【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
勿論、カズイに言ったアムルの言葉には大いに嘘が紛れていた。
作業中のヒスイを眺めながら、彼女はふと心の中で呟く。
──あんなナチュラルに、私は絶対にならない。
フレイの一発を喰らったショックから、アムルは未だに立ち直ることが出来なかった。
痛みは大分引いていたものの、よりにもよってあのフレイに殴られた
──その屈辱は、時間が経つごとにアムルの心を蝕んでいた。
何もかもを見透かしているようなフレイの眼光。それを思い出す度に、アムルの傷は疼く。
同時に彼女の中で、様々な感情が渦を巻いて濁流となる。
サイへの嫉妬。ティーダに犯した過失。母親や婚約者への憎悪。
まさかフレイは、全てお見通しなのか?
──何を考えているの、大丈夫。
私が何をしたっていうのよ。私が加害者だったことなんて、ないじゃない。
私はいつだって、ナチュラルや肉親に傷つけられてきた、被害者なんだから。
しかもフレイは、連合の外務次官の娘だって言うじゃない?
コーディネイターじゃなくて、ナチュラルだっていうの? 私は、ナチュラルの女に殴られたの?
そんなことは絶対に認めない。ナチュラルが、コーディネイターより上に行ってはいけないのよ。
いつか、それを思い知らせてやる。
いつか必ず、フレイ・アルスターを破滅させてやる。サイを叩きのめしたように。
今はこんな、ナチュラルのダサいガキを弄ぶ程度しか出来ないけれど――
アムルの激しい嫉妬は、カズイへの優しい笑顔となって現れていた。
この
壊れた友情を弄ぶのは、何と楽しいのだろう。
その時、彼女たちの元へトニー隊長の叱咤が飛んだ。
「ザフト軍がレイテ島を占領した!
ここへもすぐに来る。皆、作業を急げっ!!」
「救難作業以外に、シュリ隊に出来ることは?」
ブリッジではリンドー副隊長が、相変わらずのぼやき調子で伊能大佐と作戦を練っていた。
「出るのは我々だ、アマミキョに余計な心配はおかけしませんよ。
他に連合軍も合流してくる──
どうやら、ザフトの新型を強奪した例の部隊もいるらしい」
「ファントムペイン。デュランダル議長の鼻っ柱を叩き折った奴らですね」
伊能の後ろにつき従っていた広瀬が、モニターを確認しつつ呟いた。
「しかし、ザフト側の新戦力も侮れません。
新鋭艦が合流するという不確定情報もあります。確か、ミネルバと言ったか」
そんな広瀬に、すかさず伊能が突っ込む。「そいつらだったら、進路からしてありえんだろう。
オーブでろくに補給も出来ず、カーペンタリアに向かうしかないという話だろ?」
「……その話が事実であれば、ですが。
噂レベルで話を進めるのは、大佐もでは?」
そんな広瀬の嫌味をさらりと聞き流しつつ、伊能はリンドーに顎を向けた。
「ただ、奴らの新型は要注意だ。
リンドー副隊長。ウーチバラでアマミキョが交戦したというジンハイマニューバ2型、戦闘データをよこしてもらえますか」
リンドーは伊能の横のモニターへ顎をしゃくった。転送されたデータを確認し、伊能は頷く。
相変わらずの調子で鼻毛をむしるリンドー。
「ミントンのデータはいらんかい。こいつも恐ろしい新型だらけだぞ」
「頂けるとありがたい。いつ必要になるか、分かったもんじゃないですしね」
広瀬はさらに手元のタブレットで、刻々と入ってくる報告を確認している。
「まだあります。
ザフト艦隊にはゾノ、グーンは勿論のこと、水陸両用の新型が多数配備されているという情報が入っています。
この新型は2連装機関砲やミサイルランチャーなど武装も充実しており、いかにディープフォビドゥンがあれども苦戦は必至で……」
が、伊能は鼻を鳴らして広瀬の言葉を遮った。
「ますます好都合だ。
プラントの奴らめ、地上の海をなめるなよ」
「頼もしいな、伊能大佐。
連合は数だけじゃないということを、彼らに教えてやってくれ」
リンドーは嬉しそうに、口の中で唾を鳴らした。
カタパルトでも、喧騒はいつも以上だった。
ハマーがいなくなった分だけ、整備士たちは真夏の蝿のようにひたすら飛び回らねばならない。
ただ、ハマーの意地汚い怒声がないことだけが救いだ。
そんな中フレイはアフロディーテのコクピットで、調整を続けていた。
破損していた脚部は、既に修復が完了している。
「脚部パーツのシステムチェック終了。
エネルギーパックの補充も十分だ、ご協力感謝しますと山神隊に伝えろ」
「補充してほしいのは整備士だよ」アフロディーテの足元から声をかけたのは、ミゲルだ。
