【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 アフロディーテの素顔

 

 

 フレイたちアマクサ組が統制宣言を発表して、数日が経過。

 その間、アマミキョはアマクサ組の主導により、何度かデブリ帯に巻き込まれながらも航行を続けていた。

 

「ミントン2は、どんな具合で?」

 

 ラグランジュポイントの一つL4にさしかかり、ブリッジで待機していた社長は副隊長・リンドーに尋ねる。

 現在のブリッジは無重力下にあったが、社長は既に慣れた手つきで副隊長にゼリーパックを手渡した。

 

「取引所との連携は取れてる。受け入れ準備も順調だ」

 

 副隊長が腹をさすりつつ、鼻毛を抜いた。

 そのまま鼻毛を宙に弾き飛ばそうとしたが、無重力ということに気づいた副隊長はそれを口に入れて処分した。

 

「助かるねぇ、管理まで任せられるってのは」

 

 社長は頭をかきつつ笑顔を見せる。勿論、アマクサ組のことだ。

 

「いきなり力を示すってやり方もどうかと思うけど、あれが彼女の方法だから」

「ワシゃ好かんがな、アズラエルを思い出すよ。尤も、阿呆どもに説教垂れるのは意外に快感だ」

 

 と、その時。

 社長は副隊長の手元のモニター、その片隅が明滅しているのに気づいた。

 

「ん……その特別通信は?」

 

 

 

 

 

 

 ウーチバラ襲撃により予想外に大量の避難民を収容した為、アマミキョの食糧の備蓄が予定より3か月分以上も早く消費されると計算されたことが、最大の問題だった。

 それを焦点として発表された、アマミキョ統率計画は以下のようなものだ。

 

 まず、艦内及び艦外の救難活動全てを明確に区分し(医療・衛生・整備・食糧配給・災害支援・教育開発・艦内生活管理など)、全てを業務コード化してアマミキョのデータバンクにインプット可能にする(そのコード数、実に4000以上)。

 そして各業務コードごとに、処理件数と所要時間をシュリ隊全員にこと細かにレポートさせ、そのレポートにより業務の効率を算出する。医療・ブリッジ業務・モビルスーツ運用・整備、そして救援活動などの、いわばアマミキョのコアとなる業務は高めに効率が算出されるように設定されている。

 レポートと言っても勿論好き勝手に記入できるものではなく、各人の行動をチェックした上で15分単位で自動的に記録されるものだ。

 

 これはアマミキョに搭載された、全船監視システムにより可能な芸当だった。

 例えば、誰がいつどの区画で何リットルの水を使用したかは勿論、誰が現在何リットルの酸素を消費しているかまで自動記録される、最新式の代物だ。

 

 そしてこのデータは全て、アマミキョのデータバンクに記録されていく──

 要するに、隊員全員のデータがアマクサ組の、徹底的な管理下に置かれたということだ。

 算出された作業効率により、各人にポイントが割り振られる。ポイントが多ければ多いほど

 ──つまり作業効率が良ければ良いほど、配給される食糧は多くなり、生活必需品も手に入れられるという寸法だった。

 15分ごとに効率が計算されることから、スケジュールは当初より一層厳しくなり、遅刻者には厳しい罰が加えられた。

 

 

 

 

 さらに、シュリ隊が老若男女分け隔てなく再テストされ、殆どの者がそれまでとは別の場所へ再配置されることとなった。

 能力の高い者はブリッジなど、重要な(高ポイントの)業務を割り振られ、低い者は衛生管理(要するに便所・風呂・配管掃除など)や食糧配給に回された。

 

 必然的に、コーディネイターは高ポイントの業務に回り、ナチュラルは雑用と言っても遜色ない仕事を回される。

 これにより、船内のコーディネイターとナチュラルとの見えない壁の存在が、一層顕著になった。

 

