【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 激昂のミリアリア

 

 

「いきなり何なんですか貴方は

 ……って、イタタタタタ!」

 

 空港外の宿泊所。人影もまばらなその裏手に連れ込まれた瞬間、ナオトは女性に思い切り耳をつねられた。

 

「何なんですかはこっちよ! 

 あそこには何日もチケットを待ってた人が大勢いるの。餓死寸前の子を何人も見たでしょう? 

 あんな風に割り込んでいったら、殺されるわよっ」

 

 ナオトの目の前で、彼女のカメラが揺れている。どちらかというと控えめな胸と一緒に。

 ようやくナオトは思い出した。

 

 

「……ミリアリア・ハウさん? 

 元アークエンジェルで、フリーの記者さんの!」

「まだ、駆け出しだけどね」

 

 

 ようやくナオトの耳から手を離し、彼女は苦笑する。

 

「貴方、ナオト・シライシね。

 オーブのテレビでよく拝見させてもらったわ、こんな処で会うとはね」

 

 打って変わって気さくな口調になりながら。

 ミリアリアはナオトと一緒に日陰に移動し、比較的涼しい木陰を選んで腰を下ろした。

 

「サイのメールにもよく、貴方のことが書いてあったわよ。

 ねぇ、サイやカズイはどうしてる? 

 アマミキョに乗って貴方と一緒にいたのは知ってるけど、その後なかなか連絡取れなくてね。心配してたの」

 

 サイの名を聞き、ナオトは反射的に顔を背ける。

 

「会いに行けばいいじゃないですか。

 ここからそう離れてませんよ、ヤエセの近くだし」

「そのつもりで来たんだけど、急にオーブに戻らなくちゃならなくなって。

 今、大変なの知ってるでしょ……アスハ代表が色々と、ね」

「そんなに大変なんですか? 代表は」

 

 ナオトにはその程度の推測しか出来ない。

 どこか不安げな横顔をミリアリアは一瞬見せたが、すぐに元の笑顔になる。

 

「でも、こっちが帰るまでがまた大変よ。

 もう1週間並んでる……順番待ちの大原則がある以上空港を離れられないし、こういう時に単独行動って不便よね。

 私一人で出来たことなんて、地図がほぼ役立たずになった海岸線が撮影したぐらいかな。凄まじい崩壊具合だったけど」

「誰かと一緒にいたって、そんなにいいことありませんよ」

 

 ナオトはすぐに膨れっ面になり、ミリアリアから視線を逸らした。

 子供らしからぬ言い方に、彼女は即座に異常を嗅ぎつける。

 

「ねぇ……サイは貴方のこと、すごく心配してた。

 俺がモビルスーツに乗せてしまったって、メールでも分かるぐらい落ち込んでたわ」

「あの人らしいですよね。

 表面的には反省してるけど、実際の行動は裏目に出てばかりだ」

 

 サイに投げつけたのとほぼ同じ調子で、ナオトは皮肉を口にした。

 ミリアリアの表情から笑みが完全に消失し、そのグリーンの瞳は静かにナオトを睨みつける。

 木の葉の間を執拗にぬって二人に照りつける日光に、ジリジリとこだまする虫の声。

 そこへ、妙に感情を抑えたミリアリアの問いが響く。

 

「何があったの。アマミキョで」

 

 視線を逸らしていたせいで、ナオトはしばらく気づけなかった。

 鬼の如き形相に変貌した、ミリアリアの顔に。

 

「別に何も。どうせ貴方も、サイさんの味方するつもりでしょ。

 さすがにフレイさんの味方じゃないでしょうけど」

 

 ミリアリアが、微かに息を飲む音が聞こえた──

 でも、僕の知ったこっちゃない。ナオトは明後日の方向へさらに顔を向けようとしたが

 

 

 ――その肩が、強引に引き戻された。

 骨が砕かれるかと思ったほど、強い力で。

 

 

「フレイ……ですって? 

 一体あの船には何があるの。教えなさい!」

 

 

 

 

 

 

 アマミキョ医療ブロックでも、患者たちの間に戦闘の噂が広がっていた。

 ベッドから抜け出し、相変わらず血と尿にまみれたままの床を歩きながら、サイは患者たちの明白な不安を感じ取っていた。

 中にはサイを医師と間違えてすがりついてくる子供までいる。

 

「ねぇ……僕たち死んじゃうの?」

「大丈夫。アマミキョが守るよ」

 

 サイはにっこりと笑顔になり、そんな子供たちの頭を撫でながら病棟を出て行く。

 行き先は外の、作業用M1アストレイだった。

 

 

 サイが独断でアストレイの改修を開始してから、既に3日が経過していた。

 勿論彼の怪我はまだ治っておらず、アストレイにとりついているサイを発見する度に風間やスズミが止めに入る。

 だが、サイは聞かなかった。

 

 5度目にスズミ女医が止めに行った時にはもう、サイはアストレイのコクピットに乗り込んでマニピュレータの調子を確認していた。

 炎天下のコクピット内は蒸し風呂同然だったが、彼は構わず作業を続けていた。

 

「川のこちら側はコーディネイターの街だし、ザフトもそう悪いようにはしないはずよ。

 だからこそ、フレイ嬢も医療ブロックはこちらへ下げたんじゃないの」

 

 わざわざ作業用の足場を使ってコクピットに乗り込んできたスズミは、サイに忠告する。

 一応、山神隊に聞かれぬよう、小声で。

 

「お忙しい中ありがとうございます

 ……と言いたいですけど、そんな保障が何処にありますか。

 俺に言わせれば、こちら側にアストレイ1機のみってのは怠慢もいい処ですよ」

 

