【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
コロニーから飛び出したティーダを追って――
イザークの通信を受けたディアッカのザクウォーリアが、デブリの河を駆け抜ける。
しかし、ティーダの機動力はザクウォーリアを遥かに上回っていた。畜生、こっちはニューミレニアムシリーズの最新鋭機体だってのに。
「機動性がありゃ、いいってもんじゃ!」
聞きようによっては負け惜しみとも取れるディアッカの呟きなど知りもせず、次から次へと迫るデブリをティーダは何とかよけていく。
パイロットの腕は明らかにズブの素人で、それゆえに隕石激突寸前という事態にもなるわけだが、真っ白い機体は咄嗟の稚拙な操作に見事に反応していた。
一度など、突っ込む間際に殆ど直角に曲がってデブリをよけやがった。ザクが鈍重か否かは問題ではなく、ティーダが速すぎる。
「欲しくなるわけだよ……ありゃ」
アフロディーテのコクピットに、ナオトの叫びが響きわたる。
突如として空域に乱入してきた白い機体に驚いたザクウォーリア、そして少し離れてカラミティが追跡を始めているのが、フレイからも見える。
だが、彼女は冷静だった。
「無理だ。
追いつけまい、ティーダには」
同時にフレイは確認した。ティーダの右腕の盾が、まっすぐこちらに向けられているのを。
光がその先端部分から放たれた。それが何であるか、フレイは撃たれる直前に察知した。
「照明弾か!」
闇の真空に、光の菊が乱舞する。輝きはこうこうと、アフロディーテの紅の装甲、その手に掴まれた少女、紫の流線型を照らし出す。
瞬間、フレイにわずかな隙が生まれた。光を前に、反射的に瞼で眼球を庇う方に余計な神経を使った瞬間──
ネオ・ロアノークが、動いた。
フレイはほぼ人間外の反応速度で機体を繰ったが、それすら相手モビルアーマー・エグザスは上回っていく。
残されていたガンバレルを、エグザスが光の中で直接、アフロディーテの左腕関節部にぶつける。
ステラに与える衝撃を最小限に──そんなネオの思念が、ガンバレルに伝わったか。
ガンバレルの激突はアフロディーテの腕の機動を鈍らせ、ステラの腹を包んでいた指先が、わずかに外側に動作した。
ステラの身体がその衝撃で、宙に放り出される。
咄嗟にネオはエグザスからワイヤーを伸ばす。
「つかまれ! ステラっ」
恐怖で動けなくなろうと、まだネオの動きに反応するだけの力は、ステラに残されていた。
ネオの声はステラにしっかり届いている。まだニュートロンジャマーによる干渉はあるはずだが、通信は奇妙なまでにクリアだった。
溢れる光の中、どうにかステラはワイヤー先端を捕らえることに成功した。炎の中の蜘蛛糸のようなワイヤーを。
彼女にとって、ネオの声はまさに神の声。彼女に、神の概念は理解できていないとしても。
ステラがモビルアーマーに回収されていくのを確認しながら、ナオトはティーダをアフロディーテに接近させて叫ぶ。
カラミティが凄まじい速度で追随してきたが、ナオトは気にしていなかった。
「まだ少女ですよ!
女の子は守るべき存在です!!」
ティーダのコクピットに、カイキの怒声が響く。《貴様はマユを傷つけたろうが!》
「マユをこれに乗せたのは貴方たちだ!」
《俺だって乗せたかねぇ!
まして、貴様の隣なんぞに!!》
ティーダを撃墜せんばかりの勢いで突進してきたカラミティ。しかしそれをフレイが止めた。
《やめろ……カイキ。
今のは私も油断した》
冷静さは全く失われていない、むしろ増している。
だがそれは、彼女なりの怒りの表現でもあった。
ナオトはさらに、空域全てに叫び続ける。
チャンネルはオールレンジにしてある。どうやら国際救難チャンネルを使わずとも、ナオトの声は向こうに届いているらしい。
ステラの微妙な反応から、ナオトは分かった。彼女のメットにまで、僕の声が届いている!
「こちらオーブSunTVレポーター、ナオト・シライシです!
