【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 重力の境界

 

 

 ティーダがアマミキョ外壁に着地してすぐ、アフロディーテが追いついてきた。

 ティーダはそのままアフロディーテの両の脚部を掴むと、左脚を軸にして大回転を始める。

 アマミキョの重力場と、外壁の堅固さに頼った戦法だった。

 

「壁に穴空いちゃったら、ごっめんねぇ~!」

 

 マユは笑いながら、ティーダと一緒にアフロディーテをそのままぐるぐる回す。その機動に慣れていないナオトは、あっという間に目を回してしまった。

 

 勿論フレイは平気な顔である。ジャイアントスイングの要領で大きく回され続けるアフロディーテのIWSP──115ミリレールガンとガトリング機関砲から、一気に火線が飛び出した。勿論、手持ちのビームライフルも全開だ。

 

 アマミキョを中心に、光の向日葵が咲く。

 その花びらを生んでいるのはアフロディーテであり、中心にいるのはティーダだった。

 5回、6回、7回と生みだされた炎の向日葵は、アマミキョ周囲の岩盤を一瞬にして突き崩していく。

 

 フレイとマユの恐るべき機動は、それだけに留まらない。

 さらにティーダは10回目の回転の後、遥かデブリの向こうのカラミティに向けて、アフロディーテを投げ飛ばしたのだ。

 

 無数の小さな破片など、アフロディーテのTP装甲はものともせずに弾いていく。

 一気にカラミティのもとへ到達したアフロディーテは、そのままカラミティを掴んで再び投げ飛ばした。勿論、カラミティの砲門は絶好調のままで。

 

 

 

 

 

 丁度50度目の砲火がアマミキョから放たれたが、必死の努力にも関わらず──

 

 破片は、まだまだ大きかった。

 何しろ、24万からの人間が住んでいた場所である。戦艦を撃沈するのとは全く訳が違う。

 

 サイはアマミキョとデブリ、そしてユニウスセブン本体の位置と軌道確認に必死で、すぐ後ろにリンドー副隊長がのそりと近づいていたのに気づかなかった。

 

「破砕作業に、ジュール隊が参加してるそうだ」

 

 耳元でいきなり呟かれ、サイは思わず立ち上がりかける。

 だがすぐに、モニターで拡大されているユニウスセブンを振り返った。

 

 ――あそこに、ジュール隊がいる? 

 大きく割れたユニウスセブン本体の周りを取り囲む、数隻のザフト艦。それらの船やジュール隊にサイは感謝したかったが――

 同時に、呪いたい気持ちにもかられた。

 

 

 エルスマン。

 君たちは、もうちょっとやれるはずだろ。

 

 

 外ではフレイがまたしてもカラミティをぶん投げ、光の華で岩石を破壊し続けている。

 いい加減エネルギーが切れたカラミティは、丁度アマミキョの前方で姿勢を制御し直し、カタパルトへ帰還していく。

 そしてラスティのスカイグラスパーもまた、散らばり続けるデブリをキャノン砲で破壊していた。

 

 アフロディーテのエネルギーが早くも尽きかけているのを見て取ったのか、スカイグラスパーは機敏にアフロディーテに接近する。

 ――と、アフロディーテが背中のIWSPを切り離し、スカイグラスパーは慣れた機動でそれを受け取った。

 これでアフロディーテは素のダガーLに戻ったことになるが、それでもフレイはビームライフルのみでユニウスセブンの破片を撃破し続ける。

 スカイグラスパーは即刻アマミキョに帰還し、IWSPの予備バッテリーにエネルギーを充填し、着船から10秒足らずで再出動していく──

 

 ザフトだろうと、十二分に通用しそうな速さだ。

 スカイグラスパーからIWSPを受け取り、再びアフロディーテは翼を取り戻す。

 

 

 ――こんな光景を見ながら、サイは歯噛みせずにはいられなかった。

 何をやっている、ジュール隊は。ヤキン戦において、核の脅威からプラントを守り、ジェネシスの猛攻撃からアークエンジェルを守り抜いたあの、イザークとディアッカは何処へ行った。

 フレイたちがこれほどまでに頑張っているのに、君たちは何をやっていたんだ、あそこで! 

 

 

 ──残念ながらこの時のサイには、ジュール隊がサトーらテロリストの攻撃を受け、破砕作業を妨害されたことまでは、知らされていなかった。

 また、かつて自分たちを襲ったミネルバ隊とファントムペインがユニウスセブンの上で交戦状態に陥った事実も、サイは勿論、アマミキョクルーは誰一人として知らなかった。

 そして当然、あのアスラン・ザラがミネルバ隊と共に破砕作業に参加していたということも。

 

 所詮ザフトは、プラントを根城にするコーディネイターたちは、地球に住むナチュラルなどどうでもいいのか──

 同胞もろとも犠牲になったとしても。

 

 サイの心に浮かんだ、ほんの僅かな暗いざわめき。

 だがそれは、この場のナチュラルであれば当然のように脳裏によぎった疑惑でもあった。

 

