【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
連合の核攻撃は迫っている。その事実をバルトフェルドにも告げるべきか──
逡巡したマリューの心を見透かしたかのような彼の声が、朗々と流れてくる。
《残念だが、核の炎を使ったとしてもウーチバラの破壊は不可能だろう。
その情報はラクス一世の元にも流れている。とっくに第四射の準備に入っているさ。
そいつを撃たれれば、いくら核部隊でも、ウーチバラを狙い撃つ前にお陀仏だ》
「な……!?」
両舷ともその機能を失いかけているミーティアが、酷く軋みながらも再び作動するのが見えた。
デスティニーの攻撃を躱しながら、ドムトルーパーがエターナルを軽くけん制する動きも見える。
同時に、エターナルブリッジに響いているであろうヒルダの怒声も、回線から流れてくる。
《何を馴れ合っている、バルトフェルド! さっさと撃たぬか!!
これ以上、ラクス様を汚すつもりならば……!!》
デスティニーの刃をギリギリで躱しながら、今にも自らエターナルを撃ちかねない勢いで叫ぶヒルダ。ブリッジに銃口は向けても、デスティニーの攻撃からエターナルを庇おうという動きは見せないドムトルーパー。
仮にデスティニーがエターナルとドムを同時に撃った場合、ヒルダはエターナルを一切守ろうとすることなくひらりと躱し、そのままエターナルブリッジは灰燼と化してしまうだろう。
既にシンもそれは予測しているのか、決してドムとエターナルブリッジを同じ射線上に置かないよう攻撃していた。
苛立ちの極まったシンの叫びとヒルダの怒号が、宙域で激突する。
《何やってんだよ、アンタは!
アークエンジェルはラクス・クラインを助けに来たんだ。ラクスさんを守るはずのアンタが、何故アークエンジェルを攻撃してる!?》
《小僧には分からんさ。
ラクス様とご母堂は、世界で唯一の希望。
そしてセレブレイトウェイヴは、親子に残された唯一の希望だ。
それを破壊せんとするなら、何者であろうと討たねばならん!》
《母親にとっちゃそうでも、本当にあれがラクスさんの希望なのかよ!?
あんたには分からないのか。ラクスさんと母親の意思は、決して同じじゃないってこと!!》
《そうか。貴様もやはり、フレイ・アルスターに誑かされたか!!
あの魔女の口車に乗り、ラクス様とご母堂の絆を疑い、引き裂こうとするか!!》
開きっぱなしの回線からアークエンジェルへそのまま流れてくる、シンとヒルダの怒声。
《騙されてるのはどっちだ!?
母親じゃなくて、ラクスさん本人をちゃんと見ろよ!
アンタの尊敬するラクスさんは本当に、あんな神経兵器を認める人だったのか!?》
《セレブレイトウェイヴは完成形ではないと、何度言えば分かる!?
ウェイヴが生み出す光が人の神経を抉る現状は、ご母堂も望むところではないのは当然。
しかし実験を重ね、本来の形となれば、人は真の安寧を得られる!! 人同士が争うことなくいられる世界を!!
それすら拒絶しているのが、今の貴様らよ!》
《違う! 俺が言ってるのは!!
母親じゃなく、本当にラクスさんがそんな世界を望んでいるかってことだよ!!
俺にはそうは思えない。もしそうだったら、ラクスさんはディスティニープランをあんなに必死で止めようとはしなかったはずだろ!!》
《やはり毒されたか、フレイに!!
ラクス様もご母堂と同じ世界を望んでおられる。だからこそご母堂の願いを承諾し、ユテルスに入られているのであろう!!》
《何だよ、ユテルスって……
っていうか、それも母親の命令だろ!! ラクスさんはあいつに逆らえないんだから!!
彼女の喉を潰したのは誰か、そのポンコツ頭で考えてみろよ!!》
何度も何度も防御フィールドとビーム刃での激突を繰り返しながら、その会話は完全に互いの罵倒へと発展していた。
しかし、デスティニーの光刃を受けるたびにヒルダ機の防御フィールドは弱体化していく。
残り少ないエネルギーで必死にフィールドを展開しつつも、ヒルダ機はデスティニーに圧されつつあった。デスティニーの刃を防いでも、アカツキやアークエンジェルの援護射撃が、さらに防御フィールドに執拗にダメージを与えていく。
それでもなお抵抗しようとビームサーベルを抜き放ち、デスティニーに斬りかかるヒルダ機。
《あいつ、だと……小僧っ子が!!
ラクス様の御声と御身を汚したのは、貴様が盲信するフレイ・アルスター以外の誰でもない!
