【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 君だって、帰りたがっていた

 

 

 

 ちょうどその時、アマクサ組作業艇・ハラジョウでも動きがあった。

 モビルスーツデッキのざわめきをよそにディアッカは、この真っ赤に塗られたコンパクトな作業艇にこっそり接近していた。

 イザークも騒ぎを利用し、ディアッカを追ってハラジョウの側面へと動く。

 何気ない風を装いながら、彼らはちょうど開放されたままになっているハラジョウのハッチへと忍び込んだ。

 

「悪く思うなよ、サイ……」

 

 そんなディアッカの呟きを、イザークは聞き逃さない。

 

「放置は出来んと何度言えば分かる、貴様っ」

「隊長、くれぐれもクルーの安全は保障してくれよ」

「くどいぞ。それが出来ぬほど落ちぶれちゃいない」

 

 ハラジョウ内部は薄暗かったが、意外に広い空間である。

 作戦室らしき小部屋に入っていくと、そこにはパソコンが数台、ところ狭しと配置されていた。

 中央には小さなテーブル。体温計やコンパクトディスクが転がっている。

 雑然としているように見えるが、実はきちんと計算されて物が配置されていることに、ディアッカは気づいた。

 

 

 そして、部屋の隅では数台のパソコンが稼動中で──

 ディスプレイが異様に青白い光を放っている。

 ピアノを弾くようにキーボードを優雅に操る一人の少年が、その前にじっと座っていた。

 

 よく見ると彼の座っているものは、かなり精巧に造られた電動車椅子。大量のケーブルが蛇のように少年の周りを取り囲み、そのうちの2本ほどが肩にまでかかっている。

 はっとするほど細い首筋。多少緑がかった柔らかそうな髪。

 

 しかし何と言ってもディアッカとイザークを驚愕させたのは、その服だった。

 見間違えるはずもない、ザフトの赤服──

 選ばれしエリートにのみ与えられる、英雄の称号。

 

 

 ──逃げろ。一刻も早く、この船から。

 違う、この空域から。

 

 

 ディアッカとイザークの脳裏に、ほぼ同時に同じ思考が渦を巻く。

 先に動いたのはディアッカだった。というよりも、動いてしまった。あまりの動揺で。

 少年が、ゆっくりと振り返る。

 大分前に二人の気配を感じ取っていたらしき、余裕の仕草だった。白い肌がディスプレイの光を反射し、青く輝く。

 車椅子のモーター音がかすかに響いた。

 

「動くと撃ちますよ。先輩方」

 

 大きな、優しげな幼い瞳。口元には笑みがたたえられている。

 一見丸腰に見える少年の姿。だが──

 

 

 その左袖の中には拳銃が隠され、銃口は確実に自分たちの方に向けられていた。

 

 

 一体何なのだ。俺たちは本格的に幽霊船に閉じ込められたか。

 それとも俺たちはいつの間にか何処かで撃墜されて、天国にでも来たのか? 

 

 反射的に二歩ほど後退してしまったディアッカの身体が、イザークとぶつかる。

 かつてない激怒がイザークを包んでいるのが、ディアッカには分かった。

 これは──マズイ。非常に。

 

 

「ニコル……

 ニコル・アマルフィ……貴様」

 

 

 なけなしの冷静さでもって、イザークは必死で絶叫を歯の間から通過させ、地響きにも似た呻きに変えた。

 少年の腰から下は存在せず、下半身全体が大量のケーブルに覆われていた。そんな身体を包む、ザフトの赤服。

 その上に乗っている首は、かつての戦友の顔だった。

 

 ――閃光の中に散ったはずの、ピアノ好きの幼い少年の。

 

 完全に精神の均衡を失った二人はいつの間にか、背後を取られていた。バイザーで顔を隠した整備士二人に。

 

 

 

 

 

 

 遠巻きにナオトを見ていたクルーの中から、軽蔑と嘲笑と哀れみが混然となったざわめきが広がっていく。

 

 

 ──タレントなんてそんなもんでしょ。

 ──しょっちゅう噛みやがって、ホントウザイと思ってたよ。

 ──顔がちょっと可愛いからって、調子こきすぎだったよなぁ。

 ――政府が強引に推し進める、多様性ってヤツの犠牲者?

