【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part9 変貌

 

 

 俺は自分でも驚くほど冷静に、全てを語った。

 出来る限り詳細に至るまで、彼女に全てを伝えようと努めた。

 

 フレイがキラの手でアークエンジェルに拾われた後、父親を目の前で失ったこと。

 それを境に、彼女が大きく変わってしまったこと。

 父親の死をきっかけに彼女は軍に志願し、それに便乗するような形で、情けなくも俺たちまで志願してしまったこと。

 そして父親の仇のコーディネイターを憎むあまりに、キラに一方的にその憎しみを叩きつけたこと。

 そして──

 

 

 恐らく、ではあるが。

 自らの身をキラに差し出すことによって、彼の戦闘の意志を高め、さらなる戦場へと彼を追い立てたこと。

 

 

 

 じっと聞いているフレイの表情が痛々しいほどの変化を見せ、笑顔が壊れていく。

 それでも俺は話し続けた。

 彼女の手はいつしか、俺の左腕を血が出るほどに強く握り締めていた。

 

「じゃあ、私はサイと……」

「当然の結果だよ。

 切り出したのは君だった。俺は君が何を考えているかなんて、ちっとも分からなかった……

 今も、正確な処は分からない。

 父親を失って思いつめたあまりの行動だろう、と推測したのはミリアリアだからね」

 

 そして俺はなおも話した。

 フレイがキラと共に夜を過ごした、その事実を知らされた時のことを。

 

 

 あの砂漠の夜、俺はフレイ自身の口から現実を告げられ、逆上した俺はキラに殴りかかった。しかし俺はキラにあっけなく反撃を封じられ、自分とキラとの差──

 ナチュラルとコーディネイターの圧倒的な差を、まざまざと思い知らされることになった。

 

 あの時のキラの言葉。

 忘れようにも忘れられないあの言葉を、俺はもう一度、そのまま、自分の口に出していた。

 

 

 

 ──僕が本気を出したら、サイが僕にかなうわけがないだろ! 

 

 

 

 そこまで話した瞬間、フレイの顔が豹変した。

 不意に立ち上がり、俺の肩を右手でむずと掴み、もう一方の手で自分の白いむき出しの右腕を掴んだ。

 

 

 歯ぎしりをしているのがはっきり分かった。

 眼が激しくつりあがり、その眼光は俺を射抜く。

 苦しげに、しかし激しい怒りで歪んでいくフレイの表情。

 最後の夕陽のかけらがその頬を照らす。俺を掴んだフレイの指が、肩に食い込んていく。

 信じられないほどの強烈な力で、俺の骨が歪むかと思った。

 

 

「何という……」

 

 

 歯の間からやっと漏れた言葉は、明らかにそれまでのフレイの口調と違っていた。

 フレイが自分で掴んでいた彼女自身の腕からは、爪が食い込んで血が流れ出している。

 

 

 一瞬、殺されるとすら感じたフレイの表情

 ――しかしそれは、本当に刹那の出来事だった。

 

 ふうっと息をつくと、彼女は諦めたように腰を落とし、がくりと頭を垂れた。

 紅い髪が風になびく。

 

「それから、どうしたの。

 つらいと思うけど……聞かせて」

 

 

 俺は話し続けた。

 自暴自棄になってストライクを動かそうとして失敗したことまで、いつのまにか俺は自虐的な表現混じりで話していた。

 フレイの顔つきがみるみる青ざめ、ついにはその眼から涙が溢れだす。

 

「どうして? 私どうして、そんなひどいことを貴方に……

 キラにも、みんなにも?

 異常よ、私は何を考えていたの?」

「異常だったんだよ。俺も君も、全員の状況が」

 

 トールとキラが行方不明になった件、その後のミリィの慟哭、フレイの狂乱。

 フレイがもう一度俺に寄り添おうとした時のことも、俺は包み隠さず話し続けた。

 

 

 ──君は、キラのことが好きだったろ! 

 

 

「今も俺は、あの時間違ったことを言ったとは思っていない。

 最初は憎しみだけだったかも知れないけど、君は確実にキラに惹かれていった。

 一緒にいた時間がそうさせたか、君自身の演技が君を本気にさせたか。

 一番大きかったのは、キラが君のために必死で、命をかけて戦っていたことだと思う」

「貴方だってそうでしょ……

 ブリッジにいて、何度も危ない目に」

「そのたびにキラに助けられたよ。

 キラがいなければ俺たちは今頃、ここにいない。

 キラは昔の親友とも撃ち合った……たくさん殺して、そのたびに泣いていたと思う。

 優しい奴だから」

 

「友だち思いなのね、サイは」

 

 フレイは立ち上がり、皮肉をたっぷりとこめて俺を見下げる。

 

「私がサイなら、キラも私も殺してる」

「殺したかった。

 そんな自分がイヤだったよ、自分は人間じゃないと思った」

 

 俺も立ち上がり、フレイの腕を押さえようとして、振り払われた。

 背を向けようとするフレイの前方に、俺は懸命に回りこむ。

 

「イヤがることなんかない。

 当然の感情よ、そこで殺意を覚えなければそれこそ人間じゃないわ!」

 

 フレイは俺の眼を見ようとせず、必死で俺を避ける。

 俺はその腕を掴む。

 傍目にはつかみ合いの喧嘩に見えるだろうが、俺は構わなかった。

 

「久しぶりだよ、気持ちいいな。

 フレイの口から啖呵を聞くのは」

 

