【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 切り刻まれる誇り

 

 

「貴方が、どれだけナチュラルが憎いか知りませんけど……

 俺にだって、誇りはあります!」

「上等ぬかすな、腐れガエルが!」

 

 ハマーが赤ら顔を突き出して、レンチを振り上げ正面からサイに突進する。

 空中で火花を散らす、レンチとバット。

 

 当然、周囲からも男たちが殴りかかってくる。

 サイは子供たちが逃げていくのを視界の端で確認しながら、金属バットの重みを利用して全身で振り回し、攻撃を跳ね返す。

 殴りはしない、あくまで追い払うだけだ。

 他の手下どもはサイの勢いに気圧され少しばかり後退したが

 

 ――ハマーだけは黄ばんだ歯を剥きだし、果敢にサイへ飛びかかってくる。

 

「キラ・ヤマトの手紙ごときで、調子に乗りくさって!」

「調子に乗ってるのはどっちです、作業に戻って下さい!!」

 

 下段からすくいあげるようにして、サイのバットがレンチを払う。

 

「どうせ口八丁で、キラを利用したんだろうが貴様!」

 

 さすがはコーディネイターだけあって、酔っ払っていても正確にサイのバットの軌道を見切ってかわし、額めがけてレンチを叩きつけてくる。

 その通りだ。俺はキラを利用した。自分が生き残る為に、キラを傷つけた

 ――だけど。

 

 

「馬鹿にするな……

 それでもキラは俺の、友達だ!」

 

 

 サイも負けじと攻撃をかわして一旦後ろへ飛びのくと、大地を蹴って走り出し、全体重をかけてハマーのレンチを薙ぎ払う。

 

「友達だぁ? 

 向こうは貴様なんぞ、屁ほども思っちゃいねぇだろうが!」

 

 ハマーはバットを一旦よけると、地面から1メートルほども跳躍。サイに全身全霊で殴りかかってきた。

 頭を割られる前に、どうにかバットの両端を掴んで額の前で防ぐ。

 

「何と言われようが勝手ですけど! 

 子供に手は出させませんよっ!!」

 

 筋肉という筋肉を振り絞り、ハマーを力で遠ざける。

 空からの雫はやがて、大地と人間を洗い流す滝となった。

 サイの眼前が、スコールで一気に曇っていく。

 吐かれる息が、火のように熱い。

 

 それでもハマーの狂気はおさまるどころか、猛烈に身体に叩きつける雨でかえって刺激されてしまったようだ。

 再び雄叫びと共に、レンチを振りかぶるハマー。

 バットとレンチが雨の煙の中で火花を生み、輝く菊を一瞬散らした

 ――刹那。

 

 

「面白ぇこと言ってくれる。

 俺の娘は、ナチュラルのガキどもに殺されたんだ!」

「――!?」

 

 

 思わぬハマーの言葉。

 いきなり突きつけられた真相に、サイの力はほんの少しだけ緩んでしまった。

 

 

 

 その瞬間を、ハマーが見逃すはずもなく──

 

 

 

 それまで上段から振り下ろされていただけだったハマーのレンチが、突然横から胴を斬るように薙ぎ払われた。

 がら空きだったサイの腹が、打ち砕かれる。

 

 胃と肋骨が同時に身体の外へ飛び出した──

 その衝撃にサイは耐えることが出来ず、遂にうつぶせになって倒れこんだ。

 

 

「ぐぅ……っ」

「今だ、殺っちまぇ!!」

 

 

 状況を睨み続けていた男たちが、獲物に群がるように一斉に飛びかかってくる。

 サイはそのまま四肢と頭を掴まれ、泥まみれの地面に押しつけられてしまった。

 

 土からたちのぼる蒸気に自分の血の臭いが、鼻腔を刺激する。

 歯の間にジャリジャリ入ってくる砂。

 

 ハマーはそのままサイの上に馬乗りになり、頬をブーツの踵で踏みつけた。

 勿論一度だけではない。何度も、何度も、蹴りとレンチと血の嵐がサイの身体を殴り続ける。

 

 髪の毛を掴まれ、上体を起こされ。

 腹や足、背中を踏まれ、蹴られていく。

 理不尽な暴力の嵐が、一気に業火となって雨と共にサイの上に吹き荒れ、彼に残されていた抵抗力を完全に奪っていく。

 

 

 ──サイの誇りをかけた抵抗は、かえって男たちの怒りを誘発してしまったのだ。

 

 

 ベージュのワイシャツは血と泥で身体に張りついていたが、その汚れを飛沫をあげてスコールが洗っていった。

 まずい。一発や二発蹴り飛ばされ殴られる程度なら今までにも何度かあったが、今回のは違う──

 

 

 朦朧としかかる意識の中、サイは前髪をつかまれハマーの前に、罪人の如く吊り上げられる。

 そのハマーの血走った眼球を見ながら、彼は直感した。

 

 ──殺される。

 

 無防備にハマーの前に突き出されたサイは、彼のレンチ攻撃のもとにひたすら晒されることになった。

 憎しみと怒りが過剰にこめられたレンチが、凶器となってサイに叩きつけられる。

 

「娘の痛みは、こんなもんじゃなかった! 

