【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 マユ、発進拒否

 

 

 アマミキョブリッジでは、さらに港口よりの侵入者が確認されていた。

 新たに視認されたのは、ザフトのザクウォーリアとザクファントム──

 ジュール隊の機体と同型のものだ。

 

「避難民は?」

 

 副隊長の声が飛ぶ。サイがすかさず答える。

 

「無事です、今のところ避難所や市街地への攻撃はありません」

 

 アムルが唇を噛んだ。「目的は、やっぱり……」

「アタシらかよ!」オサキはもう少しで舵をへし折りそうな勢いだ。

 

 その瞬間、ブリッジに衝撃が走った。

 空中戦を繰り広げていたインパルスのビームライフルが、船体の一部を掠めたのである――

 

「居住ブロック、第12貯蔵庫付近に被弾!」

 

 

 

 

 

 

「すごい夕陽……」

 

 廃墟と化したビルの陰に姿を隠しつつ、ルナマリアのザクウォーリアが、ジャングルの河の如き泥海を進む。

 

《外気温は摂氏39度。

 冷却システムを修復したおかげで、少しはよくなったらしい》

 

 先を進むレイのザクファントムから、いつも通り冷静な通信が響いた。

 

「えっ? 

 彼らが、救難活動をしてるってこと?」

 

 ルナマリアはふと、市街地を見た。

 配水管、運河、排水溝にも修復の跡が見られ、資料で見せられたミントン1の状況からは若干回復しているように見える。

 それに港口には、しっかり避難所も設置されていた。泥まみれの難民に、食糧を運んでいたあの男の子たちは──

 

「ちょっと待って。

 本当に、テロリストがいるの?」

 

 ルナマリアの迷いを、即座にレイが打ち消す。

 

《議長の言葉なら、そうだ》

 

「──分かった」

 

 いつも、あんたはそう。

 レイよりヨダカに問いただしたいのは山々だが、現在ヨダカはコロニー外壁を移動中だ。

 

「にしても、シンったら……

 勝手なことばかりするから!」

 

 はるか上空でシンが苦戦していることは、ルナマリアも気づいていた。

 

 

 

 

 

 

《そんなにインパルスを泣かせたいか、坊や!》

 

 女の笑い声が、機体と共にシンを揺らす。

 

「ツギハギ量産機のくせに!」

 

 シンはインパルスの分離機構を使おうと試みたが、がっちり接合部分に取りつかれている為、ろくに機能しない。

 クソ、ビームライフルまで使ったのに。しかもその光条の一部は、救出すべき船に当たってしまった──

 

 インパルスとアフロディーテは、とっ組み合いながらコロニーの重力に捉えられ、落下していく。

 急激にかかる重力がシンの身体から魂を奪いかかったが、それを肉体にとどめておく訓練ぐらい、シンは山ほど積んでいた。

 

 そのまま2機は泥の運河に激突──したようにも見えたが、どちらも寸前で墜落を回避。

 激突寸前でアフロディーテはインパルスを解放し、自らはIWSPの機動力を最大に使って離脱した。

 インパルスも、地表ギリギリで一旦分離、分かれたパーツを空中で再度合体させ、体勢を立て直そうと試みる。レッグフライヤーの一部が思い切り泥を被った

 

 ──しかしその隙を狙い、廃墟の影から姿を現したエメラルドのモビルスーツがあった。

 

 

 

 

「へへ、ドンピシャ!」

 

 ソードカラミティのカイキは、決してそのチャンスを逃さなかった。

 目の前に立つは、トリコロールのモビルスーツ。ニコルの情報によれば、ザフト最新鋭機・インパルスガンダムだそうだ。

 

「情けねぇ。

 これがマユの実兄かよ!」

 

 緑がかった黒のパイロットスーツに身を包んだカイキは、機体両腕のロケットアンカーを作動させた。

 二対の牙が腕部から飛び出し、鋼鉄のワイヤーを伴って合体直後のインパルスに襲いかかる。

 インパルスは機動防盾でうち一つは防いだが、下半身を狙ったもう一つは防げず、まともに衝撃を喰らってしまう。

 

《──わたしがお前たちの中から

 正しい者も悪い者も切り捨てるために

 わたしの剣は鞘を離れ、南から北まで

 すべての生ける者に向かう

 

 その時、生ける者は皆

 主なるわたしが剣を鞘から抜いたことを知るようになる

 剣は二度と鞘には戻らない》

 

 フレイのアフロディーテが、インパルスに迫る。

 旧約聖書・エゼキエル書21章、9-10節を暗唱しつつ――

 

 

 

 

 アマミキョブリッジには、ミントン管制経由のザフト艦からの通信が入っていた。

 ディックがかなり上ずった声で内容を伝える。

 

「ザフト艦はアマミキョ乗員、避難民の即時解放を要求しています。

 並びに船内、及び乗員の調査……」

 

 副隊長が鼻をこすりつつ、笑う。

 

「要は、テロリストがいると見做されとるのさ」

 

 ブリッジに、動揺が走った。

 俺たちがテロリストだと? 私たちが疑われて、襲われている? どうして? 

