【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

422 / 436
part23 たとえ翼がちぎれても

 

 

 サイとナオトごとティーダZの残骸をかっさらった直後、コロニーの地下道へと姿を消したセイレーン。

 それを追おうとしたフリーダムを止めに入ったのは──

 コロニーの探索から舞い戻ってきた、インフィニットジャスティス。そして、デスティニー。

 かつて敵対したはずの2機は、戦いの中でいつしか協力関係となり、一人の敵を追いつめつつあった。

 

 それは──

 アスランにとっては、生涯一の親友。

 シンにとっては、かつての仇敵。しかし今は、分かり合えたはずの兄貴分。

 ──キラ・ヤマト。

 

 ジャスティスもデスティニーも、それまでの戦闘で機体は限界寸前だ。特にデスティニーは、リフレクター突破時の無茶な機動で、両腕の関節部がほぼ稼働しなくなっている。

 その状況を横目で確認しながら、アスランは怒鳴った。

 

「シン! お前は戻れ。

 今のデスティニーでは、むざむざやられるのがオチだ!」

 

 しかし通信から響いたのは、相も変わらず反抗的なシンの声。

 

《あんたなぁ……

 人より自分の機体、よく見てから言えよ。あんたの機体って、灰色だったっけ?》

 

 その指摘に、アスランは思わず口ごもる。

 確かにインフィニットジャスティスも、ずっとキラと戦っていたせいで最早ボロボロだ。殆どの関節部がろくに機動せず黒煙を吐き、深紅の装甲はビームの炎熱であちこち変色しつつある。VPS装甲すら限界に来ている証拠だった。

 もっともそれは、デスティニーもフリーダムも似たような状況だったが。

 憎まれ口を叩きつつも、シンの声にはぜいぜいと荒い息が混じっていた。

 

《キラさん……

 こっから先は、進ませませんよ。

 母親と娘の喧嘩にヘタに首突っ込んじゃ、ろくなことにならないんです。

 マユと母さんのたまの喧嘩でさえ、マジでホラー過ぎたんだから!》

 

 それに応えたのは、感情を放り出したかのようなキラの声。

 

《シン。

 君もやっぱり、セレブレイトウェイヴを壊すつもりなのか……

 君もやっぱり、分かってくれなかったのかい?》

 

 魂が抜けきったかの如きキラの声に、アスランは唇を噛む。

 

 恐らくキラは既に、元のキラではない──

 いや、元のキラなどというものは、ずっと前に失われていたのかも知れない。

 3年前、ヤキンの戦いが終わったあの時──宙に放り出されていたキラを救出した、あの時に。

 

 それに対し、開き直ったかのようなシンの声が堂々とこだまする。

 

《あんたを裏切ったのは認めますよ。

 だけど元々、俺を無理矢理引きずり込んだのは南チュウザンだ。

 俺はチグサに誘われて、フレイやキラさん、レイラたちと出会った。その先にステラもいた──

 マユやステラの存在を使って、南チュウザンが何をするつもりなのか。それを知った。

 捕らわれた時、ルナやサイさんや、色んな人たちの話を聞いた。

 結果こうして、俺は自分の意思でここにいる。

 それを裏切りと思うなら、思えばいいよ!》

《君が裏切ったなんて、思ってない。

 ただ──少しでも僕を知ってくれた人と、戦わなきゃならないのが、悲しいだけだ》

 

 その言葉とほぼ同時に、一方的に遮断される通信。

 瞬間、ストライクフリーダムの翼の先端が、再び煌めいた。

 

「! 

 まさか……コロニー内でドラグーンを使う気か! キラ!!」

 

 アスランの叫びが終わらぬうちに、青い翼から放たれる7つの閃光。

 本来8基あるはずの1基をやっと潰したのが、遠い昔のようだ。翼から放たれた青の閃光は真っすぐにジャスティスとデスティニーを狙い──

 コロニー内部という点を配慮してか。威力を最小限に抑えられたその閃光が、2機に降り注いだ。

 着弾と同時にいともあっけなく破壊される、ジャスティスの両脚。

 デスティニーの翼も、左半分が見事に千切れていくのがはっきり確認出来た。

 

「シン! お前だけでも避けろ!!」

《馬鹿言うな! 俺たちが避けたらコロニーがぶっ壊れるだろ!? 

 あのヤロー、ビーム撃たれたらこっちが動けないの見越して……!!》

「くそ……

 コロニー内で戦おうとした時点で、詰みだったか!」

 

 そんな怒鳴り合いをしている間にも、次々に破壊されていく両機。

 激しく揺さぶられるコクピット内で、アスランは奥歯を割れんばかりに噛みしめる。

 

 ──やはりこの期に及んでも、キラ。

 お前は、俺たちの命だけは奪わないつもりか。

 

 ウーチバラ住民の生存者は未だに確認出来ていない。もしかしたら、外壁に埋め込まれていた人間全てが、元々のウーチバラ住民だった可能性すらある。

 そこへ被害が及ぶことを恐れ、自分たちはビームを回避したくとも出来ない。そこをキラにまんまとつけ狙われた。

 両脚とスラスターの一部を粉砕され、見事に上空から勢いよく落ちていくインフィニットジャスティス。

 ほぼ同時に、デスティニーもその横で落下していくのが見えた。

 

 ──機体が損傷していたとはいえ。

 あまりにも。

 あまりにも情けない、キラとの対決の幕切れ。

 こんなところで終わるのか。俺は──!! 

