【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part14 サイコーに情けない罰

 

 

 連合の核攻撃は迫っている。その事実をバルトフェルドにも告げるべきか──

 逡巡したマリューの心を見透かしたかのような彼の声が、朗々と流れてくる。

 

《残念だが、核の炎を使ったとしてもウーチバラの破壊は不可能だろう。

 その情報はラクス一世の元にも流れている。とっくに第四射の準備に入っているさ。

 そいつを撃たれれば、いくら核部隊でも、ウーチバラを狙い撃つ前にお陀仏だ》

「な……!?」

 

 両舷ともその機能を失いかけているミーティアが、酷く軋みながらも再び作動するのが見えた。

 デスティニーの攻撃を躱しながら、ドムトルーパーがエターナルを軽くけん制する動きも見える。

 同時に、エターナルブリッジに響いているであろうヒルダの怒声も、回線から流れてくる。

 

《何を馴れ合っている、バルトフェルド! さっさと撃たぬか!! 

 これ以上、ラクス様を汚すつもりならば……!!》

 

 デスティニーの刃をギリギリで躱しながら、今にも自らエターナルを撃ちかねない勢いで叫ぶヒルダ。ブリッジに銃口は向けても、デスティニーの攻撃からエターナルを庇おうという動きは見せないドムトルーパー。

 仮にデスティニーがエターナルとドムを同時に撃った場合、ヒルダはエターナルを一切守ろうとすることなくひらりと躱し、そのままエターナルブリッジは灰燼と化してしまうだろう。

 既にシンもそれは予測しているのか、決してドムとエターナルブリッジを同じ射線上に置かないよう攻撃していた。

 苛立ちの極まったシンの叫びとヒルダの怒号が、宙域で激突する。

 

《何やってんだよ、アンタは! 

 アークエンジェルはラクス・クラインを助けに来たんだ。ラクスさんを守るはずのアンタが、何故アークエンジェルを攻撃してる!?》

《小僧には分からんさ。

 ラクス様とご母堂は、世界で唯一の希望。

 そしてセレブレイトウェイヴは、親子に残された唯一の希望だ。

 それを破壊せんとするなら、何者であろうと討たねばならん!》

《母親にとっちゃそうでも、本当にあれがラクスさんの希望なのかよ!? 

 あんたには分からないのか。ラクスさんと母親の意思は、決して同じじゃないってこと!!》

《そうか。貴様もやはり、フレイ・アルスターに誑かされたか!! 

 あの魔女の口車に乗り、ラクス様とご母堂の絆を疑い、引き裂こうとするか!!》

 

 開きっぱなしの回線からアークエンジェルへそのまま流れてくる、シンとヒルダの怒声。

 

《騙されてるのはどっちだ!? 

 母親じゃなくて、ラクスさん本人をちゃんと見ろよ! 

 アンタの尊敬するラクスさんは本当に、あんな神経兵器を認める人だったのか!?》

《セレブレイトウェイヴは完成形ではないと、何度言えば分かる!? 

 ウェイヴが生み出す光が人の神経を抉る現状は、ご母堂も望むところではないのは当然。

 しかし実験を重ね、本来の形となれば、人は真の安寧を得られる!! 人同士が争うことなくいられる世界を!! 

 それすら拒絶しているのが、今の貴様らよ!》

《違う! 俺が言ってるのは!! 

 母親じゃなく、本当にラクスさんがそんな世界を望んでいるかってことだよ!! 

 俺にはそうは思えない。もしそうだったら、ラクスさんはディスティニープランをあんなに必死で止めようとはしなかったはずだろ!!》

《やはり毒されたか、フレイに!! 

 ラクス様もご母堂と同じ世界を望んでおられる。だからこそご母堂の願いを承諾し、ユテルスに入られているのであろう!!》

《何だよ、ユテルスって……

 っていうか、それも母親の命令だろ!! ラクスさんはあいつに逆らえないんだから!! 

 彼女の喉を潰したのは誰か、そのポンコツ頭で考えてみろよ!!》

 

 何度も何度も防御フィールドとビーム刃での激突を繰り返しながら、その会話は完全に互いの罵倒へと発展していた。

 しかし、デスティニーの光刃を受けるたびにヒルダ機の防御フィールドは弱体化していく。

 残り少ないエネルギーで必死にフィールドを展開しつつも、ヒルダ機はデスティニーに圧されつつあった。デスティニーの刃を防いでも、アカツキやアークエンジェルの援護射撃が、さらに防御フィールドに執拗にダメージを与えていく。

 それでもなお抵抗しようとビームサーベルを抜き放ち、デスティニーに斬りかかるヒルダ機。

 

《あいつ、だと……小僧っ子が!! 

 ラクス様の御声と御身を汚したのは、貴様が盲信するフレイ・アルスター以外の誰でもない! 

