【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
モビルスーツデッキ、ティーダコクピットで。
ナオト・シライシは、怒りに全身を震わせ叫んでいた。
「女の子を人質になんて、救助船のやることか!」
自分の鼻息の荒さを自覚しつつ、ナオトはバイザーを閉じ、続いてティーダのハッチを閉じる。
その行為を、ティーダの足下にいたマユとハロは面白そうに見上げているだけだ。外の状況をキャッチしたのはハロで、それを教えてナオトを爆発させたのはマユだった。
ナオトはマニュアル通りにコンソールパネルを操作し、ためらいなくモニターのスイッチを入れていく。
下で無邪気に手を振るマユの姿が、モニターに映る。
「しかも、マユと同じくらいの娘って!
どうなってんだよ、戦争は終わったのに」
指示がない限り出すなと言われたはずのティーダが、動きだす。
この異常事態に、ハラジョウの赤毛の整備士が気づいた。
「ちょ……おい、ちょっと待てティーダ!
ミゲル! 来てくれ、奴を止めろっ!」
ちょうどイザークのザクファントムはコロニー内部の守備に出ており、この場にはいない。
ハラジョウからもう一人整備士が飛び出し、ティーダに取り付こうとした。しかし既にティーダは固定を外して自ら発進位置に出てしまっている。
ハマーの怒鳴り声も、ナオトには聞こえない。
「下がってください!
慣れてないから、吹き飛ばしちゃうかも知れませんよ!!」
──これほどまでにナオトを怒らせたものは、フレイの要求だった。
その内容は、アマミキョ及びウーチバラからの完全撤退。
さらに、モビルアーマーのパイロット、ネオ・ロアノーク自身の身柄の拘束。
これにより、エクステンデッドや不可視戦艦の情報も得ようというのだろう。そこまでは良かったが──
フレイは、こうも言ったのだ。
──こちらにはオーブのマスメディアもいる。
少女の正体が公になれば、連合とて立場がなかろう。
自分を子鼠と蔑みながら、一方ではダシに使う。
そのやり方が、ナオトはどうしても許せなかった。
「自分こそ、マユをパイロットにしてる癖に!」
ティーダの動きを察知したブリッジで、アムルが叫んだ。
「ちょっと待ちなさい!
ティーダの発進許可なんか、出してないわっ」
しかし回線の向こうでは、ナオトの代わりにマユが答える。
《ムリムリー。
おばちゃんの許可なんて、ナオト、イヤなんじゃないかなー?》
アムルの唇がほんの一瞬、強張った。
一見何気ないように装っているが、次の句が思い浮かばないで困惑しているアムルの横顔──
そんな彼女を押しのけて、サイが叫んだ。
「冗談じゃない!
ナオト、遊びじゃないんだぞッ」
勘弁してくれ。一体何が起こった、今度は!
《分かってますよっ。
ナオト・シライシ、ティーダ、出ます!》
あの馬鹿、まさかこの台詞言ってみたかったんじゃなかろうな。
「何をどう分かってるってんだ、馬鹿!」
サイが叫ぶ間に、カタパルトではティーダが加速をつけ、一気にコロニーの空へ飛び出していく。
真っ白い雪のような機体を煌かせ、ティーダはそのまま地上へ降り立つ。
そして宇宙へと繋がる、モビルスーツ用ハッチを開いた。まだ手慣れていない動作。
ナオトの目的が、サイには手に取るように分かる。分かりやすいほどに。
──何と無謀な。
「ティーダが出たぁ!?」
コロニー地上でザクファントムを操りテロ部隊の残存勢力を警戒していたイザークは、その通信に仰天した。
見ると、アマミキョからひとひらの雪のような機体が舞い降りていくのが確認できた。
黒のハイマニューバ2型の捜索を続行したかったが、イザークは致し方なくティーダを追う。
「あの機体の情報、まだ確実とは思えん!
