【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
※ここよりしばらく、若干きつめのイジメ描写が続きます。苦手な方はご注意ください。
part1
アマミキョのブリッジには、チュウザン並びに周辺の被害状況がひっきりなしに流れ続けていた。
フレイたちの破砕作業のおかげで岩盤の直撃こそ免れたが、周辺海域に落下した岩石の為に津波が発生し、島国で海に面した土地の多いチュウザンは多大な被害をこうむっている。
アムルをはじめとするオペレーターたちが冷静さを保とうと努めながら、被害状況を報告していく──
「ヤエセ東地区、住宅地は80%以上が壊滅状態」「海岸線が変わってますよ!」
「住民の避難状況は……4割にも満たないそうです」「フェンサやマブミ、ウラソエの状況は?」「フェンサから連絡がありました、港湾施設の被害は75%。入港は無理ですね……」
「文具団の工場は無事なのか?」「直接の被害は何とか免れたけど、電気が完全に止まったらしい」
混乱の中、サイは――
ブリッジ裏の第3ブリーフィングルームに独り隔離され、ティーダのTPシステム解析を続けていた。死にもの狂いで。
北チュウザンのいずれの港湾施設もユニウスセブン落下の被害を受け、どこの港もアマミキョを収容する余裕は殆どない。
それはサイにとっては、不幸中の幸いと言えた。
チュウザン到着までの時間が、少しだけ延びたのだから──到着までに何としてでもサイは、ティーダのエラー原因を突き止めなければならないのだ。
サイはかれこれ20時間ほどもぶっ続けで、腫れのひかない頬をガーゼで押さえつつ、TP(トランスフェイズ)システムチェックを繰り返し行なっていた。
洗浄液による火傷も殴打による傷も幸い、軽傷で済んではいたが――それでも精神的疲労が山の如く積み重なり、倒れる寸前だ。
が、そんな彼に協力しようという者は、誰もいない。
ブリーフィングルームとは名ばかりの、照明もろくにつかない冷たい部屋の中で、サイはたった独りだった。
──彼はアムル・ホウナの行動を思い返す。
ごめんなさい、本当にごめんなさい──
彼女はそう連呼しながらも、保身に走った。
その心情は、理解出来ないわけではない。カイキからあれほどの暴行を受けたサイを目撃すれば、自分も名乗り出ようという気はなくなって当然だ。
堂々と名乗り出てくれただけでも、彼女には感謝すべきなのかも知れない──
いや、違う。サイの中で、何かが激しく叫ぶ。
眼前のモニターに、結論は既に出ていた。
膨大な量のプログラムの文字列の中、幾つかの数値が紅に染まっている。再テストを重ねに重ねた結果、暴き出された数値ミスだ。
自分がその部分を入力及び設定した記憶は──ない。
俺の記憶が確実なら、入力時刻、入力ポイントから考えて、これはアムルのミスだ。
しかし記憶だけでは、『あの』フレイが納得するわけがない。
それにサイ自身、睡眠不足による自分のミスでないとは言い切れない。畜生、こういう時の為のアマミキョ全船監視システムじゃないのか!