 ──でも、やりすぎじゃない? まだ子供なのに。

 ──アスハの犬だ、所詮。

 

 

 フレイの言葉はまだ響く。

 

「貴様はきっと、言われ続けたのだろう。

 ――お前のような半端モノと友達なんかになれない。汚れた遺伝子。ウチの子に寄らないで。

 所詮半分だけ、本物のコーディネイターにはかなわない。ナチュラルの腐った古い血が、俺らに近づくな。

 あんたなんか、産まなきゃよかった。

 ……それらの言葉ゆえに、貴様は今の生き方を導き出した。ナチュラル以上にドジでバカな自分を演ずること──」

 

 

 フレイの髪が、ナオトの頬についた血に絡まる。

 ナオトの呼吸が、体内で爆発でも起こしているように高鳴っている。

 

 

「だって、そうでもしなきゃ、僕は……僕は

 ……僕は!」

 

 やっとのことで出したナオトの精一杯の呻きは、皮肉にもフレイの推測がほぼ正解であることを示してしまっていた。

 

「主語だけ垂れ流して述語を言えぬのは、近頃のオーブの者どもの悪い癖だな。

 僕は……そうでもしなければ、世界中の誰も愛してはくれない、か?」

 

 フレイはナオトの前髪を離し、今度は優しげにその首筋に触れた。台詞とは裏腹に。

 

 

「だろうな。祭り上げられたレポーターでも脳天気なドジっ子でもない貴様など、誰からも好かれんさ。

 誰が愛すものか。自分勝手な過剰な正義で他人を巻き込む、無力な子鼠など」

 

 

 フレイの指が、ナオトの鎖骨を探るように撫でる。彼女の手の甲に、ナオトの激しい息がかかった。

 真っ赤に充血した眼。今にも過呼吸で倒れるかと思うほどの息。

 剥かれた上半身の、真っ白な背骨が浮き上がる。腫れあがった肩と腕。ひたすら横に振られる頭。

 顎から冷たい床へ落ちるものは汗か、血か、涎か、鼻水か、それとも──

 サイはその時、はっきり聞いた。精神瓦解寸前のナオトの呟きを。

 

 

 

 

 ぼくは、もうだれも、なくしたくない。

 たとえうそでも、ぼくを、すきだといってくれるひとを。

 

 

 

 

 気づいたら、飛び出していた。

 人を押しのけ、叫んでいた。

 

「やめろ、フレイ!」

 

 全ての視線が一斉にこちらへ向くのも構わず、サイはナオトに駆け寄っていた。

 カズイもその後ろで一瞬躊躇したようだが、すぐに引っ込んでしまう。それほどに、アマミキョクルーのナオトに対する視線は厳しかった。

 ──何よりカズイは、アムルが気になったのだ。

 

 サイもそれを了解しながらもナオトの身体を起こし、自分の背でナオトを好奇と嘲りの目から庇う。

 頬や制服にナオトの血がついたが、構わなかった。

 顔を上げると、いつの間にかナオトから手を離していたフレイが、サイを見下げる格好で堂々と立っている。

 

 哀れみのかけらもない、灰色の瞳。

 その存在だけで、十分すぎるほどに自分を威圧できる女。

 だが、サイは真正面から立ち向かった。

 

「俺は嫌いじゃないよ、こいつのこと。

 誰だってあるだろ。人間関係円滑にしたくて自分演じるなんて、普通のことだ」

 

 それでも間髪入れず、フレイは言ってのけた。

 

「流石は元アークエンジェルだな。

 自己満足の正義をふりかざすのは、お前も同じか」

 

 だとしても、構うものか。

 サイはフレイと、その背後のマユ、カイキを順繰りに見据えながら、きっぱりと言う。

 

「ナオトは、仲間も帰る場所もなくした。それでも自分の方法で、マユ──

 そこの君。さっき、ナオトを笑いながら蹴った君だよ。

 ナオトは君を守ろうとした。人質になった、ウィンダムの女の子をも助けようとした。

 その気持ちを、俺は嫌いにはなれない」

 

「でも」マユは顎に人差し指を当て、きょとんとした顔を作ってサイを眺めている。

「ナオトはずっとみんなに嘘ついてたんだよっ、当然のシューセーだよ。

 ねっ、カイキ兄ちゃん?」

 

