【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「マユの痛み、貴様にも教えてくれる!」
ナオトとマユへの心配のあまり、真っ先にカタパルトへ飛び込んだサイを待っていたのは、カイキの一撃だった。
サイの腹へ一発食らわした後、動けなくなっている処をカイキはそのまま襟ぐりを掴み、まだ熱を帯びているカラミティの脚部近くの床に、容赦なしに頭から叩きつける。眼鏡が弾け飛んだ。
歯が一本、確実に折れた──
サイの口から、呻きと共に大量の血が噴出して床を染める。
しかしカイキはさらにモビルスーツ洗浄用のホースを引っ張ってきて、消毒液の混じった熱湯をサイの頭から勢いよく浴びせ始めた。
熱さと痛みで、酷い絶叫を上げてしまうサイ。
整備中の事故防止の為、消毒液の濃度はあらかじめ薄目に調整されているものの、これだけ浴びせられれば当然酷い痛みが走る。
カイキは彼の髪を掴んだまま、自らの腕にも熱湯を浴びながらサイの顔にホースをつきつけ、まるで飲ませるかの如く消毒液を浴びせていく。
「マユの感じた痛みは、こんなもんじゃねぇ……っ!」
再びサイの頭を床に叩きつけ、カイキは叫ぶ。
カイキ本人の口からも血が流れ出し、パイロットスーツに締めつけられたままの身体は高熱で昏倒寸前、顔も火のように真っ赤だ。
間もなくカイキ自身が、その場に倒れこみ、嘔吐した。
濃い緑色の胃液が、サイの流した血と混じる。
地獄のようなこの光景を――
周囲のアマミキョクルーは黙って見ていた。
ハマーら整備士連中は当然と言わんばかりにサイを見下ろし、ブリッジ組もオサキ以外は半数以上が冷酷、あるいは好奇の目で見守っていた。
何せブリッジ組も整備士組も、殆どがコーディネイターである。
騒ぎをききつけかけつけたカズイも、光景の恐ろしさに足がすくみ、何も出来ない。
その一方でネネやスズミら医療班は、ティーダのハッチをこじ開けナオトとマユを救出するのに手一杯だった。
「マユは、マユは……
フレイさん、サイさん……助け、て……」
ナオトはフーアのお守りを握りしめながら、壊れた人形のように繰り返しクルーの名を呼び続けていた。
バイザーは血に染まり、メットの中のナオトの表情さえよく分からない。彼の意識は何とか保たれているが、マユの方は完全に意識混濁状態にあった。
「もう大丈夫、みんな無事だから!」ネネがナオトの手を握り、
「よく頑張ったわね、二人とも」スズミ女医がナオトのノーマルスーツを、慎重に開いていく。
――しかしその中身を見て、ネネもスズミも息を飲んだ。
ナオトの両腕が、肩から手の甲にかけて真っ赤な亀裂が入り、血と一緒にかなりの体液がノーマルスーツの中に流れ出している。
マユはさらに酷く、紅の亀裂は両腕や脚にとどまらず、顔にまで入っていた。頬のあたりが熟れすぎたトマトのように膨らみ、割れかけている。
「血圧……触診で80、脈拍140。生食を全開、血算クロスマッチ4単位。ナオト君の方は血圧90の50……」
医療班は酸素マスクをあてがいながら二人をストレッチャーに乗せ、一目散に医療ブロックへ運んでいった。
ティーダのすぐ横では、関節が飛びボロボロのアフロディーテが収容されている。ミゲルとラスティが破損部分のチェックにおおわらわだった。
フレイは――まだ、降りてこない。
ナオトたちほど重傷ではないにしろ、顔の半分を軽く火傷し、口から血を流していたサイ。
倒れたカイキがなおも起き上がり、そんな彼に殴りかかろうとした――その時。
「ごめんなさい、私のせいよ!」
髪を激しく振り乱しながら、アムルがサイに駆け寄った。
その目には涙まで浮かんでいる。
「私が、サイさんのミスをチェックし切れなかったから!」
──とっさに口から出た、保身の言葉だ。
アムルに抱きすくめられながら、直感するサイ。
しかしアムルはサイをかばうように、カイキたちの間に立つ。
「サイさんは、慣れていないからミスがあって当たり前なの。
見抜けなかった私も同罪よ」
言うなりアムルは自らホースを手に取り、皆の前で薬剤をざあっと首筋からかけた。自分の身体へと。
長い金髪に隠されていた白い首筋が、見る間に紅に染まっていく。
その姿に、若干アムルにも向けられていた非難の目は、一気に彼女への同情へ変わった。
サイという無能に付き合わされた、不幸な女性へ──
違う!
