【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ヨダカの予想どおり、アマミキョはL4空域のミントンへ接近しつつあった。
フレイたちに監視される中でも、ナオトはちょくちょくモビルスーツデッキに入っては、ティーダの改良案を出していた。
それはまず、外部スピーカの調整。そしてティーダの指先
──つまり、マニピュレータ先端のカメラをさらに高感度のものに替えることだった。
勿論、主に作業を行なうのはミゲル・アイマンにラスティ・マッケンジーだったが、彼らは特に文句も言わず、ナオトの案を採用していた。
「にしても、ティーダって凄いですよね。
ニュートロンジャマー下でも通信できるなんて……」
ナオトは低重力に制御されたデッキを浮遊しつつ、ティーダの頭部アンテナに触れようとする。
しかし
「ドアホ! 汚れた手で触るんじゃねぇ」即、ハマーの怒号が飛んだ。
半端者の分際で、よく神聖なるデッキへ入れる──
それが、ハマーの怒りの理由だ。ラスティがそれを宥め、ミゲルがナオトに答える。
「ヤキンでも使われた、ドラグーンシステムの応用でね。
今じゃザフトでも連合でも、秘密裏にこれを採用して……って、こりゃオフレコな」
「分かってます。量子通信、ってやつですね」
ナオトはマニピュレータ部分へ身体を流し、カメラの動作状況を見た。
「ドラグーンみたいに兵器として使うより、ティーダみたいな使い方のほうが、よほど平和的だけどなぁ」
その時突然ティーダのハッチが開き、ブレザー服姿のマユが跳んできた。しかもナオトの真上から。
かなり短いスカートがひらひらしているが、マユは全く気にしていない。
「ねぇ、ナオト~
そういうの、普通のカメラじゃだめなの?」
細く頼りなげな脚がナオトの眼前で踊り、彼は思わず真っ赤になる。
慌ててナオトは顔をそむけ、ティーダの右掌の人差し指にあたる部分を抱きしめ、作業中のふりをした。
「瓦礫の下の人を助けるには、もっと、その……か、感度が必要だと思うんだ。
赤外線スコープも必要だろうし」
マユはナオトの様子にも気づかず、彼の頭上から降りてくる。
「どうして?
何で、そんなに必死なの?」
無防備すぎるマユに、ナオトはとっさに対応できない。
ナオトもブリッジ制服のままゆえ人のことは言えないが、低重力下での作業はせめてズボンでお願いしたいものだ。ミゲルがクスクス笑っているじゃないか。
「人が死ぬの、そんなに嫌なんだ」ナオトの横に降りてきたマユ。白いリボンでゆるめに結わえられた黒髪が、すぐ目の前で踊った。
「そんなことじゃ、自分が死んじゃうよ?」
誰かの死を『そんなこと』で片づけるのか。
ガサガサとした嫌な感情が、ナオトの胸でざわつく。ちらりと見えた彼女のスカートの中が気になっても。
「……これ」
ナオトはふと思いついたように、胸元からフーアのお守りを差し出した。
「人が死ぬのが嫌な理由。
あんなものを見るくらいなら、自分が死んだほうがマシだ」
マユは訳が分からないらしく、じっと大きな瞳でフーアのお守りを見つめていた。
さらにナオトは言う。
「君だって、カイキ兄さんが死んだら、悲しいだろ?」
しかしその瞬間、なんとも驚いたことに、マユは首を振ったのだ。
しかも大きく、即座に、笑顔で。
「ううん。ぜーんぜん!」
ナオトはしばらく、二の句が継げなかった。
一体何者だ、この娘は。
最初に出会った時から、マユの感情は異常だった。
フレイの話では、マユもカイキもコーディネイターではなくナチュラルだという──
だったら何故、ティーダの「黙示録」を起動させられた?
そもそも何故、ティーダに乗っている? 何故、アマクサ組にくっついている?
