【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「死んだ
……ナオト君……が?」
ティーダZの爆発により生まれた、巨大な魂の震動。
それを、撃った当人たるキラ・ヤマトが感じていないはずがなかった。
むしろその鋭敏すぎる感覚で、サイと同程度に感じてしまっていたとも言える。
「そんな……そんな、バカなこと!
僕は、君たちを止めたかっただけだ
……なのに!!」
あまりの慟哭に、言葉が出ない。そしてその衝撃は、フリーダムの機動すらも一瞬だけ止めてしまった。
間髪入れずにそこへ飛び込んできたのは勿論、アスラン・ザラ──
インフィニットジャスティス。
《だから言っただろう、キラ!
中途半端な優しさで戦いに手を出した結果がこれだ! ニコルの時だってお前は!!》
その閃光をギリギリのところで躱しながら、キラも叫ぶ。
「アスラン……
君がそれを言うな! カガリ一人も守り切れない君が!!」
互いの機体から、再び放たれる火線。
交わらない言葉と共に、雷撃にも似た閃光の応酬が、宙域を染めていく。
《お前こそ、その手で誰を守れた!?
かつて守り切ったはずのアークエンジェルもサイも、今やお前の仲間じゃない。
ナオトを撃ったことで、お前が守ろうとしたあいつらは完全に敵になろうとしているんだぞ!!
それでもお前は、セレブレイトウェイヴを守ろうというのか!?
お前はそこまで、人を信じられなくなったのか!?》
「違う……!
守り切れなかったから、今度こそ守るんだ。ラクスを……!
たとえ誰を敵に回しても、それがみんなを守ることになるなら!!」
《もうやめろ、キラ!
これ以上戦えば、ナオトだけじゃない。お前は全てを失う!
よりどころがたった一つしかなければ、その一つが崩れた時、お前も一緒に崩れることになるんだぞ!!》
「覚悟の上でやってるんだ!
仲間がいなくても、分かってくれる人がいなくても……
僕自身が、誰にも理解出来ない存在だったとしても!!
それでも僕は、ずっと戦ってきたんだから!!」
《それじゃ、お前の心がもたないと言っているんだ!!》
フリーダムとジャスティスは延々と互いを撃ち続けながら、宇宙の只中を飛び続ける。
闇へ描かれる鮮やかなバーニアの軌跡はまるで、同じ場所を目指しながら、永遠に交わらない二つの螺旋だった。
撃ち合うたびに、アスランと言葉をぶつけ合うたびに、一層心を閉じ込めていくキラ。
──そうだ。
僕には元から、心から分かり合える仲間なんて、いないも同然だった。
守ろうとした友達は、ナチュラルだった。
仲の良かった友達は、ザフトとして敵対した。
僕のそばにいてくれたフレイは、少なくともあの時は多分、僕のことを……
それでもラクスやカガリと出会って、やっと本当に分かってくれる人が現れて。
アスランやサイとも和解出来た――そう思った。
だけど──
すぐに僕は、現実を突きつけられた。
僕は、ただのコーディネイターじゃない。作為的に生み出された、究極の化け物だった。
それを、誰が分かる? 誰も分からない──僕自身さえも。
もしかしたら、人からの好意さえも操作出来てしまうような化け物。それが僕だ。
僕を憎んでいたはずのシンと、僕は分かり合えたらと思った。だから慰霊碑の前で、僕は言ったんだ──
一緒に戦おう、と。
シンは涙ながらに、そんな僕の手を取ってくれた。あの時は本当に嬉しかったけれど……
あれも、彼から僕への気持ちが、僕の性質によって勝手に操作された結果かもしれない。
実際はどうだか分からない。だけど、
最早、誰とも分かり合えないんだ。
「だからせめて、ラクスだけは!!
それでもそばにいてくれるラクスだけは、守ろうと思っていたんだ!!