 

 アラートが縦横無尽に鳴り響く中、コロニーの重力を一方的に感じながら、それでもアスランは残された武装を探る。

 同時に頭のどこかで反響したのは、シンの叫び。

 

 ──こんなところで終われるか! 

 キラさん! 俺は決めたんだ。

 あんたを止めて、あんたを助けるって!! 

 

 落ちていくがままだったデスティニーの右肩が、微かに動いた。

 その先に残っている武装は、フラッシュエッジ2──ビームブーメラン。

 煙を吐いたままの左腕を無理矢理動かし、デスティニーは肩からナイフ状の武装をもぎとり、そのまま空中で投擲する。

 真っすぐ、フリーダムに狙いを定めて。

 

 ほぼ同時に、アスランの両手も動いていた──インフィニットジャスティスも。

 左腕に残されていたビームキャリーシールド。殆どボロボロになりながら、まだ僅かに機動していた複合防盾兵装。

 その先端から、咄嗟にアスランはシャイニングエッジ──ビームブーメランを抜き放った。

 

 ──キラ。ジャスティスとデスティニーの両腕をもがなかったのは、お前の判断ミスだったな。

 否。いつものお前なら、真っ先にビームブーメランごと俺たちの武装を全て剥いでいたはずだ。

 それは恐らく、「やらなかった」のではなく、「出来なかった」から。

 つまりお前も、それだけ追い込まれているってことだ。絶対無敵を誇ったお前であっても! 

 

 そう心で呟きながら、アスランはそのままビームブーメランを空へ投擲した──

 瀕死の両機から撃ち放たれた、閃光の刃。撃ち放ってもコロニーを傷つけることなく、機体へと戻ってくる唯一の武装。

 二刃の閃光は、コロニー内に垂れこめた雲を裂き

 ストライクフリーダム、その青い翼を直撃した。

 

「やっ……た!?

 キラ……!」

 

 ほぼ同時に、仲良く地表へと墜落するジャスティスとデスティニー。

 無人のビル群をなぎ倒しながら、盛大な土煙を上げて両機はコロニーの大地へと転がった。

 

 だが、アスランには見えた──

 ストライクフリーダムもまた、青い翼から炎を噴きながら、よろよろと空を漂っていくのを。

 今の攻撃で、スーパードラグーンは明らかに何基か破損した。恐らく機体のコントロールも効かなくなりつつあるだろう。

 それでもキラは、向かおうとしている。コロニーの中枢──

 リュウタン広場、紅の塔へ。

 

 額から流れ出した血もそのままに、アスランは機体状況を確認した。

 フリーダムの翼を破砕した直後、役目を果たしたビームブーメランは当然のようにジャスティスの手に戻っていた。勿論、デスティニーの投じたフラッシュエッジ2も。

 ほっと胸を撫でおろしながら、アスランはハッチを開く。

 

 ──キラが俺たちの攻撃を避けられなかったのは、やはり限界ということか。

 ブーメランによる攻撃を避けても、コロニーの壁まで被害は及ばない。それはあいつだって分かっているはずなのに。

 

 そう考えを巡らせながら、もうもうとたちこめる砂煙の向こうへ、アスランは呼びかけた。

 

「シン! 

 俺はキラを追う。救護班が必要なら呼ぶが、どうだ?」

 

 姿は見えないものの、煙の向こうからは例の、若干反抗的な怒声が響いた。

 

「必要ない。アンタに言われなくたって、俺もキラさんを追うよ。

 そっちこそ、遅れんなよ!」

 

 アスランを振り返りもせずに、倒れたデスティニーの胸部付近からぱっと飛び降りていく影。

 やがて、瓦礫の中から黒いパイロットスーツの少年が勢いよく飛び出していくのが、アスランにも見えた。

 

 ──間違いない。

 あの紅の塔に、ラクスはいる。そして、キラもそこへ。

 

 根拠はないが、酷く強い確信を胸に抱き──

 アスランもまた、走り出していた。額からの出血もそのままに。

 

 

 

 

 

 

 リュウタン広場・紅の塔──その地下最深部。

 コロニー地下を経由して、サイとフレイはようやくここまで到着していた。

 塔の構内への進入口はあまりに狭く、とてもモビルスーツは使えなかった。やむなくサイとフレイはセイレーンを降り、進入口付近にティーダZとナオトを置いて潜入を果たしたのである。

 勿論最大限にナオトの回復と安全を優先し、可能な限りの医療措置を施した上での行動であるが――

 

「ごめん。また一人にしてごめんな、ナオト……

 すぐ戻ってくるから、ちょっとだけ……我慢してくれよ」

 

