てる必要はない。

 救助艇までが動かなくなる前に、脱出を!」

 

 マリューは極めて厳しく命じたつもりであった──

 しかしクルーたちは、一瞬当惑したような表情を見せたものの、全く腰を浮かせることなく再び自らの任務に没頭し続ける。

 

「どうしたの!? 何をやっているの、貴方たち! 

 救助艇が射出されたと分かれば、バルトフェルドなら撃っては来ない。すぐに……」

 

 だがそんなマリューの言葉を、ノイマンが否定した。懸命に操舵輪を回転させ、ミーティアの閃光を躱しながら。

 

「それだけは聞けませんよ、いくら艦長命令でも!」

 

 続いてチャンドラの声も後席から響く。

 

「今乗ってるのは、艦長と共に、命捨てる覚悟のある奴だけです。

 最初からそのつもりで、自分らはここにいるんですよ!」

 

 そしてミリアリアの言葉も。

 

「私たちは今まで、キラやラクスさんにどれだけ依存したか分からない……

 なら、今度は私たちがキラとラクスさんを助ける番です。あの兵器を潰すことで、二人が解放されるなら……! 

 それまで私は、絶対この場から離れません!!」

 

 ミリアリアの言葉に重ねるように、ハンガーで治療中のディアッカの声も響く。

 息も絶え絶えだが、それでも。

 

《悪いが、整備士のオッサンらも離れるつもりないらしいぜ。つまり俺も逃げられないや、ハハ。

 ま、今更逃げようったって無理だがな》

 

 背後のメイリンも、明るさを懸命に装いながら答えた。

 

「大丈夫です。

 シンならきっと、私たちを守ってくれます。今のシンなら!!」

 

 だがマリューは、それでも食い下がる。

 

「だ、だけど……

 今乗っているのは私たちだけじゃないのよ。貴方たちがどうしてもというなら、レイラ嬢だけでも脱出を!!」

 

 その瞬間、待ってましたとばかりに艦内通信が響く。

 勿論、レイラからだった。

 

《ラミアス艦長。私なら大丈夫です。

 このくらい、なんてことありませんわ。ラクス一世とお姉様の修羅場をずっと見てきた私を、見くびらないでください》

「ここは戦場です。貴方をこのまま本艦に留めるわけにはいきません!」

《それでは、私だけが救助艇で脱出したとして──

 この激戦下で、ミーティアの流れ弾が当たらないという保障はありますか? 

 例えバルトフェルドが撃たずとも、ドム隊が救助艇を狙う可能性は十分あります。

 それを考慮すれば、ここにいた方が逆に安全ですよね?》

「しかし……!」

《ラミアス艦長──それに、皆様。

 死ぬ為に戦うのは、どうかおやめください。

 私は国を継ぐ者として、この船とアマミキョに命を預けました。つまり私がここにいる限り、貴方がたは死ねない。

 だからどうか最後まで、希望を捨てずに、生きて!》

 

 彼女の顔は見えないが、恐らくレイラは笑顔を作りながら懸命にこの言葉を発しているのだろう。通信の向こうに、梃子でも動かない意思を感じる。

 

「へ、私の為に生きろってか。

 うまいこと言ってくれんなぁ、お嬢様」

 

 警報が響き続ける中、チャンドラの呟きが流れた。敢えて場を和ませる為の軽口なのは明らかだったが。

 恐らく今のクルーたちやレイラを避難させるのは、セレブレイトウェイヴの停止より遥かに困難を極めるだろう──

 そう直感したマリューの唇に、揺れの中でも自然と微笑みが浮かんでいく。

 同時に胸に湧きあがったものは、命を捨てるのではなく──生き抜く決意。

 

「……ありがとう、みんな。

 自らの正義に則ったといえど、世界を混乱させた責任──

 ここで取ることが許されるならと、思ったのだけどね」

 

 改めて顔を上げ、メインモニターを正面から見据えるマリュー。

 デスティニーとアークエンジェルに対抗するべく、エターナルはなおも向かってくる。退避を勧めたマリューに対するデスティニーからの答えは、当然のように一切なかった。

 防御フィールドを斬られても、なお立ち向かってくるヒルダのドムトルーパー。その相手をするべく、再びアロンダイトを振りかぶり突撃していくデスティニー。

 即座にマリューは指示を下した。あの時、『彼女』なら、確か──

 

「デブリを利用し、砂漠の虎の裏をかく! 

