【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

82 / 436
part5 握りつぶされたものは

 

 

 ジェットストライカーを装備したダガーLに向け、対空機関砲ヘルダートで応戦しつつ、アマミキョは着水する。

 海面が激しく波立ち、一瞬アマミキョ前方を遮ったその刹那――

 

 爆炎を噴きだしたダガーLが、アマミキョの前方を掠めて落下していった。

 上部甲板で待ち構えていたカイキのカラミティの砲撃が、見事ダガーLに炸裂したのだ。

 

「チュウザン軍の防衛はまだ堅固だ、落ち着いて救護に向かえ!」

 

 着水後、半壊したドックからでも上陸可能であることが確認され。

 トニー隊長は救難活動隊・シュリ隊(アマミキョクルーたちの正式名称である)へ、上陸を命じた。

 その指示と共にカタパルトが開かれ、アストレイ隊、ミストラル、作業用トラックが次々に港へ降りていく。

 

 隊員たちにとってそれは、久しぶりの陸地だった。

 但し、今にも壊れそうな沈みかけの橋梁を伝っての上陸である。うまく上陸出来ず、はしけや橋梁から海に転落した者も少なくなかった。

 

 そして上空には砲火が飛び交っている。既に海に流れ出した死体も大量にある──

 港近くの広場から聞こえるものは、閃光に晒される人々の悲鳴。

 

 さらにその上から、この地域特有の豪雨も降り出している。

 そんな中を、シュリ隊員たちは消火作業用ミストラルやトラック、バイクなどで飛び出していく。

 勿論、ほぼ全員が怒りと使命感に燃えていたが、その一方でポイントを獲得したいばかりに救難作業に参加しようという者も多かった。

 

 

 ――何台目かのミストラルに詰め込まれたサイも、そのうちの一人だった。

 

 

「何でテメェがここにいんだよ!」などと十数人の同乗者から罵声を浴びせられつつも、サイは黙って制服の上から作業用ジャンパーを着け、メットを被った。

 稲妻のような火線があたりを照らす中、彼らを乗せたミストラルは炎をかいくぐり、港を抜け、街の方向へと走る。

 

 港への攻撃を一旦中止し、街の広場へと飛んでいくダガーL部隊。

 さらにその上を、フレイのスカイグラスパーが滑空していった。

 IWSPを装着したスカイグラスパーは、かつてアークエンジェルで使用されていたものより数倍、頼もしく見えた。

 

 

 

 

 着水の衝撃で、モビルスーツデッキにいたナオトは幸か不幸か、ハマーたちの手から逃れることに成功した。

 カタパルト付近のモニターからでも、港付近での戦闘が見える。対空砲火が徐々に弱体化しているのは、素人のナオトの目にも明らかだった。

 

 ハマーたちが衝撃で飛ばされ身動き出来なくなっている間に、ナオトは病院着のまま、ティーダ搭乗用タラップに取りついた。

 痛みや包帯など、もう関係ない。

 自分を振り向きもしなかったフレイへの怒りで、ナオトの腹は煮えくりかえっていた。

 

「マユもサイさんもフレイさんもいなくたって……

 僕は出来るんだ!」

 

 ナオトはタラップを素早く操作し、ティーダのハッチを開いて、そのまま乗り込んだ。

 ――そしてティーダ、発進。

 治りきっていない身体に地上の重力がかかり、内臓全てが背中から後ろへ飛び出していく感覚が彼を襲う。

 それでもナオトの幼い怒りは、止まらなかった。

 

 

 

 

「う、嘘……

 やめなさい、またっ!?」

 

 ナオトの無断出動を感知したブリッジでは、アムルが叫ぶ。だがもう時遅く、ティーダは豪雨と閃光の中へ飛び出していった。

 しかしティーダに構っていられる余裕は、ブリッジ側にもなかった。

 アムルの驚愕とほぼ同時に、アストレイ隊の作業をモニターしていたディックが悲鳴を上げる。

 

「アストレイ隊、敵機と遭遇! 交戦状態ですっ!」

 

 

 

 

