【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
オーブ連合首長国首都・オロファト。
日の落ちかけた内閣府官邸。その会議室で──
ヨーロッパ風の古い造りの窓から外に広がる森を眺めつつ、カガリ・ユラ・アスハは逡巡していた。
「あれで良かったのか?」
彼女の後ろに控えるは、ユウナ・ロマ・セイラン。オーブ宰相、ウナト・エマ・セイランの息子である。
「見事だったよ、カガリ。
アスハ代表の志を受け継ぐ、オーブ希望の星。それがまた一つ増えたというわけだ。
いや……太陽と形容すべきかな」
それでもカガリは、ユウナを振り返ろうとはしない。
自分の言葉により、あの年端もゆかぬ少年をモビルスーツに乗せてしまう──
その危険性を承知していながら、ユウナの口車に乗せられ、あのようなビデオをアマミキョに送信してしまった自分が、カガリは歯痒かった。
今頃あの少年――ナオト・シライシは、無邪気に浮かれていることだろう。
「ナオトの行動そのものは、私は好きだ。
偶然だったにしろ、平和を愛するあの元気なハーフの少年にこそ、ティーダは相応しい。
確かにユウナの言うとおりかも知れない……しかし」
夕陽の中で輝く金色の前髪を、カガリはいらいらとかきむしる。
そんな彼女の背中に、ユウナはさり気なく片手を触れた。出来るだけいやらしさを感じさせないよう、ユウナなりに努力しているらしいが
──その気遣い自体が、カガリにとっては鬱陶しかった。
「心配しなくても、ティーダは戦闘用じゃないよ。
オーブ国民のうけも良いようだし、今更覆せるものじゃない」
テーブル上には、SunTV宛てに送られてきたオーブ市民の反応、アンケート、及び視聴率などのデータがいくつか揃っている。
いずれも、ナオトの報道を支持する声ばかりだ。
「ティーダの性能も悪くないだろう。だが……」
「さすがはモルゲンレーテと言うべきだね。
文具団のムジカノーヴォの力が不可欠だったとはいえ、この再起は素晴らしい!」
カガリはそんなユウナのもの言いについカッとし、歯を剥いて振り返る。
「素人がモビルスーツで前線に出るということがどれだけ危険か、分かっているのか!?」
「ふぅ……何を今更」
ユウナはやれやれと言いたげに両手を軽くあげた。
「貴女が言うことじゃないだろう、カガリ。
それに、彼が積極的に乗ったのは、無意識下の貴女への尊敬もあるだろうし」
一瞬言葉につまるカガリだが、すぐに話の矛先を変えた。
「しかし、あのIWSPの件は解せない! 何故あれがアマミキョにある!? ソードカラミティにしても!!
パイロットは何者だ!?」
「自分が使えないのを嫉妬はいかんなぁ、カガリ。文具団側にモルゲンレーテの許可は出してあるよ」
「そうではない!
何故あんなものが必要だ、民間の救援隊に!?」
その瞬間、ユウナがキッとカガリを睨む。
それまでとはうって変わって、頭上から叩きつけるように変化する彼の口調。
「カガリ! きれい事だけでは支援活動など不可能だ。貴女が最も分かっているはずだと思ったがね。
それに、サイ・アーガイルらヘリオポリスのご友人の件もある」
ユウナはカガリに強引に自分の顔を近づけ、軽くウインクまでしてみせる。
「――貴女の力だけでは、彼らもあれほど自由には動けない。
それはもう、分かってるはずだよね?」
ニンマリと満面の笑顔に戻り、悠々と言ってのけるユウナ。
それを言われると、カガリはもう口を噤む他はない。
畜生。サイたちを連合に売り渡すなど、造作もないってのか。
さりげない言葉で自分の権力を暗示するやり方は大嫌いだが、そんな手腕の一つでもなければ政治家としては失格であることも、カガリは嫌というほど思い知らされていた。
そんな彼女を、10メートル以上もの長さを誇る会議用テーブルの向こうから、サングラス姿で見守る青年がいた。
アレックス・ディノ──伝説のザフトの英雄=アスラン・ザラである。
しかし彼にしても、今のカガリとユウナに口を挟むことは出来なかった。勿論、アマミキョの動向にも。
PHASE-06 ミントン・ランデブー
通路のリフトグリップを離れる勢いを利用して、サイはブリーフィングルーム奥のエレベータへ、素早く乗り込んだ。
それにナオト、マユ、シホが続く。
勿論、ナオトが一番不器用だ。もう少しでエレベータの扉に挟まれる処だった。
窓から外側が見えるタイプの、定員20名のエレベータ。音もなく船内を上昇し、しばらくすると方向転換後に横滑りを始めた箱の中から、スポーツジムが見えた。
ジム内では数十名のクルーたちが、必死で器具にとりついて汗を流している。勿論趣味でやっているわけはなく、アマクサ組の指示による強制運動である。
サイの手には、ディアッカの伝言が握られていた。
エレベータ外からの照明と、時々それをさえぎる構造物のおかげで、「幽霊船」の文字がひときわ紅く明滅する。
フレイのことか。それとも、ウーチバラ空域で聴いたフラガの声だろうか。いずれも、サイには十分不気味だったが……
違う。わざわざこれを書いてよこしたということは、他に伝えたいことがあるんだ、エルスマンは。フレイや、フラガ少佐の件以外に。
まさか──フレイの他にも、生死の概念を覆すほどの存在があるというのか?
