【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「おっはよーございまーすっ!!」
おどけて敬礼してみせるナオトの笑顔が、目覚めたばかりのサイの眼前にあった。
「ウーチバラ時間で、もう午前4時ですよっ。
早く集合しないと社長に怒られますよ、サイさん!」
まだ横になっているサイの上から、ナオトは腰に手を当てて呼びかける。元気な大声が、サイの脳髄をガンガン叩いた。
サイは真っ暗な狭い自室の中で、制服のまま寝ていた。
昨日の騒動を止めようとして殴られ、蹴られ、しまいにはナオトを抱えて自室へ逃げ帰るはめになり──
結果、埃まみれの制服も、乱れたネクタイもそのままだ。
アマミキョ襲撃から何時間と経過していないはずなのに、もう3ヶ月ほどが過ぎたような気がする
――それほどに、あまりにも多くのことが起こりすぎた。
ナオトに視線を向けると、彼は昨夜サイが渡した予備の制服をきちんと着込み、にこにこ笑っている。
ただし顔は奇妙な形に膨れ上がり、頭には包帯が巻かれている。ガーゼで覆われた左目のあたりは、青あざが色濃い地図を作っていた。
あれだけの目に遭遇したというのに、この少年の何ら変わらない元気さは何だろう?
サイは内心呆れたが、それをナオトの強さだと結論づけるには早急すぎることぐらいは、容易に判断出来た。
おそらく今まで、このようにナオトは生きてきたのだ。痛々しいまでの笑顔を武器に。
「君は元気だな。こっちは2時間しか寝てないよ」
「起こせって言ったのサイさんです」
おどけたふくれっ面を作ってみせるナオト。
「それと、アマクサ組が全員の朝礼やるそうですよ。
ただでさえサイさん目つけられちゃってますし、遅刻したら大変でしょ?」
「また、あいつらか……」名前を口にするのもうんざりだった。
サイは頭をかきながら立ち上がり、備えつけの洗面台でおざなりに顔を洗い始める。
幸い、自分たちのいる居住ブロックには今のところ、重力制御や配水システムに問題はないようだ。
そんなサイに、ナオトは矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「フレイさんて、サイさんの何なんですか?
一緒にアークエンジェルに乗ってたって本当ですか?」
サイは懸命に冷静さを保とうと努力したが、どうしても気持ちがてきめんに顔に表れてしまった。
自分の顔が青ざめるのが、鏡で分かる。
「寝起きに質問攻め、さすがプロのマスコミだね。
ベッド貸したの、少しは感謝してくれてるかい?」
「はい、ありがとうございます! 今晩もよろしくお願いしますねっ」
サイの皮肉も全く気付くことなく、満面の笑顔でナオトは言ってみせる。
今晩もOKと言った覚えはないんだが。そうサイは言いかけたが、ナオトの左頬のあざはまだかなり痛むらしく、つい顔を押さえている。
「大丈夫? 無理して笑うことないよ」
「いえ、これも自分の仕事ですし!
オーブのことわざにもありますよね。笑う門には福来たる、災い転じて福笑いです!」
サイに向かって、ナオトは元気良くピースサインまでしてみせる。顔が腫れていなければウインクもしていただろう。
「そうだっけ? 後半、なんか違うような」「すみません、そこは僕の造語です……」
アマミキョは既にウーチバラ空域を離れ、その一方でコロニーウーチバラはオーブ・チュウザン合同軍の手で何とか沈静化していた。
例の不可視戦艦、つまりネオ・ロアノーク率いるファントムペイン再襲撃の予兆も今のところ、見られなかった。
ザフトのジン部隊(ナオトの話では、ヨダカ隊と名乗ったらしい)の行方が知れない以上油断はならないが、残存していると推測されるのが隊長機のジンハイマニューバ2型以外はないことから、アマミキョ側はこのザフト脱走兵部隊に関しては楽観視していた。
それよりも、昨日の騒動によるアマミキョ内部での小競り合いの方が問題だった。
フレイたちアマクサ組と社長はブリッジ脇のブリーフィングルームにこもったままで、肝心のブリッジは副隊長一人が取り仕切っている。
シュリ隊隊長であるトニーは、全員をまとめあげるべく船内を走り回っていたが、致命的なまでに隊長としての資質に欠けているのかどうなのか――ただ走り回って小突かれるだけだった。
一度は静かになったものの、またいつクルーたちの爆発が起こるか分からない。
しかも船体後方周りを取り囲むように建造された居住ブロックには、既に定員を大幅に超える避難民が収容され、その上、さらに大人数の救助艇をアマミキョは牽引していた。
その数、確認されただけで2223名。
到底、個人の努力で対処可能な人数ではありえなかった。
「サイさん、聞かせてくださいよ。
フレイさんって一体、何者なんです?
