【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 キラの手紙

 

 

 相変わらずカタパルトの騒音が反響し続ける暗い倉庫の隅で、サイは手紙を開いた。

 テープで修復されていた上に、きちんと油紙に包まれている。おかげで、文字は滲むことなく殆ど読めた。

 おそらくフレイがやったのだろう。勿論俺への配慮などではなく、キラからの手紙だからだ──

 

 汚れきった爪で、半分やけくそになって手紙を開く。

 すると、綺麗ではあるがどこか書き慣れない感じの手書き文字が、目に飛び込んできた。

 

 

《話はミリアリアから聞いた。

 僕に黙って行っちゃうなんて、ちょっとズルイよ。サイ》

 

 

 そんな書き出しで始まるキラからの手紙は、少々呑気ではあったが──

 実に、情のこもったものだった。

 

《僕は正直、サイが羨ましい。ミリィも。

 どうしたらそんなに、すぐに行動に移せるのかな? 

 

 僕は、周りからは力があるって認められている。だけど、今の世界で何をすべきなのか、まだよく分からない。流されるままなんだ。

 多分、ラクスもそうだと思う。彼女はこうと決めたらやり通す性格だけど、決まるまで時間がかかるんだよね》

 

 キラとラクスがオーブのマルキオ邸で静養していることは、サイも知っている。

 今はまだ早いだろう、キラ。お前はまだ、2年前の傷が癒えていない。

 フレイや、たくさんのものを失い、自らの心まで大きくすり減らしたあの時の傷を──

 

 わずかな照明の中で手紙を読みながら、サイはゴム長靴を脱いでそこに新聞紙を丸めて突っ込む。身に着けているものは全て、すっかり濡れそぼっていた。

 ――その時。

 サイは手紙の中に、強引に黒く塗りつぶされている部分を発見した。

 

 

《今はカガリも大変な時だっていうのは知ってるよね。

 また■■■■――》 

 

 

 ここから先数行が、明らかにキラではない何者かの手で塗りつぶされている。

 アマミキョの誰かの仕業かと思ったが、すぐにそうではないと気づいた。検閲だ。

 手紙が投函された時には既に、プラントと連合の緊張が高まりつつあったのだろう。

 本来検閲なしで通るはずのルートの手紙が検閲されているのは、その為だ。

 

 サイはこんな処でも、現実を痛感せずにはいられなかった。

 

《僕はあれから、何も出来ないまま2年を過ごしてしまった。

 何か出来る力があるのに何もやれないって、もどかしいよ。

 ラクスは焦るなって、言ってくれるけど》

 

 

 何の力もないのに遮二無二動き続け、結局何も出来ないどころか状況を悪化させている俺への当てつけか。

 そう思ったその時──

 

 

 思わず、サイの唇から漏れ出た呟きは。

 

 

 「そうか

 ……俺の方が、ずっとマシじゃないか。あの時のキラよりも」

 

 

 サイは初めて気がついた。

 2年前、キラがどれだけ孤独だったか。

 護ろうとしている連中は全員、本来敵であるナチュラルで。

 フレイのことで俺たちから孤立して、しかもそんな俺たちを護る為に命がけで戦いに出て。

 しかも自分に近づいてきたフレイは、おそらく父親の復讐の為にキラを利用して──

 

 

 情けない。

 今になって初めて、ほんの少しでも理解するとは。どんなに、あいつが辛かったか。

 護ろうとしていた者たちに蔑視され、仲間だと思っていた者たちから疎まれ、その力を勝手に利用される。

 しかもそれは、自分の同胞を殺す為だ。

 

 

 ――どれだけ、キラは親友のもとに行きたかっただろう。

 俺の「お前は、帰ってくるよな」なんて無責任で自分勝手な言葉に、キラはどれほど苦しんだろう。

 それでもキラは、俺たちを護ってくれた。どんな時だって。

 

 

 キラの苦しみに比べたら、今の俺の状況が何だ。

 俺は、利用されるほどの力なんか持ってやしない。

 キラのように、自らの力で苦しむことなどありえない。

 

 誰にも必要とされずに自由な俺の、くだらない苦しみが、何だというんだ。

 

 

《僕は、サイを尊敬してる。

 あんなことを君にやった僕が言っても信じられないかも知れないけど、サイには人をまとめて、融和させる力がある。

 それは、僕には出来ないことなんだ。だからきっとサイは、アマミキョでもうまくやっていけると思う。

 もしかしたら隊長になって、オーブに帰ってくるんじゃないかな? 

 楽しみに待ってる》

 

 電子メールに慣れきったキラが、わざわざ手書きでこの手紙を書いた。

 それだけでもサイは嬉しかったが、恐らくキラが文章構成に悩んで何度も書き直したであろう跡も数箇所見つけ、サイはもう少しで嗚咽を漏らす処だった。

 

 

 フレイの記憶が少しでも戻って、良かったじゃないか。キラを愛していた記憶が戻るなら──

 俺は、それを願っていたんじゃないのか。

 

 なのに俺は、まだフレイが自分の腕の中に戻ってくれることを望んでいた。

 つくづく卑劣な人間だ、俺は。

 

 

 ふと見下ろすと、足元にフレイと自分の写真が放り出されていた。

 破られてはいるが、丁寧にテープで直されている。キラの手紙と同じように。

 自分がかつて、何度も破り捨てようと思いながら出来なかった写真。サイはゆっくりと、テープの継ぎ目を指でなぞってみる。

 

 

 ──何を馬鹿なことを考えていた、俺は。フレイが、キラのことしか頭にないだなどと。

 彼女はちゃんと、俺のことまで気にかけていたじゃないか! 