双方とも、ウーチバラ周辺空域より即時撤退してください! 今は戦時下じゃないんです、フレイさん!」
ナオトは顔を紅潮させながら、なおもアフロディーテの中のフレイに言う。
「さもないと貴方の行為、アスハ代表に伝えることになりますよ! オーブ全土に発信しますよ!
こんな非人道的行為をバラしたら、アマミキョがどうなるかぐらい分かるでしょうっ」
相変わらず動かない、フレイの表情。
口元があざ笑うかのように若干ひきつっているが、画像がやや乱れ気味の為、ナオトにはその意味は分からなかった。
「あのサル姫殿に、何が出来るというのだ」
フレイは興奮状態のナオトを放置しつつ、呟く。ナオトや周囲にその呟きは聞こえない。
ザクウォーリアを駆るディアッカがやっと追いついてきて、ナオトに怒鳴りこんでいる。
《トーシロの乱入が一番危ないんだ、下がってろ!》
放っておかれたナオトはさらに頬を紅潮させていたが
――その向こうから突如、別の音声が割り込んできた。
《君たち、やめたまえよ!》
その通信は、アマミキョブリッジから。
ムジカノーヴォ・文具団社長が、サイを押しのけるようにして通信を行なっていたのだ。
コロニー内側と外側。しかもニュートロンジャマーの影響がまだ残る空域。なのに、何故かその通信はクリアーだった。
サイはティーダとアマミキョ間できれいに交わる通信状態を確認しながら、驚かずにはいられない。
「まさか、これって……」
「これも、ティーダの力なの?」
電波に乗せてよく響く声に、思わずナオト自身も呟いた。
そういえば、先ほどからサイの声が異様に響いていたのはナオトも気づいていた。社長の声も同様。
他モビルスーツとも通信は未だ十分可能だったが、アマミキョからの通信は特に鮮明だった。
社長の言葉が空域に響く。
《不可視戦艦の諸君、失礼するよ。
君たちはモビルスーツの値段を知ってて、こんなお遊び続けてるのかい?》
エグザス内部のネオにも、社長の声は届いた。ティーダの回線を通じて。
「アマミキョと、あの白いモビルスーツ……その新たな力。
ジャマーをものともしないレベルの通信機能強化か。見せつけてくれる」
その間にも、社長の妙に堂々とした言葉は続いていた。
《モビルスーツってのはバカ高いんだよ。ダガーLの腕1本だけでおそらく、連合の大佐クラスの5年分の稼ぎぐらいはいくんじゃないのかなぁ?
そこの、紫の貴公! 貴公が何処の階級かは残念ながら知りえぬが、自分の想像ではダガーL左腕イコール、貴公の稼ぎ3年分とお見受けする》
こいつは無礼なのか、買いかぶられたのか。
自分に向けられた皮肉に、ネオは苦笑する。エグザス側面のハッチにステラが取りつくのを確認しながら。
《連合ってのはケチくさいもんだ、戦闘手当すらろくに出ないそうじゃないですか。
階級にかかわらず一律、月額にしてキャラメルフレンチトースト10皿分だそうです。聞くところによるとザフトも似たようなものらしい、末端の兵士の年収が連合の最貧層レベルだそうですよ。
命の値段を生涯収入マイナス生涯支出っつーことにすれば、ダガーの腕部の関節部分だけで貴公が20人ほど必要じゃないかな。
相当大雑把な計算で申し訳ないが》
「確かに甘い計算だ。
自分が20人? マイナスが増えるだけですよ、ムジカ社長」
さっきまで砲火が飛び交っていた処で、いきなり金の話か。しかも、命を金に換算。
ネオの苦笑は止まらない。相手も、同じ調子を崩さない。
《お察しが素晴らしく助かります。
尤も、コーディネイターかナチュラルかでかかる金額もまるで違うわけだが、そんな心配はしなくてよろしいか? そちらは全員……》
「その質問には答えられませんな」
調子に乗るな──ネオは社長の言葉をぶった切る。
「個人的に貴方の経営論のファンではありますよ、ムジカ社長。
しかしこのような事態に至ったことは残念です」
《ほほう。先日出したばかりの新刊、購入してくださると嬉しいですねぇ》