アマクサ組に監視システムを解析してもらえればさらに決定的になるはずだが、勿論監視システムは誰もいじることは出来ない。アマクサ組以外に。
とうに結論を出していながら、サイは逡巡に逡巡を続けていた。
アムルは、自分がミスを犯したという事実を分かっていたのかも知れない。
だからサイが薬剤を浴びせられた時、積極的に自分が出ようとしたのか。他人からミスを糾弾されるよりも、自分から認めてしまった方が、遥かに楽だから。
だとすれば、彼女は相当のタマとしか言いようがない。あの時彼女は、自分自身のプログラミングのミスではなく、サイのミスをチェックし切れなかった──と、傲然と言い放ったのだから。
つまりあの時、堂々と彼女は主張していたのだ。
ミスを犯したのは自分ではなく、サイだと。
――いや。
サイの中で、まだ良心が疼く。アムルを信じたい心が。
本当に彼女は知らないのかも知れない。自分がミスをしたという事実を。そうであってほしい。
どちらにしろ、サイはアムルを呼び出す必要があった。
ミスを犯したのは自分だったと判った方が、よほど楽だ──サイの頭と胃が、同時に痛み始めた。
医療ブロックに収容されたナオトの目覚めは、早かった。
酸素マスクを口に被せられ、包帯とチューブだらけになった自分に気づき、ナオトはようやく自身の生還を知った。
そして、心地よいほどに感じる重力。
──フーアさん、アイムさん。
僕は、地球に戻れました。
二度とこの重力を感じることのない同僚を思いながら、ナオトは未だに左の掌にあったお守りを、強く握り締めた。
大きな目から涙が一滴流れ落ちて、マスクの中を濡らす。
しかしその時、ふと頭を傾け──
ナオトは、現実を突きつけられた。
薄いエメラルドグリーンのカーテンで仕切られた向こうのベッドには、マユが寝かされていたのだ。いや正確に言うと、すぐにマユだとは分からなかった。
包帯に覆われた細い両腕、両肩がはっきり見える。しかも包帯の間という間から、血が滲み出していた。
顔はカーテンのおかげでよく見えなかったが、顎のあたりは確実に包帯のお世話になっている。
まさか、顔が傷ついたのか、マユは?
マユだと分かった理由は、そのすぐそばにカイキがじっと頭を垂れ、彼女の手を握りながら座っていたから。しかも、カーテンの隙間からちょうど彼が見える。
ナオトは急いで視線を逸らそうとしたが、脊髄に突き刺されたチューブのおかげで、首も思うように動かなかった。
そんなナオトの動きを察知したのか――
カイキは頭を上げた。
涙の跡が見えたような気がした。
「もうお目覚めか。
さすがコーディネイター様の血だな」
まずい、とナオトが感じた時にはもう遅い。
カイキは立ち上がり、カーテンを強引に開いていた。
「見ろ。
貴様のお陰で、マユの身体はボロボロだ」
半分以上が包帯に包まれた、マユの顔が露になる──
マユだと説明されなければ、ナオトはそれが彼女だとは分からなかっただろう。
――何せ鼻も目も唇も、頭のてっぺんまでが包帯にくるまれていたのだから。
汚れた包帯の下から、妙に濃いピンクに染まった皮膚が見える。少し割れていて、その奥に見える黒い水晶体のようなモノ──あれは、左目か?
酸素マスクの中で、ナオトの呼吸が激しくなっていく。
そんな彼の上に、カイキの影がゆらりと覆いかぶさる。
「いいご身分だな。
マユをこんな姿にしておいて、てめぇは降下の感傷に浸りっぱなしか」
途端、カイキの一発が毛布の上から、ナオトの腹を直撃した。
マスクのせいで、喉からは悲鳴すらも出ない。代わりに、その身体に繋がれている医療モニターが一斉に叫びだした。
だがそこは船内でも多忙を極める医療ブロック、容易なことでは人は来ない。
カイキはモニターや点滴台を殴り倒し、さらにベッドからナオトを無理やり引きずりだし、張りついているチューブを引きちぎる。
繋いであった尿の袋が落下し、床を汚した。
「――!!」
「どうした。マスクでいつもの口答えは出ねぇか?」
床に投げ出された無抵抗のナオト。
その手術着が襟元から肩まで剥がされ、肋骨と肺の上にさらに容赦ない拳が飛んだ。
「――! ――!!!」
ここまでされても、ナオトは何も言えない。抵抗出来ない。
無防備になったままの首筋に、カイキは黒い手をかける。手の甲に浮き出る静脈。
「これぐらいされたって、コーディネイターは平気なんだろうが!」
ナオトの頸動脈に、激しい圧迫がかかった
──その時。
「やめなさい! 彼を殺す気!?」
かけつけたスズミ女医により、ナオトは災難を逃れた。
舌打ちひとつで、カイキはその場を脱兎のように駆け去っていく。
咳き込みが止まらなくなった身体を数人の看護師に介抱されながら、ナオトの目に容赦なく、マユの無惨な姿が映し出される。
袋から流出した自分の尿の上に座っていることにも気づかないまま――
ナオトはその胸に猛然と湧き上がる怨みを、抑えることが出来なかった。
──サイさんさえ、しっかりしていれば。
PHASE-09 最悪の選択