 

 

 

 その間にもカラミティがエネルギー充填を終え、再出動していく。その先には、アフロディーテが待っていた。

 

《やるか、フレイ!》

 

 意気込んで叫ぶカイキのメットの中では、既に汗が滝のように流れ出している。にも関わらず、彼はフレイの無言の命令に従った。

 ティーダの代わりにアマミキョ外壁重力場に立ったアフロディーテは、先ほどティーダが自分にやったのと全く同じ要領で、カラミティを掴みそのままぶん回し始めた。

 

 先ほどよりひときわ激しく光る火球が、宇宙に出現する。

 アマミキョを中心として拡がっていく、幾筋もの光条──

 ティーダもアストレイ隊もスカイグラスパーも、よけるのが精一杯だ。

 

 

 

 

 その光のおかげで、サイはふと我に帰った。

 自らの心をよぎった黒い靄に気づき、急いでそれを打ち消す。

 

 アークエンジェルに乗っていた俺が、未だにそんな考えに囚われてどうする。キラも、ラクス嬢も、アスラン・ザラも、アスハ代表も皆、そんな闇を乗り越えた高みにいるんだ。

 そして、今俺の目の前で戦い続けるフレイも。あれだけコーディネイターを嫌っていたフレイが、コーディネイターと自ら名乗り、自らの手で戦っている。

 

 そう――最初から俺はキラに見せたくて、ここにいるんだ。今のフレイの姿を。

 そしてキラに言ってやりたい。フレイはお前なんか蹴飛ばしちまうくらい強くなって、帰ってきたって。

 

 サイは同時に気づいた――ジュール隊を責めちゃいけない。

 何を馬鹿なことを考えていたんだ、俺は。あのエルスマンが、ミリアリアがいるであろう地上が危ないという時に、手を抜くなんてありえない。ありえないだろう!

 ──それだけ、フレイの戦い方が鬼神すぎるだけの話だ。

 

 

 ふと見ると、またもフレイはカラミティを投げていた。

 重力場に引かれない方向、しかもアマミキョやアストレイやティーダが射線にいない方向を一瞬で探り当て、正確に機体を投げる──

 

 

 一体何故、『あの』フレイは、そこまでして戦える? 

『彼女』は本当に、ただ単に植え付けられただけの人格なのか? 

 

 

 アフロディーテの死角、つまりアマミキョ船体の反対側に位置していたスカイグラスパーがアフロディーテのエネルギー切れを見越して回り込み、再び切り離されたIWSPをキャッチする。

 そしてまた、スカイグラスパーはアマミキョへとんぼ返り。

 再度スカイグラスパーがIWSPにエネルギーを充填して戻ってくる間に、アフロディーテはビームライフルで縦横無尽に岩盤の間を動き回る。

 

 サイが耳を澄まして通信をよく聞くと、アフロディーテから切れ切れながらも、フレイの声がキャッチ出来た。

 ──いや、声じゃない。これは、息切れか? 

 

《死ぬな、死ぬでない。

 絶対に死なさぬ、皆の者……!》

 

 確かにフレイは、そう呟いていた。戻ってきたスカイグラスパーから、IWSPを受け取る間に。

 ──誰に言っているんだ、この言葉は? 

 

 その瞬間サイの手元のモニターが、警告を発する。

 アマミキョが重力に捉えられるまで、残り200秒もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレイの消耗は、ティーダで動き続けるナオトも気づいていた。尤もナオトも、マユの凄まじき機動に振り回され、限界に来ていたが。

 考えられない。モニターに異常がなければ、確かにさっき見たフレイは汗をかいていた。しかも、息切れまでしていた。

 

「人間だったんだね……あの人も」

 

 そう呟くナオトの前で、フレイは再びカラミティを投げる。

 今度はひときわ大きな岩盤に向けて、一直線に飛んでいくエメラルドの機体。

 

「危ない!」思わずナオトが叫んだが、マユは平気な顔だった。

 兄が、岩盤に激突するというのに──

 

 

 

 

「トランスフェイズを、なめんじゃねぇ!」

 

 ナオトの声に刺激され、カイキはカラミティの中で叫んでいた。

 そのままカラミティは速度を全く変えず、かつて農地であったのか、ひときわぶ厚い土の塊を含んだ構造物に突っ込んでいく。

 その大きさは、カラミティの20倍はあったが──

 

 かつてデブリに衝突して爆砕された幾多の機体の魂が、この瞬間泣いたことであろう。

 カラミティに施されたフェイズシフトの威力は、機体より先に岩の方を粉砕していた。

 勿論、この時パイロットのカイキが被った衝撃も尋常なものではありえず、カイキはコンソールにメットを打ちつけてバイザーを割り、額から相当の出血をするハメになったが。

 

 それでもカイキは、笑っていた──

 

「チグサ、見てるか……

 俺はやるぜ。お前の為にな」

 

 

 

 

 

 

 サイには分からなかった。

 フレイもカイキも、何故そこまでして戦う? 

