【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
「君は確かに、アークエンジェルに乗っていた。
アークエンジェルに帰りたがっていた! 俺はあの時確かに、この耳で君の声を聞いたんだ!!」
あの時とは勿論、2年前──
コロニー・メンデル付近で、フレイの乗った救難ポッドを発見した時のことだ。もう、太古の昔のように感じる出来事。
特に今のフレイを知った後では、必死でアークエンジェルの救いを求めて宇宙を彷徨っていた彼女のか細い叫びなど、笑い話にしかならない。
だが俺は、それでも、あの時の君を覚えている──
冷厳なる態度をこれっぽっちも崩さないフレイに、サイは叫んだ。
デッキの天井にまで、その声を懸命に響かせる。彼女の威容に負けないように。
すぐ近くにいるはずなのに、遙か上空から見下ろされているように感じる。一体何だ、彼女の尊大さは?
聴衆がさらにざわめいたが、サイはもう構わなかった。
ナオトが穴の空くほどフレイとサイとを見比べているのは分かっていたが、もう何もかも構わなかった。
そんなサイに噛みついたのはカイキ。「貴様、隊長に恥をかかすか!」
「あんたは黙っててくれ!
俺にとっちゃ、フレイは隊長でもなんでもないっ」
「だったら何だというんだ、貴様っ!」
カイキがサイの胸倉を掴みかけたが、フレイがカイキを片手だけで制した。
彼女はサイを見据えたまま、言い放つ。
「アークエンジェルは好きだ。
――撃沈したいほどな」
──それは、サイの感傷など一息で地面に叩き伏せるかのような、断言。
彼女の台詞の意図をまるで理解できず、サイはナオトを庇った体勢のまま茫然とするしかない。
その腕の中のナオトはといえば、痛みを一瞬忘れたように、大きな眼を真ん丸にしてフレイを見ている。
そして周囲の観衆も、ナオトとほぼ同じ目線でサイとフレイの言い争いを見守っていた。あまりに一方的な言い争いではあったが──
さきほどまでナオトだけに集中していた、興味本位の視線。それが一瞬で、この二人に注がれる。
そんな視線を浴びてもフレイは不快を示すどころか、満足しきっているようだ。
彼女は唇に薄笑いを浮かべ、さらに告げる。サイにだけでなく、その場の全員に聞かせるように。
「本来、貴様らに答えを提示する義理はないが、答えてやろう。
私が目指すものは、よりよいアークエンジェルだ。
このアマミキョを、さらに輝かしき大天使とする──それが我ら、アマクサ組に課せられた使命だ。
かの大戦を停止させる大きな力となったアークエンジェル。
オーブ艦クサナギ、ザフト艦エターナル。
彼らを率いた、ウズミ・ナラ・アスハの忘れ形見でありオーブの現指導者、カガリ・ユラ・アスハ。
ザフトの平和を護る女神、ラクス・クライン。
それを護るは、オーブ伝説の英雄──キラ・ヤマト。
ザフトの英雄、アスラン・ザラ。連合の英雄、ムウ・ラ・フラガ。
――平和の理念をかかげた、まさに理想の軍だ。
いささか自己中心的な正義を押しつける傾向があった処が、彼らの欠点とも言えたが──
それを補ってあまりある力と想いが、彼らにはあった。それゆえ、ザラ派の暴走を阻止できたのだろう」
フレイのこの言葉は、クルーたちの心を刺激した。
オーブ出身者が大多数を占めるアマミキョクルーの中には、伝説的英雄であるアークエンジェルとその船団に憧れ、アマミキョに乗り込んだ者も数多い。そうでなくとも、オーブの人間の大多数はアスハ代表の支持者である。
そして、伝説の中心であるキラ・ヤマト、ラクス・クライン、さらにアスラン・ザラや他のアークエンジェルクルーを、神話の主人公として担ぎ上げる者も少なくない。
しかも彼らのほぼ全員が、厳重にプライベートを伏せていたり偽名を使ったり行方不明になっている為に、神話はさらに膨張していた。
大戦後に発売された暴露本の類をサイは何冊か読んだが、カガリは勿論、キラ、ラクスも過剰なまでに英雄化・女神化されて描かれており、サイはカズイに見せられて思わず爆笑した覚えがある。
特にアスラン・ザラについては、名前・出身・写真などほぼ全てのデータが公表されていない為に噂だけが先行し、三流マスメディアによる神格化が余計に進み、彼の所在を政府にしつこく問い合わせる女性ファンまで現れる始末だった。
ゆえに、アークエンジェルに搭乗していたサイやカズイは必要以上に注目されることにもなったのだが……
明らかにその心理につけこんだ、フレイの言葉だった。
「私の心に、彼らのことは常に在る」
フレイは恍惚とした表情で宙を見上げ、両腕で何かを抱きしめるような仕草をしてみせる。
サイは思わず目を背けた。
──その目つきがまるで、キラを抱きしめている時のそれに思えて。
一体、俺がどんな思いでキラのことを話したと思っているんだ――君は!?
サイは喉まで出かかった罵声を、懸命に抑えた。それだけは言ってはならない言葉だ。
言えば、俺は負ける。決定的に、フレイに負ける。
「うまいこと言うぜ、さすがフレイだ」
そんな彼女を見ながら、カイキがマユにだけ呟く。マユはにこにこと笑ったままだ。
凛と響くフレイの声。
「その為には、貴様らにも協力してもらう。社長ともアマミキョ運用計画を再検討中だ。
今のアマミキョには力も、想いもない。下手にアークエンジェルを真似、自分こそが正義と名乗ろうとする愚か者しかおらぬ!」
それだけ言うと、フレイは紅いパイロットスーツの細身を翻し、堂々とデッキから出て行った。カイキ、そしてマユを伴って。
一瞬、その場を酷い静寂が支配した──が。
「素晴らしい……!
彼女こそ、我がアマミキョ、そしてシュリ隊の掲げる目的そのものだ!」
クルーの中から、一人飛び出してきた者があった。トニー隊長だ。
完全にフレイの演説に陶酔しきっている。
「誰がてめぇのだ! いくらなんでも、こんな暴力沙汰ありえ――」
弾かれたようにオサキが叫ぶが、その罵倒は酒瓶の割れる音でかき消される。
今度はハマーだ。
「やかましい、ナチュラルの雌犬は黙ってろ! 非常事態を認識しやがれ」
「んだとぉ、アル中の遺伝子も改造できねぇエセコーディネイターの癖に!」
オサキが負けじと怒鳴りかえし、そして──
「黙れ雌豚が、俺をこうしたのは貴様らナチュラルだろうが!」
「そうよ言いすぎ、いくら自分たちが無能だからって」
「無能はどっちだ、てめぇはただ震えてただけだろうが」
「酔っちゃったのよっ、あんたのヘタな操縦のせいで!」「君ら、ちょっと冷静に」
「うるせぇ! どうせ俺たちを襲ったの、てめぇら連合だろっ」「ザフトだよ! ジンが港を壊したっ」「自分はオーブの民間人だ、連合でもザフトでもない!」
「やめてくれよ、戦争はとっくに終わってるんだ」
――フレイたちが退場した後は、大騒動となった。