【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 裏切り

 

 

「マユの痛み、貴様にも教えてくれる!」

 

 ナオトとマユへの心配のあまり、真っ先にカタパルトへ飛び込んだサイを待っていたのは、カイキの一撃だった。

 サイの腹へ一発食らわした後、動けなくなっている処をカイキはそのまま襟ぐりを掴み、まだ熱を帯びているカラミティの脚部近くの床に、容赦なしに頭から叩きつける。眼鏡が弾け飛んだ。

 

 歯が一本、確実に折れた──

 

 サイの口から、呻きと共に大量の血が噴出して床を染める。

 しかしカイキはさらにモビルスーツ洗浄用のホースを引っ張ってきて、消毒液の混じった熱湯をサイの頭から勢いよく浴びせ始めた。

 

 熱さと痛みで、酷い絶叫を上げてしまうサイ。

 整備中の事故防止の為、消毒液の濃度はあらかじめ薄目に調整されているものの、これだけ浴びせられれば当然酷い痛みが走る。

 カイキは彼の髪を掴んだまま、自らの腕にも熱湯を浴びながらサイの顔にホースをつきつけ、まるで飲ませるかの如く消毒液を浴びせていく。

 

「マユの感じた痛みは、こんなもんじゃねぇ……っ!」

 

 再びサイの頭を床に叩きつけ、カイキは叫ぶ。

 カイキ本人の口からも血が流れ出し、パイロットスーツに締めつけられたままの身体は高熱で昏倒寸前、顔も火のように真っ赤だ。

 

 間もなくカイキ自身が、その場に倒れこみ、嘔吐した。

 濃い緑色の胃液が、サイの流した血と混じる。

 

 地獄のようなこの光景を――

 周囲のアマミキョクルーは黙って見ていた。

 

 ハマーら整備士連中は当然と言わんばかりにサイを見下ろし、ブリッジ組もオサキ以外は半数以上が冷酷、あるいは好奇の目で見守っていた。

 何せブリッジ組も整備士組も、殆どがコーディネイターである。

 騒ぎをききつけかけつけたカズイも、光景の恐ろしさに足がすくみ、何も出来ない。

 

 

 

 

 その一方でネネやスズミら医療班は、ティーダのハッチをこじ開けナオトとマユを救出するのに手一杯だった。

 

「マユは、マユは……

 フレイさん、サイさん……助け、て……」

 

 ナオトはフーアのお守りを握りしめながら、壊れた人形のように繰り返しクルーの名を呼び続けていた。

 バイザーは血に染まり、メットの中のナオトの表情さえよく分からない。彼の意識は何とか保たれているが、マユの方は完全に意識混濁状態にあった。

 

「もう大丈夫、みんな無事だから!」ネネがナオトの手を握り、

「よく頑張ったわね、二人とも」スズミ女医がナオトのノーマルスーツを、慎重に開いていく。

 

 ――しかしその中身を見て、ネネもスズミも息を飲んだ。

 

 ナオトの両腕が、肩から手の甲にかけて真っ赤な亀裂が入り、血と一緒にかなりの体液がノーマルスーツの中に流れ出している。

 マユはさらに酷く、紅の亀裂は両腕や脚にとどまらず、顔にまで入っていた。頬のあたりが熟れすぎたトマトのように膨らみ、割れかけている。

 

「血圧……触診で80、脈拍140。生食を全開、血算クロスマッチ4単位。ナオト君の方は血圧90の50……」

 

 医療班は酸素マスクをあてがいながら二人をストレッチャーに乗せ、一目散に医療ブロックへ運んでいった。

 ティーダのすぐ横では、関節が飛びボロボロのアフロディーテが収容されている。ミゲルとラスティが破損部分のチェックにおおわらわだった。

 フレイは――まだ、降りてこない。

 

 

 

 

 ナオトたちほど重傷ではないにしろ、顔の半分を軽く火傷し、口から血を流していたサイ。

 倒れたカイキがなおも起き上がり、そんな彼に殴りかかろうとした――その時。

 

「ごめんなさい、私のせいよ!」

 

 髪を激しく振り乱しながら、アムルがサイに駆け寄った。

 その目には涙まで浮かんでいる。

 

「私が、サイさんのミスをチェックし切れなかったから!」

 

 ──とっさに口から出た、保身の言葉だ。

 アムルに抱きすくめられながら、直感するサイ。

 

 しかしアムルはサイをかばうように、カイキたちの間に立つ。

 

「サイさんは、慣れていないからミスがあって当たり前なの。

 見抜けなかった私も同罪よ」

 

 言うなりアムルは自らホースを手に取り、皆の前で薬剤をざあっと首筋からかけた。自分の身体へと。

 長い金髪に隠されていた白い首筋が、見る間に紅に染まっていく。

 

 その姿に、若干アムルにも向けられていた非難の目は、一気に彼女への同情へ変わった。

 サイという無能に付き合わされた、不幸な女性へ──

 

 違う! 