 何度も何度も少年に謝りながら、その場を離れるサイ。

 そしてサイ自身の身体も慎重にセイレーンとの接続解除がなされ、ある程度の距離ならばセイレーンと離れても行動可能になっていた。

 気が付いた時には、サイはふらつきながらも両脚で立って歩けるまでには回復していた。両脚切断も同然の状況だったと思っていたのに、フレイの肩を借りながらではあるがどうにか、前に進むことは出来る。

 勿論、骨が砕けるほどの酷い激痛に苛まれながらだが。

 

「見ていられない……私の背に乗れ」

 

 激しく息を切らしながら足を引きずるサイを見て、フレイはそう申し出たものの、彼は頑なに譲らなかった。

 

「それだけは駄目だよ。君の身体が心配だ」

 

 頭を振って呟きながら、フレイの肩に寄り添うサイ。

 そんな彼を拒めず、フレイは思わずため息をつきながら周囲を見渡した。

 紅の非常灯以外の光が見当たらない、直径100メートルはあろうかというだだっ広い円状の空間。周囲はガラスの壁が張り巡らせてあるようだが、ガラスの向こうに何があるのか、サイには見えない。

 空間の中心は鉄柱にも似たエレベーターが貫いている。

 ちょうどエレベーターはサイとフレイの眼前で停止し、内部から白く無機質な光を放っていた──まるで地獄の入り口へと誘うかのように。

 

「ここが、あの塔の地下?」

「そうだ。この上にオペレーションルームがある。

 殆どの要員はそこに詰めている」

「とはいえこんな重要拠点に、警備兵が誰もいないとか……

 そんなことあるかい?」

「完全に非常識だが、あの方はよくそういうことをなさる。

 自分の信頼する者以外、周囲には誰も置かない。たとえそれが、感情のないカーボンヒューマンであってもな」

「それも、コロニー内の警備が薄かった理由か……」

 

 フレイは臆することなくエレベーターに乗り込み、操作パネルを開いて慣れた手つきでキーボードを叩いた。

 その操作が、幾重にも施された警備システムを難なく解除したのだろう。何のエラーもアラートも発することなくエレベーターは動き出し──

 

 僅か十数秒のうちに、二人は地下最深部へと降り立った。

 上階とほぼ同じ、ガラスの壁に囲まれた暗黒の空間。不気味なほど無音の通路を、サイはフレイに支えられながらたった二人で歩いていく。

 周囲に響くものは、二人の微かな足音だけ。

 それも壁や天井の暗闇に吸収され、すぐに消えていく。

 螺旋を描くように下方へどんどん曲がりくねり、どこまでも続いているかのような通路──

 

 サイは思い出す。つい先ほど、コロニー外壁で見た光景を。

 破壊された外壁。そこから飛び出してきた、無数の人間の身体を。

 

 思わずぞくっと寒気がして、サイは少しだけ身を屈めた。

 無機質な鉄骨とガラスとコンクリートで構成された建造物のはずなのに、何故か他者の内臓の中に入っている。そんな気がして。

 

 だが、それも時間にすると数分足らずのことで──

 やがて、フレイの足は止まった。

 彼女の全身がぶるっと震え、サイを支えていた腕の筋肉が一気に緊張するのが分かる。

 

「来たぞ……ここだ」

 

 言われて、サイは顔を上げた。

 

「ここが……

 セレブレイトウェイヴの中心?」

 

 信じられない思いで、周囲を見渡す。

 螺旋状の通路、その終着点。まるでコンサートの舞台にも似た、円状に盛り上がった台座が見える。その周囲に張り巡らされた壁はやはりガラスで出来ているように見えたが、その向こう側は何も見えない闇だった。

 

 しかし──

 突然、目の覚めるような光が空間に射しこんだ。

 一瞬だけ眩暈を覚え、サイは思わず目を閉じてしまう。そしてもう一度、光の中で瞼を開いた時──

 

 そこにあったものは、

 真っ青に晴れ上がった空の下、爽やかな風が舞い込み、鳥のさえずりが響き渡る、見渡す限りの桜の森。

 花びらは雪のように舞い散っているが、不快な花粉は一切飛んでいない。風に流れるものは花の微かな香りだけで、土の匂いも草いきれも何もなく、大気はひたすら澄み切っていた。

 

 足元に拡がっているのは、柔らかに生えそろった緑の草原。

 肌を傷つけるような鋭い葉を持つ草はなく、枯れた雑草もない。草は規則的に風に揺れ、サイたちの足を撫でるようにそよいでいる。

 

 サイにはすぐに分かった。ここは、現実には存在しない場所──

 フレイがいつか見せてくれた、プラネタリウムでの夕陽やオギヤカでの星空と同じもの。

 そしていつだか、ラクスの幻に無理矢理見せられた夢の世界、それと同じものだと。

 美しさだけはあるが、同時に存在するはずの汚さがない世界。そんな不可思議な空間が、二人の周囲を満たしている。

 サイを支えていたフレイの唇から、声が響く。冷静さを装っているが、どこか恐れに満ちた声が。

 

「──ラクス一世。

 もう、終わりにしましょう。幻の中で夢を見るのは」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。