【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
俺は自分でも驚くほど冷静に、全てを語った。
出来る限り詳細に至るまで、彼女に全てを伝えようと努めた。
フレイがキラの手でアークエンジェルに拾われた後、父親を目の前で失ったこと。
それを境に、彼女が大きく変わってしまったこと。
父親の死をきっかけに彼女は軍に志願し、それに便乗するような形で、情けなくも俺たちまで志願してしまったこと。
そして父親の仇のコーディネイターを憎むあまりに、キラに一方的にその憎しみを叩きつけたこと。
そして──
恐らく、ではあるが。
自らの身をキラに差し出すことによって、彼の戦闘の意志を高め、さらなる戦場へと彼を追い立てたこと。
じっと聞いているフレイの表情が痛々しいほどの変化を見せ、笑顔が壊れていく。
それでも俺は話し続けた。
彼女の手はいつしか、俺の左腕を血が出るほどに強く握り締めていた。
「じゃあ、私はサイと……」
「当然の結果だよ。
切り出したのは君だった。俺は君が何を考えているかなんて、ちっとも分からなかった……
今も、正確な処は分からない。
父親を失って思いつめたあまりの行動だろう、と推測したのはミリアリアだからね」
そして俺はなおも話した。
フレイがキラと共に夜を過ごした、その事実を知らされた時のことを。
あの砂漠の夜、俺はフレイ自身の口から現実を告げられ、逆上した俺はキラに殴りかかった。しかし俺はキラにあっけなく反撃を封じられ、自分とキラとの差──
ナチュラルとコーディネイターの圧倒的な差を、まざまざと思い知らされることになった。
あの時のキラの言葉。
忘れようにも忘れられないあの言葉を、俺はもう一度、そのまま、自分の口に出していた。
──僕が本気を出したら、サイが僕にかなうわけがないだろ!
そこまで話した瞬間、フレイの顔が豹変した。
不意に立ち上がり、俺の肩を右手でむずと掴み、もう一方の手で自分の白いむき出しの右腕を掴んだ。
歯ぎしりをしているのがはっきり分かった。
眼が激しくつりあがり、その眼光は俺を射抜く。
苦しげに、しかし激しい怒りで歪んでいくフレイの表情。
最後の夕陽のかけらがその頬を照らす。俺を掴んだフレイの指が、肩に食い込んていく。
信じられないほどの強烈な力で、俺の骨が歪むかと思った。
「何という……」
歯の間からやっと漏れた言葉は、明らかにそれまでのフレイの口調と違っていた。
フレイが自分で掴んでいた彼女自身の腕からは、爪が食い込んで血が流れ出している。
一瞬、殺されるとすら感じたフレイの表情
――しかしそれは、本当に刹那の出来事だった。
ふうっと息をつくと、彼女は諦めたように腰を落とし、がくりと頭を垂れた。
紅い髪が風になびく。
「それから、どうしたの。
つらいと思うけど……聞かせて」
俺は話し続けた。
自暴自棄になってストライクを動かそうとして失敗したことまで、いつのまにか俺は自虐的な表現混じりで話していた。
フレイの顔つきがみるみる青ざめ、ついにはその眼から涙が溢れだす。
「どうして? 私どうして、そんなひどいことを貴方に……
キラにも、みんなにも?
異常よ、私は何を考えていたの?」
「異常だったんだよ。俺も君も、全員の状況が」
トールとキラが行方不明になった件、その後のミリィの慟哭、フレイの狂乱。
フレイがもう一度俺に寄り添おうとした時のことも、俺は包み隠さず話し続けた。
──君は、キラのことが好きだったろ!
