【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part21 時が止まった日――お前が生きていてくれて、嬉しかった

 

 

 その光景は、コロニー内への潜入に成功したミリアリアも目撃していた。

 大破して不時着したアマミキョから、ティーダと共にサイが担ぎ出されていった――

 その情報を聞きつけ、いてもたってもいられなくなった彼女はマリューの許可を得て、単独でアークエンジェルを飛び出したのである。

 黒ダガーLとの戦闘は未だ継続していたが、大分遅れて追撃してきたオーブ軍の援護もあり、彼女はどうにか無事にコロニー上層へたどり着いた。

 

 しかし──彼女が侵入直後に見たものは。

 コロニー上層、つまりコロニーの空を構成するデッキ上で、殆ど脚部のみの状態となって焼け焦げているティーダZ。デッキ内部の電源を利用して、どうにかティーダは生きのびているらしい。

 そのコクピットへ横たえられている、サイとナオト。必死に彼らに取り付いているクルーたち。

 コロニーの威容に比べると、電線のようにか細く見えるデッキの上で、その様子は酷く不安定に思えた。

 

 そんな彼らを吹き飛ばすかの勢いで、ティーダZの眼前に降り立ったものは──

 ストライクフリーダム。

 ジャスティスとの戦闘で損傷したのか、白い機体はあちこちが黒ずみ、関節部の至る処から煙さえ噴いている。

 そのスピーカーから漏れ出たのは、間違いなくキラ・ヤマトの声だった。

 

《サイ。残念だけど──

 ここから先へは、行かせない。

 これ以上、ラクスを傷つけさせはしない》

 

 そんなキラの言葉に──

 意外とはっきりした声で、サイが反応した。

 

「……何言ってんだ。

 見りゃ分かるだろ。もう俺は、ここから一歩も動けやしない」

 

 どこか投げやりにも聞こえる、サイの声。

 しかしミリアリアは直感した。サイはまだ、諦めていない。

 隣に横たわっているナオトの反応は全くない。アマミキョとティーダZの最後の状況から考えても、彼は恐らく──

 そんな思考を追い払うように頭を振りながら、ミリアリアはメットの中でセンサーを調整し、キラとサイの会話に耳を傾けた。

 

「だけど。

 これ以上俺の仲間に手ェ出すなら……俺は絶対に、お前を許さないからな。

 金輪際、死ぬまでお前を許さないからな」

 

 はっきりと憎悪のこめられた、サイの声。

 それはコロニーの空に、奇妙なまでに響いた。

 

《分かってる。

 ナオト君のことは──本当に……》

「死んじゃいないよ。勝手にナオトを殺すんじゃねぇ、バカ。

 というか、お前は……どうする気なんだ。

 まだお前は、この兵器を守るつもりか。世界中を敵に回しても。

 この戦いだけで、どれだけの人間が犠牲になったと思ってる。俺たちもだが──

 南チュウザン側も。

 外壁に埋められてた人間たちを見ただろう。あんな真似してまで、お前は戦うつもりか。

 オーブとも、ザフトとも、連合とも!」

 

 静かな怒りのこもったサイの声が、一帯に流れる。

 しかしフリーダムは沈黙したままだ。両腕部には何も武装しておらず、一見無防備なようにも思えたが──

 それでもミリアリアには分かった。頭部の機関砲が、真っすぐにサイたちを捉えているのを。

 恐らくサイにも分かっているのだろう。それでも彼は怯えることなく、キラと対峙していた。

 そんなサイの口から出た言葉は──

 ミリアリアにとっても、意外な言葉だった。

 

「なぁ、キラ。覚えてるか? 

 お前が、ヤキンの直後に……アークエンジェルに帰ってきた時のこと」

 

 サイが何を言い出したのか、ミリアリアは一瞬理解出来なかった。

 それはキラも同じだったようで、ほんの少し戸惑ったような声がスピーカから漏れる。

 

《ヤキンの直後……? 

 僕が、フレイのことを報告した時の?》

「そう。

 あの時、俺はフレイのことで頭がいっぱいで……

 何も出来なかった自分を、悔やむばかりだった。

 必死に戦ってくれたキラを労うことぐらいしか、俺には出来ない。そう思って、無我夢中でお前を励ましてた」

 

 ミリアリアも思い出す。

 もう3年も昔のことになってしまった、ヤキン直後のキラの慟哭を。

 キラの口から厳然たる事実を聞かされ、茫然と立ち尽くしてしまったサイの背中を。

 そんな彼を、必死で揺り戻そうとした自分を。

 同じようにキラも思い出したのか、ぽつりと呟く。

 

《そう……だったよね。

 あの時も、ずっとサイは優しかった。僕は……》

「違う」

 

 サイの冷静な声が、キラの言葉を遮断する。

 

「あの時、本当に優しい奴なら……

 お前をぶん殴っていたはずだ」

 

 思わぬサイの言葉に、ミリアリアも顔を上げる。

 確かにあの時、サイは必死でキラに言葉をかけていた。

 

 ──お前が生きていてくれて、うれしい。

 

 そんな彼の一言に、ミリアリアでさえ救われた気持ちになったのを、覚えている。

 それが──本当の優しさではなかったと? 