 彼女の担当はチェックだけじゃない。システム構築にだって参加していた。

 

 サイは叫びたかったが、口に溢れた血の塊がそれを許さなかった。

 左の頭半分から肩にかけてのあたりが、燃えるように熱い。薄いベージュのワイシャツがどす黒く変色しかかっている。

 薬剤がサイの上で霧がかり、渦を巻いていた。

 

「やめてよアムルさん! 

 貴方は何も悪くないでしょ!?」

 

 サイの時には何もしなかったカズイが、今度は叫んでいた。

 アムルはその一言でホースを投げ出し、泣き崩れる。

 彼女が消毒液を浴びていたのはほんの一瞬。殆どが服ごしで、その顔にはほぼ液はかかっていない。

 そしてハマーも、待ってましたというようにサイを嘲笑する。

 

「その通り──

 姉ちゃんが泥かぶるこたねぇさ、悪いのは全部そこのヘタレ野郎だからな!」

 

 周囲の整備士たちも次々に罵声を飛ばす。

 

「だよなぁ……みんな必死の時に足引っ張りやがって」「世界が燃えるって時に、ナチュラルはいい度胸してるよ」

「幾らパイロットが羨ましいからって、マユちゃんたちをぶち殺す真似たぁ情けねぇな」「アークエンジェルが泣くぜ」

 

 報いは当然と言わんばかりの彼らの態度。

 さすがにたまりかねて、ブリッジ組唯一のナチュラル・オサキが何とかサイを擁護するべく、叫ぼうとする。

 だがその前に──

 

 

 まだ熱を帯びたアフロディーテから、声が響いた。

「待て!」

 

 

 全員がその声に振り返る。

 どこにも火傷らしい火傷を負っていない、一糸乱れぬパイロットスーツ姿のフレイが、メットを脱いでいた。

 紅の長い髪を靡かせカイキを下がらせると、悠々とサイとアムルの方へ歩いていく。

 

 薬剤の霧でまだ煙るサイの視界に現れた、真っ赤なブーツの爪先。

 片腕にメットを抱え、もう一方の手でスーツの胸元に手をかけるフレイがそこにいた。

 

「原因を探る前に事実に対応。だが、事実に対応出来たら原因を探れ。

 リンドー副隊長の、常日頃の言葉だ。

 覚えているか、サイ」

「……何故、君は平気なんだ」

 

 最早サイは、声を出すのが精一杯だ。

 フレイの顔は若干の汗はかいているが、異常なほてりはない。勿論血など吐いていない。

 暑そうに胸元を開き、たっぷり熱せられた身体を冷まそうとはしているものの、当然スーツから血が流れ出したりもしない。

 温泉にちょっと長めに浸かってきた、とでも言いたげなフレイの表情。

 

 そんな馬鹿な。ナオトやマユやカイキはあれだけ苦しんだはずなのに。

 しかもアフロディーテは突入中にまで破砕作業をしているし、その上3機の中ではTP装甲は最も薄い。だから、左脚部がもげたんじゃないか──

 

「さすがは、スペシャルコーディネイターの嬢ちゃんだ!」

 

 ハマーの満足げな歓声で、サイは思い出す。

 この船では、フレイはコーディネイターということになっている。ナチュラルのままだという事実は、サイ以外誰も知らない。

 ──いや、それはそもそも、事実なのか? 

 

 強化されているとはいえナチュラルのカイキ、マユ兄妹はあれだけのダメージを負い、ハーフコーディネイターのナオトも重傷だ。

 ナチュラルのはずのフレイが、何故無事でいられるのか。

 

「――チュウザン到着まで、まだ間がある」

 

 サイの思惑も知らず、フレイは敢然と彼を見降ろし、宣告した。

 

「ティーダのTPシステムを再チェックし、破損箇所を特定しろ。

 その上で、貴様への処分を決定する。

 それまで、ブリッジへの立入りは禁止だ。サイ・アーガイル」

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 大災厄の最中に叩き込まれたアマミキョとティーダ。

 その中で非情の判断を迫られ、孤立するサイ。

 パニックに陥る大地で、真実を掴めず戸惑う人々。

 彼らの敵意はやがて、無力な一人へと向かう──

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「最悪の選択」

 廃墟の空、切り抜けろ! スカイグラスパー! 

 

 

 

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