連合の外交官の娘というだけで、ラクス様と同等の戦乙女と自らを勘違いし──
タロミとご母堂に取り入り寵愛を欲しいままにした挙句、その全てを裏切った、売女さ!》
そんなヒルダの言葉に対し──
彼女を見下げ果てたのか。どこか奇妙に落ち着いてしまったシンの声が、流れた。
《……結局アンタ、それしか知らないんだな。
アンタと話すとムカつく理由が、何となく分かったよ。
ちょっと前の俺に似てるんだ。アンタは!》
言葉と共にヒルダ機を強引に突き飛ばし、一旦大きく離れるデスティニー。
相手に防御体勢を取らせる間もなく、アロンダイトを正面に構え、そのまま神速でドムの懐めがけて突撃していく。
あまりの速さに、あっさりと左胸部を破壊されるヒルダ機。
寸前で回避行動を取った為か機体の貫通だけは免れたものの、僅かに残った防御フィールドすらも簡単に破られ──
ドムトルーパーの誇る攻性防御装置──スクリーミングニンバスが、ビームサーベルもろとも装甲ごと四散していく。
しかし、ヒルダに残された執念が、彼女を簡単に折らせなかった。
《……貴様らは……
あの日、ラクス様がどれほど傷つけられたか分からぬから──
簡単に、ご母堂を敵に回せるのだ!!
あの日のラクス様を救えたのは、ご母堂だけだ。それすら疑おうというなら!!》
防御装置を破壊され、傷だらけになってもなお、腰部にマウントされていたギガランチャーをビームサーベルの替わりとばかりに右腕に構えるドムトルーパー。
その砲口は真っすぐに、アークエンジェル──そのブリッジに向けられていた。
《しまっ……!!》
シンの叫び。
同時にブリッジにも、マリューとノイマンの怒声が交錯する。
「回避!」
「駄目です、間に合いません!!」
デスティニーもアカツキも、ヒルダ機は完全に無力化したと考えていたのか。
予想外の彼女の執念に虚を突かれ、両機とも咄嗟に反応出来なかった。こんな時には神が降りたかの如き操舵を見せるノイマンでさえも。
だが、その刹那──
朗々たる声が、場に響いた。
《伏せろ、ラミアス艦長!
ランチャー5、ランチャー10、ディスパール、撃てェっ!!》
声と同時に、アークエンジェルのすぐ背後から飛んでくる閃光。
それが、見事にドムトルーパーのギガランチャーへ命中する。今まさに放たれようとしていた光弾は、この一撃だけで無数の細かな光の粒子となって宙域に散った。
メイリンの、どこか嬉しさのこもった声がブリッジにこだまする。
「これは……ミネルバJrからの援護射撃です!
来てくれたんですね、トライン艦長!!」
そんな彼女の声に応えるように──
後方から戦域に接近しつつあったミネルバJr。その砲口から放たれる閃光が、次々にドムトルーパーを、エターナルを襲う。
ほぼ同時に開かれる、ミネルバJrとの通信。
《すまない、ラミアス艦長。
南チュウザン機の相手に手間取った!》
メインモニター脇に映し出される、堂々たるミネルバJrの光学映像。
その威容は、元はローラシア級のはずなのに、何故かミネルバそのものを思わせるほど大きかった。
《面舵30、トリスタン照準、撃てェッ!!》
息をつく暇も与えず、ミネルバJr両舷から放たれた収束火線砲。
それはエターナルに着弾し、崩壊寸前だったミーティアユニットを完膚なきまでに破砕していく。
光となって散りゆくミーティアを茫然と見つめながら、思わず呟くマリュー。
「トライン艦長……どうして?」
そんな彼女の呟きを聞き逃すことなく、即座にアーサーから応答が返ってくる。
《どうしても何も。
今の貴方がたは、我々の味方だ。援護は当然でしょう》
その言葉に、マリューの胸に熱いものがこみあげる。
彼女の想いを代弁するかのように、メイリンが涙ながらにアーサーに答えた。
「トライン艦長……ありがとうございます!