 マユはカイキの腕に、甘えるようにぶら下がる。ナオトの血を浴びたままのカイキの腕に。

 脳の検閲を通さないままの叫びが、サイの喉から迸った。

 

「これは修正なんかじゃない! ただの暴行だろ!!」

 

 その場に響きわたる、サイの怒声。

 マユは、何故サイが怒っているのかまるで理解できないようで口をつぐむ。

 フレイは片手を腰に当てたまま、サイに冷たく言い放った。

 

「何も出来ない分際でよく言う。

 立場をわきまえろ、ここはカレッジではないぞ」

 

 情けも熱もない言葉。

 サイの中で、感情が暴発する。

 

 

「偽りを演じながら14年も生きてきたのなら、それは偽りじゃない。

 ――本質だよ」

 

 

 思わずナオトの震える身体に、強く両腕を押しつけていた。

 痛みと羞恥と屈辱で熱くなった少年の体温が、制服を貫いて伝わってくる。

 

 フレイ──君の記憶はどうした。キラの件はどうした。

 何故、そこにいる。何故、戦ってる。その態度は何の為に。

 チュウザンで会った時の君は、何処へ行った──そして昔の君は。

 何も出来ないくせに、自分勝手でわがままで……

 散々人を傷つけては、自分がもっと傷ついていた頃の君は! 

 

 

「ナオトの行為は確かにバカで、向こう見ずで、俺だって怒った。みんな怒った。罰は受けるべきだろう。

 だけどその心根は、俺は好きだ。女の子を人質になんて、見過ごせないよ」

 

 しかしすかさず、カイキが横から口を挟んだ。「ただの女の子じゃねぇ! 

 アレは、強化人間だ。昔アークエンジェルにいたなら、貴様も相手したはずだろうが!」

 

 その一言で、クルーのざわめきが一層高くなる。

 フレイはさらに言った。

 

「サイ。あれ以上のどんな方法があったか、答えてみろ。

 あのまままともに戦っていれば、いずれ不可視戦艦を引き寄せた。相手に出来るだけの力は、今のアマミキョにはない!」

「それは……」

 

 あまりにも正面から指摘され、サイは口ごもるしかない。

 相手側に、こちらが決定的に有利な情報を握っていることを伝え、さらに十分な防衛力がある事実を示すという点では、フレイの方法は確かに適切だった。

 強化人間に、条約違反の戦艦の存在。それを考えれば──

 多少人道に外れた行為であっても、船を守るには最善の選択だったのかも知れない。

 

「……具体的な対案もなしに、一方的非難か」

 

 アムルの囁きが、サイの背後から聞こえた。意識せずにはいられなかった。

 フレイは畳みかけるように、居丈高に言い放つ。

 

「サイ・アーガイル。お前の言葉は全て、感傷のままに持ち出した正論にすぎん。

 それではアマミキョは守れぬ、逆に危機に晒すだけだ。

 いかにも、アークエンジェルの連中が言いそうなことだがな」

 

 そうかも知れない。俺の行動は全て、うわべだけの優しさによる正論によるものかも知れない。

 そしてかつてのアークエンジェルに、似たような側面がなかったとは言い切れない。

 ──だからといって。

 

「ナオトをここまで叩く必要は何処にもないだろ! こんなことをしている君を、俺は見たくはない!!」

 

 サイの叫びにも、フレイの表情は全く変わらない。

 その無慈悲さが、サイの心を逆に激しく燃やす。

 

「それにフレイ……君だって」

 

 サイの眼鏡の奥の強い視線が、真っ直ぐにフレイのそれとぶつかりあった。

 

「君だって、アークエンジェルに帰りたがっていたじゃないか!」

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 次回予告

 

 フレイたちアマクサ組の手で、一方的に統制されていくアマミキョ。

 戸惑いと混乱の中、彼女の声に翻弄されるばかりのサイ。

 そしてティーダの存在は、宇宙に新たな火種を蒔く。

 それはまた、新たな運命のすれ違いをも呼び起こすのだった。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「支配の始まり」

 疑惑の星海、突き進め、アマミキョ! 

 

 

 

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