 ブリッジからでも、フレイの消耗は見て取れた。それに、あの言葉は何だ? 

「皆の者」とは、誰のことだ。

 アマミキョクルーに向けての言葉とも解釈できるが、フレイは遥か眼下の大地──地上に向けて言い放ったようにも思える。チュウザンへ向けて。

 

 だが、サイがそれに思いを馳せている暇はなかった。

 モニターからの警告が、さらに大きく鳴り響く。

 重力に引かれるまで、残り──

 

 サイは叫んでいた。「宙域で作業中の機体は、全員戻れ! 

 あと150秒っ、もう危険だ!」

「突入シークエンスに入る、砲門閉じろ!」

 

 リンドー副隊長が命令を下し、操舵手オサキが舵を握りつぶさんばかりに身構えた。

 外ではまたもや、アマミキョの重力場を利用したティーダが光を放つアフロディーテを投げ、その先でアフロディーテがカラミティをキャッチし、アフロディーテが砲門全開状態のカラミティを投げるといった、神をも恐れぬ連携プレイがなされていた。

 

 

 

 

《ティーダは戻れ! 

 貴様らの動きでは、重力に捉えられる!》

 

 フレイの怒声がコクピットに反響したが、ナオトは強情だった。

 

「まだ大丈夫、いけます!」

 

 丁度ティーダは今、フレイやカイキとの連携を成功させたばかりで調子が良かった。アマミキョから離れ、さらに前方の岩盤のあたりまで突っ込んでいくティーダ。

 重力の衝撃を、ナオトの身体も感じ始めていた。心臓も胃も脳みそも血管も、あの蒼い星へ引きつけられていく。

 

「ナオト、戻ろ。

 フレイとお兄ちゃんの命令だよ」

「ティーダ、モドレ。ティーダ、モドレ」

 

 マユとハロが同時に警告を発したが、ナオトはそれでも破砕作業から退こうとはしなかった。

 これは、大気圏突入の恐ろしさを知らぬ少年の、幼さと浅はかさ以外の何物でもない。

 ブリッジからは、サイの声が何度も響いている。

 

《何してる、ナオト! あと120秒切ったんだぞ、重力圏突入まで!!》

「まだ大きすぎるじゃないか、どの破片も!」

 

 ナオトはそれでも、ティーダのレーザーライフルを撃ち続ける。

 

「その為のバリュートとTP装甲強化でしょ、サイさん! 

 感謝しますよ」

 

 それを言われ、回線向こうのサイは一瞬口ごもる。

 畳みかけるようにナオトは怒鳴った。

 

「僕だってね……

 半分コーディネイターなんですよ!」

 

 

 

 

 細かく砕かれたかつての大地は、やがて紅に染まり炎と化していく。

 既にはるか遠方では、砕ききれなかった構造物が、燃えさかる巨大な車となって地上に落ちようとしている。

 あの落下物は、もう間に合わない──

 

 その手前では、M1アストレイ隊がアマミキョへ次々と帰還していた。

 どの機体も、炎熱で磨耗している。カタパルトでハッチから飛び出すや、半分気絶しかかるパイロットもいた。

 

 しかし未だにアフロディーテとカラミティ、そしてティーダは重力の境を蠢いていた。

 ラスティのスカイグラスパーも、それに伴い7回目のアマミキョ、アフロディーテ間の往復をするハメになっていた。

 

《フレイ、ダガーLじゃ突入は危険だ! ティーダも戻れよっ》

《何を言うか、コクピット部分はTP装甲があるっ》

《あんたがここで死んだら、俺たちどうなるんだよ! アスラン・ザラは、キラ・ヤマトは

 ……いや、そんな問題じゃ》

《喋りすぎだぞ、ラスティ!》

 

 フレイの紅の機体も、摩擦熱を大分帯びてきているのが視認出来た。

 ラスティとフレイの会話を聞きながら、ナオトもまたティーダコクピットで、衝撃に備える。

 内臓どころか、身体中の全ての水分が引き寄せられていく。

 

《戻れなくなるぞ、せめてバリュートを開けっ!》

 

 サイの声はしつこかったが、ナオトは反抗的に言葉を投げ返した。

 

「そんな事したら、破砕作業が出来なくなるでしょ! 

 いい加減にしないと、切りますよっ」

《いい加減にするのはどっちだ、突っ込みすぎてるんだぞ!》

「カラミティは岩石を壊したんだ、僕だって……」

 

 ナオトはサイの言葉を無視し、胃からわきあがる吐き気に耐える。

 説得を諦めて帰還していくスカイグラスパーが、モニター横を流れていった。その時──

 

 

「ねぇ、ナオト! 

 トランスフェイズシステムがおかしい」

 

 

 いつもの能天気さを感じられないマユの声が、後席からナオトの背を打った。

 

 

 

 

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