 連合の外交官の娘というだけで、ラクス様と同等の戦乙女と自らを勘違いし──

 タロミとご母堂に取り入り寵愛を欲しいままにした挙句、その全てを裏切った、売女さ!》

 

 そんなヒルダの言葉に対し──

 彼女を見下げ果てたのか。どこか奇妙に落ち着いてしまったシンの声が、流れた。

 

《……結局アンタ、それしか知らないんだな。

 アンタと話すとムカつく理由が、何となく分かったよ。

 ちょっと前の俺に似てるんだ。アンタは!》

 

 言葉と共にヒルダ機を強引に突き飛ばし、一旦大きく離れるデスティニー。

 相手に防御体勢を取らせる間もなく、アロンダイトを正面に構え、そのまま神速でドムの懐めがけて突撃していく。

 あまりの速さに、あっさりと左胸部を破壊されるヒルダ機。

 寸前で回避行動を取った為か機体の貫通だけは免れたものの、僅かに残った防御フィールドすらも簡単に破られ──

 ドムトルーパーの誇る攻性防御装置──スクリーミングニンバスが、ビームサーベルもろとも装甲ごと四散していく。

 しかし、ヒルダに残された執念が、彼女を簡単に折らせなかった。

 

《……貴様らは……

 あの日、ラクス様がどれほど傷つけられたか分からぬから──

 簡単に、ご母堂を敵に回せるのだ!! 

 あの日のラクス様を救えたのは、ご母堂だけだ。それすら疑おうというなら!!》

 

 防御装置を破壊され、傷だらけになってもなお、腰部にマウントされていたギガランチャーをビームサーベルの替わりとばかりに右腕に構えるドムトルーパー。

 その砲口は真っすぐに、アークエンジェル──そのブリッジに向けられていた。

 

《しまっ……!!》

 

 シンの叫び。

 同時にブリッジにも、マリューとノイマンの怒声が交錯する。

 

「回避!」

「駄目です、間に合いません!!」

 

 デスティニーもアカツキも、ヒルダ機は完全に無力化したと考えていたのか。

 予想外の彼女の執念に虚を突かれ、両機とも咄嗟に反応出来なかった。こんな時には神が降りたかの如き操舵を見せるノイマンでさえも。

 だが、その刹那──

 朗々たる声が、場に響いた。

 

《伏せろ、ラミアス艦長! 

 ランチャー5、ランチャー10、ディスパール、撃てェっ!!》

 

 声と同時に、アークエンジェルのすぐ背後から飛んでくる閃光。

 それが、見事にドムトルーパーのギガランチャーへ命中する。今まさに放たれようとしていた光弾は、この一撃だけで無数の細かな光の粒子となって宙域に散った。

 メイリンの、どこか嬉しさのこもった声がブリッジにこだまする。

 

「これは……ミネルバJrからの援護射撃です! 

 来てくれたんですね、トライン艦長!!」

 

 そんな彼女の声に応えるように──

 後方から戦域に接近しつつあったミネルバJr。その砲口から放たれる閃光が、次々にドムトルーパーを、エターナルを襲う。

 ほぼ同時に開かれる、ミネルバJrとの通信。

 

《すまない、ラミアス艦長。

 南チュウザン機の相手に手間取った!》

 

 メインモニター脇に映し出される、堂々たるミネルバJrの光学映像。

 その威容は、元はローラシア級のはずなのに、何故かミネルバそのものを思わせるほど大きかった。

 

《面舵30、トリスタン照準、撃てェッ!!》

 

 息をつく暇も与えず、ミネルバJr両舷から放たれた収束火線砲。

 それはエターナルに着弾し、崩壊寸前だったミーティアユニットを完膚なきまでに破砕していく。

 光となって散りゆくミーティアを茫然と見つめながら、思わず呟くマリュー。

 

「トライン艦長……どうして?」

 

 そんな彼女の呟きを聞き逃すことなく、即座にアーサーから応答が返ってくる。

 

《どうしても何も。

 今の貴方がたは、我々の味方だ。援護は当然でしょう》

 

 その言葉に、マリューの胸に熱いものがこみあげる。

 彼女の想いを代弁するかのように、メイリンが涙ながらにアーサーに答えた。

 

「トライン艦長……ありがとうございます! 