私、私……ミネルバに、酷いことしたのに!」
《お互いさまだ、メイリン。我々も君とアスランを排除しようとした──
それに、泣くんじゃない。安心するのはまだまだ早い。
我々には仕事が残っている。ウーチバラ内部への道、何としても切り開かねば!》
ミネルバJrの背後からは、光のフィールドを展開したまま接近してくるティーダZとセイレーン──
そして、急速接近してくるアマミキョも確認出来た。
アークエンジェルとミネルバJr。
二隻の宇宙艦艇を前にして、エターナルはミーティアユニットを二機とも失い、完全に無力化したかと思われた。
アカツキを操りつつ、フラガは慎重にエターナルに接近する。当然、大破して宙に漂ったままのヒルダ機も警戒しながら。
アークエンジェルからエターナルに対するマリューの呼びかけが、コクピットにも響いてきた。
《バルトフェルド隊長。貴方が我々と敵対する理由は、最早何もないはず。
貴方は命をかけて、レイラ・クルーとフラガ一佐を救出してくれた。ならば次は、我々が貴方と貴方の部下を助けます!》
しかし、バルトフェルドからの応答はない。先ほどまであれほど余裕で通信していたのが嘘のように。
アカツキは砲撃を警戒しつつブリッジ付近まで近づいたが、それでもエターナルからの反応はない。発射管のひとつさえ、動く気配がない。
動かれても困るが──アカツキも多くの武装が破壊された上、既にエネルギー切れ寸前なのだから。
「一体どうした……虎?
応答しろ。俺たちはもう……」
アカツキに残されたセンサーも総動員して、ブリッジの内側を探るフラガ──
しかし内部を改めて確認した瞬間、彼は思わず息を飲んだ。
「──っ!!」
《?
どうしたの? フラガ一佐!》
異常を察知したマリューの声さえ、どこか遠いもののように聴こえた。
──モニターに映し出されたものは、血に塗れた艦長席。
そこにぐったりとうなだれながら、たった一人で艦のオペレートを続けている、砂漠の虎の姿だった。
エターナルはアークエンジェルとは違い、少人数でもコントロールが可能な艦だ。バルトフェルドほど有能な人間なら、ほぼ単独での操艦も可能である。だから一人でいること自体は、そこまで不思議ではなかったのだが──
艦長席から漏れだしたのであろう、無数の血塊が大量にブリッジに浮いている。間違いなくバルトフェルドの血だ。
彼はというと、右側の腹を押さえながら片腕だけで艦を操っていた。
「バルトフェルド!
おい、何があった!? 応答しろ!!」
思わず救難チャンネルごしに呼びかけるフラガ。
するとバルトフェルドの腕が、僅かにコンソール上で動く。ようやく返ってきた、彼からの通信。
《何があったも何も。
最初からこんな状態で、ここに乗っけられたのさ。ヒルダとの撃ち合いで、情けなくも負けてしまってねぇ》
「今助ける。医療班は、この船には!?」
《いるわけないだろう。艦には僕一人だけ──
ならば医者などいらんという、ありがたいラクス一世のお言葉だ》
「って、おい……
腹に銃弾喰らって、そのままずっと操艦してたってのか!?」
《これが……彼女流の罰ってやつだよ。
アマクサ組に言わせりゃ、これでも、まだ……甘い方、らしいがね》
余裕を装ってはいるが、さすがに限界なのか。激しい息切れが混じり始めるバルトフェルドの声。
その言葉が終わるや否や、即座にマリューの指示が飛んできた。
《アカツキはこの場で待機。
一佐はエターナルに進入ののち、艦内の負傷者の救出に回って!》
「何だって?
アークエンジェルはどうする?」
《我々はこれより、ウーチバラへの突入を試みます。
恐らくそこに、ラクス・クラインもいる。私たちの知るラクスさんが!》
フラガが止める暇もないまま、彼の眼前で再び動き出すアークエンジェル。
同じ指令が出たのか、ミネルバJrもそれに追随していく。
追いすがるように聴こえてくる、バルトフェルドからの通信。
《逃げろと……言っている、アークエンジェル。
せめてラミアス──君だけ、でも……
僕のコーヒーを味わってくれる貴重な人間を、無碍に失いたくは……ないんだよ》
それはまるで、去っていく女を止めようとする男の声のようにも聞こえた。
フラガは思い出す。そういえばバルトフェルドは一時期、マリューと共にオーブで隠匿生活を送っていたことが──
そこまで考えて、彼は自分で呆れたように頭を振る。
そしてブリッジのバルトフェルドを正面から見据えながら、エターナルへの侵入口を探り始めた。
「……なぁ、虎。
俺が貴様に、最高の罰を与えてやるよ。
イイ感じと思ってた女に振られた上に、そいつの男に助けられる──
どうだ。サイコーに情けない罰だろ?」
センサーで慎重にブリッジ内部を探りつつ、フラガはバルトフェルドの答えを待つ。声色はあくまで軽妙に保ちながら。
やがて返ってきたのは、いつも通りの、余裕に満ちた声だった。
《……フフ、なるほど。
そりゃ、舌を噛みたくなるほどキツイ罰だ》