 彼女は俺から視線を逸らしたまま、唇を噛みしめた。頬から顎にかけてのラインが氷のように固まっている。

 俺はその横顔に向け、なおも喋った。

 

「キラもトールも帰らないまま、君はアークエンジェルから降りた。

 その後のことは、俺にもさっぱりわからない。

 数か月後になって、メンデルにいたあたりで君の声を聞いた時は仰天したよ。

 転属したはずなのに、どうしてザフトの捕虜になっていたのか、君がそこで何を見たのか……

 それだけは、今も分からない」

「つまり私は……キラと同じ状況に置かれたわけね」

「ナチュラルの中のコーディネイターより、もっとつらいと思う。

 何をしていたかなんて正直、俺は考えたくない」

「私も」

 

 フレイはぱっと俺に背を向け、腕時計を確認した。

 

 陽は既に完全に暮れている。

 公園の白色灯には、大量の黒い蛾が乱舞して地面に揺らめく影を作っていた。やがて背を向けたまま、彼女はハイビスカスの花束を抱きながら呟いた。

 

「お願い。

 オーブに戻っても、キラに私のことは伝えないで。絶対に」

「どうして?」

「当然でしょ。心の準備ができない。

 貴方、自分ではいいことしたつもりでしょうけど……言われたこっちの身になってみなさいよ」

 

 俺の方向からでは彼女の表情は見えないが、台詞の内容に反して口調は穏やかだった。

 

「悪かったよ。君が混乱することは予想できた、謝る。

 でも君は、積極的に聞きたがってたけどな。

 会いたくないのか? キラに」

「会いたいわよ。会って首を絞めてやりたい」

 

 いとも簡単にそんな言葉を口にしたフレイに、俺の頭は思わず熱くなった。

 人を何だと思っている。

 

「俺はそんなことを君にしてほしくて、話したつもりはない!」

 

 すると、フレイはおずおずとこちらを向いた。

 視線を合わせたくはないようだが、何とか俺と相対しようと頑張っている。

 

「……えっと。

 それは、感謝してる」

 

 笑おうとしているが、どうしても口元が引き攣ってしまうようだ。

 肩が震えている。それは怒りの震えか。

 

「サイにしかできないわよ、こんなこと。

 貴方みたいなお人よし、見たことも聞いたこともない!」

 

 俺はそっと、彼女の手を取ってメモを手渡した。

 

「これ、通信ルート。

 あいつ一応、オーブ内でも要注意人物扱いだからさ。大っぴらに外出るわけにもいかないらしい」

「やめて。

 あの歌姫様がいるんでしょう? どうやって行けって?」

「話し合う必要はある。

 彼女なら理解してくれるし、キラも彼女も協力は惜しまないはずだ。

 君に必要なことだと思ったから、俺は話した」

 

 

 その時――

 離れかけた俺の手に、フレイの指が絡んだ。

 暑さにも関わらず、さらっと滑らかな細い指の感触。

 思わずはっとして彼女を見つめる。フレイは眼を伏せ、呟いた。

 

 

「貴方にこんなすごいことされて、私がもう一度、キラを好きになれると思う?」

 

 

 紅い前髪が揺れていた。

 彼女が何を言っているのか、一瞬では理解不能だった。

 

「フレイ、君は本当に残酷な女だったんだ。

 あんなにまで君を想い、君を護ろうとしたキラの目の前で、君は行ってしまった。

 だから、もう一度──」

 

 俺の薬指と小指を掴んだまま、フレイは俺の方へ身を寄せた。

 険しい表情が消え、俺の目の前に笑顔が広がる。

 

「ごめんね。

 話してくれて、ありがとう」

 

 心からの感謝の言葉と、俺には分かった。

 

 

「本当にごめんね、サイ──」

 

 

 その言葉で、俺の心の何かがすっと溶けていく感覚がした。

 俺はずっと、フレイのこの言葉を聞きたかったんじゃないか。

 

 

「礼を言うのは俺だよ。ありがとな、俺のわがままに付き合ってくれて。

 最後のデートなんて、ホント……安い感傷だよな」

 

 

 フレイの睫毛がかすかに震える。

 

 

「ふふ……そうかもね。

 でも私は、嬉しかった」

「行けよ、キラの処へ。

 君が本当に謝るべき相手は、キラなんだ」

 

 

 フレイはそれに対しては何も言わないまま、俺の耳に唇を近づける。

 何処かで地鳴りのような音がして大気が緊張したことに、俺は全く気がつかなかった。

 次の瞬間、俺の耳元で囁かれた言葉は──

 

 

 

 

 

「逃げろ。

 来た道を走って戻れ、3つ目のダストボックスを右に曲がれ。

 林の中に小道があるから突き抜けろ、23番地のクレープ屋裏に出る。

 その10メートル東が地下シェルターだ」

 

 

 

 

 

 さっきの言葉より数段、理解不能な言語だった。

 しかも今までの彼女とは、口調も声色も全く違う。

 

 思わずフレイを見ようとしたが、その時にはもう彼女は俺を振り払い、丘の上の柵に脚をかけて飛び越えていた。

 水色のスカートが大きく翻り、太ももが見えた。

 

 ……見とれているどころではない。

 あの太ももに装着されていたものは、拳銃じゃないか? 

 

 ちなみに柵の高さは約1.5メートル。それを彼女は、いとも簡単に飛び越えたのだ。

 その下は土がむき出しになった急斜面、というか崖である。

 あまりのことに、俺が叫びかけた瞬間──

 

 

 

 

 公園中が、衝撃で吹っ飛んだ。

 

 

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