【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 引き剥がされる装甲

 

 

 アマミキョ・医療ブロック。

 

「被弾箇所付近で5m飛ばされた! 

 頭、右胸、右肩に外傷、血圧100の60脈拍15! そっちは血圧90の50、脈拍60で微弱っ」

 

 戦闘でまたも発生した震動で、患者が泣き喚き、医者・看護師全員がいつも以上に右往左往する中、シホはじっとベッドに座っていた。

 

 ――人間のみの脱出ならなんとかなる。実際、隊長もそれを望んでいるだろう。

 しかし、みすみす相手に機体を奪われたまま逃げるなど、シホのプライドが許さない。

 何より、ジュール隊長にどんな裁きが下されるか分からない。ザフト最新鋭の機体を、中立とはいえこの連中に奪われたとあっては──

 

 そんな時だった。

 騒乱の最中、サイ・アーガイルが、彼女の前に現れたのは。

 

 

 

 

 白銀を纏った、獰猛な獣が飛びかかってきた──

 そうルナマリアが感じたのは、一瞬。

 

《えぇ? これがお兄ちゃんとの『適合者』なの? 

 なぁんだ。私の『お姉ちゃん』になるには、弱すぎだなー》

 

 あの少女の声。目の前のモニターに大うつしになっている、敵の頭部。

 赤服ともあろう者が、こうも簡単に懐に飛び込まれるとは。こんな状態になれば、次の瞬間に待っているものは明白だ。

 

「な……

 何を、言ってるの?」

 

 大丈夫。声帯までは、怯えていない。

 ルナマリア機は咄嗟にビーム突撃銃でのゼロ距離射撃を試みたが、あの巨大な盾──トリケロスで払い落とされた。

 

《あはっ、可愛い色~。

 ねぇねぇ、ちょっともらってもいいでしょ?》

 

 と、恐るべき震動がルナマリアの身体を揺さぶった。

 

 「!?」

 

 右から左から警報音が鳴りひびき、コクピットが警告の光で紅く明滅した。

 モニターを見ると、脚部と腰部を繋ぐパイプ、そしてエンジン部に近い装甲が、致命的損傷を受けている──

 なんてこと。パイプを剥き出しにした機体は危険だって、ヨウランたちにもっと言っておくんだった。

 目の前の白い機体は、ルナマリア機の紅の装甲の一部とパイプを剥ぎ取り引きちぎり、どことなく嬉しそうに見えて──

 

《や、やめて! 

 マユ、お願いだ、やめてくれ!!》

 

 あの少年の悲鳴はまだ響く。

 

 

 

 

 

 

 居住ブロック奥の瞑想室は、被弾の影響を著しく受けていた。

 直撃こそ逃れたものの、室内の壁が崩壊して何名かが船体の外壁部分へ落下していき、うち何名かは、外壁に空けられた穴からあっけなく空中へ放り出されていく

 ――血の色の空へ。

 

 しかし大多数の違反者はこれをチャンスと捉え、一目散に崩壊部分から逃げ出していた。

 そして勿論、イザークとディアッカがこのチャンスを逃そうはずもなく――

 ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる男どもの中から、どうにか通路へと脱出した二人。

 

 そこへ混乱をかき分けかき分け、サイとシホが到着した。

 

「ここは危険だ、すぐに38区画に移動して! 

 被弾箇所には絶対に近寄るな、風がひどい!」

 

 サイは大声と身振り手振りで必死に違反者たちを誘導しつつ、ディアッカへ目配せする。

 一瞬でその意志を汲んだディアッカは、さらにイザークを振向く。イザークはシホに目で確認する。

 言葉はなくとも、十分に伝わった。

 

 

 

 

《あはっ、さよなら。

 偽の『お姉ちゃん』♪》

 

 ルナマリアの抵抗も虚しく、明るい少女の声と共に相手の拳が振り上げられた。

 さっきレイの機体を激しくぶん殴った、あのピアサーロックの牙。コロニーの光のおかげで、血塗られた牙に見える。

 ザクウォーリアにフェイズシフトはない。あれで、もしコクピット付近を殴られたら──

 

 いや、通常はそうする。軍人なら。

 しかし相手は声からして、まだ少年と少女だ。それが、ルナマリアの判断を狂わせる。

 相手はまだ子供なのに、私は――

 

 ──ルナマリアは未だにそのような、普通の少女らしい部分を持ち合わせた兵士だった。

 だが今、そんなことを言っている時ではない。

 相手の牙は、そのまま一瞬でザクウォーリアのコクピットを、彼女の血と内臓と眼球と共に撃破し──

 

 

《――馬鹿モン! 