 ミサイル発射管、1番から6番、コリントスの終端誘導を自律制御パターンBにセット、照準。

 イエローブラボー20から45まで、5ポイント刻みの射角で発射。

 同時に転進、進路レッド23、マーク12チャーリー、機関最大!!」

 

 マリューの声と同時に、一斉に発射されるミサイル。

 それは一見、明後日の方向へと撃たれたように思えた──

 発射と共に大きく進路を変え、エターナルの火線を避けてデブリの海へと潜り込んでいくアークエンジェル。それを追うように、数瞬遅れでエターナルも、デブリを強引にミーティアで吹き飛ばしながら方向を変えていく。

 それでも──

 大量のデブリにより、さすがのバルトフェルドも一瞬アークエンジェルを見失ったのか。

 半壊するオギヤカ、僅かに亀裂の入ったウーチバラ外壁。

 既に宙域に散らばっていた多くのデブリに加え、この戦闘によってさらに大量の宇宙のゴミが散乱し、それは戦艦のセンサーさえもかく乱させる。

 無数の鉄屑の中、わずかに確認出来る、人の手足。骨と内臓の破片。

 ギリギリとそれらを凝視しながら、マリューはデブリの向こう側にエターナルの──

 ローズレッドの影を、微かに見た。

 

「今よ! 

 ゴッドフリート、撃てェッ!!」

 

 宙域の彼方に見えた、薄紅の艦体。それに向けて放たれる閃光。

 しかしエターナルも咄嗟の機動により、ゴッドフリートを回避する

 

 ――だがその瞬間こそがまさに、マリューの狙いだった。

 回避行動によりゴッドフリートを避け切ったエターナル。しかし同時に、既に撃ち放ったミサイルが、狙いすましたかの如く次々にエターナルに着弾し──

 

 かつての歌姫の船が、一瞬で劫火に包まれる。

 そんな光景に、ノイマンもミリアリアも、マリュー本人でさえも一瞬啞然としていた。

 

「す、すごい……

 艦長、これは?」

 

 思わず疑問を呈したミリアリアに、ノイマンが呟いた。

 

「もしや、バジルール大佐の──」

 

 ノイマンの指摘は全くその通りだった。

 今マリューが取った戦術は、かつてナタル・バジルールがアークエンジェルと相対した時に行なった戦術とほぼ同じである。

 相手の動きを予測しつつミサイルを発射し、デブリに隠れて死角に回り込み、攻撃。それを回避したところで、先回りしていたミサイルによる損傷を与える──

 ナタルの率いるドミニオンとの戦闘でまんまとこの罠に嵌り、この船は沈められる寸前だった。それが今、アークエンジェルの力となったのか。

 

「私がやると、劣化コピーにしかならないけれど……

 それでも、さすがはナタルね。あのエターナルに、ここまで──」

 

 マリューはほんの少し胸を撫でおろす。

 しかし──

 

 彼女の言葉が終わらないうちに、状況は一転した。

 轟々たる炎に包まれたはずのエターナル。

 メインモニターに映し出されるその光景を前に、メイリンの悲鳴が響く。

 

「え、エターナル、未だ健在! 

 ミサイル来ます! 数10!!」

 

 宙域に渦巻く炎の中から、薄紅の艦首がぬうっとその姿を現す。

 艦体には多少傷がつき、ミーティアの半分以上が使用不能になっているようだが、それでも大破には至っていない。

 さらに、残されたミーティアからは再び猛烈な火線が、アークエンジェルに襲いかかってくる。

 

「く……

 回避ののち、ゴッドフリート照準……っ!!」

 

 息をつく暇もないまま、マリューの指示が飛ぶ。急激に回転するブリッジ内で、ゴッドフリートの指示を出しかけるマリュー。

 だがそれでもミサイルの着弾は防ぎきれず、大きな衝撃と共にブリッジにアラートがけたたましい不協和音を響かせた。

 

「ご、ゴッドフリート2番被弾、発射不能!」

「右舷カタパルト被弾、火災発生!!」

「消火急いで!!」

 

 クルーたちが動転する中、突如響いた通信は。

 

《流石は不沈艦。流石はバジルール大佐の戦術といったところか。

 もし盗聴器が壊れていたら、今頃僕はアイシャの膝で眠れていただろうにね──

 ラミアス艦長?》

 

 通信から流れてきた声は、間違いなくアンドリュー・バルトフェルドのそれだった。

 こちらの通信コードを知り尽くしているからこそ開かれた、砂漠の虎との回線。

 その言葉に、マリューもミリアリアも動揺を隠せない。

 盗聴器。もしや、アークエンジェルがアマミキョと接触した時の──

 ミリアリア救出の為、アマクサ組がアークエンジェルに出した条件。それは、アークエンジェル追跡用のセンサー及び盗聴器の設置。

 こちらをからかうようなバルトフェルドの声が、響く。

 

《アマクサ組により、アークエンジェルに取り付けられた盗聴器──

 サイ君の忠告があったから、念には念を入れて調べ尽くしたつもりだったが。

 よりにもよってブリッジのヤツが、まだ生きてたとはねぇ。

 あれで大分、そちらの動きも漏れてしまっていたんだよ。おかげさまで僕も、今や君たちを撃たざるを得ない》

「な……! 

 それで、攻撃を見切ったということ!?」

 

 そんなマリューの動揺には直接答えぬまま、バルトフェルドの落ち着いた声は響いた。

 

《命まで奪うつもりはない。

 今すぐオーブに戻れ、アークエンジェル。今のラクス一世は、誰にも止められない──

 いや……とっくの昔に、誰にも止められなくなっていたというべきかな》

 

 

 

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