【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ウーチバラの宙域を少しばかり出たあたりのデブリ・ベルト。その間をぬいつつ航行するものは、ザフトのローラシア級モビルスーツ搭載艦――
ヨダカ・ヤナセを救出したミネルバ隊を乗せた、ミネルバJrである。
アーモリーワンで就航予定の新造艦・ミネルバ。その搭乗予定者たちとモビルスーツなどを輸送する艦だ。クルーの訓練も兼ねての運用である為、「Jr」の名がつけられている。
そして、「Jr」の名がこの船につけられた理由は、単純にそれだけだった。
見たところ、とてもその名にはふさわしくない老朽艦である。
何せ、プラント創設間もないC.E.46年の就役だ。勿論当時は違う名だったが、2年前偶然にも連合軍に同名艦が現れ、ザフトに甚大な被害を与えた為、現在はこの通りに改名されている。
何度か改修もされているが、いい加減基礎構造にガタが来つつある船である。船内のトイレや食堂の使いづらさから、クルーたちの不満も多い。
「――乗っ取りですってぇ!?」
そのブリッジで、今素っ頓狂な叫びをあげたのは、ミネルバ副艦長就任予定のアーサー・トラインだ。
それに反して、ミネルバ艦長のタリア・グラディスは冷静だった。
彼女はゆっくりと、そこに集まった面々を眺める
――シン・アスカ、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルの若き赤服たち3人。
そしてパイロットスーツのまま、黒々とした腕をむき出しにしたヨダカ・ヤナセ。
「オーブ及び文具団支援による民間国際救助隊・シュリ隊。彼らを乗せた船アマミキョが、コロニーウーチバラにて、テロリストにより占拠された──
確実な情報でしょうね、ヨダカ隊長?」
「デュランダル議長よりの要請です」
ヨダカはもっさりと生えた髭を動かしつつ、堂々と答えた。
「必ずや無傷で、アマミキョ及びその人質──乗員・避難民を、テロリストの手から救出せよと」
それを聞いたルナマリアが、ふと首を傾げる。「救助船の救出? ……矛盾してない?」
シンがヨダカの背を睨みながら、後方の壁を拳で叩いた。「ややこしい事しやがる、オーブってのは!」
「この艦は会議中の私語を許すのですかな、グラディス艦長?」
ヨダカはじろりとシンたち2名を睨む。「赤服も堕ちたものだ」
シンは反論しようと唇を尖らせたが、タリアの視線だけで黙らざるを得なかった。
ヨダカは堂々とディスプレイの前へ進み、データバンクからの情報をその上へ転送する。
3機のモビルスーツのCGが現れ、ヨダカはそれを指揮棒でなぞった。
「ウーチバラも、奴らにより被害甚大だ。紅のストライクに、接近戦可能なカラミティ。
そして――」
「忌まわしき、光のブリッツ」しばらく沈黙を守っていたレイが、その先を継いだ。
「遮光フィルタの損傷は、ブリッツの発光によるものですね?」
ほう、とヨダカが唇をすぼめ、改めて彼を見つめる。
「命こそ助かったが、しばらく神経がイカれたよ。
光だけじゃない、装甲から発振された振動も影響してる。視覚、聴覚、末梢神経……
百聞は一見にしかず、君たちも一度見てみるといい。耐えられるならな」
肩をさすりながら語るヨダカを見ながら、シンは腕を組んで呟いた。
「そいつらが占拠したってんだな?
救助船を!」
紅い瞳がぎらついている。隣のルナマリアが心配げにそんな彼を見やったが、シンは全く意に介していない。
タリアがシンと、そしてヨダカをけん制した。
「まだ決まったわけではないわ。
このモビルスーツのパイロット、及び犯人の情報が判明しない限り、本艦は動けません」
アーサーも慌てて言う。
「この艦は、アーモリーワンまでのつなぎなんです。
運用も未だにままならないし、とても戦闘には……」
「重ねて言います」ヨダカは強引にアーサーの言葉をさえぎり、ディスプレイを指揮棒で叩く。
あくまで軽い仕草だが、鋭い音が響いた。「議長じきじきの要請だ、グラディス艦長!」
尊大すぎる。
タリアの胸は不満で煮詰まったが、あえて何も言わなかった。
勿論、この状況にはいくつも疑問があったが──
一体何を考えている、ギルバートは?
「い、いずれにせよ、こんなモビルスーツを放っておくわけにいかないのは分かります」
アーサーがタリアの思考に割り込んだ。「第一、神経に直接入り込むなど……」
レイがアーサーを補足するように、きっぱりと言い放つ。
「このような技術を悪用されては、核以上に大変なことになる。
状況に若干の疑問はありますが、議長の判断は間違ってはいないでしょう」
レイの言葉、そして声色には奇妙な説得力があった。
実際、そんな機動兵器など全員、聞いたことがない。機体ではなく、パイロット本人の神経を攻撃するモビルスーツなど。
もしそんなものが、戦場で堂々と闊歩すれば――
「もうひとつ」ヨダカが指を立てて、軽妙な口調のままで言った。
「ジュール隊が奴らに捕らわれた。
彼らの救出もついでに頼むよ、ボルテールも支援してくれる」
「あの、ヤキンの英雄がでありますか!?」
シンが思わず身体を乗り出した。動揺が見事に表情に現れている。
だがそれは、他のクルーも同じだった──
「あの」ジュール隊が?
そんな化物を相手にするのか、自分たちは?
「……何て奴らだ」中でも、アーサーの歯ぎしりはひどい。
ジュール隊と言えば、ヤキンの戦いで連合側の核攻撃の気配にいち早く気づいたイザークが、迅速な判断と決死の奮戦によりそれを止めた逸話が非常に有名だった。
いわゆる三隻同盟には結果的に協力することになったものの、プラントを守り抜いた彼の戦いぶりは、ザフトでは英雄譚として語り継がれている。
それだけに、若いシンたちへの衝撃は大きかった。
「決まりね。
メイリン、ミントン1への到着予定時刻は?」
タリアが通信管制のメイリンに手早く訊ねた。
コンソールパネルを慣れない手つきでいじりながら、必死で回答するメイリン。
「デブリ帯が多く、遅延が予想されます。現在の軌道のまま航行しますと、到着は56時間後に」
「待ってられん。奴らはもう到着するぞ」
ヨダカの野太い声に、メイリンが思わず反論した。
「無理ですよぉ、この船通信も索敵もCICも、アプリが通常のローラシア級よりバージョンが古いんです。
このデブリ帯だって通過できるか」
「ミントンがどうなっても良いのか、貴様!」
上官に堂々と口答えとは、この船の教育はいったいどうなっている──
いや、ザフトそのものの教育体制が問題なのだ。
ヨダカは震え上がるメイリンをひと睨みし、そして一同をぐるりと見回す。
そもそも何故、このような年端もゆかぬ娘が艦の通信などを担当し、しかも同じような年頃の娘までが、モビルスーツに乗っているのだ?
プラントでは、出生率の低さがさらに問題となっているこの時に。女性や若者が重宝されるべき時に!
暗澹たる気持ちが噴出したかのような、ヨダカの怒声だった。