【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part27 咲こうとしている花を、吹き飛ばそうとするなら

 

 

 サイの眼前で、震える銃口。

 ひたすら首を振り続けるキラの唇から、否定の言葉が溢れる。

 

「嘘……だ。

 嘘だよ、そんなの……だってあの時、僕は思ったんだ。

 僕たちは間違ったんだって……だから、フレイとは……!」

 

 その感情のままに溢れ出る言葉の意味は、サイには分からない。

 恐らくキラにしか分からないことなのだろう。それはキラと、あの時のフレイにしか分からないやりとりなのか──

 幼子のようなその否定を断ち切るように、サイは腹の底から叫んだ。

 

「嘘じゃない。

 彼女がザフト艦から、ポッドで投げ出された時、お前も聞いたはずだろ! 

 フリーダムを見てお前を認識した時から、お前を必死で呼ぶフレイの声を!! 

 その想いまで、お前は、嘘だって言い張る気か。

 もしそのつもりなら、俺は絶対にお前を許さないからな。

 お前に蜂の巣にされたって、俺はお前を許さないからな!!」

 

 自らの心臓を掴んで引きずりだすかのような、サイの絶叫。

 その言葉に弾かれたように、キラの指が引金にかかる。

 場にこだましたものは、フレイの──フレイを模した少女の叫び。

 

「やめろ、キラ! 

 サイを撃つなら、お前を撃って私も舌を噛む!!」

 

 その言葉と同時に、サイをかばうように前へ出る少女。

 しかしサイはそれでも彼女を留め、キラの銃口の前から動かなかった。

 

 キラがひとたびその引金を引けば、俺の命も、「フレイ」も終わる。

 恐らくナオトも、アマミキョも──

 そう分かっていても、俺はここで退くわけにはいかない。

 

 銃口を睨んだまま、サイは決してその場から動かなかった。

 血を吐き出すかのように叫ぶキラ。

 

「何でそんな……

 何で今更、そんなこと! 

 そんなこと言われたら、僕はもう二度と、自分を許せなくなるじゃないか!!」

 

 髪を振り乱しながらサイを否定し続けるその痛々しい姿には、最強のコーディネイターとしてメサイアを落とした時の貫禄など、最早微塵も残されてはいなかった。

 

 だが、これでいいんだ。

 このまま俺が撃たれたとしたって──

 ずっと届かなかったフレイの想いが、遂にキラに届いたのなら。

 彼女の死を認め、彼女の想いを受け取ることで、キラの時間が動くなら──

 ずっとキラを追いつめ、傷つけ続けた俺の罪が、それで少しでも軽くなるなら。

 

 

 サイがそう心に念じ、銃弾を受け止めるかのように静かに目を閉じた、その瞬間

 

 

「駄目だ、キラさんっ!!」

 

 

 ――その場の誰もが予想しなかった方向から、一発の銃声が響き渡った。

 キラの足元、その草むらと土を削り、そのまま後方へと消えていく跳弾。

 同時に、散りゆく桜を吹き飛ばすかの如く、轟いた叫びは。

 

 

「誰を撃とうとしているのか分かってるんですか、あんたは! 

 あんたは、俺に言ってくれたじゃないですか。何度吹き飛ばされても、花を植えるって──

 なのにキラさん、あんたは!!」

 

 

 サイもフレイもキラも、殆ど同時に振り返った。

 桜並木の向こう、キラが現れた場所とほぼ正反対の方向から一歩を踏み出したのは、

 キラと同じ黒いパイロットスーツに身を包んだ、紅眼の少年──シン・アスカ。

 キラと同様、額から血を流し、その黒髪は激しく乱れていた。それでも草むらを踏みしめながら拳銃を握りしめ、彼は少しずつ歩みを進めてくる。

 その叫びは殆ど、泣き声に近かった。

 

「あの時のあんたの言葉……

 正直、とても曖昧なきれいごとに聞こえた。

 だけど、それでもあの時俺は、あんたについていってもいいと思ったんだ。そこに、怨讐だけに囚われない俺の道があるのなら! 