 この直された写真が、何よりの証拠だ。

 

 

 思いっきり泣くことが出来るならもっとスッキリするのだろうが、サイは意地にかけてもそれだけはしなかった。

 代わりに、自らを罰するように鉄の壁に頭を打ちつけ、額と頬を冷やす。

 

「分かってるさ、キラ。

 俺は逃げない。必ずフレイを取り戻して、お前の処に連れて行く」

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 サイの待遇は相変わらず改善されなかったが、彼自身は少しずつ生気を取り戻しつつあった。

 ヤハラの学校建設予定地を利用して、サイは現地の子供たちを集めて言葉や算術を教え始めていたのだ。

 

 地元住民にもクルーにも嫌悪されまくっていたサイだったが、それでも数人程度ついてくる子供たちはいたのである。

 特に先日、イジメからサイに救出されたナチュラルの子供たちは、親の注意も聞かず彼にまとわりついていた。

 

「じゃあ、もう一度読んでみようか。『コンソールパーツ安いよハンガクだよー』

 せーのっ」

 

 子供たちがろくに意味も分からぬまま、元気に唱和する。

 スコールの時間が過ぎると、途端に強烈な陽射しが大地に照りつけて木々や土から水分を絞りとっていくのは、いつものことだった。

 

 サイと子供たちは陽射しをよけて、木が生い茂る日陰を選んで集まっていた。

 焼け残りの木材をかき集めて作った黒板もどきに、アマミキョからこっそり持ち出したチョークでサイは文字を書きつけ、教えていく。

 子供らは切り株や、持ち出してきた椅子などに座り、興味深げにサイの文字を読んでいく。

 全員腐臭にまみれており、中には汚れすぎて性別すら判らぬ子供もいたが、その笑顔を見るだけでサイも笑顔になることが出来た。

 

 主にサイが教えたのは、後々商売の基本となる算数に国語だったが、時には球技などで遊ぶこともあった。

 ただし、サッカーボールでバスケ(勿論ネットなどないので、黒板をゴールにみたてた「もどき」である)をやらざるを得ないという惨憺たるものだったが。

 

 

 

 

 だがこの状況下、そんなひと時が長く続くはずはなかった。

 スコールの気配で、サイが授業を終了させ子供たちを帰そうとしていた──その時。

 

 

「やかましいんだよ! 

 ナチュラルに教育なんぞ、無駄だっ」

 

 

 この一声と共にサイと子供らの処へ乗り込んできたのは、ハマー・チュウセイとその一派。

 アマミキョ内でもすっかり暴力集団と化してしまった、一味だった。

 

 焼けた木の板でサイたちがやっと作った黒板を、彼らは張り倒し、踏みつけ、叩き破る。

 ハマーの手には、重量5キロほどはありそうなレンチがしっかり握られていた。

 

 ――尋常な行動ではない。

 子供たちは震え上がり、一斉にサイにしがみつく。

 

「やめて下さい!」

 

 サイは子供たちを護るようにして、ハマーの前に立ち塞がる。

 よく見ると、ハマーは完全に泥酔していた。何故、こんな状態の整備士を放っておける──! 

 

 サイがアマクサ組に心中で文句をつけるより早く、尖ったレンチの先が振り下ろされた。

 

「いくらナチュラルを育てようが! 

 どうせコーディネイターを殺す!」

 

 子供たちの悲鳴。

 よけるのも一瞬サイの方が遅く、右肩をまともにクリーンヒットされた。

 その一撃だけで、地面へ叩きつけられるサイ。

 動けなくなった瞬間を狙い、男たちの靴が彼の肋骨を踏み、蹴り飛ばす。

 ハマーのレンチがサイの眼鏡を、頬への打撃と共に弾き飛ばす。

 しかしもう、そこで怯むサイではなかった。

 ナチュラルを――

 もう、俺を、馬鹿にするな!! 

 

 

 振り上げられた誰かの片足を掴み、サイはそいつを逆に地面へ引きずり倒す。

 その衝撃で、男たちは一旦ぱっと彼から離れた。

 これまで馬鹿にしていた相手の、思わぬ反撃。一瞬男たちは顔を見合わせる。

 

 頭を上げてみると、空が早くも曇りだしていた。

 大粒の雫も落ち始めている。

 

「逃げろ!」

 

 サイは痛みをこらえて立ち上がり、怯えきっている子供たちに叫んだ。

 さっきまで彼らと野球をしていたはずの金属バットを拾い上げ、サイはハマーたちを改めて睨み返す。

 

 

 俺はもう、やられたままではいない──

 

 

 サイは竹刀のように、バットをしっかり構えた。殴られた痛みが、身体のうちにこもる熱を倍増させていく。

 血がふつふつと煮えたぎる。

 ――そんなサイを見て、同じように憎悪を沸騰させたか。

 汚れた歯が、ハマーのぶ厚い唇の間から漏れた。笑っているつもりか。

 

 

「面白ぇ。

 そうでなくっちゃ、殺りがいもねぇからなァ!」

 

 

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