【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
ユニウスセブン落下まで、残り10時間。
突きつけられた事態に、ブリッジは勿論、アマミキョ全体が阿鼻叫喚の地獄に包まれた。
医療ブロックでは看護師ネネが、狂乱する患者たちにすがりつかれながら──
「あんなものが落とされたら、オーブは、地球は……お母さん!」とパニックになる。
女医スズミすらもいつもの冷静さを忘れ、禁煙のトイレで2ヶ月ぶりの煙草を吸ってしまい、スプリンクラーの水を被るハメになった。
ブリッジと船内の連絡役のカズイも、通路で目にしたモニターを前に、完全に立ち往生してしまった。
「救助活動どころじゃないよ、チュウザンは……
落下予測コース、ド真ん中じゃないか!」
ついさっきまでいつもの怒声を響かせて作業班をまとめていたトニー隊長も、モニターに示された現実に両手を上げ、喚く。
「どうすればいいというのだ……我々は!」
ティーダコクピットで調整中のナオトの声が、ブリッジへ叩きつけられた。パネルを殴る音と共に。
《どういうことです!?
どうして動くんだよ、あんなもの!》
まるでフレイたちが動かしたとでも言いたげなナオトの言動だったが、サイが諌める。
「今は原因を探るより、結果に対応するんだ」
《よくもまぁ冷静でいられますねサイさん!
オーブがどうなってもいいんですかっ》
「パニクってヒスって状況が変わるなら、ずっと怒鳴ってろ!」
俺はどれだけ寝ていないんだ。サイもいい加減、自らの疲れを自覚せざるを得なかった。
そんな狂騒を横目に、フレイは呟く──
「どうして、ではない。
誰が、だ」
その言葉を聞き逃すリンドー副隊長ではない。
「今、犯人探しをした処で始まらんよ。
どうするねアルスター隊長、予定通りの大気圏突入はおじゃんかな」
「無理に決まってる!
それより、どうにかしてアレの軌道変えられねーのか!」
操舵士オサキが怒鳴り散らす。監視モニターで船内を見ると、各所で騒ぎが発生していた。
いまやオーブ、チュウザンは勿論、地上の全域が危機に晒されているのだ。地球育ちの者が大半の船内、冷静になれる者がいようはずもなかった。
「いや──」
フレイは腕を組みなおし、もう一度モニターを真正面から見つめた。視線だけで画面のユニウスセブンを破壊しようかというように。
「今からでは、オーブや連合艦隊がどれだけ出たところで、奴の軌道は変わらん」
「だったらどうしたらいいのよ! このまま破滅を待てっていうの?」
アムルもまた、フレイの静かな言葉への反駁を隠せなかった。だが、フレイは彼女の存在を全く意に介さない。
「――このまま、大気圏突入は敢行する」
ブリッジの人間全てを叩きのめすかのような、フレイの一言。
そんな馬鹿な。隕石が降りそそぐやも知れぬこの状況で、突入シークエンスに入るというのか?
