【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-10 開戦
part1


 

 

「お嬢ちゃんたちの管理が行き届いているな。

 よく働く連中だ」

 

 チュウザン特有の強烈な朝日が射し込む、アマミキョブリッジ。

 その中央でこう言ってのけたのは、東アジア共和国連合軍・チュウザン駐留部隊──

 通称山神隊所属・伊能大佐だった。

 

「ご協力、感謝致します」

 

 顔も眉毛も、ついでに黒目の色も濃いこの連合の軍人を相手に、フレイは堂々と相対している。

『お嬢ちゃん』などと半分侮辱とも思える言葉をかけられようと全く動じる様子はなく、それどころか微笑みすら見せていた。

 

「しかし驚きましたよ。まさかあのフレイ・アルスターがここにいるとは……

 ヤキンで行方知れずになって以来、貴女は伝説化していたのですがね」

「事情は、上からお聞き及びのことと存じます」

「承知していますよ、故ジョージ・アルスター元外務次官のお嬢さん。

 わざと姿を隠したわけではない程度、理解出来ぬ自分らではございません」

 

 この言葉に、ブリッジ後方で固唾を飲み二人の会話を見守っていたオペレータたちが、改めて驚嘆のため息を漏らした。

 フレイがヤクザの娘と本気で信じていたオサキなどは、自分の無知に舌打ちしている。

 だがリンドー副隊長は相変わらず、鼻毛抜きをやめない。ブリッジ内を無遠慮にうろつき、隙あらばモニターをいじろうとさえするこの連合軍人を、遠慮なく頭からつま先まで眺めている。

 

「まさか、あんたらのウィンダムに助けられるとはな。仰天だよ」

「誤解しないで頂きたいものですな、リンドー艦長。

 連合とはいえ、ブルーコスモスばかりではない。むしろ私らなど、奴らの暴虐ぶりには辟易しているくらいでして」

「悪いが、誤解はそっちだ。ワシャ艦長でも隊長でもない、シュリ隊副隊長だよ」

「まぎらわしいなぁ。隊長は誰なんです」

 

 頭をかきつつ、伊能はおどけてみせる。リンドーはサイドモニターのうちの一つを、顎でしゃくってみせた。

 そこではトニー隊長が散々走り回り、隊員たちをいつも通り怒鳴りつけながらも負傷者を搬送していた。

 

「隊長はああいうのに任せるに限る。二番手は楽だよ」

「隊員らの前で言うこっちゃないでしょうが」

 

 雨がようやく上がり、明るくなっていく大地。

 ブリッジのメインモニターには、ドックに収容されたばかりの連合艦が映し出されていた。

 伊能たちのウィンダム部隊が配備された、スペングラー級モビルスーツ搭載型強襲揚陸艦・タンバである。

 蒸気を吹き飛ばすように照りつける陽の光が、破壊された街の惨状を容赦なく露にしていく。

 そんな中、微笑みさえ見せながら話すフレイ。

 

「自分も、血液が逆流する処でした」

 

 言葉とは裏腹に、唇に浮かんだ笑みは決して崩れない。

 

「まさか、自分たちが戦闘を行なっている間に――

 連合がプラントに宣戦布告とはね」

 

 

 

PHASE-10 開戦

 

 

 

「この船を乗っ取るつもりかな、連合は」

 

 連合のウィンダム部隊が半ば強制的にアマミキョに乗り込んできて、数時間。

 カズイはアムルと共に、船内の回線チェックに回っていた。彼女と一緒の作業に心を躍らせつつも、カズイは連合軍の存在に恐怖を隠せない。

 しかし、アムルはそれほど気にしていないようだ。監視モニターのディスプレイ部分の損傷をチェックしつつ、呟く。

 

「連合がアマクサ組にとってかわるだけでしょう? 

 私はその方がいいと思うけど」

 

 普通なら連合と聞いただけで、コーディネイターであれば嫌悪を示すはずなのに──

 カズイはアムルの横顔をまじまじと眺める。

 よほどフレイが嫌だったのか、この人は。気持ちは分かるけど。

 

「それより、どうしてそんなに怖がるのよ?」

 

 不思議そうにアムルはカズイを見やる。

 連合の軍服を見た瞬間の彼の怯えようは、ただ事ではなかったのだ。

 

「俺……一応、アークエンジェルに乗ってましたから」

「平気よ。貴方は降りていたんでしょ、オノゴロの時。

 尤も、サイ君は分からないけど」

 

 その名前に、カズイは改めて首を縮めた。

 ――自分たちを裏切った友人の存在を、必死で頭から追い出そうとしているのに。

 だがアムルは、カズイの心も知らずにサイの話を続けた。

 

「でも、当然の罰かも。

 組織を裏切る人は、結局人も裏切るのよ。

 誠実な人だと思っていたのにな」

 

 がっかり、という口調でありながら、アムルの横顔は無邪気で可愛らしい。

 少なくとも、カズイにはそう見えた。

 

 

 

 