 ポイントを多く獲得すると配置転換が可能な仕組みにはなっていたが、高ポイントを獲得できるのがコーディネイターである以上、ナチュラルの不満は増大するばかりだった。

 そして、毎日全員に45分の講義出席と1時間の運動が義務づけられ、無断でそれを怠った者はポイントを引かれた。

 講義は主にリンドー副隊長によるもので、戦争報道・救難活動・銃器の扱い方・モビルスーツの変遷・コロニーでの行動の注意点など多岐に渡った。

 

 

 

 避難民に対しては、あらかじめ全員に多くのポイントが付与され、基本的に増減することはなかった。

 但し、シュリ隊業務に積極的に協力したと判断された者は特別にポイントが加算された。しかし──

 業務の支障となった者、隊員に理不尽な暴力行為をはたらいた者、酷い騒動を引き起こした者は、例え避難民であろうと容赦なくポイント減算の対象となった。

 ポイントが減らされれば、その分食糧や生活物資も減る

 ――この仕組みのおかげか、避難民たちのトラブルも少しずつ減少していくこととなった。

 

 

 

 

 

 

「無茶苦茶ですよぉ、患者さんまで数値化するなんて」

 

 医療ブロックでは、またもネネが文句を垂れていた。搬送用ベッドと共に走り、点滴を押さえながら。

 走るベッドの上の患者は、血を吐き散らして何事かを叫ぶ。

 ネネの反対側から、スズミが患者に酸素マスクをあてがいながら言う。

 

「効率化は必要よ、特に感傷に左右されやすい時はね。

 薬も器材も血液も有限なの。良かったじゃない、私たちには大した異動がなくて」

「患者さんを扱うには、免許がいりますからね。大事にされてて結構ですけど」

 

 医療ブロックの狭い通路では、まだ治療待ちの患者が大勢座り込んでいる。

 怪我人は少なくなったものの、今度は避難民の中からストレスと疲労による病人が続出していた。今彼女らが運んでいる患者も、元々肺の病気を患っていたのが一気に悪化した中年男性だ。

 

「胸部のポータブル写真、お願い!

 数字は如実にものを語るからね」

 

 スズミは指示と意見をほぼ同時に口にし、両手は搬送用ベッドをコーナーでターンさせていた。

 ネネはそれに手を貸しつつも、不満げに呟く。

 

「……遺伝子も、ですか?」

 

 ネネはナチュラルで、スズミはコーディネイターだった。こういう状況になり、ネネの不満が少しずつ増大していくのも仕方ないと言える。

 ――普段、どれだけ彼女が献身的であろうとも。

 他の看護師3人が付き添い、患者を支えて合図と共に手術台へと乗せた。

 

「違うわ。その遺伝子の出す結果が、ということ。

 血算、血液型クロスマッチ4単位」 

 

 スズミたちは、悲鳴を上げつづける患者を押さえる。

 

「命を救うのに……」まだ何事か言いたげなネネ。その患者がまた盛大に吐血する。

 ネネの上着に、大量の血液がかかった。スズミも、他の看護師たちも同じ状況だ。

 

「命を救うからこそ! 

 挿管、いくわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「優秀者の溜まり場、モビルスーツデッキにも活気が出るってもんだ!」

 

 低重力に制御されたデッキの中、ハマーの笑い声が響いた。

 ティーダ、カラミティ、そしてストライク・アフロディーテにはアマクサ組の厳重な監視のもとに整備士がつき。

 当初からアマミキョに配備されていた作業用M1アストレイ、虎の子のスカイグラスパーにも、選び抜かれた整備士が取りついている。

 アストレイを見ながら、ハマーは満足げに喉を鳴らした。

 

「ナチュラルでも使える外道モビルスーツだが、それでも作業効率7%アップが目標だ! 

