【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 山神隊の防壁

 

 山神隊の母艦タンバではこの時、カタパルトそして各ウィンダムのコクピットに、矢継早に山神艦長の指示が飛んでいた。

 

《索敵によれば現在、ザフト軍はチュウザン南方バシー海峡を抜け、二手に分かれて北北東へ移動中。

 主力と思われるグーン部隊は東側よりヤハラへ直接侵攻、当該部隊が陽動である可能性は52%。

 チュウザン本島の裏側から大回りされる危険もある、絶対に制空権を渡すな!》

 

 時澤軍曹が小さい身体をすばしこく動かしつつウィンダムに飛び乗り、続いて真田も時澤支援の為にスカイグラスパーで出撃していく。

 

《伊能、広瀬、風間各部隊は東側の主力殲滅へ向かえ。

 ナガンヌ方面にもザフトの艦影を確認した、時澤隊は至急ナガンヌ空港防衛へ回れ》

 

 ウィンダムのOSを立ち上げつつ、時澤は真田と通信を交わす。

 

「真田、ジェットストライカーの調子は?」

 

《上々です。噂のインパルスとやらを切り裂いてみせますよ!》

 

 戦闘に対する恐怖から来ている真田の大口。

 台詞とは裏腹に、緊張に満ちている彼の心に、気づかぬ時澤ではなかった。

 

「残念だが、ミネルバもインパルスも来ないよ。

 それより、シート周りの最終点検を忘れるな」

 

 こっちには山神隊のウィンダム以外に、ディープフォビドゥン部隊がいる。しかもあの、ファントムペインが加勢に来る。

 後方にはアマミキョのカラミティに、「血のストライク」に「輝きのブリッツ」がいる。

 いくらザフトとはいえ、こいつらを前に勝てるはずがない。

 

 ――この時の時澤軍曹に、そのような油断が決してなかったとは言い切れない。

 さらにそのすぐ横から上から、伊能、広瀬、風間らの頼もしいウィンダム部隊が出撃していくのだ。

 大丈夫だ、俺たちは死なない──

 数で勝るという事実は、安心と同時にそんな慢心を味方に与えてしまう結果となる。

 

 

 

 

 警報が流れる中、アマミキョではクルーが避難民を船の各ブロックへと誘導していた。

 アマミキョは既にいくつかのパーツに分かれてヤハラ区域に点在しており、そのどれもが避難所となる。

 コアブロックのカタパルトでは、当然フレイ、カイキがそれぞれの機体に乗り込んでいた。

 いつも通り軽く首を捻ってメットの調子を整えたフレイは、カラミティへ指示を出す。

 

「カラミティは砲撃戦装備で後方待機。

 全力でアマミキョを守れ、ヤハラの空を汚すウツケは全て叩き落とせ!」

《了解。しかしカラミティが一番空を汚すぜ、多分》

 

 フレイはそんなカイキの冗談にも、眉をぴくりとも動かさない。

 

「調子に乗って味方を撃ったら貴様も叩き斬るぞ。行け」

《了解。

 カイキ・マナベ、カラミティ、出るぞ!》

 

 エメラルドの巨体を滑らせて、カラミティがカタパルトから地表へと飛び出していく。

 フレイはさらに、カタパルト奥のティーダと通信を交わした。

 

《ラスティ。ティーダの調子は?》

 

 ティーダのコクピット後席には既にマユが待機しており、ナオトがいた前席ではラスティが座席の調整をしていた。

 OSの立ち上がり具合を睨みつつ、ラスティは赤い髪をかきむしろうとして誤ってメットに手をぶち当てる。

 

「サスペンションは全く問題ないが……

 どうも、俺とこの機体は合わんね」

《わざわざ自らの士気を低下させるような言葉、吐くものではないぞ》

「そうは言うけどさ。

 ハロも俺のこと、好きじゃないみたいだし」

 

 ラスティの言う通り、彼とマユとの間に座っている黒ハロの眼は、何処となく元気のない点滅を繰り返している。

 マユはそんなハロよりさらに重症のようで、ラスティが乗り込んでから彼女は一言も口をきいていなかった。

 ティーダのOSスタートアップを、白けた顔で眺めているだけだ。

 

 

 

 

 ヤハラ東の海域から、ザフト部隊が次々と侵攻してくる。

 海の戦士であるグーン、ゾノ、そして空の騎士バビ、ディン。

 伊能・広瀬・風間のウィンダム部隊の前には、未だ噂の新型は現れてはいなかった。

 ヤハラの海に広がる浅瀬で、伊能たちのウィンダムはこのザフトの大軍を迎え撃つことになった。

 だが、連合側は既にその6倍ものウィンダム&ダガーL混成部隊をヤハラ東海岸に配備している。山神隊はその中心だ。

 

「ディープフォビドゥンもいる。功を焦るなよ広瀬!」

 

 先行して早くもバビ2機と空中で撃ち合いを始めた広瀬少尉のウィンダムに、伊能が通信を送る。

 だが、返ってきたのはいつもの皮肉っぽい返事だった。

 

《そっくりそのままお返ししますよ、その台詞!》

 

 風間のウィンダムも広瀬に続く。広瀬機がビームサーベルを抜き放って縦横無尽に飛び回りバビの注意をひきつけ、それに追従する風間機が、広瀬機を盾にする形で陰からバビを撃つ。

 女がでしゃばるなだの、胸しか見てない皮肉男だの、互いに毎度コンプラスレスレの言い争いばかりしている広瀬と風間。だが、いざという時の攻撃フォーメーションは見事なものだった。

 雨空に次々と上がる火球の間を、2名のウィンダムは青い盾とジェットストライカーを輝かせながら飛んでいく。

 

 その背後で伊能大佐は、突如海から飛び上がってきたグーン3機を相手に激闘していた。

 伊能は浅瀬にウィンダムを走らせつつ波を蹴り上げ、この忌まわしい大王イカを思わせる敵を全機撃ち落とす。

 ゾノと違ってグーンに格闘能力はそれほどない、恐れることはない。水中から近づき脅かすだけが特徴の腐れイカだ。

 ――尤も伊能が狙撃している間に、味方のダガーLが2機、犠牲になったが。

 

 そして、伊能は確信した。

 バビとグーンを半々に混ぜただけのこの大仰な編成、雑な攻め。

 明らかに本来のザフトではない。やはり陽動──

 だとしたら、本隊はどこだ? 裏か? 空港か? 