 娘も、嫁も……俺の家族は、みんな貴様らに!!」

 

 骨が砕け、肉が飛び散り、神経が全て切断されるかという打撃が、次から次へとサイを打つ。

 袖が引きちぎられ、ブリッジ組の証であったブルーのバッジも破壊され、飛び散っていく。

 

 さらにハマーは、隣の男からビール瓶を受け取った。

 

「気絶してんじゃねぇ、オラァ!」

 

 瓶の中身を、ハマーは強引にサイの喉に流し込む。

 途端、喉に口腔、食道が焼かれていくが如き激痛。それが彼を内側から壊していく。

 あまりの痛みに、液体を吐き散らしてしまうサイ。

 おそらく、工業用アルコールか何かだろう──ひどく惨めな嗚咽が、喉から漏れた。咳き込みが止まらない。

 口から飛び出したものは、大量の血塊。

 

「何だぁ? 

 汚ねぇから消毒してやったのに飲めねぇってか!」

 

 絶叫と共に、サイの左肩にビール瓶が叩きつけられた。叫びの代わりに、血が喉から漏れる。

 幸いサイの肩はそこそこ頑丈で、砕けたのはビール瓶の方だったが。

 

 

 

 

 そのあたりでようやく、ハマーの狂気に気づいたか――

 周囲の男らはもう、サイへの暴行を止めていた。

 

 

 ──いつもの、ほんの気晴らしだったはずだ。ストレス解消のつもりだった。

 それが何故、こんな洒落にもならない事態になる? 

 俺たちは大人じゃないのか? 15歳を超えたコーディネイターは大人のはずだろ? 

 

 

 中にはハマーを止めようと、一歩を踏み出すかどうか迷っている者もいる。狂乱ぶりを目にして、がくがく脚を震わせている者さえいる。

 だが、誰もハマーに声をかけられない。

 それほどまでに、ハマーの威圧も形相も錯乱ぶりは凄惨だった。

 

「どうした? もう叫ぶ気力もないか? 

 ナチュラルってのは、喧嘩の練習台にもならねぇな!!」

 

 壊れたビール瓶の破片を拾い上げ、ハマーは倒れたサイの顎を軽く靴で蹴り、破片を握り締める。

 太い指の間から、血が滴り落ちた。

 

「いつまでもブリッジにこだわりやがって……

 その制服、前からムカついてたんだ」

 

 サイの右肩に突き刺さる、硝子の破片。

 痛みにサイの目が剥かれ、喉から叫びが迸る。

 

 そのままハマーはサイの皮膚ごと、制服の胸元を切り裂いていく。

 サイの絶叫をBGMに、彼の意地の象徴でもあった制服が皮膚と一緒に切り刻まれ、血に染まっていく。

 ハマーの刃は一瞬ではなくゆっくりと浅めに、直線を描くようにサイの皮膚の上をなぞったので、余計に痛みの時間は増した。

 

 

 

 

 

 

 そんな騒ぎを偶然、近くの作業場で聞きつけたカズイ。

 彼はアムルと一緒に、すぐに現場へ向かったものの――

 豪雨の中彼が目撃したものは、ずっと一緒にいたはずの親友が、果てなき暴力に晒され、切り裂かれていく光景だった。

 あまりのことに、カズイの下半身の力が抜けていく。

 

 サイを助けなきゃ、助けなきゃ──

 

 そう思えども、全く脚は動かない。

 アムルはそんなカズイの動揺を察し、しっかりと彼を抱きしめ、耳元で囁いた。

 

「行っちゃ駄目。

 貴方も殺されちゃう」

 

 そうは言いながらも、アムルはひどく冷静にこの状況を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

「僕、いる意味ないよな……」

 

 単調な食糧運びなどを無気力に続けながら、ナオトは彼らしくもなくぼやいていた。

 ぼやきはリンドー副隊長の専売特許だったはずなのに、とナオトは自嘲する。

 

 ラクス・クラインの映像を見て気が昂ったのも一瞬だけで、数日もすると彼はすぐに塞ぎこんでしまった。

 何しろティーダを降ろされた上に、レポートの内容をアマクサ組や連合から大幅に制限されたのである。

 

 時澤や真田らの山神隊の監視下でありながら、忙しく働くクルーたちが、ナオトの前を行き来する。

 それを眺めながら、彼はため息をつくことしか出来なかった。

 しかも、オーブが連合と同盟など──

 

「アスハ代表は、オーブの理念を忘れたのか?」

 

 そんな時だ。ナオトがマユから、サイの一大事を聞かされたのは。

 但し、非常に能天気な言葉での伝え方であったが。

 

「ねぇナオト! お祭りだよっ、血祭り!」

 

 そしてマユはナオトに、包帯だらけの身をかきむしる仕草まで交え、大はしゃぎで飛び跳ねながらこう言ったのだ。

 

「ハマーさんがね、サイをガラスで刻んでてね! 

 血がびしゃびしゃ飛んで、手足が金魚みたいに跳ねてね、超おーもしろかったぁ!」

 

 

 

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