 おいそこ、アンテナは丁寧に扱えよ! 極上アプリかました奴ぁ、一杯ぐらいは奢ってやるっ」

 

 ハマーは飲料水用パックを振り回す。それを見て、整備士の一人が叫んだ。

 

「もう勘弁してくださいよ、工業用アルコールは。今度やったら瞑想室行きじゃすみませんって!」

「アホ言え! こいつは正規ルートから獲得した、れっきとしたオーブ原産調味料・みりんだ!」

 

 整備士全員がうんざりした顔をし、ハマーがぐびりとパックから一口やった瞬間

 

 

 ――彼が最も聞きたくないであろう大声が、デッキに轟いた。

 

 

「うわぁ、すごいや! これが統合兵装ストライカーパック……

 よくダガーLにつけられましたね!」

 

 

 鬼の形相に変化したハマーが、声のした方向を振向く。

 彼の敬愛するフレイの乗機=ストライク・アフロディーテに、こともあろうにあのドジレポーター=ナオト・シライシがくっついているのだ。

 あれだけ殴られ、未だに包帯が頭から取れないにも関わらず、ケロっとした面でブリッジ組の制服を着て、しかもマイクまで持っている。

 さらにその横には何故か、カメラマンまでついていた。アマクサ組の金髪の少年――その名はミゲル・アイマン。

 

「頭部意匠だけ、ストライクと同じなんですね。結構強引に整形したもんだなぁ……

 フレイさんって、よほどキラ・ヤマトやアスハ代表にご執心なのかな」

 

 ナオトはちょうどアフロディーテの頭部のすぐ下へ流れつつ、憧れと不満の入り混じった表情でそれを見上げていた。

 

「ストライクを血の色にするなんて、悪趣味だな。中身はダガーLときた」

「量産機をバカにしちゃいけない、ストライクやフリーダムが化物なだけさ」

 

 ミゲルがカメラを持った左腕でさりげなく、ふらつくナオトを支えた。

 ノーマルスーツをきっちり着用しているミゲル。その右腕には、明らかに中身がない。

 しかし彼は、その状態にとっくに慣れているようだ。

 

「このダガーLを使う理由は、他にもある。

 新品使えって言うのに……フレイは強情だから」

 

 ミゲルはナオトを誘導しつつ、アフロの顔を見上げる。ハッチは今、厳重に閉ざされていた。

 ナオトがその理由とやらを思案している間に、ミゲルの言葉が流れる。

 

「その代償に、整備の労力がバカにならないがね。

 無駄な部分に電圧がかかるわ、CPUのエラーも多いわ、モーターのトラブルは日常茶飯事だわ。

 だからダガーLにIWSPなんざ、本来は考えない。装備に対して機体が脆すぎるからな。

 普通にやったら、ザフトの赤服だってすぐ壊しちまう」

「フレイ様だから扱える……ですか」

 

 ナオトの皮肉に、ミゲルは黙ってにっこり笑うばかりだった。続いてナオトの質問が飛ぶ。

 

「コンバインドシールドはないんですか? 

 あれってビームブーメランもついてるんでしょ、ニュートロンジャマーの干渉下でも使えるし」

「いいかいナオト、世の中には予算という概念があるんだ。

 IWSPの使用をモルゲンレーテ側が許可してくれただけでも、ありがたいこったよ」

 

 ナオトは不安定に低重力の中を浮かびながら、整備中のアフロディーテの左肩に触って体勢を立て直す。

 するとミゲルが一旦カメラを宙に放し、慌てて左腕でナオトの腕を掴み、下がらせた。

 もう一度左腕で器用に、浮いたカメラを捕らえる。

 

「おっと、そこはダメダメ……アフロは映しちゃいけないからな」

「賛成できませんけど、しょうがないですね。ティーダとカラミティも撮影禁止ですか?」

「当然だろ」

 

 ナオトはマイクを調整しつつ、ミゲルの持ったカメラに向き直る。

 そして、彼の本業を開始した。

 

 

「──先日襲撃を受けたアマミキョですが、現在もシュリ隊の方々は必死の救助活動を行なっています。

 只今アマミキョはウーチバラからの避難民約2237名を収容し、L4の中立コロニー・ミントン2へ航行しています。

 ミントン1はご存知の通り、速やかに太陽光ブロック修復が必要とされるコロニーでありますが、隣接して港湾施設の充実したミントン2は物資の補給・避難民の収容が可能です。

 しかし、アマミキョ自体の食糧事情など、状況はさらに困難を……」

 

 

 だが、ナオトがそこまでレポートしたその瞬間。

 

「るせぇ、何で貴様がここにいる、小僧! 

