【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 誰も愛さない子供

 

 

 コクピット内ではナオトの悲鳴が響くティーダに、カラミティががっしり取りついた。

 ティーダを摩擦熱から護るように、カイキはカラミティの全身を広げ、ティーダの下側──

 つまり、地球の方向に回る。

 

「トランスフェイズ、全開!」

 

 フレイのアフロディーテも追いつき、これまたティーダとカラミティを護るようにさらに重力の方向へ機体を向けようとしていた。

 それを見て叫ぶカイキ。

 

「やめろフレイ、もうエネルギー切れだろ!」

 

 カイキ自身も重力と高熱で、既に滝のように汗をかいていた。だがフレイの返答はそっけない。

 

《自分の状態を見ろ。

 カラミティだけで、ティーダを護ろうと思うな!》

 

 IWSPの翼が、高熱を帯びて機体と同様の紅に染まり始める。遠目で見れば、降りそそぐ流星の中の不死鳥のようにも見えただろう。

 

 

 

 

 アマミキョブリッジでも、ティーダパイロットたちの様子はまだモニター可能だった。

 勿論、サイたちに助けを求めるナオトの絶叫も響き続ける──

 それはサイの心臓まで食い破るかのような、悲鳴だった。

 

 あいつは真っ先に、俺の名を呼んだ。

 それに応えられない俺は、一体何という無能か。

 アークエンジェル搭乗経験? キラ・ヤマトの友人? 

 だからどうした? その肩書きや経験が、どうやって今のナオトとマユを救うんだ。

 

 アムルが次々に、パイロットと機体の状態を報告していく。

 

「ノーマルスーツ、パイロットスーツ共に内気圧正常。

 生命維持システム正常、呼吸異常、脈拍異常、意識レベル低下!」

 

 これほど詳細なモニターはティーダの通信システムだからこそ可能な芸当であったが、今のサイにとってはそれが魔女の呪文にしか聞こえない。

 さらに後方から、オペレータのディックが叫んだ。

 

「突入シークエンス、フェイズ3! 

 ティーダ、カラミティ、アフロディーテ、高度落ちていきます! 

 ……130キロ……125……120……」

 

 砕ききれていない岩盤と共に落下していく3機を見ながら、サイは唇を噛まずにはいられなかった。

 

 ――何故だ、何故動かない。

 ナオトとマユを守るはずの俺の力が、何故こんなことに。

 

 うなだれながらも突入に備えようとするサイの背中に、別のオペレータの容赦ない罵声が飛ぶ。

 

「てめぇ! ティーダに何しやがったんだよ!!」

「今、んなことほざいてる場合じゃねぇだろ! 突入に備えろ」

 

 オサキが操舵輪を力いっぱい引き絞りながら、怒声に怒声で返す。

 険悪な雰囲気を強制的に止めたのは、アムルだった。

 

「確かに、私たち二人の責任です。でも謝罪は後にさせて。

 ……ナオト君、答えて!」

 

 彼女もサイの隣で、精一杯インカムで呼びかける。

 だがその時、さらにカタパルトから強引に通信が入った。ハマーの黄色い歯が、サイのモニターに大きく映し出される。

 

《分かったろ、みんな。

 これがナチュラルの本性だぜっ》

「やめろよ!」「やめてっ」

 

 オサキとアムルが同時に怒鳴ったが、アムルの方へのみハマーは答えた。

 

《あんたに罪はないって……

 問題はそっちの眼鏡だよ!》

 

 ハマーはモニターごしに、サイに唾を吐きかけた。

 ただでさえナチュラルが肩身の狭いブリッジ組なのに、余計なことしてくれやがって──

 とでも言いたげに、オサキもまたサイを睨む。

 彼女にしてもサイと同様、ナチュラルの身ながらブリッジで身体を張っているのだ。副隊長に身体を売ったなどと囁かれながら。

 

「突入だぞ」

 

 副隊長が、もううんざりだと言わんばかりにボソリと呟いた。

 その低音は、真っ赤な暗闇と化したブリッジ全体に妙に響き、全員が衝撃に備えて体勢を整えた。

 ――副隊長含めた全員の視線が、氷柱のように自分に突き刺さっている。

 痛いほどにそれを感じながらもサイは呼吸を整え、ひとまず無視する。

 突入時の船内放送という役割が、彼にはあるのだ。

 

「船内の皆さん、フェイズ4に入ります……

 全員、マニュアル通りに身体を固定して。息を吸い込んで。

 胃、腕、脚の筋肉を緊張させて、腹部の力を抜かないように」

 

 

 

 

 食堂の非常用固定シートに自らを固定させつつも、カズイはサイの放送の中に若干の異常を感じ取っていた。いつもより、声が少しうわずっている。

 それが何故かは、トニー隊長の大声で分かった。

 

「ティーダが異常だと!?」

 

 周囲のクルー全員が非常用シートにいち早く陣取っていたというのに、隊長はまだ身体の固定もせず、付近のモニターでブリッジと強引に連絡を取っていたのだ。

 

「まさか……あのTPシステムに、間違いはないはずだ」

 

