【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 孤立するサイ

 

 

 同じ映像を作業艇・ハラジョウで眺めながら、フレイは口紅を引きなおしていた。

 ニコルが画面操作をしながら、ラクスの歌声に聞きほれている。

 だがやがて車椅子を軋ませつつ振り向くと、彼はフレイに微笑みかけた。

 

「似たようなこと考える人って、いるものですね」

 

 フレイは紅筆の長さを調整しつつ、鏡ごしにラクスの映像を見る。

 

「……だな。

 しかし、デュランダル議長はある一点で、致命的なミスを犯している」

「遅かれ早かれ、そのミスは修復されますよ」

「そうなったら、困るのは我々だぞ。ニコル」

「でしたね。尤も、簡単に修復されるようじゃ、僕らがここまでする価値もないですけど」

 

 舌をぺろっと出しつつ、ニコルは画面に向き直った。

 

「それにしても彼女……

 よく、なりきってるなぁ」

 

 

 

 

 サイにとって屈辱的なのは、地元住民にさえ既に自分の噂を流されているという現実だった。

 更生院修復及び学校建設の為に、熱射と豪雨の中を駆けずり回るサイ。

 そんな自分に向けられる視線が酷薄なものになっている事実に気がつくのは、そう遅くはなかった。

 おそらく、他の隊員たちが自分のことを言いふらしているのだろう。ザフトの内通者だの何だの。

 自分にお菓子をねだってくる子供らを、怒鳴り散らしながら急いで母親が引き離す光景を、サイはもう何度も経験した。──近づいちゃいけません! とか何とか。

 

 まぁ、そうだろう。

 自分の格好を見ながら、サイは思う。

 

 意地でブリッジの制服を着続けているものの、暴行を何度となく受けたおかげで所々が破れている。

 泥や血のしみがあちこちについて、襟や脇のあたりも汗で黒ずみ、顔も傷だらけだ。

 洗濯は何とか続けているものの、風呂にはもう何日も入っていなかった。尤も、豪雨がシャワーがわりになってくれるので最低限の清潔さは保っているつもりだったが──

 それでも、作業ブロックに入ると決まって、ヒスイや他の女性たちに嫌な顔をされた。

 多分、単純にとても臭くなっているのもあるんだろう。文字通りの鼻つまみ者というわけか。

 

 まるで子供だ、アマミキョの連中は。

 大体、昔の海外救援隊と違い、アマミキョに乗ったクルーは職を求めて乗り込んだ人間も多い。つまり、志の高い者もいるがオーブ底辺層の者も多いということだ。

 一応の面接試験はあったものの、篩にかける為ではなく配属先を決める為のものにすぎない。

 だからこそ、ハマーのようなアル中まで乗り込んで──

 

 

 学校建設の為の土地を整備しながらそこまで考えて、サイは自分に失望した。

 

 

 ――疲れてるんだな、俺は。

 だけど、自分が辛いからといって他人を卑下するようでは人間、おしまいだろう。

 

 

 降り積もった土砂や焼けた木材を取り除く作業を、燃えるような夕陽の下で延々と行いながら、サイは考え続ける。

 

 自分がターゲットになって、アマミキョが結束するのなら──それもありだろう。

 実際、プラントを再び敵としたことで、分裂気味だった連合が再び組織の結束力を取り戻しつつある。

 敵を作るということは、組織をまとめる上で最も手っ取り早い方法なのかも知れない。

 敵とされた方はたまったものではないが。

 

 ふと周りを見ると、近所の子供たちが小さな木材を振り回し、ちょっとした乱闘を起こしていた。

 

「連合の核攻撃、失敗したんだってなー。ざまーみろ!」

 

 まだ5歳程度の子供たちだろうか──そのうち三人ほどは結構身なりも良く、力も強そうだったが、他の子たちは何日も泥の中で遊んでいたような格好をしている。

 身なりの良い方の子供らが、他の子たちを次々に殴り、蹴り、砂場に突き落とし、泣かせていた。

 その時――

 

 たかが子供の喧嘩ですまされない言葉が、飛んだ。

 

 

「無駄な抵抗はもうやめろよ」

「お前らナチュラルがいくらやったって、俺らにかなうわけないんだから!」

「そうそう。ナチュラルの友達なんか、いるかよ!」

 

 

 瞬間、脳裏をよぎったものは勿論、あの記憶。

 忘れようもない、あの砂漠の夜の記憶。

 

 

 ──やめてよね。

 僕が本気を出したら、サイが僕に──

 

 

 状況をしっかり把握する前にサイは反射的に、シャベルを地面に叩きつけていた。

 乾いた音が大地に反響し、驚いた子供たちが振り向く。

 だが子供たちが怯えて逃げ出す前に、サイは大股で強引に子供たちの間に立ち塞がり、言葉を吐いた子の首根っこをつかまえる──

 

 沈む夕陽の中、平手うちの音が響いた。

 

「やめるんだ! 

 どんなことがあっても、人を辱めちゃいけない!!」

 

 あまりのサイの剣幕に、度肝を抜かれた子供たち。

 彼らは謝ることも抵抗することもなく、火が付いたようにぎゃあぎゃあ泣きだし、喚きながら一目散に走り去っていく。

 

 ──自分がしてしまったことに改めて気づいたのは、子供たちがいなくなって数秒後だった。

 子供を殴った、その血豆だらけの手を茫然と眺めるサイ。

 

 駄目だ、俺は。

 未だにキラとフレイとの、あの砂漠の記憶に縛られている。

 キラの苦しみなどまるで理解しようとせず、フレイの悲しみも知ろうとせず、一方的にキラを憎んだあの時──

 

 あの時と今と、何が違うんだ。

 ただ、今は相手がキラでなく子供であった為に、自分は怒りを思い切り、ひ弱な相手にぶつけることが出来ただけだ。

 フレイの平手やカイキの拳の方が、理由がある分、今の自分よりも遥かにマシだろう。

 今、自分は憎しみと衝動だけで、子供を殴った。

 

 

 ──人を辱めているのは、俺だ。

 

 

 立ち尽くしたままのサイの背に、ふと投げつけられる言葉。

 

「最低」

 

 思わず振り向くサイ。すると──

 

 看護師のネネと操舵手のオサキが、連れ立ってこちらを見ていた。

 今の言葉は、ネネの口からぽつりと出たものらしい。

 オサキはもう、言葉をかける価値すらないというように、ぺっとその場に唾を吐き捨てた。

 そのまま二人は、サイを振り返りもせず、持ち場へ戻っていく。

 

 同班で、しかも最初は比較的仲の良かったはずの二人。

 そんな彼女たちから蔑視されるのは、他のクルーたちから忌み嫌われるよりもずっと、サイの心を沈ませた。

 二人とも、何だかんだ言いながらもブリッジや医療ブロックで、度々サイを助けてくれたのに。

 ネネなどは、ひょっとしたら自分に気があるのではなどと思ったこともあるくらいだったのに。

 

 

 カズイも、ナオトも、他の連中も皆、自分から離れた。

 もはや俺には、誰もいない──

 

 

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