【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 イザークの義侠

 

 

 ミネルバJrのブリーフィングルームでは、ヨダカ・ヤナセがジュール隊を前にして、困惑しきっていた。

 アマミキョで可能な限り調査したデータを目の前のディスプレイに広げながら、イザークが冷静に報告を続けている。

 

「M1アストレイ7機にミストラル10台。これらはいずれも作業用で、武装はされていないことが確認されています。

 問題の、統合ストライカーパックを常備したダガーL。さらに、ヤキンで我々を苦しめたカラミティと思われる機体ですが──」

 

 イザークは慣れた手つきで、画像を切り替えていく。

 

「その2機も、既存の戦闘データを元に、モルゲンレーテと文具団が共同で開発したもののようです」

 

 ヨダカがそれを補足する。

 

「カラミティの接近戦タイプ──

 ソードカラミティのオリジナルは生産数も少なく全て連合の手にあり、やすやすと機体が他国に渡るとは思えん。

 あのソードカラミティは、文具団で独自に改良を加えられたものということか」

 

 ヨダカの後ろには、シン、ルナマリア、レイらも控えていた。勿論、タリアやアーサーも。

 しかしイザークは、無表情で続けた。

 

「そのようです。

 そして最大の懸案事項。ブリッツを模倣したと思しき白い機体ですが――」

 

 イザークはヨダカの射るような視線にも動じず、毅然と言葉を継ぐ。

 シホが心配そうに時折イザークを見たが、ディアッカがそんなシホをさりげなく制していた。

 

「ガンダム・ティーダ。型式番号MBF-T03。やはり、モルゲンレーテと文具団の共同開発です。

 基本性能はブリッツと大差ありません。マニピュレータ先端などに多数内蔵された小型カメラを確認済ですが、ほぼ救難活動用もしくは報道用と推測されます。

 トリケロスなど、基本武装もブリッツと変わりなし。取り回しの悪さなど、微細な部分を改良した可能性もありますが詳細は不明。

 また、機動力が強化され、短時間の大気圏飛行が可能であります。が、ミラージュコロイドは搭載されていない為、むしろブリッツよりも戦闘能力は劣るかと――」

 

「じゃあ、あの光は何?」ルナマリアが思わず口を挟んだ。

 無理もない。外傷はないとはいえ、彼女の両腕は今も痺れている。

 

「納得出来ません。もうすぐアーモリーワンだってのに、こんな傷を……

 機体だって、それまでに修復出来るか」

 

 口惜しさに声をつまらせ、腕をさするルナマリア。そんな彼女を、レイが制した。

 彼にしても、被害はほぼ同じである。

 

「隊長たちの前だぞ。

 命があっただけでも、感謝すべきだ」

 

 そこへ響いたのは、シンの怒声。

 

「だいたい……

 どうして救援隊に、モビルスーツがあるんだっ」

 

 シンはルナマリアよりもさらに激情していた。しかしイザークはシンの怒りを切り捨てる。

 

「アマミキョが……というか、文具団が雇った傭兵だ。

 アマミキョ乗員たちは、全くの純然たる民間人だよ」

 

「やれやれ……とんだ勇み足だったようだ」ヨダカは潔く自らの非を認め、おどけた仕草で頭を掻いてみせた。

 だが、その眼光までは失われていない。

 

「しかし、例の白ブリッツ……ティーダ、だったか? 

 そいつはマークを続ける必要がある」

 

 イザークはそれには直接答えず、ディスプレイ上のティーダをなぞった。

 

「ティーダの光ですが、発動条件は以下の通りです。

 パイロットが2名揃い、さらにその2名も限られた人間でなければならない。

 パイロットの適性条件は不明ですが……

 ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレル。君たちはパイロットの声を聞いたはずだ」

 

「子供だったわ。2名とも」ルナマリアが答え、ヨダカがそれを受けた。

「オーブSunTVのレポーター君だろ? 俺も聞いたよ。

 それが罠というんだ。女子供を使って爆弾を仕込む、古来よりテロリストがやる手だ」

「あの少年が、嘘を言っていると?」

 

 ルナマリアは身を乗り出したが、ヨダカは指揮棒でそれを制する。

 

「違う。彼の言葉に嘘はない、だから恐い。

 思い出せ、ルナマリア。君はあの声を聞きながら命と尊厳を奪われかけ、光を浴びた。

 おそらくその少年ではなく、もう一人のパイロットが戦闘を担当したのだろう」

「そうか。だから……」

 

 ルナマリアは思い当たったように、唇に指を当てる。

 

「あの少年の声と戦い方、矛盾していました。

 まるで別人が操縦していたような……パイロットが2名なら、納得です」

「ジュール隊長。2人のパイロットについて詳しい情報は」

「一人はご指摘通り、オーブSunTV所属のレポーターと判明しています。

 しかし、もう一人に関しては不明です――12歳前後の少女としか」

 

 イザークが言い終わらぬうちに、室内がどよめいた。

 最も大きな声を上げたのは勿論アーサーだ。おかげでディアッカとシホが一瞬だけ視線をかわしたことは、誰にも気づかれずにすんだ。

 

「ルナマリア・ホーク。

 君の赤服の実力をもってすれば、十分確保出来た相手だ。

 俺が上官なら、5発は修正だな」

 

 ヨダカはルナマリアの前で胸をそらしつつ、タリアとアーサーをちらりと見やった。

 

「申し訳ありません」ルナマリアが謝罪すると、アーサーが抗弁するように前に出る。

「新任の兵士に甘さがあったのは認めます。

 しかしヨダカ隊長、そもそも貴公の……」

「仰りたいことは重々承知の上です、トライン副長。

 今回はどうやら、さすがの議長の目も曇ったようですな」

 

