【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
俺たちは夕方まで、オフィス街近くの丘の上の公園にいた。
ジェットコースターの類はほとんどないに等しいが、ちょっとした遊園地のような場所だ。そこでまたフレイは巨大チーズタルトをたいらげ、さらに数時間俺を連れまわし、遊びまわった。
彼女が30分に1回の割合で化粧直しに行くのは気になったが……女子ってのはそんなもんか。
「見て見てサイ、ここ海が見えるのよ!」
フレイの声につられ、俺は丘の頂上へ登る。そこは低木の林に囲まれた、海からの風の通る比較的過ごしやすい場所だった。
人の姿もそれほど見えず、ベンチが数個と、アナログ時計がついた黒い鉄柱が一本。見ようによってはかなり寂しい場所だが、ベンチからの眺めは絶景だった。
よほど長時間遊びまわっていたのか、既に夕闇が迫っている。思ったより高い丘らしく、眼下には北チュウザンの工場街、そして向こうの川を隔てたところに、昨日のスラム街が見える。
湿気を含んで濁る大気。そろそろ夕方ラッシュの電車が、鉄橋を通過する頃だ。
熱気を閉じ込めたような空には鳥と蛾が飛び回っていたが、街を越えたところにある港のさらに向こう、汚れた空気をも越えた場所に、夕陽と共に紅く燃える海があった。航空機の轟音が耳をつんざく。
最初空港から見た時は、工場からの排水で汚染された海にしか見えなかったが──
こうして見ると、母なる海という言葉は真実味を持って迫ってくる。そう感じるのは、俺がコロニーで過ごした期間が比較的長かったせいかも知れないが。
やや霞がかる空に、星がわずかな煌きを見せる。空気のせいか輝きは鈍いが、それでも十分だった
――最後の時間を過ごすには。
フレイを振り返ると、おそらくカップル用であろうベンチには座らず、丘とその下の傾斜面とを隔てる柵から身を乗り出し、街を見ていた。
それは街の景色がきれいだから見ているというのではなく、むしろ何かを探るような横顔だった。
俺はふと気づいた。再会してからのフレイは、何かを探るような眼をすることが多いと。
そう、探すべきなんだ。
俺のところに、君は留まっていてはいけない。
公園に備えつけられた時計を眺める。午後6時
──俺自身が決めた、タイムアップ。
二人の時間は、これで終わりだ。
「どうしたのサイ?
怖い顔、なしよ」
フレイが俺の腕を取り、ぎゅっと自分の胸に押しつける。
この感触も、あと少しだけだ。何という柔らかさ、そして温かさだろう。
どうして大切な時間は、こうも早く過ぎ去っていく?
「夜はこれからなんだから。私、せっかく休みとったのよ、ね……
お願い、サイ」
この感触を味わうことの許される男は、俺じゃない。
フレイ。そのまなざしを向けるべき相手は、俺じゃないんだ。
強引に俺の腕を引っ張り、フレイは俺と一緒にベンチに座った。
しかし俺は彼女の腕から一旦身を離す。そしてもう一度、その手をしっかり握った。
きちんと真珠色に塗られたフレイの爪が、紅い夕陽の中で薄く光る。
「俺は──
君に、言わなくちゃならない」
フレイの笑顔を、それ以上見ることが出来なかった。
眼を見れば決心は確実に崩れる、そんな気がした。
夕陽に紅く染まる、彼女の笑顔。
二度と見ることは出来まいと思っていた、でももう一度、手に入れた笑顔。
心臓が砕けるほど強く抱きしめたかった、少女の笑顔。
これを俺は、永久に手離す。
フレイ。
──もう、俺を見るな。
「君は、キラが好きだった」