勝手な行動をさすわけには……!」
《待ってくれ!》
アマミキョから、必死の声が響く。
《まだテロ部隊が内部に潜んでいる可能性がある。
貴方は地上にいてください、ジュール隊長!》
この声は、さっきシホを助けた青年だ。よくよく思い出したら、それ以前にも聞き覚えがある。
もしや彼がディアッカの言っていた、アークエンジェルの──?
《ティーダはアマミキョの機体だ、こちらで何とかします。
パイロットがド素人なんだ!》
本日50回目の歯噛みが、イザークの口腔内で起こった。
必死なのは分かるが、こいつらはティーダの危険性を理解していない。
「ド素人? お前らもだ!
何とかできるなら、発進前に何とかできたハズだろうが!!」
申し訳ない――と謝罪する相手の声を聞きながら、イザークはコロニー外部のザクウォーリアに通信を送る。
「ディアッカ!
聞こえるか、ティーダがそっちに行った!」
コロニー外へティーダが飛び出すまで、あっという間だった。
サイが回線の向こうでまだ喚いていたが、ナオトは一切を無視した。
アマミキョを守る為だということは、分かっているつもりだ。でも、もっと方法があるだろう。
──あの女。
フレイの不敵さとともに、殴られた痛みと忌々しさが蘇る。
多分彼女は、自分とそう歳は変わらないはずだ。おそらくマユとも。
なのに、あの態度の大きさはなんだろう。
「どんなコーディネイターだか知らないけど。
今は戦争じゃないんだ。言葉で何とかしてみせろ!」
サイとは、妙な知り合いのようだったが……そんなことは、今関係ない。
ナオトの全身が熱くなる。
ハッチが開き、機体が宇宙へと出て行く。身体が自然に硬直する。
ヘルメットが機能しているのを念の為、確認しなければ
――まだ自分は、宇宙に慣れていない。このパイロットスーツにも。
ずっとオーブでぬくぬくと育ってきた身には、無重力空域は恐怖であると同時に、好奇の対象でもあった。
コンソールパネルの表示が繁華街のネオンのように華やかに変化し、モニターいっぱいにデブリと、星々の光が展開する。コクピット内部の空気の味までが変わった気がする。
ナオトは思わず歓声を上げた。
「綺麗だ……!」
その美しさが、自機の位置を認識しやすいようモニターで調整された人工的な光によるものだということを、ナオトは忘れていた。
実際の宇宙空間は、地上の夜など比較にならない闇だ──
真空空間を示すモニターに、警告表示と敵味方識別表示が入り乱れて明滅する。アマミキョを基点として計算されたティーダの座標が、下4桁ほどが目にも止まらぬ速度で変化していく。
それすらも、今のナオトには興奮の対象だった。
飛んでくるデブリを何とかよけ(二度ほど正面衝突寸前になった)、襲いくるGに耐える。
だがパイロットスーツにヘルメットが、大分Gを弱めてくれていた。
遙か向こうのアフロディーテと、相手のウィンダム、そして紫のモビルアーマー。
それらを信号に従い、確認していく。後方からはザクウォーリアとカラミティが追ってくる。カイキは激怒していることだろう。
通信は届くだろうか? 真空中ゆえ音が響かぬ宇宙空間では当然、外部スピーカーは使えない。ニュートロンジャマーの干渉下での無線通信に頼る以外にはない。
──干渉なんかに負けるな、僕の声。僕の言葉。
大丈夫、サイの声が何故かまだ聞こえているんだ。
ナオトの声帯が活動を始め、空気のないはずの宇宙空間を震わせる。
「やめて下さい!
その娘を放すんだ、フレイさんっ!」
ナオトはディスプレイ上のマニュアルを参照しつつ、ティーダの右腕――攻盾システム・トリケロスを構える。
それは奇しくも、かつてアークエンジェルを襲ったブリッツガンダムと、同じ武装だった。