 

「あの時。

 フラガさんもバジルール大佐も、みんないなくなって。

 ラミアス艦長も、酷く混乱していた。

 そんな地獄みたいな中でアークエンジェルに帰還して、フレイのことを話してくれたお前の気持ちって……

 どうだったんだろうなと、今じゃ思うんだ」

 

 キラは答えない。

 ひたすら、サイの言葉を聞いているだけだ。

 

「ただ慰めるだけが、優しさだったのかって。

 ただ励ますだけの言葉は、あの時のお前を余計に追いつめただけじゃなかったのかって。

 俺は、フレイを守り切れなかったお前を──

 慰めちゃいけなかったのかも知れない。たとえ、それでお前がさらに傷ついたとしても。

 今なら、そう思える」

 

 それは違う。ミリアリアは叫びそうになり、思わず声を抑えた。

 たとえそれがキラの為でなく、自分を必死で支える為の言葉だったとしても、あの時のサイの言葉は優しかった。

 あれが本当の優しさでないとするなら、一体何を優しさと定義出来るものか。

 

 サイの言葉はなおも続く。

 時々呼吸が苦しげになりながら、それでも。

 

「これ言うの……すごく恥ずかしいけどさ。

 俺、今でも、お前がゼミのみんなと映った写真……まともに見られないんだよ。

 お前のこと何も分かってなかったのに、あの頃はお前の友達ヅラして、一緒にいたんだなって……自分がすごく嫌になって。

 俺の中途半端な励ましが、お前を追いつめていって。

 お前を傷つけてるとも知らずに、分かってるふりだけしてて。

 そんな俺があの時のお前を慰めるなんて、出来るわけがない。逆に、半端な優しさがお前を追い込むだけなんだって……今なら……」

 

 大きく息つぎをしながら、それでもサイはキラに語りかける。

 

「俺は、お前を突き放すべきだったのかも知れない。

 そうすればお前は、完全に俺と縁を切って、新しい人生を歩むことも出来たのかも知れない。

 俺がいなくなれば、いずれフレイのことも、時間が癒してくれたのかも知れない。

 でも、それが出来なかったから──

 今、俺も、お前も、歪みまくってここにいる。

 お互い……あの時のフレイと同じくらい、大切なものを奪われてな!」

 

 次第に感情に満ちていくサイの声。

 同時に、下半身しか残っていないはずのティーダZが、脚部を起こし始める。ガタガタと酷く軋みながら。

 慌ててコクピットから離れながら、ざわつくクルーたち。

 

「まさか、再起動!?」

「やめて! 

 ティーダを止めて、サイ君! もしかして貴方が……?」

 

 一気に騒然となったクルー。

 しかしティーダZは両脚部のみで動き出し、やがてサイとナオトをコクピットに乗せたまま、直立した。

 何が起こったのか。ミリアリアも理由が分からないまま、状況を注視する。

 

 

 ――だが、その刹那。

 コロニーの何処かで、風が変わったような感覚がした。

 響き続けるサイの言葉。

 

 

「でも……

 あの時の俺の言葉は、本当なんだ。

 お前が生きていてくれて、嬉しかった。それだけは。

 あの日あの時を何度繰り返したとしても、多分俺は、お前に同じ言葉しかかけられない。

 そんな気がする」

 

 

 ストライクフリーダムの威容を前に、よろよろと立ち上がるティーダZの両脚部。

 勿論武装などあるはずもなく、まともに歩行出来るかすら怪しい。

 それでも──今、ティーダZは確実に動いていた。

 それは、アマミキョを通じてティーダZに繋がれたサイの意思によるものか。もしくは、未だティーダZの中に微かに残されたナオトの意思か。

 ミリアリアには判断出来なかったが──

 

 それでもなお、ティーダZは前に進もうとしていた。

 前方に動き出した機体はやがて、ブリッジの電源に繋がれていたケーブルを引きちぎっていく。

 慌てて脚部にすがりつき、身体を張って機体を止めようとするヴィーノの姿も見える。

 しかしそれすら振り切って、ティーダZは一歩、二歩と歩み始めた。

 キラの声も、空へ反響する。

 

《サイ、止まってくれ。

 ここで君たちが退いてくれれば、僕はもう君たちには何もしない。

 僕のことは全て忘れて、オーブでみんな、平穏に生きてほしい。それが僕の──!》

 

 だが、そんなキラの言葉が終わらぬうちに。

 歩みを進めようとしたティーダZはよろよろと大きく揺れ、ケーブルまで剥きだしの右脚部が、ブリッジから外れた。

 か細いロープを踏み外した曲芸師のように、コロニーの空を横に支えるブリッジから──

 サイとナオトを乗せたまま、呆気なく地表へと転落していく機体。

 思わず息を飲むミリアリア。

 悲鳴と絶叫、そして怒号が、アマミキョクルーたちの間から湧き上がった。

 

《サイ!!》

 

 咄嗟に機体を反転させ、地表へと向かうストライクフリーダム。

 だがその刹那、ミリアリアには確かに聞こえた。

 誰かを懸命に呼び続ける、サイの声を。

 

 

 ──受け止めろ、フレイ。

 君なら、やれるはずだ。

 お前は私が守る──そう俺に誓った君なら!! 

 

 

 コロニーの白い空を、紅の風が駆け抜ける。

 ミリアリアは見た。港区画から飛び込んできた紅が、真っすぐに迷うことなく、落下したティーダZに向かって飛翔していくのを。

 その機動はストライクフリーダムより、遥かに速かった。

 ティーダZの脚部が地上のビル街に叩きつけられるより先に、機体はその紅に、しっかりと空中で抱き止められた。

 夕陽を浴びる薔薇。そんな色を連想させるその機体は──

 

 

 間違いなく、ガンダム・セイレーン。

 フレイ・アルスターの駆る、モビルスーツだった。

 

 

 

 

 

 

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