【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
その尋問をこっそりとドア裏で聞いていたナオトは、サイの出てくる気配に気づいて身を隠した。
「やっぱり、ザフトだったんだ。
プラントを落としたのって……」
既にその事実はアマミキョ全体にも知れ渡っていたが、そのことがまたナオトの人間不信を倍増させてもいた。
サイと話をしようと彼は待っていたが、プラント落としの光景を思い出すと──
どうしても、自分から話しかけることが出来なかった。
「サイさんがザフトと内通していたなら……
ザフトを逃がしたのも、ティーダを壊そうとしたのも納得できるし」
昨夜フレイにパイロットを降ろされ、ヤケを起こしているナオトの幼い頭脳は、単純な結論を強引に導き出していた。
尤も、そんな考えに至ったのは彼だけではなかったのだが
――と、その時。
「どーしたのかな?
ティーダの名物、実況パイロット君!」
いきなり背後から肩を叩かれ、ナオトは思わず絶叫する処だった。
そこにいたのは――連合軍山神隊・真田上等兵。隊の中では一番若い新兵だ。
「そろそろ、アストレイの葬式だよ。レポートは君の役目だろ?」
陽光の下、四散したM1アストレイの回収作業がなされていた。
作業を抜けられるクルーは全員がその廃墟に集い、命を落としたパイロットを葬送する。
「無残に焼けただれた港が、太陽の下にその残骸を晒しています……
昨夜未明、連合からプラントへの宣戦布告も知らぬまま、多くの人々がその生命を散らしました」
山神隊に監視されながらのレポートがうまくいくはずもなく、ナオトは途中で録音を止めた。
あまりの惨状は、ナオトの力では伝えることすらままならない。
濡れた灰の間から蒸気が立ちのぼり、強い日の光が、目の前の廃墟やアストレイの右脚部を焼いていく。
率先してパイロットの弔いを行なったのは、フレイだった。
無残に散らばったアストレイのパーツを回収し終え、コクピットの残骸から辛うじて発見されたパイロットの遺骨を埋める作業が、淡々と進められていく。
薬瓶一杯ほどの黒炭と化した骨を埋葬した後、フレイはその場にそっとハイビスカスの花束を置いた。花束とは言っても物資不足で、2、3輪の造花しか用意出来なかったが。
恋人を亡くした男の絶叫と悲嘆が、澄みわたった天空にこだまする。
カイキたちアマクサ組もクルーたちと共に、埋葬の様子を見守っていた。
何とか歩けるほどにまで回復したマユも、包帯姿のままカイキに連れられ、じっとフレイを見ていた。
弔いを終えた後、フレイはしばらくの間、破壊された街の跡をゆっくりと歩き──
ふと足を止め、腰を屈めた。
そこは全壊した食料品店の残骸らしく、「毎夕5時よりタイムサービス」「生鮮食品3割引」などと書かれた派手めの看板が焼け残っている。
その下から、フレイは両手に収まる程度の大きさの、黒こげの塊を取り出した。
しばらく視線を落とした後――
フレイはその表面を親指でなぞり、やがて両腕で抱きしめる。
まとわりついてくる蚊を、振り払いもしない。
「すまない。
私が来るのが遅すぎた」
その後ろから、不意にマユが声をかけた。
「フレイ。
それ、何?」
カイキはフレイの抱くものの正体を素早く察知し、マユを下がらせようとする。
「見る必要はない……お前は」
「いや、構わん」
既にカイキとマユに気づいていたフレイは、振り向きもしないまま二人を止めた。
「――子供の頭だ。
ここで、母親と一緒だった」
「すごいね。人間だったの、それ?」
マユの包帯の間から見える瞳は、あくまで無邪気だ。そして口調もいつも通り、朗らかだった。
「火って、そんな風に人間を焼けるんだ。
おもしろーい!」
きらきらと目を輝かせるマユ。
しかし、その時。
「何が面白いんだ!」
突然背後から響いた叫びに、マユもカイキも振り向いた。
レポートを終えたナオトが、マユを追ってきていたのだ。
「貴様!
近づくなと言ったはずだっ」
敵意を露骨にしたカイキは、ナオトからマユを庇うように立ちはだかる。
だが、マユはあっさりその手をどけ、嬉しそうにナオトへ駆け寄った。
「ナオト!