二度とフレイのようにはしない。そう思っていたのに!!」
悲痛な叫びと共に、ジャスティスに執拗な砲撃を放つフリーダム。
SEEDが発動し、光を失った紫の瞳。その眼の下は既に、精神の疲労を示す深い隈が刻まれている。
それでもジャスティスは閃光をかいくぐり、フリーダムへ、キラへ、近づこうとする。
既にその紅の装甲は至るところ吹き飛び、パイロットの異常な高速機動により関節部のあちこちから火花が散っている。
そんなジャスティスから救難チャンネルごしに響くのは、親友の怒声。
《だからお前は、人に復讐しようというのか!?
そんなにまでして、人を憎みたいか!!
人の全てが、ラクスやお前を傷つけたわけじゃない!!》
「そんなことは最初から分かってる!
僕はみんなを守りたいだけだ。ずっと前から、そう考えて戦ってた!!
それは今でも間違いじゃないって、そう思ってる!!」
《だとしたら、お前の行為は偽善だ。
戦いたくないと言いながらモビルスーツの武装を剥がす行為はいずれ、戦場での死に直結する──
今のお前がやっているのは、それと同じ。
守りたいと言いながら、人を人でなくす行為と同じだ!! それじゃかつてのデュランダルと、何も変わらない!!》
血が噴き出すほどに奥歯を噛みしめながら、キラはアスランの言葉を聞いていた。
――分かっていたつもりだった。今のアスランが決して、僕を分かってくれないことぐらい。
サイを傷つけ、ナオト君を撃ち、カガリにさえ牙を剥く今の僕を、アスランは決して許しはしないだろう。
アスランの怒りを肌で感じながらも、キラは再びスーパードラグーンを全機発射させる。
「分かってくれなくてもいい。
どれほど背を向けられても、守りたい世界がある──
ただそれだけで、僕は!!」
キラの叫びと共に、再びドラグーンの閃光が宙域を駆け巡る。
しかし、そんな彼らの眼前で──
既に大きく広がっていたティーダZの光の翼は、機体の爆発による炎と共に急速に拡大を始めていた。
それはまるで、自ら燃え尽きようとしながら、優雅に羽を広げる不死鳥の如く。
「どうして……?
ティーダが、止まらない?
これは、ナオト君が……?!」
光の拡がりに動揺を隠せないキラの脳裏に、聞こえたものは、
まだ幼さの残る少年の声。
──キラさん。
誰にも分かってもらえないなんてこと、ないですよ。
「ナオト君!?
君か。僕に直接呼びかけているのは!」
キラの思惟の、一瞬の隙を利用するかのように。
ナオトの声は、キラの心に直接呼びかけてくる。
──確かに、僕たちとキラさんは違うのかも知れない。
けど、だから分かり合えないなんてこと、ないです。
僕、こうなってみて、初めて分かりました。
僕もキラさんも……似てたんだって。
「似ていた?
君と、僕が?」
──僕もずっと、何も持たなかった。
拠り所を探しながら、ずっと生きてきたようなものだった。
生きる場所を見つけたと思っても、裏切られて、奪われる。その繰り返し。
でも──そんな僕でも、抱きしめてくれたんです。サイさんは。
記憶と魂の全てを失った僕でも。
「──そうだね。
それが出来る人間だから。サイは」
──きっとキラさんにとっては、ラクスさんがそんな存在だったんですよね。
多分、ずっと前のフレイさんも。
だから、ほんの少しだけど、分かります。メルーを死なせた時や、マユや母さんを守れなかった時――
サイさんを失くしたと思った時、僕だって狂いかかったから。
でもそれが、人を滅ぼしていい理由には、ならないでしょ?
「違う。
僕は、人を滅ぼすつもりなんか──」
──守る為、ですよね。
それはもう、僕だけじゃなく、みんな分かってます。サイさんも、ミリィさんも、多分アークエンジェルの人たちも。
でも、違う。キラさんの方法は、やっぱり違うんです。
それに、キラさん。ラクスさんは死んでない。
まだ、ちゃんと生きてます。頑張ってます。
あのコロニーの中で!!
