【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 僕は、何も知らなかった

 

 

 カーペンタリアを出発したザフト艦隊は、既に北チュウザン首都ヤエセから南へ600キロの海域まで迫っていた。

 アマミキョ捕獲へ執念を燃やすヨダカ・ヤナセがカーペンタリアでかき集めることの出来たのは、ボズゴロフ級3隻。このクラスの潜水母艦は、ザフトで唯一の海洋戦力である。

 旧台湾とフィリピンの間の海峡(ルソン海峡)を通過したあたりで、ヨダカは艦橋で副官に尋ねていた。

 

「ミネルバからの連絡は?」

「オーブ出港時に連合・オーブ両軍の攻撃を受けたらしく、修理補給の為カーペンタリアへ直行です。

 とてもこちらの支援は無理ですね」

「役立たずのひよっ子どもが。オーブでパフェでもパクついていたんじゃなかろうな」

 

 イラついて髭を撫で回すヨダカを、オペレータの一人が茶化した。

 

「今度合流したら、チュウザンの焼酎でも飲ませてやりましょ」

「南国の酒はキツイそうだからな。浮かれた若造どもには、いい薬だろうよ」

 

 眼前のモニターに映るものは、CGで描かれたチュウザンの島影。

 そこには連合艦隊を示す紅い光点が、点滅しながら続々と増えつつある。

 ヨダカはディスプレイと、カタパルトの様子を交互に睨みながら呟いていた。

 

「東アジアの防衛線だけあって、連合も必死だな。

 南チュウザンを落とせれば、余計な迂回なんぞすることなく北チュウザンも楽に攻略出来るものを……」

「議長の仰せでは、仕方ありませんよ。誰もタロミを怒らせたくはないですしね」

「タロミ・チャチャに手を出すな──か」

 

 カタパルトでは、グーンと共にアッシュの調整が進められていた──

 全長20.65メートル、重量50.59トンのザフトの最新鋭水陸両用モビルスーツである。

 半漁人を思わせるどぎつい蛍光緑の装甲は特殊部隊らしくなく、ヨダカ自身は好きになれなかったが、今は色を気にしている時ではない。

 

「それに、目的は攻略に留まらんからな。

 アマミキョ捕獲、それが我らヨダカ隊の最優先事項だ」

「連合の量産型は他部隊に一任、ですね」

 

 ヨダカの黒目がアッシュを眺めつつ、目前の戦闘に心躍らせて光り出す。

 

「その為の悪趣味アッシュだ。ミントンでの赤っ恥、あの借りは返させてもらう。

 ティーダを引きずり出すぞ!」

 

 

 

 

 いよいよスコールが本降りになりだしたナガンヌ空港。

 だがナオトは、たった今ミリアリアから聞かされた話に、スーツの肩が濡れそぼっているのにも気づけなかった。

 彼女はそっと、ナオトを屋根の下へ移動させる。

 

 

「初めて聞きました……

 フレイさんが亡くなってるなんて……サイさんは一言も」

 

 

 ナオトの目は、驚愕に見開かれたままだ。

 2年前起こった事実──キラ・ヤマトの伝説の裏をミリアリアから聞かされたナオトは、身体の震えを止めることが出来なかった。

 

 

 婚約の話まであったサイ・アーガイルとフレイ・アルスター。彼らは2年前のヘリオポリス襲撃の際、共にアークエンジェルで逃げのびた。キラや学友たちと共に。

 しかしフレイは変わってしまった。父親の死を目撃したのをきっかけに。

 

 フレイはサイに一方的に別れを告げ、キラに近づいた。

 恐らく、コーディネイターへの復讐の為に。キラを利用して、コーディネイターを殺させる為に。

 その中でキラは次第に我を見失い、サイを傷つけ、自らも傷ついた。

 

 キラもサイもフレイも戦火の中で仲間、恋人、自分、あらゆるものを失っていき、離れ離れになる。

 最後に迎えた結末は、キラ、ミリアリア、そしてサイの目の前での――

 フレイの死亡。

 しかも、キラによる救出の手が届くか否かというタイミングでの、救助艇の爆発。

 

 

 

「そんなひどいこと……ヤキン関連のどの文献にも……!」

「書いてあるわけないでしょ。書く必要もないし。

 カズイからも、何も聞かなかったの?」

「サイさんが、口止めしてたんだな」

 

 フレイの過去をカズイが喋ろうとした時、確かサイはかなりの剣幕で止めていた。

 そりゃそうだ、こんな重大事――うかうかと本人の前で喋って良いことじゃない。

 ミリアリアはじっとうつむき、唇を噛む。

 

「きっとサイは、自分だけで始末をつけるつもりなのね。

 キラの処へ、フレイを連れて行く為に」

 

 ナオトは草むらの間に座り込み、頭を抱えてしまった。

 スコールはますます強くなったが、混乱の極みにいるナオトは雨など忘れていた。

 

 

「──何も知らなかった。

 僕は……」

 

 

 何と、自分は無知だったのだろう。

 何と愚かだったのだろう。

 しかも無知の上に、無理解だった。

 

 フレイとキラ・ヤマトの行為によってつけられた、癒えようのないサイの傷。

 狂っていったフレイ。魂を削られていったキラ。

 戦いによって、どうしようもなく破壊されていった、三人の関係。 

 

 それでもサイは、キラを支えてアークエンジェルで戦い続けた。

 あれほどの力を持つコーディネイターキラ・ヤマトを、ナチュラルでありながら陰で支え続けたのだ。

 その結果、無数の惨劇を目にし、最後にフレイの爆死を目の前で見て──

 