 地上では、ビームカービンの音が空気と雨を切り裂く。煙と血の臭いで鼻が詰まりそうだ。

 そんな中を、サイたち作業員はミストラルで、懸命の救出作業を行なっていた。

 転覆した船からの救助、建造物内部にいて被爆した人々の救出、未だ勢いを止めぬ業火の消火作業――

 やるべきことは山ほどあり、トニー隊長の指示のもと、隊員たちは次々に分散していく。

 

 モビルスーツが加速度的に進化を遂げた現在の戦闘では標的にしかならないが、船外作業艇であるミストラルは、こういった地上作業には貴重だった。

 作業用アームを上部に持ち、下部は物資運搬用トレーラーとしても使用出来るのだ。サイたちが乗ったものは上部の作業用ポッドを切り離したものであったが、それでも十分作業の役には立つ。

 

 サイの担当は、港と街を繋ぐ運河、そしてその先の広場だった。

 しかし既に運河はその原形を留めぬほどに破壊され、水が大量に流出している。やや旧式の石造りの建物が運河沿いに建てられ街の形をなしていたようだが、今やそれらの建造物も全て炎を噴き出していた。

 

 何よりサイたちを驚かせたのは

 ――川とその先の広場を埋めた、無数の死体の山。

 

 橋が壊れて進めなくなりミストラルから飛び出した時、炎の照り返しと豪雨の為によく見えず、サイは一瞬穀類のつまった麻袋を蹴ったかと勘違いした。

 そんな『麻袋』が、炎の下、無数に河を埋め尽くしている。

 

「オイ、子供がいるぞ! 埋まってるっ」

「母親は!?」「とっくに死んでる、その下だ!」

 

 弱々しい泣き声に気づいた隊員は泥を押しのけ、死体の中から子供を二人救出した。

 一人は赤ん坊だった。彼らを守るように覆いかぶさっていた母親を、隊員が引き上げる。

 母親のふくよかな右腕が、泥と一緒に、肩からぼろりと落ちていく。

 

 

 膝までしみこんでくる水は、運河としてこの街を守っていた水だ。

 それが今、血に変わっている。

 サイの制服の膝が、泥混じりの血で染められていく。

 

 

 ──迫る炎をよけて人々は、川沿いの道路に逃げこんだ。

 まさかそこを、ダガーLが狙った? 

 

 

 広場上空では、未だにダガーLが飛んでいる。人々の悲鳴と騒乱が、場違いな交響曲を響かせていた。

 脱出が間に合わなかった人たちが、広場に逃げ込んでいる。

 運河ぞいからも逃げられずに、ダガーLに上空から攻められ、人々は街の中心部である広場に、無理やり追いつめられている! 

 

 サイがなりふり構わずミストラルに飛びつき、広場へ向かおうとした瞬間──

 

 

 ダガーLが2機、急降下して広場へビームカービンの一斉射撃を開始した。

 50センチ先の大木に落雷したような衝撃に、サイは思わず死体の上に腹這いになる。

 

 

 ──ビームの粒子で、空気が焼かれる。

 街が焼かれていく。

 

 

「退避だ、退避!」「退避って、何処にっ」

 

 

 作業員たちの悲鳴と怒声が交錯し、さらに広場の狂騒が、一気に空中を揺るがせた。

 頭を上げた時、サイに見えたものは

 

 

 ――焼けて崩れた銀行の向こうの、炎の中のダガーL。

 そのマニピュレータが、何かを掴んでいる。鉄くずではない。

 あれは──

 

 

 サイがはっきりと確認する前に、ダガーLのマニピュレータが、拳を作るように握り締められた。

 片手で肉団子を作る時というのは、あのような感じだろうか? 

 

 

「認めない。

 認めるか、こんなこと……」

 

 

 サイは、立ち上がることが出来なかった。

 チュウザンに初めて来た時、ダガーLは人間を直接狙った。

 自分が再びチュウザンに降り立った瞬間に、ダガーLは

 

 

 ──今、あの機体は、一体何をした? 

