【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

74 / 436
part4 助けて

 

 

 ティーダコクピットに鳴り響く、激しい警報。

 コンソールパネル上のディスプレイ右にはティーダの機体状況がCGで表示されているが、そこではナオトが今まで見たこともない異常が発生している。

 ティーダの胴体右部分のあたりに、真っ赤な「ERROR」表示が幾つも連なって点滅していた。

 点滅が繰り返されるごとに、そのERROR表示は亀裂のように、ティーダの全装甲範囲に拡大していく。

 

「何だこれ……

 TPシステムが、作動してない?」

 

 そんな馬鹿な。サイさんがあれだけ強化してくれたのに? 

 動揺を隠せないナオトに構わず、マユは後席でハロの協力も得ててきぱきと状況に対処する。

 

「電圧がダウンしていってるんだ。

 TPシステム、マニュアルモードに切替」

 

 ハロも危機を感じたのか、何度も飛び跳ねる。「セイメイイジ、サイユウセン!」

 

 

 

 

 ティーダの異変は、突入シークエンス中のアマミキョブリッジでも即座に確認された。

 勿論、最も動揺の激しかったのはサイだ。報告を聞いた瞬間、突入中にも関わらず立ち上がりかけてしまう。

 リンドー副隊長に睨まれ、座り直して冷静さを取り戻そうとしながらも――出来ない。

 

「何故……何があった?」

 

 俺のミスか。殆ど睡眠も取っていなかったし。いや、しかし、それでも、だが、もしかしたら──

 どうしようもない接続詞ばかりが脳を駆け巡り、サイは思わず隣席のアムルを見る。

 この状況下でありながら、彼女は随分と冷静だった。

 

「突入中よ、落ち着いて。

 気にしない……トラブルはつきものよ」

 

 全身の血が干上がる感覚は、次第に強まっていく重力のせいだけではない。

 とにかく今は、二人を助けなければ。

 

「気にせずにいられるか。

 このままじゃ、ナオトとマユが沸騰する!」

 

 回線に向けて猛然と怒鳴るサイ。

 

「ナオト、マユ! コクピットモジュールの電圧を最大値まで上げろ! 

 何としても、アマミキョに帰還するんだ!!」

 

 

 

 

「無理だよサイ、帰れない! 

 この距離じゃ、先に重力に引かれちゃう」

 

 サイと口論したばかりのナオトに代わって、マユが絶望的な応答を返した。

 既にティーダは、摩擦熱による真っ赤な光に包まれかかっている。

 警報がさらに高鳴り、ハロが叫ぶ。

 

「キケン、キケン、ゲンザイコウド150キロメートル。

 ラッカチュウ、ラッカチュウ」

「何で……

 サイさん、何でだよ?」

 

 ナオトのノーマルスーツが、自動的に生命維持モードに切り替わった。

 ありったけの知識と脳の血液を総動員し、ナオトはサイの言う通り、コクピットモジュールにかかるTP装甲への電圧だけでも上昇させようと頑張る。

 ナオトの指が、今までにないスピードで座席脇のキーボードを叩き出した。

 それでもコクピットに響くものは、マユの絶望的な叫び。

 

「駄目だナオト、電圧上がらない!」

 

 マユの悲鳴なんて、初めて聞いたような気がする──

 そんなことを考えている場合ではない。モニターの外では次々に、紅く染まったプラントの残骸が落下していく。

 もっと砕かなきゃいけなかった、もっと。まだ大きいのに! 

 

「諦めないよ! 

 バッテリーは残ってるはずだ」

「違う、トランスフェイズのシステム自体がおかしくなってるんだよ」

 

 マユは後席のコンソールで、怒涛のように流れ続けるシステムファイルの文字列を睨んでいる。ミラーごしに見えるその頬は、真っ赤になって汗が噴き出していた。

 通常時ならナオトが泣いて喜びそうな可愛い表情だったが、勿論今はそんな時ではない。

 

「ここだ……装甲に加わる予測熱量の計算が間違ってる。

 ほんの少しだけど、修正し切れずに数値ミスが拡大して、電力ラインへの信号伝達にまで影響してるんだ。

 これじゃ、今からどう書き換えたって間に合わないってば」

「装甲はそれほど損傷してない! デブリだって気をつけたよ!!」

 

 ナオトが、マユのやや冷静な声に反駁するように怒鳴った。

 だがマユの顔に、いつもの笑みはない。

 

「あれだけ動いたんだもん、関節とか他の接合部から細かなデブリが入ってもおかしくないよ」

 

 マユもまた、驚異的な速度でキーボードを叩きつつ、機体とプログラムのチェックを同時にこなしている。

 それでもシステム修復は間に合わず――

 

「おかしいな……どこにも損傷はない。

 何で、こんな……っ」

 

 一瞬、マユが涙目で自分を見てくれた。ナオトがそんな錯覚に囚われたその時

 ――メットの下、汗まみれのマユの口から、突然血が噴き出した。

 

 

 

 

 その瞬間響いたものは、ナオトの狂乱の悲鳴。

 ブリッジクルーまでパニックに叩き落すかのような。

 

《サイさん! 

