【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part15 みんなが『人』でいられるか

 

 

 ウーチバラ港部へと急速に接近していく、アークエンジェルとミネルバJr。

 それを追うようにして、アマミキョもまたティーダZやセイレーンに追随するように、コロニーへと近づきつつあった。

 ブリッジでは、サイの下した指示によりクルーたちが忙しなくコンソールパネルに指を走らせている。

 

 アマミキョ自沈プログラム──かつてウルマ沖で発動させたこのシステムを、サイは今一度使おうとしていた。

 但し今回は、単純に船の自爆を促すものではない。既に搭載されていたシステムはモルゲンレーテ内で改良され、システムを狙われた場合の自沈のみならず、用途別に分けての自沈が可能になっていた。

 今サイが選択したパターンは──

 コア以外のブロックを分離後爆発させ、大型の障害物を除去する。並びに目的地に迅速に到着するべく、残存エネルギーを限界まで使用し、ブリッジ含めたコアブロックを最大限に加速させる。

 それが、自沈プログラムベータ。

 デブリや、残されているであろう防壁を破壊しながらウーチバラへの突入を試みる、現在の目的には最適の手段といえた。

 

 当然、最低限必要なクルー以外は全員避難した上でという条件は同じだ。

 それ故、先ほどトニー隊長の下した両舷後方ブロックのパージ及びクルーの避難という指示は変更せず、当然ながら避難したクルーのいるブロックも自爆には使わない。つまり、自爆パターンに細かな変更を加えてのプログラム実行となっている。

 避難を命じられたのは、ブリッジで懸命にサイの手当を続けていた看護師三人組──

 ピックル、シルキー、コロンも同じだった。

 サイの身体がアマミキョへの接続に慣れてきた為、彼自身が彼女たちへ避難指示を下したのである。

 

「皆さん! 副隊長……スズミ先生。どうかご無事で!」

「無理そうだったら、いつでも戻っておいでよ!!」

「薬と一緒に、嘔吐袋も出来るだけ補充しておいたけど……

 足りなくなったら、呼んで」

 

 口々にそう言いながら、何度も振り返りつつブリッジから出ていく看護師たち。

 だが他のクルーは、サイやトニーがどれほど言ったところで頑なに動こうとはしなかった。

 ずっとブリッジ勤務を続けてきたディックやマイティは勿論、新人操舵士たるノーチェまでも。

 

「そりゃ逃げたいのはやまやまですけど、俺たちまで避難するのは無理っすよ。

 だって……」

「この前と違って、プログラム実行後も私たちは動く必要があるでしょう?」

「なら、僕らはいるべきでしょ。副隊長が一瞬でも気絶しちまう可能性あるなら、僕が船動かさないとね!」

 

 消極的な意見を口にしつつも、彼らは決してその場から動こうとせず、自らの業務に邁進し続ける。

 その姿はサイに、かつてのヤキンを戦い抜いたアークエンジェルの志士たち──

 ノイマンやチャンドラ、そしてトノムラたちの背中を思い出させた。

 サイはヒスイにも指示を出そうとしたが、声を発する前に彼女に止められた。

 振り向きもせず、彼女は呟く。

 

「無駄な指示は出す必要ありません、副隊長。

 今度こそ、私は絶対にここから動くつもりはありませんから」

 

 モニターに拡がっているのは、未だオギヤカから流出し続けているデブリ。そして、人「だったもの」の残骸。

 しかし嘔吐袋こそ手離せないとはいえ、ヒスイは決してその光景から目を逸らそうとはしなかった。そこに、かつてパニックを起こしてブリッジから離れざるを得なかった彼女の面影は、微塵もない。

 スズミとエリカもまた、サイとアマミキョの接続状況を確認しながら、ブリッジを離れようとする素振りは全く見せなかった。サイやこの船と命を共にするのが当たり前と言いたげに。

 サイの義手の状況を確認しながら、スズミは改めて警告する。

 

「これ以上、止めても無駄でしょうけれど──

 両舷後方ブロックパージの上、コアブロック以外をウーチバラの突破に使うならば、サイ君。

 貴方の生命の保障すらも出来なくなる。

 生還出来ても、四肢全てが動かなくなる可能性が高い。内臓への負担も甚大よ。

 それでもやるの、貴方は?」

「ここで俺がやらなきゃ、いつやるんですか。ナオトの方がもう限界なんです。

 それに、全てを爆発させるわけじゃない。隊長の当初の指示通り、両舷後方ブロックは避難に使うから、両脚はいずれ動く。

 右舷前方のカタパルトブロックはティーダZの収容に使いますから、腕は一本残ります。

 左腕は元々切れてますし!」

「理論上は確かにそうよ。だけど、実際どうなるかは分からない。

 誰もやったことのない所業だからね」

「四肢と五臓六腑全部吹っ飛んだとしても、俺はやります。

 みんなが人でいられるか。これはその戦いなんだ」

 

 身体中に付けられた電極を直されながら答えるサイ。その両手指は間断なくコンソールパネルを走り、視線はサブモニター内に映し出された、アマミキョの内部状況を追い続けている。