元大西洋連邦国務次官、故ジョージ・アルスター氏のご令嬢という処までは調べがついてます。ただその後、どうしてもデータが探し出せなくて」
「あの大戦はメチャクチャだったからな。
ザフトも連合もオーブも関係なく、膨大な量の人物データが損失してる。仕方ないよ」
通路に出たサイに、ナオトはくっついて離れない。
彼女が既に死亡しているはずだという事実を、サイは明かさないことにした。
これ以上心に踏み込まれるのは、いかにナオト相手でも我慢がならなかった。にも関わらず、ナオトは喋り続ける。
「だからって、理解不能です。
ご令嬢が大戦中に行方不明になって、2年後には傭兵部隊のボスですか?」
「君の尊敬するアスハ代表だって、砂漠でレジスタンスやってたって話は聞いてるはずだけどな」
「ええ。お父上に反発して、自らの道を模索して戦いに身を投じた!
代表らしくてやっぱりカッコイイエピソードですよね~!!
国際的問題にも関わるからあまり報道するなって、釘さされてますけどね」
リフトグリップで低重力の廊下を渡っていくと、しばらくしてカズイと合流した。モビルスーツデッキにて徹夜で作業を手伝わされたらしく、頬がげっそりとこけている。
それでもカズイはサイとナオトの会話を聞いていたようで、半ば強引にそこに参加してきた。
「さすが報道、調査早いね。
フレイはアークエンジェルにいたけど、降りたんだよ。連合のプロパガンダに利用されそうになって……」
「え? ホントですか」
「カズイ!」サイが斬り捨てるように制した。その勢いに、カズイは思わず肩をすくめ「ごめん」と反射的に謝る。
リフトグリップで廊下を移動しつつ、サイは背後のナオトに真っ直ぐ向き直る。
そして後ろ手でグリップを掴みながら、あえて厳しく告げた。
「君さ……
もう一度、自分の両親のこと聞かれたい?」
「すみません」それを言われると、ナオトも一旦黙らざるを得ないようだった。
不貞腐れたように横を向くナオトを見て、サイは自分で自分の傷口を露呈したことに気づく。
今の一言は、フレイの件はサイにとって、ナオトの両親と同程度の過去だと暴露したようなものだ。
しかしナオトはそこまでは理解出来なかったのか、すぐさま口を開いた。
「でもね、キラ・ヤマトとアークエンジェルって言ったら、オーブの全マスコミ、いえ全国民にとって伝説なんです!
知りたいのは当然でしょ?」
「…………」
とうとう耐え切れず、サイは敢えて沈黙した。
カズイが何とか空気を変えようと、大げさに手を叩く。
「あ、あぁ!
そうそう、そういやさ。君はラクス・クラインに憧れてるって、どっかで言ってたよね!」
その単語に反応し、ナオトの笑顔がぱあっと戻ってくる。
「はい! 僕の理想の女性なんですっ。
大戦の中に自ら飛び込んで、伝説の戦士キラ・ヤマトと共に戦場を駆け、人々の心を戦乱から救おうとした平和の歌姫!
素敵ですよね、僕あの人に憧れて報道目指したようなものなんですよ。アスハ代表が大地の女神なら、彼女はまさしく天上の女神です!
一見ちょっとふわふわしてそうな処がまた、親近感そそるんだよなぁ~」
「俺も好きだよ、彼女の心根は」
ナオトの脳天気さを見ていると、昨夜の一件がアホらしく思えるサイだった。
「それに比べて、何なんでしょうあのフレイさんって。
令嬢だかなんだか知りませんけど、僕にした暴行はやりすぎだと思いませんか?
ティーダの件にしても、人質の件にしても不可解すぎです。一度でいいからあの人、ギャフンと言わせてやりたいですよ。
サイさん、知り合いなら弱みの一つや二つ知ってるでしょ」
「今となっちゃ俺が知りたいね」
ナオトはそれでもしつこく食い下がり、しまいにはグリップに乗りながらサイの肩に喰らいつくような体勢になっていく。
「よせよ、グリップ壊すぞ」
「ごまかさないで下さい! アークエンジェルで絶対何かやらかしたでしょあの人――
例えばキラ・ヤマトと、スキャンダラスな関係にあったとか!」
ちょうどそこは、リフトグリップが切れる曲がり角。
サイは思わず次のグリップを掴み損ねかかったが、何とか体勢を保った。が――
ナオトとカズイは、仲良く壁に激突するハメになってしまった。