【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

8 / 436
part8 君は、キラが好きだった

 

 

 

 俺たちは夕方まで、オフィス街近くの丘の上の公園にいた。

 ジェットコースターの類はほとんどないに等しいが、ちょっとした遊園地のような場所だ。そこでまたフレイは巨大チーズタルトをたいらげ、さらに数時間俺を連れまわし、遊びまわった。

 彼女が30分に1回の割合で化粧直しに行くのは気になったが……女子ってのはそんなもんか。

 

「見て見てサイ、ここ海が見えるのよ!」

 

 フレイの声につられ、俺は丘の頂上へ登る。そこは低木の林に囲まれた、海からの風の通る比較的過ごしやすい場所だった。

 人の姿もそれほど見えず、ベンチが数個と、アナログ時計がついた黒い鉄柱が一本。見ようによってはかなり寂しい場所だが、ベンチからの眺めは絶景だった。

 よほど長時間遊びまわっていたのか、既に夕闇が迫っている。思ったより高い丘らしく、眼下には北チュウザンの工場街、そして向こうの川を隔てたところに、昨日のスラム街が見える。

 湿気を含んで濁る大気。そろそろ夕方ラッシュの電車が、鉄橋を通過する頃だ。

 熱気を閉じ込めたような空には鳥と蛾が飛び回っていたが、街を越えたところにある港のさらに向こう、汚れた空気をも越えた場所に、夕陽と共に紅く燃える海があった。航空機の轟音が耳をつんざく。

 

 最初空港から見た時は、工場からの排水で汚染された海にしか見えなかったが──

 こうして見ると、母なる海という言葉は真実味を持って迫ってくる。そう感じるのは、俺がコロニーで過ごした期間が比較的長かったせいかも知れないが。

 やや霞がかる空に、星がわずかな煌きを見せる。空気のせいか輝きは鈍いが、それでも十分だった

 

 ――最後の時間を過ごすには。

 

 

 フレイを振り返ると、おそらくカップル用であろうベンチには座らず、丘とその下の傾斜面とを隔てる柵から身を乗り出し、街を見ていた。

 それは街の景色がきれいだから見ているというのではなく、むしろ何かを探るような横顔だった。

 俺はふと気づいた。再会してからのフレイは、何かを探るような眼をすることが多いと。

 

 

 そう、探すべきなんだ。

 俺のところに、君は留まっていてはいけない。

 

 

 公園に備えつけられた時計を眺める。午後6時

 ──俺自身が決めた、タイムアップ。

 二人の時間は、これで終わりだ。

 

 

「どうしたのサイ? 

 怖い顔、なしよ」

 

 

 フレイが俺の腕を取り、ぎゅっと自分の胸に押しつける。

 この感触も、あと少しだけだ。何という柔らかさ、そして温かさだろう。

 どうして大切な時間は、こうも早く過ぎ去っていく? 

 

 

「夜はこれからなんだから。私、せっかく休みとったのよ、ね……

 お願い、サイ」

 

 

 この感触を味わうことの許される男は、俺じゃない。

 フレイ。そのまなざしを向けるべき相手は、俺じゃないんだ。

 

 強引に俺の腕を引っ張り、フレイは俺と一緒にベンチに座った。

 しかし俺は彼女の腕から一旦身を離す。そしてもう一度、その手をしっかり握った。

 きちんと真珠色に塗られたフレイの爪が、紅い夕陽の中で薄く光る。

 

 

「俺は──

 君に、言わなくちゃならない」

 

 

 フレイの笑顔を、それ以上見ることが出来なかった。

 眼を見れば決心は確実に崩れる、そんな気がした。

 夕陽に紅く染まる、彼女の笑顔。

 二度と見ることは出来まいと思っていた、でももう一度、手に入れた笑顔。

 心臓が砕けるほど強く抱きしめたかった、少女の笑顔。

 これを俺は、永久に手離す。

 

 

 フレイ。

 ──もう、俺を見るな。

 

 

「君は、キラが好きだった」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。