 アムルが思わず叫ぶ。「正々堂々調べられればいいじゃない! 私たち、何もしてないのよ」

 

「アマクサ組のせいかよ」オペレータの一人が言ったが、副隊長は即、否定した。

 

「アマクサ組は仕事をやっとるだけさ。

 分からんのはザフトの方だ……あんな連中に捕まってみろ。中立とはいえナチュラルが大多数のこの船、何をされるか分からんよ。

 要求は呑めん、ひとつたりともだ」

 

 その一声で、全員が黙りこんだ。

 

 オーブ出身の人間たちで構成されているシュリ隊だったが、ザフトというのは未だ天上の存在である──

 彼らは、同じ星の上に住んでいない。その違和感は、地球に慣れた者たちにとっては消せない。

 サイはコンソールパネル上で、拳を軽く握りしめた。ザフト側の要求には、ジュール隊の解放までが含められている。

 運のいいことに、シホは現在医療ブロックにいる。ここと繋がっている。なおかつ──

 イザークらの捕らわれている瞑想室も、既にコアブロックと繋がっていた。

 

 ――と、サイの手元に、ティーダからの通信が入った。

 

 

 

 

「サイさん、僕が行きます! 

 僕らは無実だって言えばいいんでしょ!!」

 

 叫んでいるのは勿論ナオトだ。突然のテロリスト呼ばわりに、少年は動揺を隠すことが出来なかった。

 

「言われなくても、こっちは準備OKだよー」

 

 前席に陣取ったマユが、呑気にバイザーを閉じる。

 通信から響くサイの声。

 

《一応、ティーダの発進許可は出たが――相手の説得なんて、そうそううまく行くと思うな。

 あくまで地上部隊の足止めが優先だ、まずいと思ったらすぐに引け》

 

 その声と共に、ティーダに火が入る──

 ブリッジからの通信が、続いて響いた。アムルの声だ。

 

《ティーダ、発進どうぞ》

 

「了解。ティーダ、ナオト・シライシ、並びにマユ……」

「やだっ!」

 

 まさにティーダが発進しかけたその時のことだ。マユが突然、傲慢にも腕を組んでみせたのは。

 一瞬、彼女が初めて怒ったのかとナオトは勘違いしたが――

 ミラーで見ると、マユは頬を膨らませながらも可愛く笑っている。

 

「おばちゃんの指示じゃ、発進できませーん♪」

 

 

 

 

「なっ……

 何を言うの」

 

 小娘のありえない返答に、アムルは怒鳴るより先に唇を噛まずにはいられなかった。

 茫然とさせられた直後に彼女を襲ったものは、激しい羞恥心と、激昂。

 必死でアムルは身体の中にその感情を抑えこんでいたが、隣席のサイにはすぐに怒りが伝わった。

 

 25歳のコーディネイター──女性。未婚。出産経験なし。

 これだけで、年齢を指摘される言葉に異様な反応をしてしまうだろうことぐらいは、サイには容易に想像がついた。ナチュラルで言えば、彼女は30過ぎの独身だ。

 しかも後ろでは、副隊長がなるほどというようにうなずいている。

 

「気持ちは分かる。生死がかかった戦場へ無感情に送り出されたのでは、たまらんな。

 今度の講義でやる予定だったが、通信担当は伝達内容をオウム返しに伝えるだけではいかん。兵が動かんでな。

 そもそも、何故通信士に女性兵士が使われる傾向が高いかというとだ──」

 

 アムルはこの時、業務を忘れて下を向いていた。

 ブリッジ全員の前で自分の無能を暴露された恥ずかしさ。マユの幼さへの怒り。副隊長の嫌味

 ――おそらく、お世辞の一つでも言えということであろう。

 

 自分は、どうやっても、女──かすかに震えるアムルの拳。

 決して口には出さないが、そんな彼女の静かな激昂はサイにもありありと読み取れた。

 仕事にならない。サイはすかさず、アムルを押しのけて通信に割り込んだ。

 

「ナオト、何やってる!」

《すいませんっ、今すぐ……》

 

 だが、マユはさらに子供らしい理不尽な要求を突きつける。

 

《ねぇ、サイが発進指示してよ! 

 サイがやってくれれば、私、頑張れる!》

 

 無茶苦茶な要求だが、時間がない。

 咄嗟のことだったが、サイは仕方なくお姫様に従った。

 このような時、確かミリィは──

 サイは肺がいっぱいにならない程度に、息を吸い込んだ。

 わずかに口元を和らげるよう、努力する。

 

「ティーダ、発進、どうぞ!」

《了解っ! 

 ナオト・シライシ、マユ・アスカ、行っきまーす!》

 

 ほぼ同時に響く、ナオトとマユの快活な声。

 血の色に光る空に、一筋の輝きが生まれる。それは、元気に噴くティーダのバーニアだった。

 

 

 

 

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