 しかし2年後の今、アマミキョにフレイは現れた。サイたちを弄ぶ支配者として。

 死んだはずの元恋人が眼前に現れ、どれほどサイは混乱しただろうか。

 完全に部外者たるナオトですら、訳が分からないのだ。サイはきっと発狂してもおかしくなかったに違いない。

 それでもミリアリアの言う通り、サイはそんなフレイをキラの処へ連れて行くつもりなのだろう。その為に、どれほどの苦難が押し寄せようとも。

 

 ナオトは、ようやく理解した──

 

 サイが何度殴られても、アマミキョでフレイと接触し続けようとしていた理由を。

 フレイの暴走を止めようとしている理由を。

 どんなに見下されようと傷つけられようと、サイはいつだってフレイと、正面から向き合おうとしていた理由を。

 

 

 サイは、何とかしてフレイを元に戻したいのだ。それも自身の為ではなく──

 恐らく、キラ・ヤマトの為に。

 

 

「人間、壊れちゃうよ……

 全部、自分だけで何とかしようなんて」

 

 そしてナオトは知った。

 自分がティーダに乗ることに対して、決して良い顔をしなかったサイの心情を。

 

 

 ──大きすぎる力は、君を壊す。

 

 

 サイは恐らく、キラを思い出してナオトにこう忠告したのに違いない。

 追いつめられていくナオトの心理状態を心配して、砂漠でのキラをナオトに重ね合わせたのだろう。

 だからサイはいつだって、必死にナオトを助けようとしていた。

 ダガーLの自爆からナオトとティーダを守ったのだって、サイの改良したTPシステムだったじゃないか。

 

 

 ――それなのに。

 そこまで彼は、自分を想ってくれていたのに。

 自分は一体、サイに何と言った? フレイの写真まで投げつけて。

 

 

 ──サイさんがコーディネイターだったら、こんなことにならなかったのに! 

 ──本当は、コーディネイターが憎かったんでしょう。

 ──もう誰も、貴方のこと信じませんよ! 

 

 

 自分にコーディネイターの血が混じっているのをいいことに、かつてのキラ以上にサイを傷つけていた事実に、やっとのことでナオトは気づいた。

 言葉というものは、何と恐ろしいのだろう。感情のままに飛び出した言葉は、ナイフ以上に人を傷つける。

 少しでも話してくれれば、打ち明けてくれれば。

 自分は絶対に、サイにあんな酷いことは言わなかったのに! 

 

 

 それでもあの時サイは土下座までして、信じてくれと頼んできた。

 今でもその姿は、鮮烈に瞼の裏に蘇る。怒りにまかせて張り倒されても仕方がないほどの言葉を、自分は彼に投げつけたのに。

 

「自分だけで決着をつけたい気持ちは分かるけど、無茶すぎるわ。

 肝心な時に助けを求めないんだから」

 

 ミリアリアは立ち上がる。

 雨の中でもその栗色の髪は、元気に跳ねていた。

 

「私、アマミキョに行くわ。

 フレイの正体を確かめる」

「ぼ……僕が行きます!」

 

 ナオトも咄嗟に立ち上がった。

 

「ミリアリアさんは駄目ですよ、せっかく何日も待ってたんでしょ。

 オーブには貴方を必要とする人がたくさんいますよ」

「それはそうだけど、サイとフレイの件は最優先よ。

 当然キラが関わるんだから、尚更」

「だけど、今チャンスを逃したら今度いつオーブに戻れるか。

 それに、どうしても戻らないといけない事情もあるんでしょう?」

「全くもう……こんなに近くにいるのにな。

 でも、何とかしなきゃ。直接会えなくても、何か方法は……」

 

 ミリアリアは悔しげに、親指の爪を噛んだ。

 彼女のオーブへの帰還は、恐らく個人の意思ではどうにもならない、政治的なものが関わっているのだろう。そこまでは、ナオトも推測出来た。

 今の彼女の様子から考えて、一刻も早くサイのところに行きたいのは間違いない。

 なのに、それが思うように出来ないのは──

 

 しかし、ミリアリアは頼もしいウインクと共に微笑む。

 そして少し斜に構え、ナオトに意地悪く聞いた。

 

「それより、貴方こそいいの? 

 私はにっくきサイの友達よ、簡単に信じてもいいの? アマミキョの噂に簡単に流された癖に。

 私だって、ザフトのスパイかも知れないわよ? 何たってザフトの赤服と、ちょっとだけ仲良くしてたこともあるんだから」

「本当かどうかは、サイさんに確かめます」

 

 こうなると、ナオトの行動は早い。

 荷物を取り上げ、早速空港に背を向けて歩き出す。さすがのミリアリアも、この切り替えの早さには驚いたようだ。

 

「僕は確かめもせずに、サイさんを責めた。

 ジャーナリストとして、一番やっちゃいけないことをやったんです。

 フレイさんのことも、マユのことも、ティーダのことも、僕は色々なことを確かめず、アマミキョから出てきてしまった。

 ……全てを決めつけて、逃げ出したんです!」

 

 今も一人でアマミキョで苦闘を続けるサイに比べ、自分は何と子供だったろう。

 帰ろうと思えばオーブに帰ることも出来るのに、サイは絶対にそうはしなかった。

 なのに自分は、サイへ加えられた暴力を目撃しただけで逃げ出した。

 自分を守る為? 冗談じゃない。ただ臆病だっただけだ。

 

 

 だが、ナオトが想いに逸るあまり、走り出そうとしたその時──

 空港中に、目覚まし時計のベルにも似た警報が響きわたった。

 

 

 

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