【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part19 アマミキョ、吶喊!!

 

 

 ──チグサ? 

 ねぇ、一体どうしちゃったの? 

 

「ハハ……ホント、どうしちゃったんだろな、アタシ。

 あんたのせいだよ、マユ。

 あんたと……サイのせいだ」

 

 激しい苦悶の中でも、チグサはほんの少し笑いながら、マユに──

 自分に言い聞かせるように、話し続ける。

 

「あんたとサイが……アタシを、変えちまった。

 カイキ兄も教えてくれなかったことを、あんたらが教えてくれたんだ。

 多分、カイキ兄さえも最期まで分からなかった、大事なことを。

 ……でも、それで良かったんだと思う」

 

 ──駄目! 

 チグサ、いかないで! 私を一人にしないで!! 

 

「情けないこと言うなよ。

 あんたは一人じゃない。あのガキがいるじゃないか」

 

 ──え? 

 だけど……ナオトは、もう……

 

「バカ。あんたが諦めるなって、言ってるだろ? 

 散々人を踏みにじってきたアタシが、この世で一番いけ好かない、口に出すのも汚らわしい奴を助ける為に、命を張る。

 無茶苦茶嫌だし……滅茶苦茶気持ち悪い。

 ……だけど、あんたの為だもん。

 これはきっと、アタシに相応しい罰だしね」

 

 ──待って! 

 チグサ、どういう意味!? まさか──

 

 

 チグサの脳裏における彼女とマユの会話は、そこで途切れた。

 チグサが再び、何本かケーブルを引きちぎりながら操縦桿を押し込んだ瞬間に。

 凄まじい電流が少女の細い身体に流れ、絶叫がコクピットにこだまする。

 それでもチグサはなけなしの意識を振り絞り、魂で叫んだ。

 

 

「ラクス。ラクス・クライン! 

 アタシの心、全部やる。だから……

 早く、あんたのママを止めるんだ!!」

 

 

 その叫びを最後に──

 マユ・アスカの悲鳴を聞きながら、ゆっくりと暗闇に落ちていくチグサの意識。

 それとほぼ時を同じくして、

 紅の塔に封じられたままの、ストライクフリーダム・ルージュのカメラアイが──

 血にも似た液体を突き破るかのような、力強い翠に煌めいた。

 

 

 

 

 

 

「ルージュが、反乱を起こした? 

 ラクスを呼んでいる……これは?」

 

 リュウタン広場に建設された、紅の塔の地下深く──

 つまり、コロニーウーチバラの外壁により近い場所。

 無数の端末に囲まれた制御室の中心で、ラクス一世はモニターの一つを見上げていた。

 

「チグサ・マナベ、意識消失を確認。

 不規則な挙動は鎮まりました──呼吸、脈拍共に安定しつつあります。

 ルージュからの信号も正常値のままです。恐らくこれは、センサーかカメラの一時的なエラーかと」

 

 突然カメラアイを輝かせたルージュ。それを監視していたオペレータのうちの一人が、無表情のままラクス一世を振り返る。

 十数人は配置されているオペレータ──彼らのうち幾人かは、双子のように同じ姿をしていた。紅の髪で栗色の目を持つ者が数人、緑がかった銀髪で青い瞳を持つ者が数人といった具合に──

 同じ容姿の者同士が、それぞれグループ分けでもされているかのように整然とオペレータ席に並び、手を動かしている。

 それもそのはずで、彼らは全員、ラクス一世の手で生み出されたカーボンヒューマンの部隊である。いわば、第二アマクサ組──その一部。

 そんな彼らが、逐一状況報告を続けていた。感情を殆ど表さないまま。

 

「発振中のセレブレイトウェイヴ、20%以下まで減衰しています。

 陽電子リフレクターの稼働率も現在、50%まで減少中」

「オギヤカミドルリング、セイレーンと共にさらに接近」

「アマミキョも港区画へ急速接近中。迎撃部隊が抑えきれません」

「アークエンジェル及びザフト艦一隻、さらに接近。間もなく港へ到着する見込みです」

 

 ひっ迫する状況に対して、異常に平板な口調のオペレータたち。

 それに対し少々つまらなそうに頬を膨らませながら、ラクス一世はふわりと髪を揺らしてメインモニターの前へと近づく。

 