 テロ攻撃の負傷者を収容し、いつも以上の地獄と化した医療ブロック。

 アマミキョの収容施設だけでは足りず、野外に臨時病棟を設置している。病棟といっても、テントだが。

 

「血液、最低あと4単位は必要よ! それから生食2リットルを投与っ」「血液、まだ来ません!」

「開胸セットは?」「何もかもが足りない! アラームだけうるさくても困るのよっ」

「贅沢言うな、医療モニターがあるだけマシだ」

 

 屋外の泥道にまで負傷者は溢れ、大量の蝿が患者の傷にたかっていく。

 スズミ女医やネネのテントでも、負傷者を10人ほど収容していた。

 医師も看護師も全員吹き出る汗を我慢し、蒸気のこもる中で怪我人の傷を切り開いていく。

 

 胸元を子供の血で汚した医師が、白衣を脱ぎ捨てながらその母親の動脈を注意深く診る。

 半身に火傷を負い、泣き叫ぶ中年親父を看護師たちが押さえる。

 日付が変わってから、麻酔なしでの腕、脚の切断回数は片手で数えられなくなっていた。

 

 

 そのすぐ後ろで、山神隊の風間曹長が涼しい顔で薬棚の検査を行なっていた。隊の中では唯一の女性兵士である。

 スズミ女医とネネたちがまた一人、大量出血中の負傷者を必死に処置している。

 

「ネネ、吸引して! 左心室が破れてる」「無理です、修復不能ですよぅ」

「諦めないで! 最後までやるっ!」

 

 風間はそんな医師たちの会話を背後に聞きつつ、薬品リストに書き込みをしていたが

 ――やがて、冷徹に言い放った。

 

「やめなさい。

 血液が無駄になる」

 

 その言葉に、思わず何人かが反応してしまう。

 風間はその豊満な胸と顎でリストを挟みながら、薬棚の中を強引にかき回していた。

 

 彼女こそが昨夜、運河沿いでサイとミストラルを救出したウィンダムパイロットだったのだが、ネネもスズミもそうとは知らない。

 その間にも患者の血液は噴き続け、アラームが鳴り響き、必死の除細動のかいもなく、生命がまた一つ消えていく。

 それでも治療を続けようとする看護師たちを制し

 

 ――スズミ女医は、遂に手袋を脱ぎ捨てた。

 

「……死亡時刻、午前7時21分」

 

 ネネが思わず怒鳴った。「いつもなら、助けられましたよっ!」

「負傷者の数を考えなさい!」

 

 スズミ女医は乾ききった唇の皮を噛みちぎり、テントの外へ出て行こうとする。

 風間はその肩を素早く押さえ、簡潔に言い放った。

 

「甘ったれないで下さいね。

 今は戦時下です」

 

 

 

 

 外の喧騒とはあまりお構いなしに、アマミキョ内部の作業ブロックはいつも通りのベルトコンベアの音が流れていた。

 そんな中――

 

 サイはヒスイに、メロンパンを渡していた。

 明らかに警戒心を露にして見上げる彼女に、サイは笑ってみせる。

 

「色々、迷惑かけてるから。

 たくさん食べないと、仕事も辛いでしょう」

 

 だが、ヒスイは受け取ろうとはしない。端末に向き直り、黙々と作業を続けるだけだ。

 しかも、予想だにしない返答まで投げつけられた。

 

「……ホント、迷惑です」

 

 クマの濃くなっているヒスイの目が、じろりとサイを見上げた。

 きっと、俺のクマはもっと酷い状態になっているだろう。

 そう思いながらも、サイは何とか笑みを崩すまいとする。

 

「悪いと思ってるんだ、本当ですよ」

 

 だがヒスイは、さらに痛烈な言葉を浴びせていく。

 口調自体はいつも通り、たどたどしいものだったが。

 

「ほ、他のメンバーのポイントの為に、わざわざあの戦場に出て行ったというのなら……

 やめて下さい。

 そういう恩着せがましさ……好きじゃない、です」

 

 カズイ以上にくぐもった言葉だったが、傷つく言葉には違いなかった。

 差し出したメロンパンを引っ込めることも出来ぬまま、サイは他の作業員たちのくすくす笑いを聞くことしか出来なかった。

 

 

 ――大体、ミストラルをオシャカにしかけただけじゃねぇか、アイツのやったことは。

 ――女の気をひきたいもんだから。

 ――最早、あんな女しかいないってか。

 

 

 さすがに、この態度はないだろう。

 サイが思わずヒスイをたしなめようとした――その時。

 不意に横から、メロンパンを取り上げる手が現れた。

 

「貴重な好意に、貴重な食糧。

 無下にすれば今のご時世、命を落としますよ。お嬢さん」

 

 山神隊・広瀬少尉だ。

 痩身で尖り気味の頬骨、ややぶ厚い唇。そして神経質そうな目と銀縁眼鏡がやけに特徴的なその軍人は、ヒスイにそっとメロンパンを渡すと

 ――何の感情もこもらぬ目で、サイを眺める。

 