 船と一緒に、カズイの精神も揺れていた。

 ありえない。アムルがサイと一緒に、システム改良を担当してるっていうのに。

 

 

 

 

 医療ブロックでは、ようやく全ての患者の固定作業が終了した処だった。

 ネネたち看護師や医師らも衝撃に備えて身体を固定し、ある程度の覚悟を決めねばならない。

 重力がかかり始め、患者に繋がれた何台かの医療モニターがけたたましく鳴り出した。

 医療ブロックは元々、重力制御が他ブロックより重点的になされている区域だったが、地球の重力はいつもかかっている人工重力の数倍の威力がある。体調に変化を起こす患者がいて当然だった。

 重力に耐えるのが精いっぱいで動けないネネたちだったが、その時――

 

 スズミ女医は迷うことなく、さっと動いた。

 かかりゆく重力をはねのけ、ガラスで防護された非常用重力制御レバーに取りつく。

 思わず叫ぶネネ。

 

「先生、それいじったら瞑想室……」「構わないわ! 宇宙育ちの2歳児もいるのよ」

 

 スズミはレンチでガラスをぶち破ると、一息にレバーを引いた。

 空中で沈み始めていた小さなガーゼが、再び浮き上がり始める。

 重力を自由自在に操るまではとてもいかないが、急激にかかる重力をこの区域だけでも弱める力ぐらいは、このレバーにはあった。

 

 

 

 

 

 

 ──所詮、半端者とはこんなモノさ。ナチュラルの男などと……

 その結果が、どちらにも受け入れられない子供だ。

 

 

 紅の光の中、ナオトは遠い昔に帰っていた。

 床に投げつけられた成績表が見える。その遥か向こうに夕闇のように沈む、二つの人影。

 男の冷たい声に、女の泣き声。

 

 ──やめて父さん。母さんをぶたないで! 

 

 これは、僕が7歳ぐらいの頃だったろうか。

 ナオトは、何度もぶたれた頬を押さえながら叫んでいる。

 男は背中を向け、ナオトの叫びを無視し、光の向こうに去っていく。

 

 ──父さん、行かないで。

 僕、今度こそいい点取るよ、だから行かないで。

 

 そんなナオトの目の前で、わっと泣き崩れる女性。

 

 ──ごめんなさい。貴方は生まれてきてはいけなかったの。

 ──子供が欲しかったからって、そんな、女のわがままだけで生んではいけなかったのよ! 

 

 

 

 

 

 

「母さん、もう泣かないで。

 僕、父さんを見つけるよ。

 有名人になって立派になって、きっと父さんを見つけるから、だから──」

 

 メットの中に反響する自分の声で、ナオトは現実に戻る。

 意識は薄れたままだが、熱は若干弱まっていた。

 

 改めて、自分の身体を確認する。

 ――まだ落下中。コクピットを包む紅い光は変わらない。

 

 まだノーマルスーツは無事だった。ミラーごしに、マユの姿も確認出来た。

 パイロットスーツの左腕が不自然に膨らんでいる。マユの二の腕は、あんなに太かっただろうか? 

 

 だが依然として、ナオトの身体は動かなかった。高重力の下、ずっと封じこめていたはずの父と母の記憶を思い出したのは

 ――これが、死の間際だからだろうか。

 

 そんなティーダの機体腰部に、カラミティが必死で縋っていた。

 地上とティーダの間にカラミティ、そしてアフロディーテが挟まり、ティーダが受ける熱をわずかながら冷ましている。

 

《チグサ、生きろ! 

 生きてくれっ!!》

 

 カイキの限界を超えた叫びが、通信から轟いた。

 兄の声を聞いて、わずかに覚醒したか。マユの呟きが、ナオトのメットに流れる。

 

「……に、兄ちゃん?」

 

 ナオトはミラーで彼女の様子を確認するのが、精一杯だった。

 瞳が死んだままだったが、マユは僅かに笑っていた。この状況で。

 

「大丈夫だよ、ナオト。

 ……これが、痛いってことだよね。

 私、嬉しいよ。ナオトと同じ痛みを、分け合えて」

 

 ナオトにはその意味がさっぱり分からなかったが、それだけ言うとマユは血のメットの中、ゆっくりと目を閉じる。

 

 紅の霧の向こう側、地上に次々と落ちていく星々が見えた。

 その眼前に大きく翼を広げるは──IWSPを背に負い、紅に燃えるストライク。

 ストライク・アフロディーテ。フレイ・アルスター。

 

 その瞬間――

 ナオトの中で蘇ったものは、フレイの言葉。

 

 

 ──自分勝手な過剰な正義で他人を巻き込む無力な子鼠など、誰が愛すものか。

 

 

 フレイの言葉は苦い記憶を伴い、鮮烈にナオトの脳を覚醒させる。

 心の奥を暴かれたあの記憶が、彼に再び命を吹き込んだ。

 

「ち、ちく、しょう……

 貴方をギャフンと言わすまで……死ぬもんか!」

 

 ナオトの右手がコンソール下のバリュート開閉レバーを掴み、折れよとばかりに一気に引かれた。

 

 

 

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