 

 

 

 

 ナガンヌ空港付近の岸壁にも、ザフトが上陸作戦を敢行していた。

 勿論、集まっていた群衆は大パニックに陥っていた。逃げるはずだった空の出口から、攻め込まれている?! 

 

「これじゃ……アマミキョも危ない」

 

 ナオトは突然のことに、どう動けばいいのか分からず棒立ちになってしまっていた。

 マユもおそらくティーダに乗っている。ブリッジも医療ブロックも、大変な騒ぎだろう。

 サイは、カズイは、ミゲルやラスティは、真田たちは、オサキは、アムルは、ネネは、スズミ先生は──フレイは。

 

 

 そうしている間にも空港のすぐ近くで爆発が起こり、火柱が上がるのが見えた。滑走路の方向だ。

 せっかく、みんなの元に戻りたいと願ったのに──ナオトは胸元のフーアのお守りを握りしめる。

 

「こっちよ!」

 

 ミリアリアはそんなナオトの腕を引っ張り、走り出していた。

 逃げまどう人々の流れとは逆方向へ。つまり、たった今火の手が上がったのとあまり変わらぬ方向へ。

 

「アマミキョへ行くつもりなら、道はあそこしかない。

 道路は封鎖されるだろうし!」

「何処ですか?」

「決まってる。空よ」

 

 二人は走る、走り続ける。

 しかしその上空に、早くもディンにバビが飛来してきた。しかも合計5機も。

 施設を完全に破壊する気か──

 

 人がまだ残っているであろう林が、空襲される。

 ナオトとミリアリアの目と鼻の先で、爆発が起こった。轟音と共に二人は地に伏せ、爆風に耐えるしかない。

 が、さらにバビは空から群衆に銃口を向けた。

 

「卑怯だ! 

 地上のこと、何も知らない癖にっ!!」

 

 勿論そんなナオトの暴言が、バビのパイロットに届くわけがない。

 モビルスーツに対して人間とは、何と小さいのだろう。しかもあのバビ──三角帽子を思わせる頭部を持つ紫の巨体は、空を飛んでいる。

 ミリアリアが咄嗟に彼の両肩を掴んだが、彼女の手も震えていた。

 

 

 しかし、その銃口が光に満ちた瞬間

 ――閃光からナオトたちを、敢然と守ったものがあった。

 

 

 大地を揺らす衝撃と共に、しっかり地上に根を降ろし、人々の前に立ちはだかった青と白の鋼鉄の巨人──ウィンダム。

 その右肩部に刻まれた『天海』なる漢字を象ったシンボルマークに、ナオトは見覚えがあった。

 

「と……時澤さん!?」

 

 さらにその上空を、スカイグラスパーが滑空していた。

 今自分たちを守ってくれたのが時澤なら、あのスカイグラスパーに乗っているのは、真田上等兵だろうか? 

 

 

 

 

「道路封鎖ですって!?」

 

 アマミキョ医療ブロックでは、スズミ女医が悲鳴を上げていた。戦闘による負傷者が続々と運ばれてくるというのに、血液バンクは既に空っぽに近い。

 にも関わらずのこの事態に、スズミのみならず他の医者も看護師たちも動揺を隠せなかった。スズミもネネもお互いに、クマの濃くなった顔を見合わせる。

 

「Oマイナスは節約に節約してたのに」「軽傷患者さんから頂くしかないですよぉ」

 

 奥で寝ていたサイも、このただならぬ様子に飛び出した。

 

「俺、O型です! 採血して下さいっ」

「悪いわね。血液空輸用のヤエセ第14ヘリポートと、連絡途絶なのよ」

 

 スズミは即座にサイを座らせ、血液を採った。

 ネネもサイの二の腕を駆血帯で縛りつつ、不安げな表情を見せる。

 

「ザフトの上陸地点に近くて、非常に危険な状態だそうですよ……

 どうしよう、ヘリは勿論使えないし」

 

 その間にも、狭い医療ブロックの通路へ次々に患者が運ばれてくる。

 腕のちぎれた中年女性。目をえぐられた子供。

 モビルスーツの空薬莢の落下により、潰された母子。

 スズミもネネも用がすむとサイを放り出し、既に叫ぶことも出来ない負傷者にとりついていた。

 

 悲鳴。泣き声。怒号。叫び。血の臭い。

 隅で膝をかかえ、たった一人で震えている幼児。

 内臓物の悪臭。転がっている誰かの指の一部。床に広がる嘔吐物。

 ストレッチャーと豪雨の音が交差し、遥か彼方からは遠雷のような響きも感じる

 ──空襲だ。

 

「言わんこっちゃない!」

 

 気づくとサイは、朱色の作業ジャンパーを肩から引っかけ、外へ走り出していた。

 左腕はほぼ動かず、足も胸も酷く痛むが、大丈夫。

 ――自分はまだ、五体満足なんだ。まだ。

 

 

 

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