「サイ・アーガイルだな。

 話がある」

 

 

 

 

 

 数分後。

 第3ブリーフィングルームで、サイは伊能大佐と広瀬少尉の二人に尋問を受けるハメになった。

 

「……というわけで2年前、自ら志願しアークエンジェル乗員となった貴様は、本来ならば連合軍において相応の処分を下される筈だが――」

 

 横柄なほどの広瀬の声がずっと響いているが、そんな台詞はサイの想定範囲内だった。

 連合軍がアマミキョに乗り込んできた昨夜から、こうなることは覚悟の上だ。

 

「アスハ代表の手前もあるし、貴様を今すぐどうこうするわけにはいかない。

 ただ、状況が状況だ。ユニウスセブン落下、そして開戦の衝撃はチュウザン全域を覆っている。

 南方の動きも相変わらず不穏であり――」

 

 立たされているサイの前を、ポケットに両手を突っ込んだままの広瀬が何度も往復し。

 その一方、伊能は奥の机で、呑気にかた焼きそばをかきこんでいる。

 

「今回のような連合過激派による騒乱も後をたたないが、さらにこの北チュウザンはザフト寄りの者も多く居住している。

 この国は火薬庫みたいなもんだ。アマミキョもまた例外ではなく……」

「広瀬少尉。本題に入れよ」

 

 うまそうにパリパリ音を立てて食事しながら、伊能が先を急がせた。

 広瀬は明らかに不満げにその上官を睨んだが、ぐっとこらえてサイに向き直る。

 

 

「コロニー・ウーチバラにおいて、アマミキョが襲撃を受けた時。

 貴様がテロリスト側と内通していたとは本当か?」

 

 

 単刀直入ではあるが、あまりの言葉。

 サイは反射的に顔を上げていた。

 

「まさか……! 

 ありえません。自分が何故、襲撃者などと」

「コロニー・ミントンでの作業中、貴様がザフト兵を逃がしたことは調べがついている。

 ウーチバラを襲った一団も、恐らくザフトの手の者だろうというのが連合上層部の見解だ」

「しかし、ウーチバラを襲ったのはザフトだけじゃありません! 

 ザフトは自分たちを助けてもくれたっ!」

 

 必死で抗弁するサイを、広瀬は強引に遮った。

 

「否定したい気持ちは分かるが残念ながら、噂になっている。

 アマミキョ内部でな」

 

 サイは冷静さを保とうとしたが、どうしても衝撃を隠せない。

 もう噂など聞かないように努力していたが、まさか自分がそこまで敵視されていたとは。

 しかし――

 呑気に会話を聞いていたはずの伊能が突然、狂ったように笑い出した。

 

「また噂レベルの調査か! 

 怯えてるじゃねぇか、婚約者殿が」

 

 その笑いに、過敏すぎるほどに反応した広瀬が目を剥いて反論する。

 

「しかし、プラント落下がザフトの差し金と明白になった以上、内通者は徹底的に洗い出す必要が……」

 

 その瞬間、伊能の丸い眼球がギロリと剥かれた。

 眼光はかつてのムウ・ラ・フラガを思わせるほど鋭い。

 

「馬鹿野郎! 

 もう一度兵学校からやり直せっ」

 

 頬張っていたニンジンが飛び出すほどの勢いで、いきなり伊能は怒声を轟かせた。

 

「何の為に俺たちが、ウィンダムでこの地に降りたと思っている。

 答えろ、広瀬。裏切り者を炙り出す為か?」

「いえ……

 住民及びアマミキョ乗員を、全力で護る為です」

 

 広瀬は即答した。

 尤も、伊能への不満はその膨らませた厚い唇に如実に現れていたが。

 

「分かってるなら時間の浪費はやめ、作業に戻れ。

 アーガイル、貴様もだ」

 

 一旦は死まで覚悟したが、どうやら、不問に終わったらしい──

 やたら回りくどい広瀬の言い回しのおかげで分かりにくかったが、多分アスハ代表のおかげで、少なくとも2年前にアークエンジェルに乗っていた件は見過ごしてもらえそうだ。

 今のところは、だが。

 

 ――途端、サイの腹から場違いな音が漏れた。

 

 少しだけ安心したのだろうか、姿勢は緊張していても空腹は正直だ。

 伊能が噴き出した。

 

「ぷ……お、お前……」

「も、申し訳ありません!」

 

 サイは真っ赤になって腹の虫を抑えようとしたが、ぐうぐうと鳴り続ける胃腸は一向に止まらない。

 あまりの鳴りように、広瀬まで思わず横を向き、手元の書類に目を落とすふりをしている。

 

「えー、ヒトフタサンマルの作戦行動は……」

「まぁ、食えよ。俺の残りで良けりゃ。

 そんなガリガリじゃ、ろくに作業も出来んだろ」

 

 伊能がさりげなく、サイにかた焼きそばの残りを差し出した。

 

 

 

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