【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 狂いだす歯車

 

 

 アマミキョの喧騒と統制の日々は、それから150日ほど続いた。

 

 シュリ隊メンバー──つまりアマミキョクルーにとっては、アマクサ組に追い回されるわ、各コロニーの避難民たちに泣き喚かれるわどやされるわ、自分たちの生活空間確保もままならぬわで、150日が15日の短さにも思えたのだが──

 状況によっては逆に、1500日もの長さに思えたという者も当然いたが

 

 ――それでも、容赦なく時間は経過していく。

 世界の情勢も。

 

 アマミキョは、予定航路の変更を余儀なくされていた。

 ウーチバラ、ミントンで度々襲撃を受けたダメージは意外に大きく、未だに完全修復には至らず、予定通りにコロニーを回ることは不可能だったのだ。

 フレイはリンドー副隊長と相談した上で、やむなく幾つかのコロニーを飛ばして航路を変更していた。救援を要するコロニーをアマミキョは素通りすることになったのだが、アマミキョ自体が壊れては元も子もない。

 さらにアマミキョは今後地上に降り、数段過酷な救援活動を行なう予定になっている。

 それでなくとも、アマミキョは既に10数基を超えるコロニーで救助活動を行なっており、避難民用居住ブロックはそれらのコロニーから脱出した人々で満杯だった。

 医療ブロックも負傷者でいっぱい、カタパルトは修復を要する作業用アストレイでいっぱい、瞑想室もいっぱい、ついでに空域もテロリストたちでいっぱい──

 尤も、フレイたちアマクサ組の力で、テロリストの脅威からはほぼ完全に守られてはいたが。

 

 この状況を鑑み、フレイは船内統制システムをさらに強めた。

 ブリッジ組、医療班、整備班、食糧班などの作業ごとのグループ分けとは別に、隊のメンバーを改めてグループ分けしたのである。

 新たに編成されたグループメンバーは、業務内容や各人の能力が出来る限り重ならぬよう決定されていた。

 何故フレイがこのような面倒をしたかというと──

 

「連帯責任制」の実行である。

 つまり、班の誰かがミスを犯せば班全員がポイントを引かれ、逆に誰かが秀でた活動をすれば全員がその恩恵を受ける、というわけだ。

 

 単純な仕組みだったが、勿論クルーがこの制度に素直に賛成できるはずもなかった。

 サイと同班になったのはナオト、カズイ、ネネ・サワグチ、ヒスイ・サダナミ──

 までは良かったが、なんとあのナチュラル嫌い、ハマーまでもが入っていたのである。しかもハマーの手下とも言える人間が、あと2名。

 幸い、居住区まで一緒になれと強制されたわけではないにしろ、サイは不愉快な気分を隠せなかった。

 しかしそれ以上にハマーたちは不愉快だったらしく、のしのしと手下を連れてサイやカズイの横を通っては唾を吐く、などということはしょっちゅうだった。

 

 

 

 

 ハマーたちの件は個人的問題だからどうにでもなるにせよ、サイはフレイの提案した新たな連帯責任制自体が気に入らなかった。

 自分の予想通り、社長が下船して以来、フレイらアマクサ組の統制は勢いを止める気配はない。しかも――

 

 元の「フレイ」と再会して以降、サイは彼女と話すことが全く叶わなかった。

 元の「フレイ」とは勿論、いわゆる第2の好戦的人格である「フレイ」とすら、ろくに会話をさせてもらえない状況なのだ。

 しかし、フレイがアフロディーテなるストライクもどきを動かし、アマミキョを自らの手足の如く動かしている様相を見ていると──

 

 サイは、目覚めてくれと願わずにいられない。

 そこに、元のフレイがいるのならば。

 

 その歯がゆい思いは、サイ自身がフレイに何度もくってかかるという最悪の行動となって現れることになった。例えば──

 

「瞑想室の換気ぐらいは通風孔の修理で改善されるはずだろ」

「今の食糧配達状況を知ってるのか? 負傷者まで行き渡ってない、彼らは救護活動中に負傷したんだぞ!」

「エレベーターの使用制限は解除してくれ、朝っぱらから隣接ブロックにまで行列している光景はもうたくさんだ」

「休憩時間は交替制にすべきだろう、短時間に食堂へ人が殺到する!」

 

 ……などなどの、切実な要求となって。

 

 しかし当然、それらの提案はほぼ全て、退けられた。

 フレイに意見出来る者はアマクサ組と隊長、副隊長に限られていた為だ。サイがどれだけ叫ぼうと、彼女は聞く耳すら持たなかった。

 さらに悪いことに、サイはその度にカイキやトニー隊長に殴られポイントを引かれ。

 しかも連帯責任でグループメンバーのポイントまで引かれ、当然他班員たちの不興を買ったのである。

 それでもナオト、カズイ、ネネといった面々は何も言わずにいたが

 

 ――その分、ハマーの怒りは凄まじかった。

 

「フレイ嬢に文句言うたぁ、貴様どこの蛙の王子様だ! 