 私、私……ミネルバに、酷いことしたのに!」

《お互いさまだ、メイリン。我々も君とアスランを排除しようとした──

 それに、泣くんじゃない。安心するのはまだまだ早い。

 我々には仕事が残っている。ウーチバラ内部への道、何としても切り開かねば!》

 

 ミネルバJrの背後からは、光のフィールドを展開したまま接近してくるティーダZとセイレーン──

 そして、急速接近してくるアマミキョも確認出来た。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルとミネルバJr。

 二隻の宇宙艦艇を前にして、エターナルはミーティアユニットを二機とも失い、完全に無力化したかと思われた。

 アカツキを操りつつ、フラガは慎重にエターナルに接近する。当然、大破して宙に漂ったままのヒルダ機も警戒しながら。

 アークエンジェルからエターナルに対するマリューの呼びかけが、コクピットにも響いてきた。

 

《バルトフェルド隊長。貴方が我々と敵対する理由は、最早何もないはず。

 貴方は命をかけて、レイラ・クルーとフラガ一佐を救出してくれた。ならば次は、我々が貴方と貴方の部下を助けます!》

 

 しかし、バルトフェルドからの応答はない。先ほどまであれほど余裕で通信していたのが嘘のように。

 アカツキは砲撃を警戒しつつブリッジ付近まで近づいたが、それでもエターナルからの反応はない。発射管のひとつさえ、動く気配がない。

 動かれても困るが──アカツキも多くの武装が破壊された上、既にエネルギー切れ寸前なのだから。

 

「一体どうした……虎? 

 応答しろ。俺たちはもう……」

 

 アカツキに残されたセンサーも総動員して、ブリッジの内側を探るフラガ──

 しかし内部を改めて確認した瞬間、彼は思わず息を飲んだ。

 

「──っ!!」

《? 

 どうしたの? フラガ一佐!》

 

 異常を察知したマリューの声さえ、どこか遠いもののように聴こえた。

 

 ──モニターに映し出されたものは、血に塗れた艦長席。

 そこにぐったりとうなだれながら、たった一人で艦のオペレートを続けている、砂漠の虎の姿だった。

 エターナルはアークエンジェルとは違い、少人数でもコントロールが可能な艦だ。バルトフェルドほど有能な人間なら、ほぼ単独での操艦も可能である。だから一人でいること自体は、そこまで不思議ではなかったのだが──

 艦長席から漏れだしたのであろう、無数の血塊が大量にブリッジに浮いている。間違いなくバルトフェルドの血だ。

 彼はというと、右側の腹を押さえながら片腕だけで艦を操っていた。

 

「バルトフェルド! 

 おい、何があった!? 応答しろ!!」

 

 思わず救難チャンネルごしに呼びかけるフラガ。

 するとバルトフェルドの腕が、僅かにコンソール上で動く。ようやく返ってきた、彼からの通信。

 

《何があったも何も。

 最初からこんな状態で、ここに乗っけられたのさ。ヒルダとの撃ち合いで、情けなくも負けてしまってねぇ》

「今助ける。医療班は、この船には!?」

《いるわけないだろう。艦には僕一人だけ──

 ならば医者などいらんという、ありがたいラクス一世のお言葉だ》

「って、おい……

 腹に銃弾喰らって、そのままずっと操艦してたってのか!?」

《これが……彼女流の罰ってやつだよ。

 アマクサ組に言わせりゃ、これでも、まだ……甘い方、らしいがね》

 

 余裕を装ってはいるが、さすがに限界なのか。激しい息切れが混じり始めるバルトフェルドの声。

 その言葉が終わるや否や、即座にマリューの指示が飛んできた。

 

《アカツキはこの場で待機。

 一佐はエターナルに進入ののち、艦内の負傷者の救出に回って!》

「何だって? 

 アークエンジェルはどうする?」

《我々はこれより、ウーチバラへの突入を試みます。

 恐らくそこに、ラクス・クラインもいる。私たちの知るラクスさんが!》

 

 フラガが止める暇もないまま、彼の眼前で再び動き出すアークエンジェル。

 同じ指令が出たのか、ミネルバJrもそれに追随していく。

 追いすがるように聴こえてくる、バルトフェルドからの通信。

 

《逃げろと……言っている、アークエンジェル。

 せめてラミアス──君だけ、でも……

 僕のコーヒーを味わってくれる貴重な人間を、無碍に失いたくは……ないんだよ》

 

 それはまるで、去っていく女を止めようとする男の声のようにも聞こえた。

 フラガは思い出す。そういえばバルトフェルドは一時期、マリューと共にオーブで隠匿生活を送っていたことが──

 そこまで考えて、彼は自分で呆れたように頭を振る。

 そしてブリッジのバルトフェルドを正面から見据えながら、エターナルへの侵入口を探り始めた。

 

「……なぁ、虎。

 俺が貴様に、最高の罰を与えてやるよ。

 イイ感じと思ってた女に振られた上に、そいつの男に助けられる──

 どうだ。サイコーに情けない罰だろ?」

 

 センサーで慎重にブリッジ内部を探りつつ、フラガはバルトフェルドの答えを待つ。声色はあくまで軽妙に保ちながら。

 やがて返ってきたのは、いつも通りの、余裕に満ちた声だった。

 

《……フフ、なるほど。

 そりゃ、舌を噛みたくなるほどキツイ罰だ》

 

 

 

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