 

 

 俺の視力が悪くて良かったのかも知れない。あのダガーLの手の間から落ちる手袋や、靴、ブーツ、ちぎれたシャツの袖、それ以上のものを見なくてすむのだから。

 こんな光景を、もしキラが見ていたら──

 見てはいけないものまで見て、発狂してしまうかも知れない。あいつは、優しいから。

 本来なら、俺たちが助けるべき人たちだった。今あそこで握りつぶされた人たちは! 

 

 サイの放心を見透かしたように、フレイのスカイグラスパーがサイのすぐ上を通過した。

 怒りの閃光を、そのレールガンから発射させながら。

 広場からダガーLが2機飛び立ち、フレイを追撃する。閃くビームカービンの火線。

 同時にサイたちの身体が、水面の死体の群れと共に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

「飽きない奴らめ……またハンティングか!」

 

 追いついてきた3機のダガーLを振り切り、フレイのスカイグラスパーは広場の真上で急上昇する。

 炎熱を帯びた機体に豪雨が叩きつけられ、搭載されたIWSPのレールガンが前方へ、そして砲塔式バルカン砲が後方へなおも火を噴く。そして垂直急降下――

 

 フレイの身体はこんな急加速にも全く支障はないが、スカイグラスパーはコクピット内でも分かるほどの異音で震えていた。エンジンに無理をかけすぎている。

 にもかかわらず、スカイグラスパーは巧みに低空を飛行し、煙と炎に紛れてダガーLの目を眩ます。

 

 サイたちのいる運河付近、建造物の間を見事に通過してみせたのもその瞬間だった。

 燃えあがる建造物のガラスがさらに叩き壊され、地表へ降りそそぐ。

 

 地上スレスレを飛行しつつ、フレイは再びトリッキーな動きでダガーLを翻弄しにかかる。再び急上昇をかけ、ダガーLの一隊の間をすり抜け、そのうち2機のジェットストライカーの翼を正確に撃ち抜いた。火線が滝のようにスカイグラスパーに浴びせられるが、スカイグラスパーは急旋回、急降下を繰り返しつつ砲火をすり抜け、追い抜きざまにダガーLを撃つ。

 

 

「──兄弟たちは、子羊の血と自分たちの証しの言葉とで、彼に打ち勝った

 彼らは、死に至るまで命を惜しまなかった

 このゆえに、もろもろの天と、その中に住む者たちよ、喜べ

 地と海とは不幸である

 悪魔は怒りに燃えて、お前たちのところへ降っていった

 残された時が少ないのを知ったからである」

 

 

 

 

 新約聖書・ヨハネの黙示録第12章11-12節が、アマミキョのブリッジにも流れる。

 ニュートロンジャマーの影響はあったが、フレイの呟きが聞こえぬほど酷くはない。

 そして通信がややクリアーなおかげで、アストレイ隊やスカイグラスパー、ミストラルからの映像も逐一、不鮮明ながら入ってきている。

 いずれも、それまでオーブで平穏に暮らしてきた多くのクルーにとっては、信じられない光景だった。

 

「どういうことですか……ハンティングって?」

 

 アムルのリンドー副隊長への質問は、その場の全員の当然の感情だった。

 

「国際法に則った正当なやり方、だそうだ」リンドーは前方から迫るダガーL、それを迎撃するカラミティをモニターで睨みつけながら答えた。

「ユニウス条約のおかげで、モビルスーツは小規模の火器装備しか出来ん。あの英雄フリーダムやジャスティスなぞも違反機体だ。

 大規模な掃討作戦が出来ず、街に潜む不穏分子を駆逐出来なくなり、やむを得ずあのような事態になる。

 通称、ハンティングだ」

「やむを得ず? 

 冗談じゃねぇ、あいつら殺人を楽しんでる!」

 

 オサキは怒りに任せ、操舵輪を危うく引きちぎる処だった。

 それでも淡々と呟く副隊長。

 

「毒ガスや細菌兵器を使わぬだけ人道的だというのが、奴らの主張だ。

 上空から攻撃するのなら、人の姿は見なくともすむ。気の弱い兵士にはもってこいの方法だ。

 それと、忘れちゃならん──

 ジェネシスと同じ痛みを、モビルスーツで味わわせたいという奴らは少なくない。

 コーディネイターは勿論、それにつるむ者たちに対する鉄槌としてな」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。