「貴方たち。こういう時は、もう少し声を荒げてもいいのですよ」

「はい。申し訳ありません」

「貴方がたはそこまで細かい調整をせずに引っ張り出してしまったから、仕方ありませんけどねぇ。

 ラクスの様子は、どうでしょう?」

 

 彼女に尋ねられたオペレーターは、やはり何の感傷も伴わぬ声で答えた。

 

「現在、ユテルスにて稼働しておられますが──

 ルージュからの妨害が入り、波長が弱まっています」

「多分それが、セレブレイトウェイヴの弱体化にもつながっているのでしょうね」

 

 ラクス一世はじっと、メインモニターを見つめる。映し出された娘の姿を──

 

 そこにいるのは、病院着にも似た白い着物をつけたまま、身体中を無数の電極に繋がれたラクス・クラインの姿。

 周囲をガラスに囲われた、天井の高い室内──

 その中央で、何かを祈るように両手を組み合わせ、静かに目を閉じている。

 そして、ガラスに覆われた壁の向こうに見えるものは──

 

 薄紅の液体に覆われた、真っ白い人間たち。

 整然と並べられた裸体の数々。

 

 それら──彼らはラクスと同じく、両手を組み合わせた姿のまま、ガラスの中で眠りについていた。白い肌と紅の液体がライトに照らし出され、室内全体を不気味な暗紅色に染め上げている。

 縦に整然と並べられたガラスの棺は、壁全体を埋め尽くしてラクス一人を取り囲んでいる。その棺の群れは天井のどこまで続いているのか、モニターでは確認出来なかった。

 

 しかし、今──

 ラクス一世ははっきりと見た。

 

 娘、ラクス・クラインの、閉じられたままの瞼が──

 ほんの少し、僅かに開いた瞬間を。

 その奥の青い瞳が、モニターごしに、母たる自分を真っすぐに見つめるのを。

 どこまでも澄んだ瞳からは、不自然に光が消えている。

 しかしそれは決して気力の消失によるものではなく、むしろ逆であること程度は、ラクス一世にはたちどころに理解出来た。

 

 その真っすぐな視線に籠められているのは間違いなく、激烈なる怒り。

 それでもラクス一世は聊かも動じることなく、モニター内の娘へ語りかけていた。

 

「ようやくお目覚めですね、ラクス。

 貴方のSEEDを──やっと自分の為に使うつもりですか」

 

 

 

 

 

 

 ティーダZの大破。それに伴う、マユ・アスカ──ルージュの異変。

 それは勿論、ティーダZと共に光のフィールドを拡げていたフレイも感知していた。

 遥か宙域の向こうから、切れ切れのミゲルの通信が入る。

 

《……悪い、フレイ──

 俺が──出来るのは、ここまで──……

 生きのびろよ。あんたも……っ……》

 

 そこで完全に途切れてしまう、ミゲルの声。

 しかしフレイには分かっていた。ミゲルと、彼のグフに救出されたイザークが、ようやく安全圏まで避難出来たと。

 ほんの少しだけ、安心したようなため息をつきながら──

 フレイは改めて、ウーチバラ周辺の状況を見据えた。

 

 ティーダZと共に光の翼を展開していたセイレーンは、まるで重力に引かれるようにコロニー・ウーチバラへと接近しつつある。

 ようやく脱出したはずの母の揺り籠、そこに再び引き戻されるかのように。

 

「しかし、もう決してつき従いはしない──

 あの母を止める。その為に!!」

 

 フレイは敢然と顔を上げ、その左腕は半ば強引に操縦桿を押し込む。右手で無意識のうちに下腹部を抑えながら。

 モニター中央には、ウーチバラ開口部が大きく映し出されていた。放射され続けるセレブレイトウェイヴに、容易には突破出来ない陽電子リフレクター。

 それにも負けずに、アークエンジェルにミネルバJr、そしてアマミキョが決死の抵抗を続けている。それらの艦を護るモビルスーツは、黒ダガーLやストライクフリーダムの攻撃により、著しく減っていた。

 最前線に視線を向けると、フレイの味方であるはずのデスティニーがアロンダイトを振りかざし、リフレクターと取っ組み合っていた。

 

「そうか。

 シン──ようやくお前も、自らの判断で動いたか」

 

 フレイには分かった──

 デスティニーコクピットで、シンが咆哮しながら機体のパワーを振り絞っているのが。

 リフレクターを幾度も切り刻み続けたデスティニーのアロンダイトは、目に見えてその威力を落とし始めていた。

 それに気づいたのか、シンは一旦アロンダイトを背面に収める。

 そんな中でもウーチバラ防衛の為、相変わらず縦横無尽に攻撃を続ける黒ダガーL。

 攻撃を必死で躱しながら、両腕部を180度外側へ回転させるデスティニー。掌部に内蔵されていたビーム砲──パルマ・フィオキーナが、完全に外部へと向く。

 一瞬関節部分から火花が散るのが見えたが、それでもデスティニーは構わずその挙動を強行した。

 

「何をする気だ……? 