 あの言葉、今、返します。

 咲こうとしてる花を、吹き飛ばそうとするなら──

 俺は何度だって、あんたを撃ちます! キラ・ヤマト!!」

 

 シンの叫びで、凍りついたように動かなくなってしまうキラの手。

 その喉から漏れ出たものは、ひたすらに否定の言葉だけ。

 

「悪いけど……

 シンには、分からないよ」

 

 しかしそんなキラにも怯まず、銃口を逸らすことなくシンは叫ぶ。

 怒れる紅の眼から、血と共に零れ落ちる涙。

 

「えぇ、分かりませんよ! 

 だけど、分からないからこそやれることだってある! 

 サイさんは、あんたにとって大事な人だ。絶対に失っちゃいけない人なんだ!! 

 それだけ分かってれば、十分でしょうが!!」

 

 どこまでも真っ直ぐにキラへ言葉を吐き、銃を向けるシン。

 その銃口は確実に、キラの手元を狙っていた。

 そして──

 シンに続いて、静かに樹の後方から姿を現した者は。

 

「それ以上動くな、キラ。

 動けば急所に当たる可能性がある。なるべく傷が深くならないように撃ってやるから」

「……アスラン」

 

 シンに寄り添い、キラに相対するように銃を向けるアスラン・ザラが、そこにいた。

 彼の姿を認めた瞬間、何かを完全に諦めたかのように、キラの顔から感情が抜け落ちていく。

 サイに銃を突きつけたまま、ぼうっとアスランの方へと頭を向けるキラ。

 

 そして、ラクス一世はといえば──

 また珍客が来たと言いたげに、興味津々で事態の推移を見守っていた。

 自分には決して被害の及ばぬ観客席で、演劇でも楽しんでいるかのように。

 

 音程のない歌を歌うように、キラは呟く。

 

「そう……アスランは、いつもそうだった。

 僕を分かろうとしてるようで、自分の言葉を僕におしつけているだけだって。

 僕にも、他の人にも、どこまでも不器用で……」

 

 そんなキラの呟きを聞きながら、アスランは冷徹に銃の安全装置を解除する。

 

「……3年前。

 お前がアークエンジェルを見捨てて、プラントに来てさえいれば……

 こんな歪んだ状況にはならなかったかも知れない。俺はずっと、そう考えていた。

 思えば、お前がラクスをアークエンジェルから解放した時が、最大のチャンスだった」

「……」

 

 キラは黙したまま、答えない。

 そしてサイは思い出す。

 アスランの指摘した、3年前。キラがラクスを解放した時というのは

 

 ──多分俺が、何度もキラに呼びかけた時だ。

 心のどこかでキラを疑いながら、「帰ってくるよな」「信じてる」などとキラに呼びかけ、プレッシャーをかけ続けたあの時。

 

「何度思ったか分からない。あの時、ラクスと一緒に強引にでもお前を連れ帰っていればと。

 恐らくお前は、仲間たちの助命を嘆願しただろう。そうすれば、連合の軍人たちは無理でも、最低限、お前の友人たちは助けられたかも知れない。

 それで全てはうまくいったのかも知れないと……

 今更すぎる話だがな」

「……今更、だよね」

 

 ぽつりと吐き捨てたキラ。

 サイはその銃口に身を晒したまま、じっと二人の会話に耳を澄ます。

 

 今思えば、ラクスを返還したあの時が、キラとアスランにとっても俺たちにとっても、最大の分かれ道だったのかも知れない。

 あの直後から、フレイによってキラは戦いに縛り付けられ。

 俺たちもなし崩しに、正式に軍属となってしまったのだから――お前がやるなら自分もとばかりに、何も考えずに軍に志願して。

 その運命を決定してしまったのが──何も知らなかった、俺の言葉だった。

 俺の言葉通りにキラはアスランと別れ、アークエンジェルに戻ってしまい。

 あとは、激化する戦いで命を削り、アスランの仲間を殺し、トールまでもを失い──

 