 船外投棄されないだけでもありがてぇと思えっ」

 

 ハマーたちに倉庫に連れ込まれ、足腰立たぬほどの暴行を受けたのも、一度や二度ではなかった。

 ──それでも、サイが意見してある程度経過すると、ほんの少し瞑想室や食堂やエレベータの状況が改善していたのは、唯一の救いというべきか。

 

 

 

 

「いい加減にして下さいよぅ。

 毎日じゃないですか、ここ来るの」

 

 医療ブロックで今日も看護師ネネは、サイの頬に絆創膏を貼るハメになっていた。

 

「そのうち毎時間ごとになるかもね。

 学習しないと、いずれ骨折するわよ」

 

 手の空いた貴重な時間に、スズミ女医も顔を出してサイにさらりと嫌味を言う。

「……確かに、馬鹿のひとつ覚えですよね」サイは弁解しつつ、素直に治療を受けた。

 

 ネネたちに迷惑がかかっているのは承知しているが、フレイの暴走はどうあっても止めたいサイだった。

 中に、元のフレイがいるのならばなおさら──

 

 いや、元のフレイ自身が今の暴走フレイを容認しているのならば、止めようがないじゃないか。

 シャワー室での彼女の言葉と捨て台詞を信じる限り、フレイ自身にもう一人のフレイを止める手段はなく、また、止める意志もないのだから。

 

 

 そもそも――

 問題のシャワー室の会話にしても、疑問があった。

 

 

 二重人格というものをサイは見た経験はないが、今出現している「強化」フレイには、強化され植えつけられたというだけでは──

 何とも説明しがたい、鮮烈さがあった。

 

 これは、チュウザンで初めて彼女に出会った瞬間から感じていたものだ。

 最も的確な表現は、高潔、高貴──少なくとも、1年や2年で身につく種類のものではない。

 

 さらに、もっと根本的な疑問がある。

 爆死したとされる人間が、ああも無傷で(少なくとも顔に外傷はない状態で)復活するなどということが可能なのか。

 そんな芸当が許されるならば、世界中に未だ渦巻く悲嘆や憎悪は殆どが消えてしまうのでは──

 

 宇宙は広いが、星にだって寿命はある。

 爆死したって生存できるというのなら、今も俺の目の前で搬送されていった霊安室行きの人間たちはどうなる? 

 

 何より、『あの』キラが、フレイが爆死した瞬間を目撃している。

 俺の目ならいざ知らず、あれほど優れたキラの目が、彼女が原子レベルまでちりぢりになる光景を見ていたんだ。

 

 勿論、サイだって認めたくはない。

 フレイが本当に生きて目の前にいるというのなら、どんな彼女であれそのまま受け止めたい。

 

 ――そんな葛藤が、サイを過剰に急きたてていた。

 何とかフレイを止めたい。

 アマミキョ全てを背負って、一体フレイは何をやろうっていうんだ。

 

 空回りを繰り返していくたびに、同じ班員からは疎まれ、別班からは笑われる。

 あることないこと好き勝手に散々噂している女子連中のことも、もうサイは分かっていた。

 

「ねぇ、サイさんって二等兵どまりなんだって」

「えー? 結構優秀に見えたけどなぁ」「要は、才能もない癖にカラ威張りして元カノ追いかけまわしてるってこと!」「キモいよねぇ、未練がましいヘタレ眼鏡が」

「キラ・ヤマトにもさぁ、友達ヅラしながら意外と冷たかったとかいう噂だよ」「あたしも聞いたー。友達を戦わせておきながら、自分は戦闘シミュレーターにも触らなかったとか」

「えぇ? キラってあれだけ命張ってたヒーローなのに!?」「よっぽど土下座事件が効いたのかねぇ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 間もなく、アマミキョは月軌道を離れ、チュウザン本国への降下準備を始めた。

 つまり、大気圏突入である。

 時は、CE73年9月27日。突入予定日まであと1週間だ。

 

「もうすぐ地上なんだし、いい加減にして下さいよ」

 

 ナオトが、疲れきってベッドに突っ伏したサイに罵声とも取れる言葉を浴びせる。

 ナオトとカズイは同班ということで、正式にサイと同室になることを許されていた。3人用の部屋はかなり窮屈ではあったが。

 

「確かにサイさんの意見は僕も賛成です。

 だけど、言い方を考えて下さい」

 

 サイズの合っていないぶかぶかのパジャマで、ナオトは腕を振り回す。

 彼にしても、自分のポイントがサイの未練のおかげで引かれていくことは、決して気持ちのいい事態ではなかった。報道業務は殆どポイントにならず、ティーダの作業でしか彼は稼げない。

 二段ベッドの上から顔を出し、カズイも言った。

 

「ナオトの言う通りだよ、サイ。

 これ以上船内で目立ってどうするんだよ。ナオトが社長に褒められるようなレポートをオーブに送ってるからこそ、俺たちもこの部屋確保出来るんだぞ」

 

 涙が出るほどの正論だと、サイ自身も思う。

 だが、反論せずにいられない。

 

「カズイは何とも思わないのか。

 ナチュラルの女性隊員たちの生理周期が狂いまくってるって話」

 

