【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-06 ミントン・ランデブー
part1


 

 

 オーブ連合首長国首都・オロファト。

 日の落ちかけた内閣府官邸。その会議室で──

 ヨーロッパ風の古い造りの窓から外に広がる森を眺めつつ、カガリ・ユラ・アスハは逡巡していた。

 

「あれで良かったのか?」

 

 彼女の後ろに控えるは、ユウナ・ロマ・セイラン。オーブ宰相、ウナト・エマ・セイランの息子である。

 

「見事だったよ、カガリ。

 アスハ代表の志を受け継ぐ、オーブ希望の星。それがまた一つ増えたというわけだ。

 いや……太陽と形容すべきかな」

 

 それでもカガリは、ユウナを振り返ろうとはしない。

 自分の言葉により、あの年端もゆかぬ少年をモビルスーツに乗せてしまう──

 その危険性を承知していながら、ユウナの口車に乗せられ、あのようなビデオをアマミキョに送信してしまった自分が、カガリは歯痒かった。

 今頃あの少年――ナオト・シライシは、無邪気に浮かれていることだろう。

 

「ナオトの行動そのものは、私は好きだ。

 偶然だったにしろ、平和を愛するあの元気なハーフの少年にこそ、ティーダは相応しい。

 確かにユウナの言うとおりかも知れない……しかし」

 

 夕陽の中で輝く金色の前髪を、カガリはいらいらとかきむしる。

 そんな彼女の背中に、ユウナはさり気なく片手を触れた。出来るだけいやらしさを感じさせないよう、ユウナなりに努力しているらしいが

 ──その気遣い自体が、カガリにとっては鬱陶しかった。

 

「心配しなくても、ティーダは戦闘用じゃないよ。

 オーブ国民のうけも良いようだし、今更覆せるものじゃない」

 

 テーブル上には、SunTV宛てに送られてきたオーブ市民の反応、アンケート、及び視聴率などのデータがいくつか揃っている。

 いずれも、ナオトの報道を支持する声ばかりだ。

 

「ティーダの性能も悪くないだろう。だが……」

「さすがはモルゲンレーテと言うべきだね。

 文具団のムジカノーヴォの力が不可欠だったとはいえ、この再起は素晴らしい!」

 

 カガリはそんなユウナのもの言いについカッとし、歯を剥いて振り返る。

 

「素人がモビルスーツで前線に出るということがどれだけ危険か、分かっているのか!?」

「ふぅ……何を今更」

 

 ユウナはやれやれと言いたげに両手を軽くあげた。

 

「貴女が言うことじゃないだろう、カガリ。

 それに、彼が積極的に乗ったのは、無意識下の貴女への尊敬もあるだろうし」

 

 一瞬言葉につまるカガリだが、すぐに話の矛先を変えた。

 

「しかし、あのIWSPの件は解せない! 何故あれがアマミキョにある!? ソードカラミティにしても!! 

 パイロットは何者だ!?」

「自分が使えないのを嫉妬はいかんなぁ、カガリ。文具団側にモルゲンレーテの許可は出してあるよ」

「そうではない! 

 何故あんなものが必要だ、民間の救援隊に!?」

 

 その瞬間、ユウナがキッとカガリを睨む。

 それまでとはうって変わって、頭上から叩きつけるように変化する彼の口調。

 

「カガリ! きれい事だけでは支援活動など不可能だ。貴女が最も分かっているはずだと思ったがね。

 それに、サイ・アーガイルらヘリオポリスのご友人の件もある」

 

 ユウナはカガリに強引に自分の顔を近づけ、軽くウインクまでしてみせる。

 

「――貴女の力だけでは、彼らもあれほど自由には動けない。

 それはもう、分かってるはずだよね?」

 

 ニンマリと満面の笑顔に戻り、悠々と言ってのけるユウナ。

 それを言われると、カガリはもう口を噤む他はない。

 

 畜生。サイたちを連合に売り渡すなど、造作もないってのか。

 さりげない言葉で自分の権力を暗示するやり方は大嫌いだが、そんな手腕の一つでもなければ政治家としては失格であることも、カガリは嫌というほど思い知らされていた。

 

 そんな彼女を、10メートル以上もの長さを誇る会議用テーブルの向こうから、サングラス姿で見守る青年がいた。

 アレックス・ディノ──伝説のザフトの英雄=アスラン・ザラである。

 しかし彼にしても、今のカガリとユウナに口を挟むことは出来なかった。勿論、アマミキョの動向にも。

 

 

 

 

 

 PHASE-06 ミントン・ランデブー

 

 

 

 

 

 

 通路のリフトグリップを離れる勢いを利用して、サイはブリーフィングルーム奥のエレベータへ、素早く乗り込んだ。

 それにナオト、マユ、シホが続く。

 勿論、ナオトが一番不器用だ。もう少しでエレベータの扉に挟まれる処だった。

 

