【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-11 ナオト下船
part1


 

 

 フレイが、自分の目の前で血の雨を降らせている──

 人を殴り、蹴り、投げ飛ばし、修羅と化す。

 

 

 その光景に、サイは耐えることが出来なかった。

 叩き割られた左腕の痛みが身体中を貫いていたが、サイは構わずフレイに叫んでいた。

 

 

 やめろ。

 やめろ、やめろ、やめろ──!! 

 

 

 激しい豪雨の中、自分の叫びがフレイに届いたかどうかまでは分からない。

 ただ、カズイの首を今まさに捻り上げようとしていたフレイの手を、止めさせることだけは出来た――

 やっとのことで、それだけサイは認識する。

 

 俺の言葉を、初めてフレイはきちんと聞いてくれた。

 いやその前に、俺を助けてくれたことを感謝すべきかも知れないが。

 

 

 切り裂かれた身体の痛みに耐えつつ、サイは顔を上げた。

 途端、左腕から頭蓋骨や肋骨、心臓までがひび割れるかという衝撃が走る。

 うっかり、左腕を動かしてしまった。自分でも情けないと思った呻き声と共に、左腕を庇い再び地面に倒れてしまう。

 その痛みを抑えようとして、身体が一気に燃え上がるような熱を帯びる。

 吐かれる息に混じる、血の臭い。

 

 

 サイの呻きと共に、フレイが振り返った。

 暖かい雨の中、紅のブーツがゆっくりとだが大股でこちらに近づいてくる。

 爪先の泥に混じる、赤黒く凝固した血。

 

 その後方に、ずぶ濡れで突っ立っているナオトと、腰を抜かしたままのカズイが見えた。

 フレイがナオトには手をかけていないことから判断して、彼がフレイに状況を伝えたのだろう。

 ナオトの性格からして、いきなり飛び込んでハマーに殴りかかってもおかしくはなかったが

 

 

 ――今のナオトは多分、そんな真似はしない。命をかけて、俺なんかを助けることは。

 それで良かったんだ。無謀に突入していたら、ナオトは俺と一緒に殺されるだけだった。

 

 

 フレイはそっとサイの左腕に触れる。

 皮膚を撫でられるだけでも、稲妻に撃たれたような痛みが襲った。

 

「動くな。

 今、添え木をする」

 

 フレイは片腕だけでサイの上半身を起こすと、もう片方の腕で落ちていた木材を取り、素早く腕に添え、サイのネクタイを使って固定した。

 そのままフレイは両腕で彼の腰と膝を抱えて軽々と持ち上げると、ナオトに命じた。

 

「医療ブロックへ運ぶ、ストレッチャーを用意させろ!」

「は、はいっ」

 

 ナオトは慌てふためいて通信機を取り出す。クルー全員に渡された、緊急用の小型通信装置だ──ただし、サイのものはとっくにハマーたちに壊されていたが。

 だが、ナオトがそれに手をかける直前

 

 ――彼の後ろからついてきていたマユが、叫んだ。

 この状況下にしては、酷く無邪気な声で。

 

「えー? つまんなーい。

 フレイィー、もうお祭り終わりなのお?」

「終わりだ。お前もカイキの処へ戻れ」

 

 フレイはそんなマユにだけは、何故か制裁を振るわない。冷たい目でマユを見返すだけだ。

 その代わりに、ナオトが必死で感情を抑えながら、マユを見返す。

 

「君は……

 そんなに、人が傷つくのを見たいの?」

「うん。だって面白いじゃん! 

 人間がズタボロのボロボロになって血吐いて呻くのって、気持ちいいよ! すっごく!!」

「……自分がそうされたら、嫌だとは思わないの?」

 

 感情を精一杯に抑えに抑えこんでいる、ナオトの声。

 だがそれを逆撫でするかのように、マユは朗らかに答えるのだった。

 

「だいじょーぶ、されるわけないもん。

 ねぇナオト、もっと近くに行こうよ。サイのあの顔、もっと見たい!」

 

 

 途端、雨の中に響いたものは、平手打ちの音。

 

 

 ナオトが、マユを叩いたのか──

 フレイの腕の中で運ばれるという無様な格好を晒すサイに、その光景は見えなかった。

 

 

「君は――

 少し、おかしいよ」

 

 

 ナオトの言葉が聞こえたか聞こえないかのうちに

 ――サイの意識は、消失していった。

 

 

 

 

PHASE-11 ナオト下船

 

 

 

 

「ハマー・チュウセイ以下、貴方に暴行を加えた5名は全員瞑想室入り。

 アムル・ホウナ及びカズイ・バスカークは、1週間のポイント削減処分。

 これで満足かしら」

 

 半日ほど経過してようやくサイは、医療ブロックの片隅で意識を取り戻した。

 そのそばには、医療ブロック監視役の風間曹長が毅然と立ち、サイにその後のクルーたちの様子を淡々と報告している。

 

 後ろには看護師のネネがつき従っていたが、積極的にサイに声をかけようとはしなかった。

 ネネはサイの身体中に巻かれた包帯の具合を確認すると、

「胸部と左腕の写真、確認してきますね」それだけ言い捨てて、背を向けて出て行く。

 どんな時でも笑顔を忘れなかったはずのネネが、サイにだけは表情を緩めることすらしなかった。

 

 ただ、仕事はきちんとしてくれているらしい。

 頭と胸に巻かれた包帯、固定された左腕を確認し、サイはほっと胸を撫で下ろす。

 治療まで邪険にされては、たまったものではない。

 