 デッキとブリッジの出入りにはフレイの許可が必要だ! しかもレポートだと!?」

 

 ハマーの邪魔が入り、ナオトとミゲルはレポート中断を余儀なくされた。

 

「俺らが許可したんだよ」すかさずミゲルが言い返す。「生中継ってわけじゃない。

 ヤバげな点はあとで編集するし、心配ご無用」

 

「そういうことです」ナオトもミゲルの後ろから、ハマーにくってかかった。

「邪魔はしません、文句ないでしょ」

「そのキンキン声だけで十分邪魔クセーんだよ!」

 

 飛んできたハマーが、ナオトの肩を飲料水用パックで小突く。パックの口からアルコールが飛び出し、ナオトの顔を濡らす。

 ティーダの方向から、別の整備士らの怒鳴り声も響いた。

 

「だったらティーダの整備も手伝うんだな! 

 てめぇが散々デブリにぶつかってくれたおかげで、苦労してんだ」

「トランスフェイズだって、万能装甲じゃねえんだぞ」

「言っても無駄無駄、また乗れるわきゃねぇし♪」

 

 次から次へとナオトに飛ぶ、罵声と嘲笑。

 それは明らかに、半分ナチュラルのナオトをからかう口調だった。明確な悪意ではないが──

 

 しかしナオトも負けず、唇を尖らせて怒鳴り返す。「言われなくたって!」

 低重力の中、作業用アストレイの間を縫って彼はティーダに近づいた。

 ミゲルもまたそれを追う。

 

「おとといは食堂で蹴られ、昨日は医療ブロックで殴られ、今日はここで怒鳴られ。

 散々だな、レポーターも」

「構いません。アマミキョの報道は僕の使命ですから!」

 

 ナオトは包帯だらけの顔で笑い、ピースサインをしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 そんなナオトの様子を、作業艇ハラジョウの中でモニターごしに見つめる者たちがいた。

 腰から下を失っているニコル・アマルフィに、赤毛の少年ラスティ・マッケンジーだ。

 

「マスコミのご機嫌取りは今んトコ成功、か」

 

 ラスティが軽い口調で呟く。

 ニコルはモニターから眼を離し、肩をほぐすような動作をしてみせた。

 車椅子がかすかに動く音。その動きも表情も、全く普通の少年と変わらない。

 

「報道業務はポイントにつながりにくい設定にしてありますし、ナオト君以外に誰もやる者はいないでしょう。大丈夫ですよ」

「彼の口さえ塞げば、オーブ本国に俺らの件は漏れない、ってね」

「ザフトにも、です。

 もっとも僕らは、漏れたら困るような事はしていませんけど」

「捉え方によるさ。どう報道されるか分からんからこそだろ」

 

 ニコルはすぐにモニターに向き直った。

 

「しかし、『彼ら』にハラジョウへの侵入を許したのは失敗でしたね」

「あんなに暴力的にする必要もなかったけどな。

 いやしくも先輩だろう?」

 

 ラスティはニコルの肩を持ち、笑いかけた。

 即座に、かつ冷静にニコルは答える。

 

「それは貴方も同じでしょう――

 そうする必要があるからです。忘れました?」

「分かってるよ。

 アスラン・ザラの為に……だろ」

 

 ニコルが見据えるモニターの中では、レポートを終えたナオトがティーダに取りつき、顔を油まみれにして左脚関節部の整備を行なっていた。

 

 

 

 

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