 パルマを、反転させて使うつもりか」

 

 フレイの脳裏にも聞こえる。無茶な機動と理解しながらも、咄嗟の判断でデスティニーの掌部構成の変更を試みるシンの声が。

 

 ──これが、キラさんの教えてくれたことだ。

 俺には無茶かも知れない。デスティニーがぶっ壊れるかも知れない……

 それでも、俺は!! 

 

 そうしている間にも、アークエンジェルとミネルバJrからの火線が次々に開口部へ撃ち込まれる。その悉くが弾かれながらも、リフレクターの防御は少しずつ落ち始めていた。

 完全にパルマの砲口を外側に向けることに成功したデスティニーは、再びアロンダイトを正面に構える。

 実体刃の部分は半分以上崩れ去っていたが、それでもデスティニーは聊かも怯まない。

 そのままデスティニーは両手甲部──つまり、元は掌だった部分から、フルパワーのパルマ・フィオキーナを発射した。

 そのさまはまるで、両腕から光の刃を出現させ、さらに光の大剣を構えた魔剣士。

 

 ──誰に何と言われたって! 

 これが! 俺の、決めたことだ!! 

 

 アロンダイトを槍の如く正面に構え、その体勢のまま最大戦速でリフレクターに突撃するデスティニー。

 パルマとアロンダイトの威力が重なり、防御のやや弱まったリフレクター、その中心をデスティニーの光が直撃した。

 だがそれでも、大規模に展開されたリフレクターは簡単には壊れない。光の中心で機体のパワーを限界まで発動させながら、絶叫するシンの姿が──

 フレイにも見えた。

 

 ──これでも! 

 これでも駄目なのか!! この奥にチグサもいるんだ、諦められるかァ!! 

 

 破れないリフレクター。懸命に抗いながら、叫び続けるシン。

 そこへ、不意に割り込んできたものは──

 アマミキョからの、サイの声だった。

 

 ──避けろ、シン。

 今から俺たちが突っ込む。それで何とかなるかも知れない!! 

 

 反射的に、フレイは声の方向を振り返った。

 声と共に、凄まじき炎熱を伴ってウーチバラへと突入しようとする、強固な魂を感じて。

 

「これは……! 

 サイ! もうやめろ、やめるんだ!!」

 

 思わず喉から迸る、フレイの叫び。

 モニターに映し出されていたものは、今まさにウーチバラのリフレクターに激突せんとする、アマミキョ・左舷カタパルトブロック。

 ダガーLやフリーダムからの攻撃にさらされ続けた外装は既に炎を噴き上げ、至るところで爆発を起こしながら、それでもウーチバラへ突貫していく。

 そのすぐ後方を、最大戦速で追随してくるアマミキョ──

 船体もカタパルトブロック同様、度重なる攻撃により今にも大破寸前だった。

 

 同時に、フレイ自らの思惟が嗚咽のように反響していく――

 コクピットに。そして、彼女の内側にまでも。

 

 

 ──全ては、サイ。お前を守る為だったのに。

 お前をこの世界から失くしたくない。ずっと私を捉えて逃がさなかった血と遺伝子の地獄で、たった一つだけ輝いていた奇跡──

 それが、お前だった。

 たとえお前自身を敵に回そうとも、お前がこの世界で寿命を全う出来るなら。

 

 

 しかしその時、フレイの脳裏に、かすかにだがしっかりと伝わってきた声があった。

 彼女にとってはひどく懐かしい、雨上がりの空気の香りを思わせる声が。

 

 

 ──そんなに、信じられないか? 

 ナオトがここまで命を張っても。俺たちが死に物狂いでここまで来ても。

 それでも、フレイ。君は、俺たちを信じられないか? 

 俺たちのやることは、全部無駄で徒労にすぎないって……

 俺たちはどこまでも弱くて、放っておけば互いに憎み合ってしまう生き物だって……

 本当にそこまで、俺たちが信じられないか? 