どうしたのっ、さっきのレポート元気なかったよ?」
「人がこんなに死んで、元気になれるかよ!
君の足元だって、まだ人がいるかも知れないんだぞ」
彼の指摘したとおり、マユは崩れた建物の残骸を平気で踏んでいた。
今マユの立っているのは、冷蔵庫の上だ。だがそれに気づいても、マユは意味が分からない。
「ナオト……
いつもと違う。何かあったの?」
「別に何も」
ナオトは不機嫌な表情を隠そうともせず、横を向く。
「君が元気になってくれて、僕は嬉しいよ。それだけ確認したかった」
「うん! 私はいっつも元気だよーっ」
マユは未だに病院着のままで、身体中包帯だらけ。にも関わらず両腕を振り回し、ぴょんぴょん飛び跳ねてみせる。
焼け残った冷蔵庫の下で響く、卵がいくつも割れる音。いや、恐らく割れているのは卵だけではないだろう。
その音が面白いらしく、マユは何度も飛び跳ねる。
「ね! また一緒に、ティーダに乗ろうねっ」
「飛ぶな! そんな場所で!!」
ナオトの大音声に、マユはぴたりとジャンプをやめた。
相手の感情が掴めず、彼女はしげしげと彼を見つめる。
あまりにも無邪気なマユの瞳に耐え切れなかったのか。
彼は視線を逸らし、今度は聞き取れないほどの小さな声で呟いた。
「ティーダは、降ろされたんだ。そっちの人にね」
ナオトは、向こう側にいるフレイに顎をしゃくる。もう、その名すら呼びたくないというように。
フレイの方も何も言わず、ナオトたちを眺めていた。相変わらず、冷たく突き刺すような視線で。
「だから──もう、君と一緒には乗れない」
数日間の必死の救助作業の後、アマミキョは山神隊に護衛されつつ、ナンザン港を出て北チュウザン首都・ヤエセに向かった。
勿論、ナンザン修復作業の為何人かのクルーは残している。
ヤエセは川を隔てて、コーディネイターの街とナチュラルの貧民街に分かれる街だ。
コーディネイター中心の川向こうは文具団の勢力下にあり、当初アマミキョが拠点を置く予定だったが、山神隊は東の貧民街側に拠点を据えることを主張した。
アマクサ組と山神隊でひと悶着が発生しそうになったが、フレイの一声でアマミキョは、どちらにも接近した場所へ移動することになった。
「川沿いのヤハラ地区ならば、どちら側にもすぐ飛べます。
船体を分離させ、アマミキョの活動範囲を広げることも可能だ。アマミキョコアブロックは東側に置きます」
「十分です。
お恥ずかしい話だが、我々が欲しいのは戦力だ」
タンバ艦長・山神少将は連合軍人にしては丁寧すぎるほどに、言ってのけた。
「特に、ティーダにカラミティの改造型は魅力的です。
勿論、貴女のIWSPもね……アルスター隊長」
白髪が目立ち、そろそろ退役の年齢にさしかかっていそうな容貌だが、まだまだその眼光は衰えていない軍人だった。
「期待して頂き、光栄です。
単刀直入に仰られると、こちらも助かる」
「それだけ、こちらの余裕がないということですよ。
海に面した街の多いこの国は、どこも素晴らしい拠点となる。逆に言えば、どこであろうとザフトに狙われる可能性が高いということです。
それにここは、面積の割に人的資源も豊富だ。魅力があるということは、それだけ標的にされる危険も高くなる」
「南チュウザンの動乱の件もありますし、ザフトが混乱に乗じてチュウザンの利権を狙う
──十分ありうる話でしょう。
こちらも、貴方がた連合軍がいて下さることは心強い」
クルーの中にはアムルのように、連合がアマクサ組の支配を押しのけてくれることを期待する者も少なからずいたが――
フレイ・アルスターが連合内部でも伝説的人物である以上、山神隊も彼女にとやかく言うことは許されなかった。
しかもアマクサ組の管理体制に関しては、山神隊の中でも高く評価する者が多かったのだ。従って隊を率いる山神も必然的に、フレイに対してこのような物言いになる。
互いに、助けを必要とする立場であることに違いはなかった。
こうして、山と川に挟まれた小さな村落──ヤハラ地区。
ヤエセ少年更生院の置かれたこの地域で、アマミキョは本来の人道支援たる作業に取りかかることになった。