「フレイ、もうハマーさん解放しようぜ。背に腹は変えられねぇ」
「駄目だ」ハッチから顔も出さずに、フレイはそっけない回答を投げ返す。
ミゲルもさすがに頬を膨らませるしかない。不眠不休で頑張ってきたハラジョウのまとめ役として。
「しかしこのままじゃ、超寝不足でみんなぶっ倒れちまうぜ?」
「ならん。
そもそも、他人に対して散々嫌がらせや悪ふざけをする余裕のあった連中だろう。いい薬だ」
「た、確かにそうだけど!」
「どうしても人員が足りないなら、他班から整備士を補充しろ」
「大急ぎでかき集めて今の状況なんだって! 頼むよ~」
「断る。
いかなる理由があれ、行き過ぎた暴力行為は厳罰だ」
これを聞いたミゲルは溜息をつきつつ、彼女に聞こえないようにこっそり呟いた。
「それ、あんたが言うの……」
ただ、これ以上を望めないレベルのジト目は隠しもせずに。
ザフト侵攻の噂で、国外脱出の避難民で埋め尽くされているナガンヌ空港。
チケット入手すら何日もかかるらしく、ナオトは空港の外まで溢れている人の列で、待ちぼうけを食らわされていた。
空港に到着してから、もう1週間近く。
照りつける日光、暑さ、雨、そして衛生状態と治安の劣悪さに、ナオトの疲労は限界に達しつつあった。
待っても待っても、空港内部にすら入れないのだ。宿屋はどこもいっぱいで、人々は太陽の下に野ざらしになり、時折集中的に降るスコールで飢えをしのいでいる。
「こういう時の為に、アマミキョがあるんじゃないのか!
連合軍さえ来なければっ」
遂にナオトは耐え切れなくなり、一人でズカズカと列を無視して空港内部へ入っていってしまった。
勿論、空港のロビーも座り込む人、人、人で床が埋め尽くされていたが。
いつもフーアやアイムに道案内を任せていたナオトにとって、空港や駅はただでさえ未知の迷宮だった。
しかも今は人でごった返し、オーブではいつもナオトが頼りにしていた電光案内板すら見えない。そもそもこの空港には、電光案内板などという便利なものは最初からなかったが。
結果――
ナオトは空港内で、見事な迷子となってしまった。
「遅れておりました14時20分発オノゴロ行き、搭乗ご案内を開始いたします!
整理番号120番から300番までの皆様、どうか落ち着いて第6ゲートに集合してください!」
案内放送ではなく、空港職員が声をからしてスピーカーで怒鳴りつけるように叫んでいる。
既に空港の施設自体が、限界に来ていることは明らかだった。
だがその声が轟いた途端
――わっと声をあげ、一斉に群衆が走り出した。
その勢いにナオトは圧倒され、逃げる余裕さえもなく人にぶつかり、カバンに叩かれ、リュックに殴られ、長靴に蹴られるハメになってしまった。
遂に転倒してしまったナオトを踏みつけるようにして、人々はどやどやとゲートに殺到していく。
「畜生!
人を踏みつけるなんて、最低だっ」
スーツを埃だらけにしながらナオトは何とか立ち上がり、荷物を抱えて群衆に飛び込んでいった。
途端に彼に降り注ぐ、怒号の嵐。
「何でぇこのクソガキは」「ちょっと、割り込み禁止っ」「やめて、子供を踏まないで」
「痛いいいいい、指が、指がぁぁぁあ」「俺の荷物引っ張るんじゃねぇよ!」
「ねぇ、隣の子アバラ折ってる! 助けて!!」
ナオトが無謀にも割り込んだおかげで、喧騒はさらなる喧騒を呼んだ。
彼はそれでも叫ぶ。
「僕はオーブの報道レポーターですよ!
優先権ぐらいあるはずでしょっ」
だがナオトの言葉は、ただでさえ苛々が頂点に達していた人々の怒りに、油を注ぐ結果となった。
「アホ言え、一刻を争う時に優先もクソもあるかい!」
「世界のルール覚えろ、ガキが! 順番待ちだっ」
「私たち、十日も待ったのよ」「チケットもねぇ癖に」
ほうぼうから手が伸びてきて、ナオトのスーツを掴んで列から放り出す。
当然、何発かの拳も喰らった。床に投げ捨てられたナオトに、さらに群衆は罵声を浴びせる。
中には殴りかかろうとする者までいた。
――が、その時。
「ちょっと、ちょっと待って!
ごめんなさい、私の知り合いなの!!」
どこから飛び出したのか、すらりとしたパンツルックの女性がナオトに駆け寄った。
外側に大きく跳ねた、特徴的な栗色の髪。胸にはカメラをぶら下げている。
――何処かで見たような気もするが、ナオトはすぐには思い出せなかった。
確か、アークエンジェルの……?
「ホントこの子、世間知らずなもので!
ごめんなさいねっ」
彼女は群衆に向かってにっこり笑ってウィンクまでしてみせると、すぐさまナオトを抱きかかえるようにしてその場から引き離し、空港外へ駆けていった。