【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「ごめんなさい。
でも、私でもないわ」
サイに呼び出されたアムルの返答は、完全に予想通りだった。
「ティーダ稼動中に、マユちゃんかナオト君がシステムをいじったのかも知れないし」
第3ブリーフィングルームが、二人の間の張りつめた空気で満たされていく。
「システムを読み出した形跡はありますが、書き換えまではされていません。つまり──
このミスを犯したのは俺か、貴方です」
「だからそれは、貴方も私も罰を受けることで責任を取るって、あの時言ったでしょう」
「俺は事実をはっきりさせたいんですよ」
あの時と言われて、サイの頬の痛みがぶり返す。
「どうあっても、犯人探しをしたいわけ?」アムルは上目遣いにサイを見据えた。
この人の白目の面積は、これほどまでに広かったのか──
ふとした時に出てしまうこの、白目を剥いた表情のおかげで、彼女は結構苦労したのだろうな。
そんなことに思いを馳せながらも、サイはきちんと言うべきことは言ってのける。
「違います。原因をはっきりさせておかないと、また誰かが同じミスを犯す。
それは危険なんだ」
「二人で責任を取るって言えば、全部丸く収まるでしょうに」
「収まりませんよ。それじゃアマクサ組が許してくれない、俺の気もすまない」
サイは冷静さを保とうと努力しながら、まっすぐにアムルを見返そうとする。
「お願いします。どのような経過をたどって誤りが発生したのか、詳細を教えてください。
今後の為です」
だがアムルは、すぐに視線を逸らした。心の内を読まれまいとするように。
「私、ミスはしてない。したとすれば、貴方のミスを見逃したことだけよ」
「それをはっきりさせる為にも、貴方の協力が必要なんだ。俺だけじゃ原因が分からない。
数値入力ミスか、システム構造自体が悪かったのか──
プログラムはあらゆるミスを想定して組まれる必要がある、わずかな設定ミスで今回の事件が発生したなら、システム構造に問題がある可能性が高い。
となれば、システム担当者を呼ぶ必要がある。それは分かるでしょう」
「嫌よ!」
突然、アムルは船内中に響くかという声で叫んだ。「私がどうして教える必要があるの?
私は違う!!」
「今後の為に協力してくださいと言っているだけです」
それでもサイから逃げるように、ブリーフィングルームから出ていこうとするアムル。
言葉が通じても、話が通じない──
そんなもどかしさに、サイは思わずアムルの左腕を掴んだ。
「今は皆で協力していかなければ、危険なんですよ!」
「だから、協力して責任を負えばいいじゃないの。貴方のミスを私が見逃した、それだけなんだから」
「堂々巡りだ」サイの頭にも血が上った。「それじゃフレイが聞かない」
「いつもいつでもフレイ、フレイって……
貴方は自分可愛さで、私を無能扱いしたいだけよ!」
アムルはサイの手を、虫を払うように振りほどく。――さらに。
「言いがかりもいいところだわ。自分の過失を私のせいにするわけ?」
金髪が激しく乱れ、白目がさらに剥かれる。目の中に走る毛細血管までが見えそうだ。
──サイは、ようやく分かった。
この女性は、自分のミスを知りながら、必死で認めまいとしている。
自分が嘘をつきそれを主張し切ることで、自分自身にすらもミスを認めさせまいとしている。
要するに、彼女は自分の無知無能を、絶対に自分で認めたくないのだ。
しかしそのように自分を騙し続けても、いずれ手痛いしっぺ返しが来る。自分にも周囲にも。
それは過去の経験から、サイは既に痛いほど知っている。
ここははっきりさせておくべきだ──アムル自身の為にも。
そんな思いが、あまりにも強すぎたか。
サイは今度はアムルの肩を掴み、大声で怒鳴っていた。
「俺は貴方に、フレイと同じ思いをして欲しくないんですよ!」
あまりの大声に、アムルは思わず顔を背けて悲鳴を上げる。
俺の台詞の意味はきっと、0.1割も理解されなかったに違いない──
サイが絶望した、その時。
「何をやっているっ、貴様!」
言い争いを聞きつけたトニー隊長が、自動扉を開いて乱入してきた。
その後ろでは、カズイが小さな瞳をいっぱいに見開いてこちらを見ている。
畜生。何というろくでもないタイミングで入ってくるんだ――
サイは自分の行為に気づいて、慌ててアムルから手を離す。
いや、呪っても仕方がない。カズイは常に憧れのアムルの後ろをついて回っていたのだし、そのアムルがサイに個室へ呼び出されたとなれば、気になって様子をうかがいに来るのも無理なからぬことだ。
そしてカズイは最近、トニー隊長に吠えられながら仕事をすることが多い――
必然的に招かれた事態でもあった。
アムルはそのまま、カズイに抱きついていく。「カズイさん、助けて!」
彼女は、涙まで流していた。
憧れの女性に突然抱きすくめられたカズイは顔を真っ赤にしていたが、すぐに状況を悟った。
「……一体何をしたんだ、サイ」
決して叫びはしないながらも、カズイは疑惑に満ちた目でサイを睨む。
さらにアムルが、カズイの肩でむせび泣いた。
「サイさんが、私がミスした張本人だって……」
「カズイ、違う!」
サイは叫ぶが、トニー隊長の怒声がそれをかき消した。
「いい加減にしろ! 貴様……恥を知れっ!」
サイとアムルの間に強引に割って入るトニー。
しかしカズイがそれを止めた。
「やめてください、隊長」
カズイはアムルとトニー隊長を(彼にしては珍しく強引に)後ろに下がらせ、サイに向き直った。
「――サイ。
今、船内がどういう状況だか分かってるのか」
「カズイ、聞いてくれ。
俺は本当のことをはっきりさせたいだけだ」
「サイの、そういう姿勢は正しいと思うよ。
だけど、正しいだけじゃやっていけない時がある。今がそうだ。
みんなが団結してチュウザンを助けなきゃいけない時に、お前は何をやってるんだよ?」
正面から話していてもいつの間にか視線が逸れ、呟くような声になるのは、カズイのいつもの癖だ。
だがそれは今のサイにとって、エキセントリックに叫ばれるよりも痛烈な言葉だった。
「サイ。俺は、お前の心意気に感動したから……一緒にここまで来たつもりだ。
そりゃ戦闘もあるかと思うと、恐かったさ。実際、あったし。
だけど、今度は俺は逃げるまいと思っていた。今度は俺もサイと一緒に、出来ることを探したいと思っていた。
あの時、俺の気持ちを分かってくれたサイと一緒なら、って。
なのに……このザマは何だよ?」
床に落ちるように呟かれる言葉が、深くサイの心を刺していく。
カズイの両の拳が、震えていた。
「お前は俺たちのことなんか、何も考えずに……
フレイに散々とっついたり、ザフトを逃がしたり。
しかもナオトとマユにおせっかいして怪我させて、挙句にその責任をアムルさんに押しつける?」
「違う、カズイ……
俺はアマミキョの今後の航行が不安で」
「その程度の反論しか出来ないなら黙ってろよ!
俺がアークエンジェルを降りた時のお前は、どこ行っちまったんだよ!?」
カズイは感情を抑え切れず、遂にサイに怒鳴ってしまう。
その瞬間、よほどサイの表情が歪んだのか――
カズイはハッとして言葉を止め、すぐに下を向いてそれきり黙りこんでしまった。
代わりにトニー隊長が、猛然とサイを睨む。
「シュリ隊の大失態だ、これはっ……
フレイ嬢に、全て報告する!」