 サイはスズミに構わず、OSを起動させる。右手だけでシステムを立ち上げると、サイはディスプレイの表示を確認していく。

 

「スタートアップは問題なし。右脚部のサスペンションが若干いかれてるけど、ミストラルのアームを一部拝借すれば何とかなるな。

 スラスターの出力は最大で60%……せめて75%あれば飛行出来るんだがな」

「サイ君。あのね」

「残る問題は武装だよな……イーゲルシュテルンだけ使えてもなぁ。

 アーマーシュナイダーは使い古しだし、第一デバイスドライバが合うかどうか」

 

 と、その時機体の下にトラックが到着した。

 荷台には数発のスティレットが固定され、ワイヤーでくくりつけられている。投擲噴進対装甲貫入弾──要は、モビルスーツ用の手投げ爆弾である。

 この前のダガーLなどの、この地を襲撃したテロリストたちの置き土産だ。

 

「サイー、まだ公園のあたりに2発埋まってるってぇ!」

 

 トラックの運転席から、泥まみれになった少年が元気よく顔を出した。まだ10歳にも満たない子供だ。

 サイは右腕を大きく振って答える。

 

「お疲れさん! 

 もう十分だ、休んでくれっ」

「約束のチョコレート、忘れんなよ!」

 

 運転席から3人ほど子供が転がり出て、サイとアストレイに手を振る。

 一見微笑ましいが、オーブの常識からしたら異常なこの光景。スズミが驚いてその右腕を掴んだ。

 

「な……何考えてるの!? 子供に爆弾運びなんて!」

「俺も最初は驚きました。でも、ザフトが攻めてくるって知って、自主的に俺を手伝ってくれたんです。

 ここの子供たちはみんな、こういう事を当たり前のようにやってくれる――

 それがいいのか悪いのか、分かりませんけどね」

 

 サイはスパナを口にくわえて、動かない左腕を庇いつつ座席周りの調整を始める。

 蝿が腕や頭の包帯に何匹か張りついていたが、彼は一向に気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 ナガンヌ空港そばの宿泊所裏で、ナオトの話はようやく終わった。

 ミリアリアは額を押さえ、ため息をつく。

 

「サイの馬鹿……

 フレイのことなんて、メールには一言も」

「あの人らしいですよ。嫌なことは公にせずに、全部自分でしまいこむ」

 

 長く嫌な話を終えて、ナオトは不機嫌そうに腕を組んで体育座りを決め込んだ。

 未だ地表を焼き尽くしている太陽は、木の間からしつこく二人の顔を刺そうとする。

 それに手をかざしつつ、ミリアリアは呟いた。

 

「言いたくないのは分かるわ。2年前もそうだった……

 サイは人のことばかり心配して、自分のことは全部棚上げ」

「そういう偽善、嫌いですね。

 だからザフトにも利用されたんだ」

 

 ナオトは駄目だこりゃ、と言いたげに肩をすくめ、両手首をひらひらさせておどけてみせる。

 だが次の瞬間――

 

「ひ、ひぎっ!? い、いだだだだ!!」

 

 ナオトはまたもや、ミリアリアにつねり上げられた。

 今度は頬だ。下手に拳で殴られるより痛い。

 

「ちょ、ちょっとやめて下さいよ! 

 僕これでも、テレビに出る人間で……」

「偽善やきれいごとって、そこまで悪いこと!? みんなで正直に心の闇をさらけ出して暴力を振るう方がいいとでも? 

 そういう暴力が嫌で、あんたはアマミキョから逃げ出したんでしょうが!」

 

 ナオトはミリアリアの手を、強引に顔から引き離す。

 やっぱりこの人も、偽善の塊じゃないか。

 

「僕は逃げてなんかいませんよ! 

 みんなが狂っていくのが耐えられなかっただけだっ、正当な自己防衛です」

「それが逃げたってことよ! 

 サイがどんな気持ちでフレイと相対していたと思うの? 

 どんな思いであんたを守ろうとしてたと思ってるのよっ!!」

 

 感情的になったミリアリアはナオトの襟ぐりを引っ張り上げる。

 だがナオトは負けずにその手を叩き払った。

 

「知ったこっちゃないですよ……

 サイさんがマユや僕を傷つけようとしたのは確かなんですから! 

 フレイさんを出し抜こうとして、僕たちをザフトに売ったんだ!!」

 

 だがミリアリアも決して引き下がらない。

 思い切りナオトのネクタイを掴み、体重をかけて草むらへ押し倒す――

 傍から見れば妙な勘違いをされかねない光景である。

 

「確たる証拠もなしに思い込みだけで判断、それでよくもまぁマスコミ名乗れたもんだわ。

 その減らず口は何の為にあるの? その無駄に大きな目は何の為にあるのよ!」

「じゃあ、サイさんがそんなことしないっていう証拠がありますか!?」

 

 倒されたナオトの目に、加速度的に曇っていく空が見えた。

 湿気がこもり、張りつめた空気。スコールの前兆だ。

 しばらく逡巡した後、ミリアリアはようやくナオトから手を離した。

 

「……証拠とは言えないけど」

 

 姉のような仕草でナオトを起こすと、スーツの土を払い落としてやり、ゆっくりと話し始める。

 

「その、ハマーって人みたいになったことが、私にもある。

 感情を剥きだしにして、傷つけてはいけない相手を殺そうとしたことが。

 その時止めてくれたのが、サイだった」

「それだけじゃ……」

「いいから聞きなさい、今度は私の話よ。

 フレイ・アルスターは――もう、いないはずなの」

 

 

 

 

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