【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 ジャブ

 

 

 ヨダカの予想どおり、アマミキョはL4空域のミントンへ接近しつつあった。

 フレイたちに監視される中でも、ナオトはちょくちょくモビルスーツデッキに入っては、ティーダの改良案を出していた。

 それはまず、外部スピーカの調整。そしてティーダの指先

 ──つまり、マニピュレータ先端のカメラをさらに高感度のものに替えることだった。

 勿論、主に作業を行なうのはミゲル・アイマンにラスティ・マッケンジーだったが、彼らは特に文句も言わず、ナオトの案を採用していた。

 

「にしても、ティーダって凄いですよね。

 ニュートロンジャマー下でも通信できるなんて……」

 

 ナオトは低重力に制御されたデッキを浮遊しつつ、ティーダの頭部アンテナに触れようとする。

 しかし

 

「ドアホ! 汚れた手で触るんじゃねぇ」即、ハマーの怒号が飛んだ。

 

 半端者の分際で、よく神聖なるデッキへ入れる──

 それが、ハマーの怒りの理由だ。ラスティがそれを宥め、ミゲルがナオトに答える。

 

「ヤキンでも使われた、ドラグーンシステムの応用でね。

 今じゃザフトでも連合でも、秘密裏にこれを採用して……って、こりゃオフレコな」

「分かってます。量子通信、ってやつですね」

 

 ナオトはマニピュレータ部分へ身体を流し、カメラの動作状況を見た。

 

「ドラグーンみたいに兵器として使うより、ティーダみたいな使い方のほうが、よほど平和的だけどなぁ」

 

 その時突然ティーダのハッチが開き、ブレザー服姿のマユが跳んできた。しかもナオトの真上から。

 かなり短いスカートがひらひらしているが、マユは全く気にしていない。

 

「ねぇ、ナオト~

 そういうの、普通のカメラじゃだめなの?」

 

 細く頼りなげな脚がナオトの眼前で踊り、彼は思わず真っ赤になる。

 慌ててナオトは顔をそむけ、ティーダの右掌の人差し指にあたる部分を抱きしめ、作業中のふりをした。

 

「瓦礫の下の人を助けるには、もっと、その……か、感度が必要だと思うんだ。

 赤外線スコープも必要だろうし」

 

 マユはナオトの様子にも気づかず、彼の頭上から降りてくる。

 

「どうして? 

 何で、そんなに必死なの?」

 

 無防備すぎるマユに、ナオトはとっさに対応できない。

 ナオトもブリッジ制服のままゆえ人のことは言えないが、低重力下での作業はせめてズボンでお願いしたいものだ。ミゲルがクスクス笑っているじゃないか。

 

「人が死ぬの、そんなに嫌なんだ」ナオトの横に降りてきたマユ。白いリボンでゆるめに結わえられた黒髪が、すぐ目の前で踊った。

「そんなことじゃ、自分が死んじゃうよ?」

 

 誰かの死を『そんなこと』で片づけるのか。

 ガサガサとした嫌な感情が、ナオトの胸でざわつく。ちらりと見えた彼女のスカートの中が気になっても。

 

「……これ」

 

 ナオトはふと思いついたように、胸元からフーアのお守りを差し出した。

 

 

「人が死ぬのが嫌な理由。

 あんなものを見るくらいなら、自分が死んだほうがマシだ」

 

 

 マユは訳が分からないらしく、じっと大きな瞳でフーアのお守りを見つめていた。

 さらにナオトは言う。

 

「君だって、カイキ兄さんが死んだら、悲しいだろ?」

 

 しかしその瞬間、なんとも驚いたことに、マユは首を振ったのだ。

 しかも大きく、即座に、笑顔で。

 

 

「ううん。ぜーんぜん!」

 

 

 ナオトはしばらく、二の句が継げなかった。

 一体何者だ、この娘は。

 最初に出会った時から、マユの感情は異常だった。

 

 フレイの話では、マユもカイキもコーディネイターではなくナチュラルだという──

 だったら何故、ティーダの「黙示録」を起動させられた? 

 そもそも何故、ティーダに乗っている? 何故、アマクサ組にくっついている? 

 カイキ兄さんは何者だ。何故、姓が違うんだ。カイキ・マナベにマユ・アスカ──

 

 最後の問題が、ナオトにとっては一番切実だ。お兄ちゃんお兄ちゃんと呼んでいるから、今まで実の兄だと思い安心していたが、姓が違うとあらばそうはいかない。

 兄妹に見せかけて、実は恋人同士なんてことは──

 

 

「手がお留守だぞ、色ボケ!」

 

 

 いつの間にか飛んできたミゲルに後頭部をひっぱたかれ、ナオトの思考は中断された。

 だが今、マユはカイキを否定した。

 あれだけ懐いているのに。

 カイキはあれだけ、マユの為に必死なのに。

 

 

 

 

 

 

「ウンザリだよ。こっちが助けてほしいくらいだ」

 

 食堂では、カズイがサイに愚痴をこぼしていた。今度のミントン1の件だ。

 コロニー内の平均気温が摂氏44度を超えたとの報告を受け、ただでさえ消沈気味だったクルーの気力は、さらに萎えていた。

 

「やっと本来の仕事が出来るんだ、感謝しないと」

 