 そんなサイの両肩に、そっと何かがかけられた。殆どが包帯で覆われているものの、素っ裸に近いサイの上半身に。

 それは、エリカの着ていたモルゲンレーテの、朱のジャケット。

 

「着てなさい。

 いくら何でも、そのままじゃ風邪をひく」

 

 サイの右腕をとり、絡みつくチューブを一旦外しながら、丁寧にジャケットの袖を通していくエリカ。

 それまで羽織っていたジャケットやタオルは、殆どが血と汗と吐しゃ物に塗れて使い物にならなくなってしまっていた。この状況下では、サイが何か着てもすぐに体液で汚れてしまう──

 そう分かっていても、エリカは躊躇することなく自分の服をサイに着せた。

 

 皮膚を通じて感じる、彼女の手の暖かさ。それはサイにふと、昔の母の手を思い出させた──

 今では精神を狂わせてしまった、母を。

 サイの心を知ってか知らずか、エリカはあくまで事務的に言葉を継ぐ。

 

「今、少し強めの痛み止めを点滴に入れてもらった。痛覚を可能な限り鈍くすることで、フィードバックシステムによる痛みは軽減されるはず──

 それでも、パージ時の激痛は免れない。今、アマミキョの直掩機も殆ど残っていない状況だから、攻撃を受ければそのダメージは直接……」

「分かっています。

 だからこその、プログラムベータの遂行なんです。これを使えば理論上、アマミキョの最高速度はモビルスーツのそれを遥かに超える」

 

 サイはそう言いながら、今一度モニターを確認した。

 既にクルーたちの避難が100%完了したシグナルが、サブモニターで明滅する。即座にサイはトニーに呼びかけた。

 

「クルー全員の移動完了。最終チェック終了を確認。

 隊長。いつでも行けます! やってください!!」

「分かった」

 

 こくりと頷きながら、トニーは改めて勢いよく真正面に向き直った。

 モニター内のティーダZと光のフィールド、その向こう側に輝くコロニー・ウーチバラを、真っすぐに見据えて。

 

「行くぞ皆の者──

 これぞ一世一代の大勝負だ!! アマミキョ自沈プログラムベータパターン3、起動!!」

 

 

 

 

 

 

 ウーチバラ港区画へ急速接近し、進入口を探っていたアークエンジェル。

 何度かゴッドフリートでの攻撃を試みていたものの、コロニーへの主たる進入経路である港区画には陽電子リフレクターが張り巡らされており、容易に突破出来そうになかった。

 先行するデスティニーがアロンダイトを振りかぶり、強引にリフレクターを切り刻みに行っているものの──

 モビルスーツ相手ならばともかく、対象がコロニーという巨大建造物ではどう見ても効率的ではなかった。

 あまりの大出力により、デスティニーが何度切り裂いてもすぐさま再生されてしまうリフレクター。その上デスティニーはウーチバラから間断なく出撃してくる黒ダガーLの相手までしなければならず、さすがに疲労が見え始めていた。

 状況に歯噛みしつつも、マリューは次々に援護の指示を出す。そんな中、ミリアリアは呟かずにいられない。

 

「港を保護するなら、外壁だって守るべきなのに。そっちの防御の方は薄かったなんて……

 やっぱりウーチバラはもう、人が住む場所と見做されていない。兵器と化してしまった」

 

 ミリアリアは外壁をサーチしてみたものの、まともに進入可能な出入口は全て閉ざされていた。だからといって強引に外壁を破ろうとすれば、コロニー全体が崩壊しかねない。

 結果彼らは、港区画付近で延々と再生を続けるリフレクターとの戦いを強いられていたのである。

 しかし、それでもなお諦めないアークエンジェルやミネルバJrからの波状攻撃により、リフレクター全体の出力は少しずつ低下し始めていた。

 乱れ続ける髪もそのままに、メイリンに報告を求めるマリュー。

 

「デスティニーといえども限界が近い。ジャスティスは!?」

「光のフィールドと共に、ウーチバラに接近中です。

 しかし依然、フリーダムに阻まれたままでこちらの援護が

 ……あうっ!?」

 

 その報告中、思わず声を上げるメイリン。

 ──それとほぼ同時に、ミリアリアの両脚に、痛烈な衝撃が走った。

 正確には、両の太ももから股関節のあたりにかけて。

 

「──っ!!? 

 な、何、これ……っ!?」

 

 両脚を、根元から引きちぎられるかのような激痛。

 何の兆候もなく突然走ったその痛みに、ミリアリアは思わず頭を伏せてしまう。

 しかしすぐに眼前のモニター、次いでクルーたちの状況を確認した──

 マリューもノイマンも、一瞬だけ不自然に上半身を屈めたような気がした。痛みを殆ど表情には出していないが、わずかにその唇が噛みしめられたのが分かる。

 

 この感覚は──まさか、もしかして。

 サイ。貴方が──? 

 

 ミリアリアはサブモニターに視線を走らせる。

 表示を確認した瞬間、彼女は悲鳴同然に叫んでいた。

 

「艦長! 

 アマミキョ、自沈プログラムベータを起動! 

 ウーチバラに向けて、急速接近を開始しています!!」

「何ですって!?」

 

 

 

 

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