【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 暴走する紅蓮

 

 

 当然の措置だ。コーディネイターより優秀なナチュラルが、いていいはずがない。

 目の前で血まみれの姿を晒すサイを見ながら、アムルは半分ほど状況を楽しんでいた。

 

「サイが、サイが……」

 

 震え続けて何も出来ないカズイの背中を撫でながら、アムルは彼と共に隠れていた。

 ハマーたちから死角となる木陰からこっそりと、この暴行劇と、やられるがままのサイを凝視するアムル。

 

 

 ――あの男は、こともあろうにこの自分に、罪を押しつけようとした。

 しかもあの男は、この私が、母親と婚約者の死を望んでいたと思い込んでいる。

 そんなことは許せない。平気で人の心を見破り、入り込んでくる男など。私より優秀な男など。

 ああやって、惨めな姿を大衆に晒すのが一番似合っている。

 

 

 自分が手を下すことが出来ないのがいささか無念ではあるものの、アムルはこの状況に満足していた。

 

 

 サイ君、仕方ないわよ。

 貴方、生意気なんだもの。

 

 

 ――アムルは目を閉じ、自らの正当化を行なっていた。

 母親への殺意に嫉妬に憎しみ、恋人への裏切り、自分がティーダにした過ち。

 それを、彼女は無意識下で正当化し、ほぼ無かったこと、もしくは他者が責任を負うべきこととして処理していた。

 それは今まで、アムルが生きてきて獲得した処世術でもある。

 

 母親を殺したかった? 

 違う。私にバイオリンの能力しか求めず、出来ないと知ると私の自由を奪って自分の人形にしようとした母さんが悪いの。

 あの婚約者だって、そんな母さんが選んできた。捨てるのがお互いにとって幸せ。

 ティーダへの過失? 私がミスなんかするはずないじゃない。

 したとすれば、私を追いつめたフレイと、サイ君と、マユが悪い。彼らのせいで、ミスが誘発されただけ。

 マユがああなったのは天罰だったのよ。そして、今サイ君がこうなっているのも──

 

 

 その目の前で、ネクタイを引っ張り上げられたサイが無理矢理雨の中を引きずられ、近くの切り株に背中から押しつけられる。

 それは先ほどまで、子供たちが座っていた椅子だった。もはや意識は朦朧としているようで、サイはなされるがままだ。

 ハマーがサイの左腕を掴み、切り株の上に放り出す。

 完全に酩酊し、怒りで暴走しきった整備士の手には、さっきまでサイの武器だった金属バットが握られていた。

 

「常識を教えてやる。

 まともにやり合って、貴様が俺らにかなうはずがないだろ!」

 

 心を抉る言葉と共に、ハマーのバットがサイの二の腕に叩きつけられた。

 サイの絶叫が、黒い天を裂く中

 

 ――アムルは笑いをこらえきれなかった。

 

 よくぞ言ってくれた、ハマーさん。

 優等生ぶった言葉を吐き続けていたあの偽善者の口が、雨をまともに浴びて血を流し、意味不明の叫びを上げている。

 指も手足も、ビクビク震えている。瀕死の蛙のようだ。

 

 彼女がふと横を見ると、カズイが座り込んでいた。

 なるほど、人が腰を抜かす時とはこのような状態を言うのか。

 耳を塞ぎ、目を背け、口だけはサイの名を呟き続けているが、腰から下にかけての部分に明らかに脳からの命令が伝わっていない。

 脚はふやけたワカメのように折れ曲がり、ズボンは雨ではなく別の暖かな水で汚れ始めている。

 

 アムルはそんなカズイの頭を抱きしめて優しく愛撫しつつ、

「大丈夫……大丈夫よ」と呟き続ける。自らも泣きたい、という声を作って。

 実際、泣きたくもあった。何の因果でこんな、ナチュラルのガキを抱き締めなくちゃならないのか。

 

 その間に、ハマーが飽きもせず二撃目を、同じ場所に叩き込む。

 ──アムルの中で実況が響く。ピッチャー第二球、バッター、真っ芯で捕らえた!

 

 肉ではない、硬質なものが潰れたような音。

 アムルにとっては心地よいが、他の者であれば間違いなく二度と聞きたくない感触の音。

 サイの喉からは、もう叫びすら出ない。

 ただ、激痛で眼球が宙に向かって飛び出さんばかりに剥かれている。左腕はろくに動いていない。

 そこに至ってもなお満足しないハマーは、べろりと唇を舐めて言い放つ。

 

「け……二発で撃沈か。

 娘は五発は耐えたそうだぜ、さすがは俺のロゼだぁ」

 

 狂笑するハマーの血走った目に、もはや正常者の輝きはない。

 

「しょうがねぇ、今度は左脚にすっかぁ!」

 

 ハマーが思い切り振りかぶった、その瞬間――

 

 

 アムルの真横から、紅の風が飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ナオトが現場に駆けつけた時にはもう――

 フレイ・アルスターはハマーの腹部に、三発目の拳を叩き込んでいた。

 

「無意味だろう! 