 助けて、助けてぇ!! マユが、マユが血を!! ああああっ》

「落ち着けナオト、何があった? 

 落ち着け!!」

 

 ナオトを呼ぶサイの言葉は、同時にサイ自身に向けられた言葉でもあった。

 既に突入シークエンスはフェイズ2に入っている。大気圏突入用の融除剤ジェルが船体を包み始める──

 これではもう、モビルスーツの回収は出来ない。

 ブリッジの光が一旦消え、紅い警告灯だけがともった。波のように襲いかかってくる重力。

 

 

 

 

 丁度帰還しようとしていたカラミティだったが、ティーダの危機を察した瞬間すぐに方向を変えた。

 砕いた隕石が紅い光の滝となって降りそそごうとしている中を、エメラルドの機体が最大戦速で飛んでいく。

 

「チグサ! 

 何があった、こん畜生っ」

 

 未だに破砕作業を続けていたアフロディーテのフレイも当然、この異常には気づいていた。

 ビームライフルで岩石を破壊しながら、IWSPの黒い翼を広げてカラミティに追いついていく。

 既にカラミティもアフロディーテも、ティーダと同じく、重力に呑まれかけていた。

 

 

 

 

《ティーダ。聞こえたらバリュートを開け》

 

 フレイの通信も空しく――

 既に高熱に晒されているコクピット内で、マユの瞳が死んでいく。

 彼女のメットの中で、大量の血の玉が浮いている。手はレバーから離れ、空中でぴくぴく動いている。

 それでもマユは、呟いていた。

 

「熱い。熱いよ……

 これが、痛いってこと? ナオト」

 

 ナオトもまた、完全に余裕を失っていた。重力に引かれていく血液、骨、内臓、眼球。

 一体全体、ノーマルスーツの生命維持装置はどう働いているというのか? 

 これほど大気圏突入がキツイなら、サイさんの言う通り、帰還していれば良かった。

 しかもまた、僕はマユを巻き込んで……

 

 

 だがナオトのまだ幼い感情は、頑なに自分の過ちを否定する。

 

 

 ──違う。

 ──サイさんがちゃんとしていれば、こんな事にはならなかった。

 

 

 その時、ナオトの右肩から腕にかけて、稲妻のような痛みが走った。

 皮膚がナイフで切り裂かれる感覚だ。高熱に、身体が耐え切れなくなっている! 

 左腕にも同じ痛み。続いて左太もも。

 ノーマルスーツの中で、身体が溶けていく。遂にナオトも、メットの中に血を吐いた。

 心臓と食道と胃が、焼けた鉄板の上に乗せられたみたいだ。自分の血の臭いで、息が詰まり――

 

《ナオト、バリュートを開け、早く!》

 

 サイが回線の向こうで、声を嗄らしている。

 ナオトの聴覚にその声は届いていたが、身体が動かない。

 頭が割れる。骨が内臓を食いちぎる。ヤキンでジェネシスを浴びた人たちも、このような苦しみを感じたのだろうか? 彼らの痛みが一斉に、自分の中に流れ込んでくるみたいだ。

 

《バリュートって、オートで開くんじゃなかったの?》

 

 アムルのヒステリックな声も響く。

 ナオトはまた、自分のミスに気づいた。破砕作業をギリギリまでやろうと、バリュート開閉機構をオートでなくマニュアル、つまり手動にしていたのだ。

 これも、さっきサイさんから忠告されたばかりじゃないか──

 

 いや、違う。違う! 

 頑なに自分のミスを否定するナオト。

 

 サイさんがちゃんとしていれば。サイさんが、コーディネイターだったら──

 

 ナオトは残された意識を振り絞り、コンソール下のバリュート開閉レバーに手を伸ばそうとする。しかし、もう指すらも思うように動かない。

 ――その刹那。

 

 ナオトの目に、伸ばされた自分の腕が紅い光の中、スーツのぶ厚い布地ごと爆発していく光景が見えた。

 抹茶のノーマルスーツが弾け飛び、自分の身体が一瞬裸になる。

 まだ幼い少年らしく、適度な弾力に満ちた両腕の皮膚。それが肩から縦にきれいにちぎれ、筋肉が裏返り、骨が露出していく──

 

 それは現実ではなく、極限状態に追い込まれたことによる幻覚。

 しかし、今のナオトを恐怖のどん底に叩き落とす威力は十分ある。

 

「サイさん、助けて! 

 マユ、フレイさん、カイキさん、カズイさん、ミゲルさんラスティさんニコルさん、ネネさんスズミさん副隊長っ、みんな……

 フーアさん、アイムさん!!」

 コクピットを、激しい振動が襲う。

 悪魔の幻覚に苦しみながら、ナオトはいつしかフーアのお守りを握りしめていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。