 しかし、そんなサイの思惑を知ってか知らずか。アスランの冷静な言葉が響く。

 

「だがそれは──俺にも言えることだった」

「え?」

 

 意外な言葉を聞いたというように、キラは顔を上げる。

 不器用だが淡々としたアスランの言葉が、風の中へ流れた。

 

「俺があの時ザフトを見限り、キラについていっていれば。

 あの時ラクスと一緒に、アークエンジェルに行っていれば……

 あるいは、何かが変わったのかも知れない」

 

 本当に今更すぎる。

 そう言いたげに、キラは目を閉じながら首を振った。

 

「でも、そんなことあの時のアスランには、無理だったでしょ。

 僕がサイたちを裏切れなかったように、アスランも、ザフトを捨てられるわけがなかった」

「だが結局は、俺もラクスもザフトを裏切り、アークエンジェルと行動を共にすることになった。

 もっと早い段階でそうしていればと──今は思う。

 お前も俺も、ここまで歪むことはなかったと!」

 

 悔やむように唇を噛みしめながら、アスランは実に正確にキラへ銃口を向ける。

 そんな彼を、横目で若干蔑むように睨むシン。

 ここまできてそれしか言えないのか、アンタは──紅の眼は如実にそんな文句を呟いていたが。

 それでもキラは、サイに向けた銃口を動かさないまま、呟いた。

 

「……ずるいよね。アスランも、サイも。

 今更そんなこと言われたって……」

 

 だがアスランははっきり首を横に振り、エメラルドの眼光でキラを見据えた。

 

「違う。今気づけたからこそ、変われることだってある。

 キラ。俺はここに至るまで、お前を殆ど分かっていなかった。

 幼い頃から一緒にいて、お前を分かってやれるのは、お前を助けられるのは俺しかいないと

 ──ずっとそう思っていた。

 だがそれは、とんでもない思い上がりだった。

 お前がどれほどの痛みを抱えていたかも、どれだけ苦しんでいたかも知らずに、俺はただ

 ──お前の行動を責めるだけの人間だった。

 だが、それが分かっただけでもいい。それだけで、人は変われる。

 俺は、そう思う」

 

 決然と言葉を口にしながら、アスランは改めて銃を構え直した。それは明らかに──

 キラだけでなく、その背後のラクス一世をも狙っている。

 

「だから──キラ。そして、ラクス一世よ。

 今すぐに、この神経兵器から手を引け。

 知っての通り、ウーチバラには続々とザフトとオーブ、連合艦隊が集結している。どれほど祝福の歌を放たれても、負けなかった者たちが。

 これ以上の抵抗は、無為に死者と負傷者を増やすだけだ」

 

 そしてアスランの瞳はやがて、まっすぐにラクス一世の白い顔を見つめた。

 不器用ではあるがどこまでも真摯な言葉が、彼女に向けられる。

 

「どれほど人倫から外れたといえど、ラクス一世。貴方はラクスの母親だ。

 自分はキラも、貴方も、殺したくはない。

 どうかラクスを解放し、降伏して下さい」

 

 そんなアスランの言葉を、ただ茫然と聞いているキラ。

 しかしラクス一世はそんな中、ふと立ち上がる。祈り続けるラクスをそのままにして、彼女はキラを守るように、その傍らにそっと寄り添った。

 花びらが舞う中、彼女の柔らかな髪もふわりと風に流れていく。だがサイもフレイも、彼女のこの行動に反射的に身構えた。

 アスランもシンも改めて銃を構える。風景に見合っていない緊張感が、場を満たした。

 やがて、微笑みと共にラクス一世の唇から零れた言葉は。

 

「ふふ、可愛らしいこと。

 いつ聞いても、うら若い方々の熱のこもった言葉は良いものですわね……

 でも、残念。そろそろ、遊びの時間はおしまいですわ」

 

 

 

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