 自ら惨劇を再演するなど!!」

 

 ハマーはあまりのフレイの速度に、何が起こったかすら理解出来なかったに違いない。

 さらに彼女はハマーの顎に、容赦なく蹴りをぶち込んだ。

 短めのタイトスカートから繰り出される、しなやかで強烈な蹴り。

 紅のブーツの重みが、その威力を倍増させていた。

 

 自分が尊敬してやまなかったはずのフレイが、今、自分を一蹴している──

 ハマーはその現実をろくに認識することも出来ぬまま、大地にもんどりうって倒れる。

 

 さらにフレイはそんな彼の上半身を引きずり上げ、廃墟の壁の後ろに隠れようとしていた男どもに向かって、ハマーの身体をぶん投げる。

 何が起こったのか理解できず、情けなくも絶叫する男ども。

 

 

 

 必死の思いでフレイに急を伝えて良かったのか、悪かったのか──

 ナオトには、判断が出来なかった。

 

 いつもの、冷徹なフレイとは明らかに違う。冷静に戦術を指示していたフレイとも違う。

 悲鳴を上げて逃げ出そうとする男たちの前方へあっという間に先回りし、頭が吹っ飛ぶかという勢いで先頭の男を殴り飛ばす。

 その一撃で、男は壁に叩きつけられ

 さらに二人目、三人目も背負い投げの要領で次々ときれいに宙へ投げ飛ばされ

 逆さになって石壁に激突し

 壊れかけていた壁はその衝撃で崩落した。

 

 四人目の顔面に拳が叩き込まれる。

 鼻骨と歯が一挙に潰される音が、ぐしゃりと鈍く響いた。

 

 

 わずか10秒もない間に、その場でサイに直接暴行を働いた人間は全員、フレイに伸されることになった。

 ちなみに全員、彼女より首ひとつ分ほどは身長があり、肉付きも良い男たちである。

 

「他人を見下す時は、後ろから刺される覚悟ぐらいはしておくのだな

 ……愚か者が!」

 

 そんな彼女の言葉がきちんと彼らに伝わったかどうかまでは、分からない。何しろ、全員気絶しているようにナオトには見えたから。

 

 

 ――だがフレイの暴走は、まだ終わらなかった。

 

 

 突然フレイは、木の間に隠れていたアムルとカズイを目ざとく発見する。内臓を切り開くメスのような鋭さの視線。

 男たちの血で汚れた手や顔を拭きもせず、フレイはアムルにゆらりと迫る。

 

 目に見えぬ凄まじい圧力に、アムルは思わず数歩後退した。

 アムルの方が身長はやや上のはずだが、今のフレイは明らかにアムルを圧倒していた。

 アムルはカズイを抱きしめながら、精一杯抵抗する。

 

「わ、私、何もしてない……

 私を殴る気?」

「傍観者の雌犬気取りが」

 

 そんな微かな呟きと同時に。

 アムルの白い右頬に、フレイの拳が炸裂した。

 平手ではない。紅の血に染まった鉄拳だった。

 叫びすらあげられず、一撃で草むらに倒れたアムル。それを見て、カズイが悲鳴を上げた。

 

 今度はカズイさんだ──ナオトは確信した。

 

 フレイの視線が、顔をぐちゃぐちゃにしたカズイに止まる。

 眉が怒りに震え、紅の髪は雨で濡れ、蛇のように彼女の首をのたうっていた。

 無言のフレイの両手が、カズイの衿ぐりを引っ張り上げる。カズイの両足が宙に浮き、彼の脆い精神はそれだけで恐慌に陥った。

 その口から吐き出される早口の単語は、もはや意味をなさない。

 

「サイは、ステーションの接続部分が、ねぇフレイカラミティの緑っていいよね、モジュールの調子がおかしくて、ああああ」

 

 フレイの手に力がこもる。首を絞める気だ──

 直感したナオトが、思わず叫ぼうとした、その時。

 

 

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」

 

 

 

 血を吐くように振り絞られる絶叫が、豪雨を裂いた。

 そしてナオトは、確かに見た――

 

 

 その叫びで、その叫びだけで、「あの」フレイが手を止めた瞬間を。

 

 

 一体何の奇跡だ、これは。

 ナオトが反射的に振り返ると──

 

 

 左腕の激痛に耐え、どうにか上半身を起こしたサイが、そこにいた。

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 遂に爆発した、サイへの暴力。

 状況に耐えきれず、アマミキョを去るナオト。

 だが、宿命の嵐は次々に彼らを襲い、思わぬ出会いも生まれる。

 多くの命が炎に消え去る中、少年は真実を見出せるか。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「ナオト下船」

 

 劫火の島、護りきれ! ウィンダム! 

 

 

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