 窓から外側が見えるタイプの、定員20名のエレベータ。音もなく船内を上昇し、しばらくすると方向転換後に横滑りを始めた箱の中から、スポーツジムが見えた。

 ジム内では数十名のクルーたちが、必死で器具にとりついて汗を流している。勿論趣味でやっているわけはなく、アマクサ組の指示による強制運動である。

 

 サイの手には、ディアッカの伝言が握られていた。

 エレベータ外からの照明と、時々それをさえぎる構造物のおかげで、「幽霊船」の文字がひときわ紅く明滅する。

 

 

 フレイのことか。それとも、ウーチバラ空域で聴いたフラガの声だろうか。いずれも、サイには十分不気味だったが……

 違う。わざわざこれを書いてよこしたということは、他に伝えたいことがあるんだ、エルスマンは。フレイや、フラガ少佐の件以外に。

 まさか──フレイの他にも、生死の概念を覆すほどの存在があるというのか? 

 作業艇ハラジョウに侵入して、ジュール隊は捕らえられた。あの作業艇に何があるのか? 

 

 

 サイは乗員の顔を思い出す。

 フレイ、カイキ、マユ──それ以外にも何人か、作業中に顔見知りになった人間がいた。

 右腕を欠損した整備士ミゲル・アイマン。屈託のない明るい青年ラスティ・マッケンジー。その他整備士が何名か。

 そして、下半身を機械化された少年、ニコル・アマルフィ。

 

 勿論、フレイと共にいるという時点で、普通の連中ではないことは分かる。ニコルの、ケーブルだらけの車椅子姿を最初に見た瞬間は、確かに幽霊かと思ったものだ。

 だが、そうじゃない。それだけじゃない。そんな気がする

 ――ナオトはそんなサイの思惑も知らず、はしゃぎながら話しかけてくる。

 

「心配しないで下さい。僕が乗るからには、もうひどいことにはしませんよ!」

「君だから心配なんだがな」

 

 サイは何とか笑顔になろうとしたが、出来なかった。

 そんな彼の心情も知らず、ナオトは能天気に喋り続ける。

 

「僕、前からモビルスーツ見てて思ってたんです。あれって本来、災害の救助活動用に使うものでしょ?」

「ジョージ・グレンの宇宙服が起源だ」ずっと黙っていたシホが、そっけなく突っ込んだ。

 

「ど、どっちにしろ、戦争目的じゃありませんよ。

 指先にカメラはついてるんだし、倒れたビルだって運べるし、だから今度のミントンでも

 ……ちょっと、聞いてくださいよサイさぁん!」

 

 既にエレベータは、避難民用居住ブロックに到着していた。

 人の忙しく行きかう通路に出ながら、サイはナオトを無視し、手持ちのタブレットで作業スケジュールの確認を始めていた。重力制御がかかっていないので、全員でリフトグリップにとりつく。

 マユはシホを背にしながら、サイとナオトを追う形になった。彼女はそのまま笑顔でシホを振向く。

 

「ね? ナオトと私が乗るから大丈夫。

 ナオト、優しいもん。嘘つきだけど♪」

 それでもシホは、まだ納得できない。「子供が、二人で……」

 

 サイはその呟きに敏感に反応した。

 タブレットの通信状況を確認しながら、振向きもせず言う。

 

「貴女も子供でしょう」

「違う。私はザフトの、栄誉ある戦士だ!」

 

 音が出るほど自らの胸を叩いて主張したシホに、サイは首だけ強引にそちらへ向けて言った。

 

「そういう、優れた子供だから利用される。

 ナオトもマユも、貴女も同じだ!」

 

 何故サイが怒っているのか、ナオトにはほぼ理解出来ていない。

 唇を尖らせつつ、反論する。

 

「変ですよ、サイさん……

 せっかくティーダのパイロットに決まったんだから、少しは応援してくださいよ」

「どうしてはしゃげる」

 

 サイは手早くタブレットをしまい、体重をうまくグリップに乗せて、ナオトの正面に向いた。

 

「あんな思いをして、まだモビルスーツに乗りたいのか? 

 俺は、後悔してる。君を乗せてしまう手助けをしたこと!」

 

「分からないな」それでも、ナオトはまだ不満げだ。

「うれしいんですよ、僕は。マユと一緒だし!」

 

 

 内心、ため息をついてしまうサイ。

 思い浮かぶものは、キラの顔。

 あの砂漠の夜の、キラの絶叫。

 あのキラが、涙さえ浮かべながら激昂と共に叫んだ、あの言葉。

 

 

 ――僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!!

 

 

 そんなキラの表情が、目の前のナオトと重なる。

 何も知らず、喜び勇んで戦おうとする彼と。

 

「分かってないからそう言えるんだ──

 大きすぎる力は、君を壊す」

 

 

 

 

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