作業艇ハラジョウに侵入して、ジュール隊は捕らえられた。あの作業艇に何があるのか?
サイは乗員の顔を思い出す。
フレイ、カイキ、マユ──それ以外にも何人か、作業中に顔見知りになった人間がいた。
右腕を欠損した整備士ミゲル・アイマン。屈託のない明るい青年ラスティ・マッケンジー。その他整備士が何名か。
そして、下半身を機械化された少年、ニコル・アマルフィ。
勿論、フレイと共にいるという時点で、普通の連中ではないことは分かる。ニコルの、ケーブルだらけの車椅子姿を最初に見た瞬間は、確かに幽霊かと思ったものだ。
だが、そうじゃない。それだけじゃない。そんな気がする
――ナオトはそんなサイの思惑も知らず、はしゃぎながら話しかけてくる。
「心配しないで下さい。僕が乗るからには、もうひどいことにはしませんよ!」
「君だから心配なんだがな」
サイは何とか笑顔になろうとしたが、出来なかった。
そんな彼の心情も知らず、ナオトは能天気に喋り続ける。
「僕、前からモビルスーツ見てて思ってたんです。あれって本来、災害の救助活動用に使うものでしょ?」
「ジョージ・グレンの宇宙服が起源だ」ずっと黙っていたシホが、そっけなく突っ込んだ。
「ど、どっちにしろ、戦争目的じゃありませんよ。
指先にカメラはついてるんだし、倒れたビルだって運べるし、だから今度のミントンでも
……ちょっと、聞いてくださいよサイさぁん!」
既にエレベータは、避難民用居住ブロックに到着していた。
人の忙しく行きかう通路に出ながら、サイはナオトを無視し、手持ちのタブレットで作業スケジュールの確認を始めていた。重力制御がかかっていないので、全員でリフトグリップにとりつく。
マユはシホを背にしながら、サイとナオトを追う形になった。彼女はそのまま笑顔でシホを振向く。
「ね? ナオトと私が乗るから大丈夫。
ナオト、優しいもん。嘘つきだけど♪」
それでもシホは、まだ納得できない。「子供が、二人で……」
サイはその呟きに敏感に反応した。
タブレットの通信状況を確認しながら、振向きもせず言う。
「貴女も子供でしょう」
「違う。私はザフトの、栄誉ある戦士だ!」
音が出るほど自らの胸を叩いて主張したシホに、サイは首だけ強引にそちらへ向けて言った。
「そういう、優れた子供だから利用される。
ナオトもマユも、貴女も同じだ!」
何故サイが怒っているのか、ナオトにはほぼ理解出来ていない。
唇を尖らせつつ、反論する。
「変ですよ、サイさん……
せっかくティーダのパイロットに決まったんだから、少しは応援してくださいよ」
「どうしてはしゃげる」
サイは手早くタブレットをしまい、体重をうまくグリップに乗せて、ナオトの正面に向いた。
「あんな思いをして、まだモビルスーツに乗りたいのか?
俺は、後悔してる。君を乗せてしまう手助けをしたこと!」
「分からないな」それでも、ナオトはまだ不満げだ。
「うれしいんですよ、僕は。マユと一緒だし!」
内心、ため息をついてしまうサイ。
思い浮かぶものは、キラの顔。
あの砂漠の夜の、キラの絶叫。
あのキラが、涙さえ浮かべながら激昂と共に叫んだ、あの言葉。
――僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!!
そんなキラの表情が、目の前のナオトと重なる。
何も知らず、喜び勇んで戦おうとする彼と。
「分かってないからそう言えるんだ──
大きすぎる力は、君を壊す」