 サイは淡々と、ランチプレートに水を乗せる。重力制御は正常状態に保たれていた。

 食堂は班分け関係なく、クルー全員が集まることができる場所だった。尤も、そのおかげでトラブル発生率も高いが。

 

「それに、ノーマルスーツ着て出ればかえって涼しいって話だ」

「俺用のが残ってるわけないだろ。パワードスーツだってろくにないってのに……

 サイみたいなブリッジ組なら、知らないけどさ」

 

 サイに割り振られた食事の量を見て、カズイはため息をつく。

 どう見ても、自分の配当量より多い。しかも、カズイのプレートにはないキャンディーまでがあった。

 

「じゃ、アストレイにでも乗ってれば」

 

 サイにしても、そんなカズイの気分に構っていられるだけの余裕はない。

 つい、カズイを余計に刺激する言葉を吐いたと自覚した──案の定、カズイはくってかかる。

 

「何怒ってるんだよ。

 ……謝っただろ、あいつらのことは」

 

 カズイの言っているのは、ジュール隊の件だ。 

 

 サイを取り巻く視線が、少しずつ異様なものになってきたのは間違いない。

 元アークエンジェルクルーで、ナチュラルの癖に優秀なブリッジ組。フレイとの因縁。

 さらに、ザフト兵と懇意にしていたという噂が広まっていた──主に、カズイが食糧班の少女たちに漏らした言葉が原因で。

 この食堂も例外ではなかった。

 

 サイが少々キツめに問いただしたことで、カズイはすぐに謝り、二人の間だけは何とかまるく収まっていたものの――

 

 集まっているクルーたちは一見笑顔を装っているが、サイが横を通過すると、何とはなしに視線がそれ、話し声が小さくなる。

 勿論、本人の目の前で堂々とナイショ話をする馬鹿はいないが、自分とクルーたちとの間にヘドロのようなものがたまり始めていることを、サイ自身感じずにはいられなかった。

 ――その時。

 

 

「おい!」と、突然サイは後ろからむずと衿を掴まれた。

「ザフト野郎と、どういう知り合いだ」

 

 力まかせに後ろへ引っ張られるサイ。

 手からランチプレートが落ち、床にチャーハンが散乱した。振り向いてみると

 ――どう見ても瞑想室を出たばかり、という風情の男二人組が立っていた。

 

「その言い方はないだろう。彼らはこの船を助けた!」

「関係ねぇ! あいつらとてめぇが良からぬ相談してたことぐらい知ってるっ」「俺らをザフトに売る気か!」

 

 カズイは何も出来ず、反射的に2、3歩後ずさっていた。

 それを責めることは誰にも出来ない。何故なら、他のクルーたちは殆どが、見て見ぬふりをしていたのだから──

 関わり合いになれば、たちまち瞑想室。読書を始める者、あさっての方を向いて談笑する者、寝たふりをする者──

 

 サイの視界の隅で、一人でパンをかじっている女性が見えた。食堂の端も端で、隠れるようにして。

 あれは確か、ウーチバラ襲撃の時ブリッジから逃げ出したオペレータ、ヒスイ・サダナミじゃなかったか? 

 どうして一人で……

 

「だいたい生意気なんだよ、ブリッジ組ってのは!」

 

 男がサイを絞める力がさらに強くなる。

 2発頬を張られ、ネクタイがもう一方の男に思い切り引っ張られる。

 

 その時、サイの頭から背筋まで冷水が入り込んだ。頭からコップの氷水をかけられた──

 

 からかわれている。

 俺の無様な姿を、こいつらは忘れていない。フレイの前で腰を抜かしたあの時の姿を。

 

 

「やめろ馬鹿、何してる!」

 

 

 ちょうど食堂に入ってきたオサキが、一声叫んで止めに入った。

 途端、サイを掴んでいた男どもの手が離れていく。

 オサキの怒りのせいではない。彼女の背後から偶然入ってきた、ムジカ社長を目撃して、だ。

 

 

「瞑想室はご存知の通りいっぱいなんだ。

 これ以上騒ぎを起こされては困るよ」

 

 

 一瞬だけ、食堂がしんと静まる。視線という視線が、騒ぎの中心──

 茫然と座り込んだサイと、男たちと、社長に注がれた。

 

「そ、そうだよっ。俺ら救助船のクルーだろ!」

 

 カズイが、彼にしては珍しく大声で主張しだした。

 それに呼応するように、周囲もサイに加勢する。

 

「そうよ、今のはひどい」「サイテーじゃね? 人として」「瞑想室も効果なしか!」

「サイさん、大丈夫? 代わりのランチ持ってくるから!」

 

 それに気圧されたように、不平を露わにしつつもノソノソと食堂を後にする男たち。

 

「……お前ら! 

 調子こきやがっ……!!」

 

 怒鳴りたげなオサキを、社長が手で制した。

 何とか黙った彼女だが、それでも我慢ならず食堂を見回す。

 隅の方で、騒ぎから逃げるようにプレートを片付けるヒスイがいた。

 彼女が元ブリッジ組だったのはオサキも知っている。そんな彼女をオサキは思わず呼び止めようとしたが、ヒスイは黙って立ち去っていくだけだ。

 騒動の何もかもを、見たくないと言いたげに。

 

 社長はハンカチを取り出し、サイの頭にぽんと乗せる。

 

「君もしっかりしなさい。

 もーすぐ、僕とはお別れなんだから」

 

 

 

 

 

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