彼女の担当はチェックだけじゃない。システム構築にだって参加していた。
サイは叫びたかったが、口に溢れた血の塊がそれを許さなかった。
左の頭半分から肩にかけてのあたりが、燃えるように熱い。薄いベージュのワイシャツがどす黒く変色しかかっている。
薬剤がサイの上で霧がかり、渦を巻いていた。
「やめてよアムルさん!
貴方は何も悪くないでしょ!?」
サイの時には何もしなかったカズイが、今度は叫んでいた。
アムルはその一言でホースを投げ出し、泣き崩れる。
彼女が消毒液を浴びていたのはほんの一瞬。殆どが服ごしで、その顔にはほぼ液はかかっていない。
そしてハマーも、待ってましたというようにサイを嘲笑する。
「その通り──
姉ちゃんが泥かぶるこたねぇさ、悪いのは全部そこのヘタレ野郎だからな!」
周囲の整備士たちも次々に罵声を飛ばす。
「だよなぁ……みんな必死の時に足引っ張りやがって」「世界が燃えるって時に、ナチュラルはいい度胸してるよ」
「幾らパイロットが羨ましいからって、マユちゃんたちをぶち殺す真似たぁ情けねぇな」「アークエンジェルが泣くぜ」
報いは当然と言わんばかりの彼らの態度。
さすがにたまりかねて、ブリッジ組唯一のナチュラル・オサキが何とかサイを擁護するべく、叫ぼうとする。
だがその前に──
まだ熱を帯びたアフロディーテから、声が響いた。
「待て!」
全員がその声に振り返る。
どこにも火傷らしい火傷を負っていない、一糸乱れぬパイロットスーツ姿のフレイが、メットを脱いでいた。
紅の長い髪を靡かせカイキを下がらせると、悠々とサイとアムルの方へ歩いていく。
薬剤の霧でまだ煙るサイの視界に現れた、真っ赤なブーツの爪先。
片腕にメットを抱え、もう一方の手でスーツの胸元に手をかけるフレイがそこにいた。
「原因を探る前に事実に対応。だが、事実に対応出来たら原因を探れ。
リンドー副隊長の、常日頃の言葉だ。
覚えているか、サイ」
「……何故、君は平気なんだ」
最早サイは、声を出すのが精一杯だ。
フレイの顔は若干の汗はかいているが、異常なほてりはない。勿論血など吐いていない。
暑そうに胸元を開き、たっぷり熱せられた身体を冷まそうとはしているものの、当然スーツから血が流れ出したりもしない。
温泉にちょっと長めに浸かってきた、とでも言いたげなフレイの表情。
そんな馬鹿な。ナオトやマユやカイキはあれだけ苦しんだはずなのに。
しかもアフロディーテは突入中にまで破砕作業をしているし、その上3機の中ではTP装甲は最も薄い。だから、左脚部がもげたんじゃないか──
「さすがは、スペシャルコーディネイターの嬢ちゃんだ!」
ハマーの満足げな歓声で、サイは思い出す。
この船では、フレイはコーディネイターということになっている。ナチュラルのままだという事実は、サイ以外誰も知らない。
──いや、それはそもそも、事実なのか?
強化されているとはいえナチュラルのカイキ、マユ兄妹はあれだけのダメージを負い、ハーフコーディネイターのナオトも重傷だ。
ナチュラルのはずのフレイが、何故無事でいられるのか。
「――チュウザン到着まで、まだ間がある」
サイの思惑も知らず、フレイは敢然と彼を見降ろし、宣告した。
「ティーダのTPシステムを再チェックし、破損箇所を特定しろ。
その上で、貴様への処分を決定する。
それまで、ブリッジへの立入りは禁止だ。サイ・アーガイル」
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次回予告
大災厄の最中に叩き込まれたアマミキョとティーダ。
その中で非情の判断を迫られ、孤立するサイ。
パニックに陥る大地で、真実を掴めず戸惑う人々。
彼らの敵意はやがて、無力な一人へと向かう──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「最悪の選択」
廃墟の空、切り抜けろ! スカイグラスパー!