カイキ兄さんは何者だ。何故、姓が違うんだ。カイキ・マナベにマユ・アスカ──
最後の問題が、ナオトにとっては一番切実だ。お兄ちゃんお兄ちゃんと呼んでいるから、今まで実の兄だと思い安心していたが、姓が違うとあらばそうはいかない。
兄妹に見せかけて、実は恋人同士なんてことは──
「手がお留守だぞ、色ボケ!」
いつの間にか飛んできたミゲルに後頭部をひっぱたかれ、ナオトの思考は中断された。
だが今、マユはカイキを否定した。
あれだけ懐いているのに。
カイキはあれだけ、マユの為に必死なのに。
「ウンザリだよ。こっちが助けてほしいくらいだ」
食堂では、カズイがサイに愚痴をこぼしていた。今度のミントン1の件だ。
コロニー内の平均気温が摂氏44度を超えたとの報告を受け、ただでさえ消沈気味だったクルーの気力は、さらに萎えていた。
「やっと本来の仕事が出来るんだ、感謝しないと」
サイは淡々と、ランチプレートに水を乗せる。重力制御は正常状態に保たれていた。
食堂は班分け関係なく、クルー全員が集まることができる場所だった。尤も、そのおかげでトラブル発生率も高いが。
「それに、ノーマルスーツ着て出ればかえって涼しいって話だ」
「俺用のが残ってるわけないだろ。パワードスーツだってろくにないってのに……
サイみたいなブリッジ組なら、知らないけどさ」
サイに割り振られた食事の量を見て、カズイはため息をつく。
どう見ても、自分の配当量より多い。しかも、カズイのプレートにはないキャンディーまでがあった。
「じゃ、アストレイにでも乗ってれば」
サイにしても、そんなカズイの気分に構っていられるだけの余裕はない。
つい、カズイを余計に刺激する言葉を吐いたと自覚した──案の定、カズイはくってかかる。
「何怒ってるんだよ。
……謝っただろ、あいつらのことは」
カズイの言っているのは、ジュール隊の件だ。
サイを取り巻く視線が、少しずつ異様なものになってきたのは間違いない。
元アークエンジェルクルーで、ナチュラルの癖に優秀なブリッジ組。フレイとの因縁。
さらに、ザフト兵と懇意にしていたという噂が広まっていた──主に、カズイが食糧班の少女たちに漏らした言葉が原因で。
この食堂も例外ではなかった。
サイが少々キツめに問いただしたことで、カズイはすぐに謝り、二人の間だけは何とかまるく収まっていたものの――
集まっているクルーたちは一見笑顔を装っているが、サイが横を通過すると、何とはなしに視線がそれ、話し声が小さくなる。
勿論、本人の目の前で堂々とナイショ話をする馬鹿はいないが、自分とクルーたちとの間にヘドロのようなものがたまり始めていることを、サイ自身感じずにはいられなかった。
――その時。
「おい!」と、突然サイは後ろからむずと衿を掴まれた。
「ザフト野郎と、どういう知り合いだ」
力まかせに後ろへ引っ張られるサイ。
手からランチプレートが落ち、床にチャーハンが散乱した。振り向いてみると
――どう見ても瞑想室を出たばかり、という風情の男二人組が立っていた。
「その言い方はないだろう。彼らはこの船を助けた!」
「関係ねぇ! あいつらとてめぇが良からぬ相談してたことぐらい知ってるっ」「俺らをザフトに売る気か!」
カズイは何も出来ず、反射的に2、3歩後ずさっていた。
それを責めることは誰にも出来ない。何故なら、他のクルーたちは殆どが、見て見ぬふりをしていたのだから──
関わり合いになれば、たちまち瞑想室。読書を始める者、あさっての方を向いて談笑する者、寝たふりをする者──
サイの視界の隅で、一人でパンをかじっている女性が見えた。食堂の端も端で、隠れるようにして。
あれは確か、ウーチバラ襲撃の時ブリッジから逃げ出したオペレータ、ヒスイ・サダナミじゃなかったか?
どうして一人で……
「だいたい生意気なんだよ、ブリッジ組ってのは!」
男がサイを絞める力がさらに強くなる。
2発頬を張られ、ネクタイがもう一方の男に思い切り引っ張られる。
その時、サイの頭から背筋まで冷水が入り込んだ。頭からコップの氷水をかけられた──
からかわれている。
俺の無様な姿を、こいつらは忘れていない。フレイの前で腰を抜かしたあの時の姿を。
「やめろ馬鹿、何してる!」
ちょうど食堂に入ってきたオサキが、一声叫んで止めに入った。
途端、サイを掴んでいた男どもの手が離れていく。
オサキの怒りのせいではない。彼女の背後から偶然入ってきた、ムジカ社長を目撃して、だ。
「瞑想室はご存知の通りいっぱいなんだ。
これ以上騒ぎを起こされては困るよ」
一瞬だけ、食堂がしんと静まる。視線という視線が、騒ぎの中心──
茫然と座り込んだサイと、男たちと、社長に注がれた。
「そ、そうだよっ。俺ら救助船のクルーだろ!」
カズイが、彼にしては珍しく大声で主張しだした。
それに呼応するように、周囲もサイに加勢する。
「そうよ、今のはひどい」「サイテーじゃね? 人として」「瞑想室も効果なしか!」
「サイさん、大丈夫? 代わりのランチ持ってくるから!」
それに気圧されたように、不平を露わにしつつもノソノソと食堂を後にする男たち。
「……お前ら!
調子こきやがっ……!!」
怒鳴りたげなオサキを、社長が手で制した。
何とか黙った彼女だが、それでも我慢ならず食堂を見回す。
隅の方で、騒ぎから逃げるようにプレートを片付けるヒスイがいた。
彼女が元ブリッジ組だったのはオサキも知っている。そんな彼女をオサキは思わず呼び止めようとしたが、ヒスイは黙って立ち去っていくだけだ。
騒動の何もかもを、見たくないと言いたげに。
社長はハンカチを取り出し、サイの頭にぽんと乗せる。
「君もしっかりしなさい。
もーすぐ、僕とはお別れなんだから」