「今も俺は、あの時間違ったことを言ったとは思っていない。
最初は憎しみだけだったかも知れないけど、君は確実にキラに惹かれていった。
一緒にいた時間がそうさせたか、君自身の演技が君を本気にさせたか。
一番大きかったのは、キラが君のために必死で、命をかけて戦っていたことだと思う」
「貴方だってそうでしょ……
ブリッジにいて、何度も危ない目に」
「そのたびにキラに助けられたよ。
キラがいなければ俺たちは今頃、ここにいない。
キラは昔の親友とも撃ち合った……たくさん殺して、そのたびに泣いていたと思う。
優しい奴だから」
「友だち思いなのね、サイは」
フレイは立ち上がり、皮肉をたっぷりとこめて俺を見下げる。
「私がサイなら、キラも私も殺してる」
「殺したかった。
そんな自分がイヤだったよ、自分は人間じゃないと思った」
俺も立ち上がり、フレイの腕を押さえようとして、振り払われた。
背を向けようとするフレイの前方に、俺は懸命に回りこむ。
「イヤがることなんかない。
当然の感情よ、そこで殺意を覚えなければそれこそ人間じゃないわ!」
フレイは俺の眼を見ようとせず、必死で俺を避ける。
俺はその腕を掴む。
傍目にはつかみ合いの喧嘩に見えるだろうが、俺は構わなかった。
「久しぶりだよ、気持ちいいな。
フレイの口から啖呵を聞くのは」
彼女は俺から視線を逸らしたまま、唇を噛みしめた。頬から顎にかけてのラインが氷のように固まっている。
俺はその横顔に向け、なおも喋った。
「キラもトールも帰らないまま、君はアークエンジェルから降りた。
その後のことは、俺にもさっぱりわからない。
数か月後になって、メンデルにいたあたりで君の声を聞いた時は仰天したよ。
転属したはずなのに、どうしてザフトの捕虜になっていたのか、君がそこで何を見たのか……
それだけは、今も分からない」
「つまり私は……キラと同じ状況に置かれたわけね」
「ナチュラルの中のコーディネイターより、もっとつらいと思う。
何をしていたかなんて正直、俺は考えたくない」
「私も」
フレイはぱっと俺に背を向け、腕時計を確認した。
陽は既に完全に暮れている。
公園の白色灯には、大量の黒い蛾が乱舞して地面に揺らめく影を作っていた。やがて背を向けたまま、彼女はハイビスカスの花束を抱きながら呟いた。
「お願い。
オーブに戻っても、キラに私のことは伝えないで。絶対に」
「どうして?」
「当然でしょ。心の準備ができない。
貴方、自分ではいいことしたつもりでしょうけど……言われたこっちの身になってみなさいよ」
俺の方向からでは彼女の表情は見えないが、台詞の内容に反して口調は穏やかだった。
「悪かったよ。君が混乱することは予想できた、謝る。
でも君は、積極的に聞きたがってたけどな。
会いたくないのか? キラに」
「会いたいわよ。会って首を絞めてやりたい」
いとも簡単にそんな言葉を口にしたフレイに、俺の頭は思わず熱くなった。
人を何だと思っている。
「俺はそんなことを君にしてほしくて、話したつもりはない!」
すると、フレイはおずおずとこちらを向いた。
視線を合わせたくはないようだが、何とか俺と相対しようと頑張っている。
「……えっと。
それは、感謝してる」
笑おうとしているが、どうしても口元が引き攣ってしまうようだ。
肩が震えている。それは怒りの震えか。
「サイにしかできないわよ、こんなこと。
貴方みたいなお人よし、見たことも聞いたこともない!」
俺はそっと、彼女の手を取ってメモを手渡した。
「これ、通信ルート。
あいつ一応、オーブ内でも要注意人物扱いだからさ。大っぴらに外出るわけにもいかないらしい」
「やめて。
あの歌姫様がいるんでしょう? どうやって行けって?」
「話し合う必要はある。
彼女なら理解してくれるし、キラも彼女も協力は惜しまないはずだ。
君に必要なことだと思ったから、俺は話した」
その時――
離れかけた俺の手に、フレイの指が絡んだ。
暑さにも関わらず、さらっと滑らかな細い指の感触。
思わずはっとして彼女を見つめる。フレイは眼を伏せ、呟いた。
「貴方にこんなすごいことされて、私がもう一度、キラを好きになれると思う?」
紅い前髪が揺れていた。
彼女が何を言っているのか、一瞬では理解不能だった。
「フレイ、君は本当に残酷な女だったんだ。
あんなにまで君を想い、君を護ろうとしたキラの目の前で、君は行ってしまった。
だから、もう一度──」
俺の薬指と小指を掴んだまま、フレイは俺の方へ身を寄せた。
険しい表情が消え、俺の目の前に笑顔が広がる。
「ごめんね。
話してくれて、ありがとう」
心からの感謝の言葉と、俺には分かった。
「本当にごめんね、サイ──」
その言葉で、俺の心の何かがすっと溶けていく感覚がした。
俺はずっと、フレイのこの言葉を聞きたかったんじゃないか。
「礼を言うのは俺だよ。ありがとな、俺のわがままに付き合ってくれて。
最後のデートなんて、ホント……安い感傷だよな」
フレイの睫毛がかすかに震える。
「ふふ……そうかもね。
でも私は、嬉しかった」
「行けよ、キラの処へ。
君が本当に謝るべき相手は、キラなんだ」
フレイはそれに対しては何も言わないまま、俺の耳に唇を近づける。
何処かで地鳴りのような音がして大気が緊張したことに、俺は全く気がつかなかった。
次の瞬間、俺の耳元で囁かれた言葉は──
「逃げろ。
来た道を走って戻れ、3つ目のダストボックスを右に曲がれ。
林の中に小道があるから突き抜けろ、23番地のクレープ屋裏に出る。
その10メートル東が地下シェルターだ」
さっきの言葉より数段、理解不能な言語だった。
しかも今までの彼女とは、口調も声色も全く違う。
思わずフレイを見ようとしたが、その時にはもう彼女は俺を振り払い、丘の上の柵に脚をかけて飛び越えていた。
水色のスカートが大きく翻り、太ももが見えた。
……見とれているどころではない。
あの太ももに装着されていたものは、拳銃じゃないか?
ちなみに柵の高さは約1.5メートル。それを彼女は、いとも簡単に飛び越えたのだ。
その下は土がむき出しになった急斜面、というか崖である。
あまりのことに、俺が叫びかけた瞬間──
公園中が、衝撃で吹っ飛んだ。