【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
彼女が連合制服のままで男子シャワー室に入ってきた件は、この際大した問題ではない。
今までとは考えられないフレイが──いや、今までの方が考えられないフレイではあるが
──そこにいて。
しかも、サイに抱きついてきたのである。
「色々とごめんね、迷惑かけて。
大丈夫、カメラは切らせたから……会いたかった、サイ!」
まぎれもなく、今自分の胸元で笑っているフレイは──
チュウザンで再会した時の、元のフレイだった。
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そしてそのまま、シャワー室で数分が経過。
元に戻った(と思われる)フレイの口から明かされた事実は、サイにとってにわかには信じがたいものだった。
「貴方も見たはずよ。
ナチュラルであるにもかかわらず、ザフト兵と同様の技量でモビルスーツを操る兵士──
それを連合では、エクステンデッドと呼んでいる」
シャワー室の床にきっちり正座したフレイは、淡々と話す。
サイも膝をつき合わせながら、タオルで身体を隠し、同じように座る。
今のフレイが何者だろうと、正面から話を聞こうじゃないか。
「今の話だと……
君はその、エクステンデッドということになるな」
フレイは素直にうなずく。
「彼らにも色々いてね──
ヤキンの頃は薬で無理矢理身体能力を向上させていたようだけど、その代償に彼らは、まともな精神構造を破壊されてしまっていた」
「兵器として使われる子供が連合にいるってことは、モルゲンレーテでもよく噂になってた。
生体CPUってね──堂々と、下卑た言葉を使うもんだ」
「今は彼らの精神的暴走は制御されているけれど、相当理不尽な手段が必要なことには変わりない。
ウーチバラで私が人質にした子も、おそらくその一人。
あの子たちの場合は、特定の言葉を聞くと崩壊状態になるようね」
「君自身は、違う方法を使っているようだな」
サイは腕組みしつつ、出来るだけフレイの表情、仕草、視線などから目を離さぬよう努力した。
今のところ、嘘を言っている様子は見られない。
フレイの制服は若干シャワーを浴びて肌に貼りつき胸元の線を露にしていたが、今そんなことに構っていられる余裕はない。
それほど、これは――
大変な告白だ。
「ドミニオンから救出された後、私は戦いの為の人格を植えつけられた。
それが、今までアマミキョで貴方が見ていた、フレイ・アルスター。その真実」
「二重人格ということだな。
記憶の一部をなくしているのも、強化の影響か」
「そう。
そして、もう一人の強化フレイが表層意識に出ている場合――
どんなに元のフレイ、つまり私が頑張っても、戦闘の為に造られた私を止めることは出来ないの」
サイはフレイの話を一旦手ぶりで止め、考え込む。
疑問点はいくらでもある。
一体何処から質問すればいいのか、分からないぐらいだ。
「それにしては、戦闘体……って言っていいのかな?
別人格の君の行動は冷静すぎるよ。
戦う為というよりも……」
「アマミキョを護る為、でしょ?」
フレイの眼がサイの頬に近づき、妖しく瞳孔が揺れた。
「理由はある。
連合によって秘密裏に作られた私たちだけど、陰でその情報を手にした者がいた」
「ムジカ社長か」
「社長は私を買ったのよ。チュウザンの研究所で、ある学習を施してくれた──
そして、『アマミキョを護る』ことを最優先とする戦闘人形が生まれた。
それが」
「もう一人の君、か。
コーディネイターと名乗っているのは、強化された事実を隠す為だな。
あのマユもカイキも、同じ研究所の人間か」
「そう思ってくれていいわ。はい、これで謎解き終わり!」
フレイは朗らかに立ち上がる。
「分かったでしょ? 私が昼と夜、働いている意味も。
命の味を思い出させる――その、本当の意味も」
だが、サイは厳しい表情を崩さない。
半裸でしかめっ面をしても大した威厳が出るわけがないことぐらい、サイは承知していたが。
「何故、そんな大事なことを、こんなに簡単に、俺に?」
「だって……このままじゃ」
フレイはさらに身体を近づけ、サイの鎖骨あたりに出来た黒い痣を撫ぜた。
白い指と紅の毛先がくすぐったい。
「サイが……可哀相で」
見るとフレイは、涙までひとしずく落していた。
──悪いが、そんな誘惑に乗るほど、俺は子供じゃない。
「そう思うなら」サイは肌をなぞるフレイの手を強引に引き離し、肩を掴む。
もし誰かに目撃されたら、妙な勘違いをされること確実な体勢だ。それでもサイは声をふり絞った。
「今すぐ統制を解いてくれ。いや、完全にとは言わない。もう少し緩くだ。
今の船内は一見安定してるように見える。仕事も豊富だ。
だがな、能力の劣るナチュラルの不満は溜まっているんだ。1週間最下層にいた俺には分かる」
するとフレイは、何を勘違いしたか。
サイに縋りついてきた。ほぼ涙目で。
「ごめん、ごめんね! 許して、サイ。
瞑想室で何をされたか、そんな野暮を聞くつもりはない。カメラも見てない。
ヘンな映像が残ってたらすぐ全部消すから!!」
「俺のことなんか別にいいよ。ってか、そこまで酷いことはさすがにやられてないし。
でも──このままじゃアマミキョは、今の世界の縮図になってしまう。
この意味が分かるなら、コーディネイターとナチュラルがいがみ合うことの少ない体制に戻してくれ」
「それは駄目」フレイは優しく、しかしきっぱりと頭を振った。
あまりにも明白、かつ突然の拒絶に、サイはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「言ったでしょ。私に『彼女』は止められない。
『彼女』の行動は、アマミキョを護る為なの。
『彼女』は絶対に、アマミキョを護る為に動く」
フレイはサイの手をゆっくりと外し、立ち上がる。
それ以上立ち入ってはならない、見えない壁の圧力。
その壁に圧され、サイはどうしても、もう一度声をかけることが出来なかった──
そんな彼に、フレイは決定的とも言える一言を残していった。
「何より──
私も今の体制、悪いと思ったことはない」