 ここ医療ブロックは、アマミキョコアブロックからは川を隔てた反対側にある。

 海に面した東側の貧民街とは対照的に、こちらは市街を山と文具団の支社工場で囲まれている。

 

 だがここも、開戦と同時に発生した度重なるテロにより、街が荒らされていた。

 自爆テロによる負傷者も数知れず、毎分毎秒ごとに重傷患者が運び込まれている。救護用テントもおびただしい数が用意されていたが、とても足りなかった。

 おかげでサイも、廊下の隅に緊急に設置されたベッドに寝かされている。隣との仕切りはカーテン一枚だ。

 その向こうからひっきりなしに、スズミ女医や他医師たちの怒声、患者の悲鳴、子供の泣き声、ストレッチャーの車輪のけたたましい音、除細動器の作動音が響いてくる。

 つい数分前にも、コーヒーショップに自動車が突っ込んだらしい。爆弾搭載で。

 

「重傷は3名って言ってたじゃないの! 何で10名なのよっ」「現場で無呼吸、心停止」

「12歳の男の子、頭部外傷顔面多発外傷、血圧115の70!」「末梢循環不良、生食あと1リットル投与!」

 

 そんな中でも、風間は依然として感情のこもらぬ声で、胸元のメモ帳に何かを書きつけている。

 

「ヒビだけで済んで、良かったわね。

 本日30件目の切断案件かと思ったわよ」

 

 連合のベージュの制服できっちり包まれた風間の胸は、ベッドのサイからひどく大きく見えた。

 というか、胸のせいで彼女の顔自体がよく見えない。切れ長の眼が印象的な、せっかくの和風美人なのに。

 おい、これ、ひょっとしてラミアス艦長超えあるんじゃ──

 

「感謝していますよ、スズミ先生には」

 

 サイは風間の胸をまじまじと見ている自分に気づき、思わず視線を逸らす。

 そんな視線には最早慣れきっているのか、風間はさりげなく姿勢を変え、二の腕で胸を隠した。

 

「アルスター隊長にも、でしょ。

 それからナオト・シライシにもね」

「ナオトがフレイに報告するとは……思いませんでした」

 

 風間は足元の軍用デイバッグから、サイの眼鏡を取り出した。

 

「彼、これも届けてくれた」

 

 左のレンズの端に少々ヒビが入っていたが、使えぬことはない。元々色覚調整も兼ねていたものの、ほぼ伊達眼鏡みたいなものである。

 さらに風間はデイバッグから、明るい朱色の作業用ジャケットを出して投げつけるように彼に渡した。

 

「着てなさい。

 ブリッジの制服は当分やめた方がいいわね」

 

 サイがブリッジの制服を着続けたおかげで、事件が起こったと言わんばかりの風間の態度。

 意地を張ったのは事実だが、それでも彼は抵抗せずにいられない。

 

「……申し訳ありませんでした。

 しかし自分は、今でもブリッジの一員のつもりです」

「甘っちょろいことを言わないで。

 貴方が意地を張ったおかげでベッドが一つ無駄になり、スペースが無駄になり、包帯や薬や人員や時間がどれだけ無駄になったと思ってるの? 

 しかも貴方、ろくに食事も睡眠もとっていなかったから栄養剤まで必要になって……」

「自己管理が甘かったことは反省しています。しかし」

 

 話にならない、とばかりに風間は首を振る。

 

「反省してるふりして反論するのはやめなさい。

 今は通常時じゃないのよ、下手に内部でトラブル起こさないで」

 

 初めて会った時のマリュー・ラミアスを思わせるその傲慢さに、思わずサイは口答えしていた。

 

「差し出がましいようですが、自分たちはオーブの人間です。

 これ以上の山神隊の介入は、隊員の爆発にもつながりかねない。アマクサ組の統制を緩めるならともかく、さらに強める方向へ行くのは……」

「口を慎みなさい。

 オーブが連合と手を組もうとしている事実ぐらいは知っているでしょう?」

 

 サイの言葉を、かなり強引にねじ伏せようとする風間。

 

 オーブと連合間で条約が締結寸前という事態は、サイも把握していた。それ故に、アマミキョの管理・運営体制にまで連合軍が強制的に介入していることも。

 かつて連合に一方的に蹂躙されたオーブが、連合と結束する──

 サイにしても、そのことに少なからず怒りを覚えてはいたのだが、今の彼に何が言えるだろう。

 傀儡たるアスハ代表には恐らく何の力もなく、セイラン家が事を進めているに違いない

 ──そんな素人推測をする以外に、サイに出来ることはない。

 

「そうなればこの船も、いずれ連合が接収することになる。

 コーディネイターたちの横暴も、多少はおさまるでしょう」

 

 風間は窓を開き、湿気混じりの熱風を入れた。土と鉄の臭いが吹き込んでくる。

 医療ブロックの外ではひっきりなしに作業用ミストラルやトラックが右往左往しており、その向こうにはM1アストレイが1機、急ごしらえのハンガーに固定されていた。

 モビルスーツ用のカバーで一応覆われていたものの、屋根はないに等しい。機体の下側が熱を帯びた空気に直接晒されている。

 サイは眼鏡をかけ、身体を起こしてそれを眺めてみた。

 酷使の影響か、装甲のあちこちに傷が見える。

 

「あんな機体でも貴重なのよ。不発弾の撤去には大活躍だし……

 昨日もスティレットを14発も除去してくれたわ」

「そういう言い方はないでしょう。あのM1は、オーブの勇士なんだ」

「あくまで2年前の、ね。

 あと──

 ナオト・シライシが、本日付けで下船するそうよ」

 

 

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