【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ウーチバラの完全崩壊から、十数分もの後。
《地球軍の核攻撃部隊も、現在撤退中だそうだ。
ウーチバラ破砕の時点で、核攻撃まで15分を切っていたらしい。
非常に危ないタイミングだったが──これも、アスハ代表の尽力のおかげだろうな》
「……そうですね。
彼女がオーブ代表として連合のお偉方に頭を下げてくれなければ、この奇跡もありえなかった」
サイはセイレーンコクピットで、静かにトニー隊長との通信を続けていた。
ドラグーンXの放った爆光は未だにウーチバラ宙域を染めていたが、そこから徐々に離脱していく艦船の姿が見える。
光を放った後、殆どのエネルギーを使い切ったのか。機体のあちこちから火花を発していたルージュも、しっかりとティーダZを抱えたまま、ミネルバJrへと帰還していた。
今のアマミキョには満足なカタパルトも残っておらず、ティーダZは元々ザフトの機体だ。
何より今、ミネルバJrにはシンも帰還していたから、マユがミネルバJrを選んだのは妥当な選択なのだろう。
ストライクフリーダムも、インフィニットジャスティスに伴われながらアークエンジェルに帰還していくのが見える。アークエンジェルのそばには、いつの間にかエターナルも接近してきていた。
──ナオトのあの声を聞いて、キラはどう感じたのか。
サイはふと、そんなことを思った。
図らずも傷つけ、その心を完全に崩壊させてしまった少年が、偶然とはいえ自分の名を無邪気に呼び続けるという状況は──
しかし、サイはこうも思う。
今の俺には、祈ることしか出来ない。
キラの心が、これ以上壊れてしまわないように。
キラが今度こそ、過たず自分の道を選択し、ラクスと共に進んでいけるように──
そう思いながら、サイが通信を終えかけたその時。
「……うぅっ」
まだ爆風の収まらぬ中、セイレーンを操っていたフレイが、突然呻いた。
思わずサイが振り返ると、彼女は必死でデブリを避けながら、下腹部を抑えている。
これまで痛みをこらえにこらえ、それでも戦ってきた彼女が、明確に痛みによる呻きを上げるなど──
ただ事ではない。
「フレイ!
これ以上は無理だ。すぐにアマミキョへ……スズミ先生に診てもらおう!
今は、それしかない!」
まだ麻痺の残る指で、サイはフレイの手を揺さぶる。下腹部を抑えた、彼女の手を。
そんなサイをじっと見つめる、灰色の瞳。
誇り高く強かったはずの彼女の瞳は、これまで見たこともないほど、恐怖に慄いていた。
頬から完全に血の気が失せているのが、バイザーごしでも分かる。
唇からそっと漏れたものは、ともすれば空気の中へ消え行ってしまうような、弱音だった。
「……いて、くれるか?
私は……怖い。全てを見るのが。全てを知るのが。
また、あの罪を、犯してしまうのが」
それは──
スーパーコーディネイターだろうが何だろうが関係ない。この危機に瀕した女性なら、当たり前に感じる、恐怖。一度でも経験しているのならなおさらだ。
フレイの手がずっと震え続けているのが、サイにも分かった。
多分、彼女は分かっているのだろう。お腹の子がたどる運命を。
それでもなお、現実から逃げようとしているのは──
自分の身から子を離すまいとする、母親としての最後の願いだ。
ならば、俺がやれることなど、一つしかないじゃないか。
ろくに動かない右手で、それでもフレイの手を掴みながら。
サイは一言一言を噛みしめるように、力強く告げた。
「大丈夫。
どんなことがあっても、俺は、君のそばにいる。
だから──君も、約束してくれ。
何があっても、生きるって!」
すっかり砕け落ちた眼鏡のレンズごしに、フレイを見つめる青い瞳。
彼女はじっとその言葉を聞いていたが──
やがてその灰色の瞳が、涙で滲んだ。
「ありがとう──サイ。
お前と出会えて。お前を選んで──
私は、本当に果報者だ」
数刻後。
ガンダム・セイレーンのスラスターが炎を噴き、一息に進行方向を変えた。
そして迷うことなく、帰る場所に向けて飛翔していく──アマミキョ後方ブロックへと。
ウーチバラの炎と爆風が未だ空間を満たす中、その紅は鮮やかに煌めいていた。
ストロボのように輝く宇宙を染め抜く、一筋の血のように。