 

「違う、サイ! 

 お前が消えてしまうのが嫌だった。この世でたった一人、私に奇跡を見せてくれたお前が、くだらぬ争いの為に消えてしまうのが!

 だから……!!」

 

 ここにきて、下腹部を抑えながら激しく感情を吐露するフレイ。

 そんな彼女の機体もまた、アマミキョに導かれるかのようにウーチバラ開口部へと接近していく。

 機体を後押ししてくるもの。それは間違いなく、ティーダZと繋がった光のフィールド。

 今や虹の橋の如くに宙域を横切っている光。そして、ラクスとミーアの歌声が響き合う空間。

 光の遥か彼方から、聞こえてくるものは──

 ミドルリングからの、かすかな声だった。

 

 

 ──だいじょうぶ。

 みんな、そこまで、弱くない。

 あなたのまわりにいる人たちは、もう、そこまで、弱くない。

 

 

「ステラ……?」

 

 

 既にこの世のものではないはずの、エクステンデッドの少女。

 その儚い幻影が、フレイの前で揺らめく。

 今は液体の中で決して動かず、ウェイヴの発振装置の一部にされているだけの彼女が――

 何故かフレイの眼前で、笑顔を見せていた。

 

 

 ──ステラは、シンを信じられたから、もう怖くない。

 シンは、ステラに、「昨日」をくれたから。

 あなたは、信じられないの? あなたの、大事な人を。

 あなたに、奇跡をくれた人を。

 

 

 その声がフレイの脳裏に届いた瞬間──

 モニターの向こう側で、ウーチバラ開口部が大爆発を起こした。

 

「!!」

 

 フレイは思わず身を起こし、状況を確認する。

 デスティニーのアロンダイトが、その刃を砕きながらもリフレクターの一部に風穴を開ける。リフレクター表面に走ったものは、亀裂にも似た光。

 その隙を見逃すことなく、アマミキョの左舷カタパルトブロックが突入していく。爆発物をいっぱいに搭載しながら、炎を上げて疾走する列車の如く。

 アマミキョの目的を見抜いたかのように――

 アークエンジェルからもミネルバJrからも、アマミキョ本体からも火線が次々と放たれ、リフレクターやカタパルトブロックを貫いた。

 

「サイ……っ!!」

 

 この瞬間、一体どれほどの炎熱と苦痛が、サイを襲っているのか。

 痛いほどに分かりながらも、フレイはどうすることも出来ない。

 ただ、見守ることしか。

 

 数秒後──

 衝突による大爆発と共に、ウーチバラから発振されていたセレブレイト・ウェイヴが、停止した。

 弱められつつも執拗に流れていたラクス・クラインの歌声が、完全に止まる。

 まるで薄いティッシュに火を放った時のように、瞬く間に開口部全体へ拡大する炎。

 流石にこれだけで全体が崩壊はしないものの、崩壊した港区画の外壁部分は落下したスポンジケーキのように散らばり、デブリとなって次々に宙へ舞い散っていく。

 

「信じているから大丈夫……か。

 それだけで人を守れるなら、誰も泣きはしない!!」

 

 フレイの叫び。

 すぐにセイレーンは機体を翻し、光のフィールドを保持したまま急速にウーチバラへと接近していった。

 彼女の眼前で、アークエンジェルが、ミネルバJrが──

 そして、執拗な追撃を受け最早ズタボロのアマミキョが、次々にウーチバラへと強行突入していく。

 

「意識を平常に保て、サイ! 

 そのままではシャフトに衝突の後、港区画に墜落する! 

 舵を上げろ、最後まで目視と姿勢制御を怠るな!!」

 

 思わずフレイの喉から飛び出したものは、サイへの指示。

 明らかに敵対者へのそれではなく、アマミキョのハーモニクスシステムのコアであり、同時にアマミキョの副責任者たるサイへの言葉だった。

 だが、その言葉が終わるか終わらないかのうちに──

 リフレクター崩壊の衝撃か。港区画外壁に拡がる劫火と共に、爆光がセイレーンを、周囲のモビルスーツの殆どを、デブリと共に吹き飛ばしていく。

 

「く……っ!?」

 

 炎と同時に巻き上がる突風に押し出されるようになりながらも、セイレーンはスラスターを限度いっぱいまで吹かして外壁にすがりつき──

 フレイは瞬きすらせず、ひたすらに爆風の向こうのアマミキョを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

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