あまりのことにかえって静まりかえったブリッジに、フレイの声はただ響く。
「ザフトの艦隊が破砕作業に入っているとの情報を得た。
あのようなデカブツでも、小さく砕けば大気圏内で燃やすことも可能だ」
「あんな大きなもの、砕き切れるわけ――」
アムルのヒステリックな声は相変わらず、ブリッジの苛々をかき立てる効果があった。
だが彼女が言い終わらぬうちに、フレイは断言する。
「砕き切るんだ」
強固な意志を言葉の裏に感じ取り、サイは思わず呟いた。
「──俺たちが、か」
PHASE-08 プラント崩落
きっちり10時間後、アマミキョはチュウザン上空の軌道に達した。
本来ならここから大気圏突入コースのはずだったのだが、当然ながら手順は大幅に変更されている。
ユニウスセブンの落下コースを出来うる限り正確に把握し、チュウザン付近へ落ちる軌道のものを集中的に叩く──それが、フレイの作戦だった。
また、チュウザンを襲うであろう残骸を叩くことは即ち、その先のコースにあるオーブ北端を守ることにもなった。
残念ながら、その他の地域に関わっている余裕はない。オーブ国土への直接の被害は微小という予測は既に出ており、それがクルーたちにある程度の冷静さを取り戻させていた。
「視認できました! あれですっ」
オペレータ・ディックの声が響くと同時に、フレイはブリッジから飛び出した。
「出来る限り接近しろ、全機出撃位置へ!」
モニターに映し出されたユニウスセブン。ザフト艦はかなり奮闘してくれたものと見え、真ん中から水色のクッキーのように大きく二つに割れ、さらにその破片が次々と真空へ舞い散っている。
「それでもまだ、あんなに大きいのかよ……」
眼前に迫った、プラントの残骸。それが映し出された瞬間、ブリッジのあちこちから呻き声が上がった。
サイは改めて、その絶望的な威容を呪わずにはいられない。本体はアマミキョからはまだまだ遠いが、そこから離れた断片一つですらも、落ちれば都市ひとつを壊滅させる威力はあるだろう。
そのような破片が今、無数に星に降りそそごうとしている。アマミキョはそのデブリ群の眼前に立ちはだかることになった。
今度ばかりは、誰もこの作戦に異議を唱える者はいなかった。プラント落下からチュウザンを、地上を守る──
それは救助隊アマミキョの前に立ちはだかった、かつてない巨大プロジェクトである。
ウーチバラ襲撃のショックから立ち直り、救助隊としての自覚を取り戻し始めたアマミキョクルーの心が、湧き立たぬはずはなかった。
「あそこでユニウス条約が締結されて、まだ2年も経っていないのに!」
既にナオトはティーダコクピットに待機していた。
マユは今回は後席である。前席は戦闘担当である為本来はマユが乗るべきだったが、怒りに燃えたナオトは聞かなかったのだ。また──
「100年は安定軌道を保障されていたものが、いきなり変わるわけないよねー」
このマユの発言も、ナオトの感情を暴走させていた。
――じゃあ、人為的になされた行為だというのか! これが!
重力の境界ギリギリの宇宙へ、M1アストレイ7機が全機出動していく。
本来作業用でビーム兵器の類は持っていないアマミキョのアストレイ隊だが、その代わり彼らは手榴弾を機体に山ほどくくりつけていた。
「こんな大仕事、感謝するぜ」「ポイントまるもうけだ」
「あんたら、馬鹿なの? あれを砕くのは、救助隊の使命でしょっ」
威勢のいいパイロットたちの声が、ナオトのコクピットにも響いた。
アマクサ組はカイキのカラミティが先鋒だ。勿論大出力の砲撃戦装備である。
続いてティーダが宇宙へ飛び出した。
「人間相手じゃないし、盛大にぶっ放しますよ!」
胸元のフーアのお守りを握り締め、ナオトは叫ぶ。
「ガンダム・ティーダ。
ナオト・シライシ、マユ・アスカ、出ます!」
出撃時のGには、早くも慣れたナオトだった。
漆黒の宇宙へと、勢いよく飛び出していく白い機体。
「前席で、ホントに大丈夫?」
出てしまってからマユが聞いてきたが、ナオトは余裕でバイザーまで上げ笑ってみせた。
「へへっ。
訓練の成果、見せてあげるよ」
若干調子づいたナオトを諫めるように、サイの声が聞こえてくる。
《重力には気をつけろ、危ないと思ったらすぐ戻れ》
アマミキョの砲門が開かれる。ヘルダート──本来、アマミキョコアブロック防御目的でのみ造られた対空機関砲。
あれで撃つのだ、ユニウスセブンを。
「サイさんたちも気をつけ――うっ!」
ナオトが言うより早く、砲火が放たれた。リンドー副隊長の「ヘルダート、撃てーっ」の声と共に。
普段のボソボソ副隊長からは想像もつかぬほど轟く声だった。昔ザフトの白服だったという噂は、本当だったのだ。
ティーダ、カラミティ、アストレイの眼前に迫っていた巨大なビルの構造物が、一瞬で破壊される──
ウーチバラを出て初めて、アマミキョの砲がその威力を発揮した瞬間だった。