「サイさん、セクハラ」ナオトが枕を抱いて少々おどけて見せるが、

「俺はそんなこと言ってるんじゃないよ!」サイはつい本気で怒鳴ってしまう。

 

「ポイント不足から来る過剰労働のせいだ。

 ナチュラルは稼げるポイントが少ない、だから体力無視で労働する必要がある。

 ストレスで身体壊して、貧血を起こしてる子も後を絶たない」

 

「すみません……」自分の冗談でサイを怒らせたことに気づき、ナオトは一応謝る。

 しかし、反論も忘れなかった。

「でも、今は通常の状況じゃないでしょ。

 これでもアマクサ組はうまく運営してくれてると思います」

 

 カズイもナオトの意見に、うんうんと頷いた。

 

「最低必要量が瞑想室の連中にまで行き渡っていること自体、奇跡なんだ。普通なら餓死者が大量に出てる……

 気づけよ、サイ。真正面から何度も突撃して連続玉砕なんて、ナオトでもやらないよ。なぁ?」

 

 そう言われナオトは一瞬膨れっ面になったが、すぐに気を取り直した。

 

「今サイさんのやってることって、PS装甲と分かってる場所に竹刀振り下ろすようなもんですよ?」

「戦術を変えろ……か」

 

 サイは二段ベッドの一番下で、制服のままうずくまる。

 

 フレイが強化人間だということも、マユたちの秘密についても、サイは一切他人に漏らすつもりはなかった。それが原因でどれだけ周囲と溝が出来たとしても。

 フレイたちの秘密を手にしたことで彼女を脅すという手もあったが、それをどうやって証明する? 一体誰が信じる? 

 俺ですら、まだ信じられない。

 

 第一、そんな卑劣な方法でフレイを貶めたくはない。

 フレイはもう一人の自分を欺いてまで、俺に秘密を打ち明けたのだ。どんな意図があったにせよ、それを裏切る真似は出来ない。

 そういう俺の性格を見抜いての、フレイの告白だったのなら恐ろしいが。

 

「さすが腐ってもマスコミ、うまい言い回しだね。

 PS装甲に竹刀……」

 

 

 その瞬間。

 サイの脳裏に、電光の如く閃くものがあった。

 同時に彼は、勢いよくぱっと起き上がる。

 

 

「ナオト。

 ティーダの大気圏突入能力は確認してるか?」

 

 

 突然の問いに、ナオトは目を白黒させながらも答える。

 

「シミュレーションがまだですから分かりませんが、ミゲルさんの話だとストライクと同程度だそうです。

 緊急用のバリュート(大気制動装置)もあります……でも、それが?」

 

 カズイがすかさず疑問を提示した。

 

「え? 何考えてるんだよサイ。

 まさか、ティーダ単体での大気圏突入がありうるとか? 地上降下作戦じゃあるまいし」

「ちょ、やめてくださいよ。

 突入時はアマミキョ船内で、高重力体験レポート予定なんですから」

 

 驚いて口を尖らせるナオトを、サイは制した。

 

「分からない。

 99パー杞憂ですむと思うが、今の大気圏は危険だ。万が一のこともある──」

 

 サイが思い出していたのは、アークエンジェルでの大気圏突入だ。

 

 あの時も戦闘に巻き込まれ、アークエンジェルから脱出した民間船が攻撃された──

 アークエンジェルへ残る決心をしていなければ、俺たちはみんな死んでいたかも知れない。キラも、ストライクでの大気圏突入を余儀なくされた。あのキラでさえ、数日発熱でうなされた大気圏突入──

 そしてフレイの態度は、あの時からおかしくなった。

 重力の境界に、サイは決していい思い出はない。

 

「ティーダのトランスフェイズシステムのチェックをしよう。問題があれば俺が修復する。

 それからバリュートの点検もしておくんだ、ナオト」

 

 そんなサイの提案に、カズイはなおも口を出す。

 

「えぇ……サイはアマミキョの突入準備で、軌道計算プログラムのシミュレーションもしなきゃだろ? 大変だよ」

「一緒にやるさ。何だったらアムルさんにも手伝ってもらう。

 あの人、情報数学専攻だったろ」

「で、でも……」

 

 ナオトはサイの勢いに圧倒され、ぽかんと口を開けていた。

 そんな彼の肩を、サイは力強く叩いてみせる。

 

「突入では必要なくとも、地上ではもっと過酷な事態が想定される。

 ティーダをもっと強化して、今後ナオトとマユが絶対に無事なようにするよ。

 これまで、散々迷惑かけた詫びだ。ポイント稼ぎもあるけどな」

「あ……ありがとうございます!」

 

 嬉しい気持ちはどうしても隠せないのが、ナオトという少年だった。

 

「でも、やっぱり突入で必要にならないことを願いますよ」

 

 

 

 

 サイやナオトは勿論、フレイたちアマクサ組ですら知らなかったことだが──

 ナオトが嬉しさのあまり枕を抱きしめた、この瞬間

 

 ――ユニウスセブン落下まで、残り170時間を切った。

 

 

 

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