燃えたぎる翼の向こうに見える、光り輝くコロニー・ウーチバラ。
ナオトの言葉に、キラの視線は無意識のうちにその方角へと向いた。
その瞬間、彼が感じたものは。
「嘘だ。聞こえる……?
ラクスの、声が?」
コロニー・ウーチバラ内部──元・リュウタン広場。
そこに建造された紅の塔の中心では、今、ひとつの大きな変化が起こっていた。正確には、内部に封じ込められたストライクフリーダム・ルージュのコクピットで。
紅の液体の中、ケーブルでがんじがらめにされたままチグサは叫ぶ。
「暴れるな。暴れるな、マユ!!
あんたの気持ちは分かるけど、少しは冷静になれ!」
そんな彼女の脳裏を叩き続けるのは、彼女と同じ声。
──でも、でも!
ナオトが、ナオトが消えちゃう。分かるの……
ナオトが、潰されちゃう!!
「アンタが諦めてどーすんだ!
まだあのガキの、ウッザイ声は聞こえる。もう一度、ラクス・クラインを呼び覚ませ!」
──分かってるよ。
さっきから何度も呼びかけてるけど、でも
……もう、限界……
「口答えすんな! アタシが諦めない限り、アンタも諦めるんじゃないよ!!
多分ラクス・クラインのいる場所に通じるルートは、そこらのマイクロ波じゃ太刀打ちできないレベルの防御フィルタが張られてる。しかも御方様が今、そいつをさらに強化してるんだ。
ここは一発……気合入れるしかないよ!!」
液体の中でもそう叫びながら、両手で力いっぱい操縦桿を握るチグサ。
それだけでチグサ自身の体力を相当に削っていたが、さらに彼女を拘束したケーブルごしに、軽い電撃が迸った。
「ぐ……っ!!?
これ以上、御方様への抵抗は許さないってか……
言うこと聞きな、ルージュぅっ!!」
それでもなおチグサは力を振り絞り、ケーブルを引きちぎる勢いで操縦桿を押し込んだ。
同時に、彼女の周囲の液体全てを蒸発させんばかりの威力で、電撃がコクピット内部に迸る。その衝撃は勿論、チグサの細い身体を直撃した。
「う……ぎ、ぎゃああぁあああぁあああぁぁああぁあっ!!?」
──チグサ!?
チグサ、もうやめよ? もうやめようよ!!
チグサまで死んじゃったら、私……!!
「ば……バッカ野郎、怖気づくな!!
サイの痛みに比べりゃ……こんなもん、ケツをちょっとしばかれたようなもんだ!!
あんたは……ラクスを呼び続けろ!!」
メットに亀裂でも入ったのか、コクピットを満たした液体がチグサの顎あたりまで入ってくる。
苦痛のあまり肺から吐き出された空気が、大小無数の泡となって、メット内に漏れ出た液体に浮かび上がる。その中には僅かに、血の塊さえも見えた。
チグサの脳裏に響き続ける、マユの悲鳴。それは彼女を止めようと、あらん限りの声でチグサを呼び続ける。
それでもチグサの両手は操縦桿から離れない。彼女の抵抗を決して許さぬ電撃が、ケーブル伝いに流れ続けていても。
そして彼女の怒声は、何故か少しずつ優しい声色に変わりつつあった。一気に苦しくなる呼吸の中で。
「……なぁ、マユ。
アタシ、ずっと、人を殺し続けてきたんだよ。
あんた流に言うと……人を、踏み続けてた」
──えっ?
「アタシが、サイと一緒にアイスクリーム食べたい。そう思ってたのと同じようにさ。
ほんの小さなことでも、いろんなことを、やりたいって……
そう思ってた人間が、たくさんいたはずなんだ……アタシが殺し続けた奴らの中には。
そりゃ、死んで当然みたいな奴らもいたかも知れない……
だけど多分……そんなのは、ほんの少しで……さ……」