 タリアへウインクまでしつつの、ヨダカの言葉。

 レイが思わず、ヨダカを睨む。その視線には殺意にも似たものがこめられていた。

 しかしタリアはヨダカの視線をかわし、さらりと皮肉を言ってのける。

 

「ルナマリアとレイの報告では、ミントン1では十分な救護活動が行なわれていたと聞きます。

 ムジカノーヴォ社長の伝言を聞けば、流石の貴公も震え上がると思いますわ。ヨダカ隊長」

 

 彼女にしては、相当の怒りを秘めた言葉。

 しかしヨダカは薄い笑みを浮かべながら、肩をすくめるだけだ。

 イザークはそんな中、静かに言った。

 

「以上より、光の発動は極めて厳しい条件下に限られると推測され、従って──

 例の船をこれ以上警戒する必要はないと、自分は判断します」

「って、おいおい待て待て。

 まだ終わっちゃいないよ」

 

 ヨダカは慌ててイザークたちを制する。いや、正確には慌てたふりをして。

 

「ジュール隊長、今一度聞く。

 真実、君たちはあの船で何らかの暴行、脅迫、並びに侮辱、及び公衆の好奇心に晒された、等の行為を受けてはいないかね」

「そのような事実は一切ありません」

 

 イザークはヨダカに顔を突きつけられながらも、表情を崩さなかった。ごわついた髭が彼の頬を撫でていても、だ。

 ディアッカが助け舟を出した。

 

「アマミキョ側はミネルバJr及びボルテールの接近を聞き、自分たちが帰還するべく、積極的協力を惜しまなかった。

 これは事実です、ヨダカ隊長」

 

 嘘は言っていない。サイは確かに「アマミキョ側」だ

 ――が、そこは緑服の悲しさ。ヨダカにひと睨みされては黙らざるを得ない。

 ヨダカはさらに、イザークの白い顎をぐいと持ち上げて囁く。

 これだけでも、イザークにとっては相当の屈辱的行為であったが――

 

 

「あの船とティーダを、逃すわけにはいかんのだよ……これは議長命令だ。

 エザリア・ジュールのご子息どの」

 

 

 突然のヨダカの行為に、ディアッカとシホが身構える。シホなどは今にも、ナイフを取り出しかねない勢いだ。

 ただならぬ様子に、タリアは無言でパイロットたちを一斉に下がらせた。

 

 ──そこで、イザークは気がついた。

 

 この、今自分の顎を掴んでいる男は──しかもこともあろうに、自分の銀髪の端を無遠慮にいじくっている男は

 ──この嫌味な口調、間違いない。

 ウーチバラで戦った、ザフトの脱走兵リーダーだ。

 

 あのハイマニューバ2型を見た時から、おかしな気はしていたが。

 にわかには信じられぬ事実だ。脱走兵が指揮官としてここにいるだと? 

 

 イザークの脳が、猛スピードで状況分析を開始する。

 

 ありえない。

 おそらくこの男は、デュランダル議長お抱えの特殊部隊なのだろう。アマミキョ及びティーダを探るべく、議長命令でウーチバラに潜入したのだ。

 隠密行動であるが故に、脱走兵を装って。

 

 ということはあの襲撃は、デュランダル議長の差し金だったというのか? 

 だとしたら、あのテロリストの情報を受けたジュール隊は、まんまと踊らされたということか? ティーダとアマミキョの情報を得る為に? 

 

 しかも今、自分らはこの男に助けられたということになっているのか。

 汗ばんだ黒い指に自分の顎の下をくすぐられる屈辱に加え、自分たちが完全に利用されていたという事実が、イザークの額から怒りの汗を噴出させる。

 

「自分たちはウーチバラで襲撃からアマミキョを守り、アマミキョはその恩に応えた。

 それだけの話だ。それに――」

 

 ヨダカの手を払いもせず、イザークは目線だけでディアッカとシホを抑えた。

 

「議長への恩義をこのイザーク・ジュール、片時たりとも忘れたことはない。

 僭越ながら、ヨダカ隊長──ティーダには今後、手を出さぬ方が賢明と思われる。

 あれは危険だ。ザフトの今後の為だ!」

「危険かどうかは、こちらで判断する」

 

 過剰とも言えるイザークのアマミキョ擁護だったが、そこにはサイ・アーガイルに対する義侠心があった。

 ディアッカとシホも、このようなイザークの行為は納得済みだ。

 ミネルバJrに訪れるより前に3人は、最低限の必要事項以外、アマミキョに不利と思われる情報は漏らさぬと決めていた。

 ――サイの必死の行動が、ここでは見事に報われたと言えるだろう。本人が全くあずかり知らぬところで、だが。

 

 第一、ルナマリアたちの目前で自ら名乗りを上げたナオトはともかくとして――

 マユ、カイキ、フレイらの正体は、イザークらにも見当さえつかないのだ。

 既に戦死しているはずのニコル、ミゲル、ラスティに関しても、神をも恐れぬ別人の不届き者ということで自分たちを納得させることにしていた。

 あっていいはずがないのだ。あいつらが、笑いながら自分たちに銃を向けるなど。

 

 

 ──だが、この時のイザークらの判断が正しかったのかどうかは、誰にも分からない。

 もしここで、イザークがティーダのもう一人のパイロット=マユ・アスカの名を明かしていれば。

 また、元ザラ隊の犠牲者が何故かアマミキョに搭乗していたことを明かしていれば。

 シン・アスカのその後の運命も、変わっていたかも知れないのだが……

 

 

 

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