 その声も罠だ!!》

 

 

 ルナマリアの下半身から胃にかけて激震が走った。

 これは、外壁からの地下ハッチが開く時、特有の地響き――

 

 そう思った時には、彼女の前から牙は突き飛ばされ、代わりに漆黒のモビルスーツが立ちはだかっていた。

 

「ヨダカ隊長!」

 

 それはコロニー外壁からようやくのお出ましの、ジンハイマニューバ2型。

 ルナマリアの声が、弾んだ。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 ジュール隊はサイの誘導でアマミキョ内壁、通風口を這いずっていた。

 

「直接カタパルトに行けるのは、ここしかない」

 

 暗く狭い管の中、塵で真っ黒になりながら進むサイ。

 

「監視は?」

 

 ディアッカはかれこれ6番目かの梯子を下りつつ、周囲を見渡す。

 サイは管の中を探った手で思わず顔の汗を拭き、制服も顔も汚していた。

 

「さすがに、ないはずだ」

 

 シホも、沈黙を守りながらそれに倣う。外からはまだ、砲撃による震えが伝わってくる。

 イザークはサイの様子を注意深く睨みながら、一言だけ呟いた。

 

「すまない。……この借りは、必ず返す」

 

 

 

 

 

 

 シンは、アマミキョを一旦諦めざるを得なかった。あまりに相手モビルスーツの防御は固い。

 もとより、自分の役割は陽動──深追いする必要はない。

 しかし、先ほどの白いモビルスーツは何処だ? 地上の様子からすると、恐らくルナマリアとレイがそいつと交戦しているはずだ。既にヨダカも潜入している時刻。

 シンはインパルスを反転させ、一気に地上へと向かう――だが。

 

《『チグサ』に会うにはまだ早いのだ、貴様は!》

 

 女の声を持つ機体──アフロディーテは、執拗に迫ってくる。インパルスに追いついたと思うと機体ごと回転し、蹴りを入れてきた。

 

 

 

 

 

 

 アマミキョ・モビルスーツデッキに、ようやくサイたちはたどり着いた。

 発進口からの強風が渦を巻き、全てを血の空に飛ばさんばかりの勢いだ。

 しかもひどい悪臭までが漂っている。バイザーをつけた整備士には分からないだろうが。

 丁度アマミキョは、ミントンの人工湖──つまり、汚泥の詰まった池の直上へとさしかかっていた。

 ジュール隊は全員、既に台車の上の荷物に化けさせられている。

 

 サイは風の中を必死で走り回りつつ、大声で叫んだ。眼鏡が吹っ飛ばされそうだ。

 

「第24区画の外壁が被弾した! 

 このままじゃカタパルトも危ない、動けるクルーは修復作業に向かうか避難して!」

「貴様の命令なぞ、誰が聞くか!」

 

 予想通り、酔っ払い整備士ハマーの返答が投げつけられたが、サイは負けずに怒声を投げ返す。

 

「フレイの命令だよ!」

 半分はヤケッパチだ。「さっきの衝撃を感じなかったのか!? 船自体が危ないんだ!」

「……えぇい、クソが!!」

 

 それを聞いたハマーはしぶしぶ、整備士たちを怒鳴りつけながらスタコラ走り去っていく。暴風の中でもいやに響く舌打ちをしつつ、だったが。

 ――ミゲルやラスティの姿もない。好都合だ。

 

 その隙に、ジュール隊は動いた。

 積荷から飛び出し、予め案内されていた通りにデッキ上部へ移動。

 固定されていたゲイツR、ザクウォーリア、ザクファントムに、彼らは素早く乗り込んでいく。アマミキョ用のメットを使用しているから、万一目撃されてもすぐにはバレないはずだ。

 

 サイはその間に、必死でカタパルトを横切る。

 彼の靴にもマグネットはついていたが、ノーマルスーツのものほど強力ではない。結果、制服のままだったサイは強風と熱気に煽られ、発進口付近の手動発進用パネルにたどりつくのもやっとだった。

 備え付けの紅の信号灯を取り出し、壁を這いずるようにしてジュール隊に向き直る。

 

 

 

 

「何て風だよ」

 

 ザクウォーリアのコクピットで風速を計算しながら、最後列のディアッカは不安げに脚部下のサイを見守った。

 この、血のコロニーの圧力が一気に押し込まれてきたが如き、重い風の中――

 サイはネクタイが無茶苦茶な方向へ翻るのも構わず、手動発進パネルの操作を始めている。

 その姿は、やたらと小さく見えた。

 

《それに、この熱さ……》

 

 シホもまた、計器を確認しつつ眉をひそめる。

 イザークはコクピットからサイを睨みつつ、届かないと知りながら、叫ばずにはいられなかった。

 

「貴様は戻れ! 

 このままマニュアル発進できる、早くっ!!」

 

 

 

 

 しかしサイは熱さと暴風と悪臭の中、どうにかパネルの操作に成功した。

 発進口へ、ゲイツRがまず移動を開始する。

 

「この高さと重力じゃ、モビルスーツが墜落する! 

 俺がいなきゃ……」

 

 サイが必死でしがみついている壁から空中まで、残り5mもない。今壁の手すりから離れれば、50mは下の汚泥へ、自分が墜落──

 それでもサイは、何とか信号灯を振った。

 まずゲイツRが発進していく。目の先ほんの10mもないあたりを、深いエメラルドのゲイツRの脚部が通り抜ける。

 その風圧でサイは壁に叩きつけられ、次に足を空に取られそうになった。

 

 ──まずい、マグネットがろくに効かない。

 

 続いてイザークのザクファントムが発進位置へ。

 特徴的な単眼がわずかにサイに向き、2、3度瞬いた。おそらく警告だろうが、サイにはイザークの声はもう聞こえない。

 信号灯を剣のように、大きく振りかぶる──ザクファントム、発進。

 耳と服が破れるかと思うほどの重い空気が、サイの全身を殴りつけていく。

 

 

 

 

 

 

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