1945
俺は、生まれた頃から違和感を感じながら育っていった。
どいつもこいつも何処か粗野に見えて仕方がなかった。現代で言う行き過ぎた体育会系のような人間がうじゃうじゃ居て、なんとも馴染めなかった。
俺は小説とか漫画が好きで、よく図書館に行ったり、雑誌を立ち読みしたりした。高等学校に行くようになってもそれは変わらなかったので、周りからは少し変な目で見られてしまった。
他にも、外国の神話や冒険譚などを読んだりもした。ドワーフなんかは可愛くて良いんじゃないだろうか?
そんな生活を続けていると、俺は何時の間にか家の中で孤立していた。本を読んでばかりで、禄に外との交流を持たなかった俺は咎められはしなかったものの、近所から『
そこから数年経ち20歳になった頃、流石に手に職をつけなさい。と言われたので、よく構想を練っていた小説を書いてみることにした。
転移小説。自分がもし神話や伝説の世界に行ってしまったら、という物だ。周りからは変わった小説だと言われたが、俺は特に特別感を感じる事もなく執筆を進めていった。
そんな中で1943年、遂に俺の元に赤紙が届いた。自分の年齢を鑑みても時期は妥当だと思った。この時期になると三年前に戦時体制になり配給制が当たり前となった今、原稿用紙を調達することが難しくなってきていた。小説を書き続けるのも限界が近づいていたので、妥当だとは思ったが…やはり戦場に行くのは怖かった。俺は平和を愛するタイプの人間なのだから。
1945年、よくぞ此処まで無傷で生き残ってこれたと思う。周りの戦友はとっくのとうにあの世に行き、俺は一人ぼっちだ。今度の戦場は硫黄島らしい。
◆◇◆◇
血と硝煙、肉の匂いに土の匂い。その他色々な匂いが鼻を劈く。砲弾と銃弾が飛び交い、時たま人肉の欠片が飛んでくる。流石に今回は死ぬだろうな、と俺は思った。
「玉砕覚悟で進め!撤退は許さんぞ!」
そんな上官の声が俺の耳に入る。玉砕覚悟で言っても大半はミンチになるのがオチだと言うのに、現実を見ていられないのだろうか。長年付き添った相棒の銃床は完全に肩に馴染んでしまい、標準がブレる事は無くなった。
―――安心する材料には到底ならなそうな塹壕の中に身を潜め、攻撃の雨が弱まるのを待つ。
砲弾は塹壕の中に入り込んで、周囲の仲間を吹き飛ばす。
溝から顔を出した瞬間、銃弾は襲ってくる。
―――出られるわけがない。
何時の間にか塹壕からは俺以外の人が消えており、遠くからは万歳特攻を仕掛けている声が聞こえる。その中にはキャタピラが地面と擦れる音も聞こえてくる。此処には対戦車用の火器が無いため、万が一塹壕の上に乗り上げるなんて事があれば一巻の終わりだ。
しかし、銃声は弱まるどころか、まだ強さを増してきている。段々と近づいて来るその音から逃げるように俺は塹壕の中を走った。
塹壕を抜け、森の中に入り、息を潜める。
森の中ではまだ幾らかの日本兵が潜んでいるだろう。あわよくば助けて欲しい所だが、そうは行かない。
さっきから日本軍の物とは違うキャタピラの音が近付いて来ている。硫黄島の沿岸には大量の地雷が置いてあるため、戦車が上陸することが困難である筈だが…まさか此処まで入り込んでくるとは思わなかった。
着々と音は近付いて来ている。このまま遠ざかってくれれば俺はまた生き残ることが出来る。
―――音が止んだ。
――――――砲塔は此方を向いている。
「…死んだな、これ。」
最後に見たのは砲塔の上の機関銃が火を吹いた場面だ。
死ぬならもう少し、まともに死にたかった。
◆◇◆◇
「―――…」
目が開いた。俺は死んだんじゃないのか?俺の姿形、装備しているものまでしっかり残っている。マガジンも抜き取られていないし、第一被弾した跡が無い。
「クソッ、ここは何処だ?」
景色も変わっている。鬱蒼とした木々が大量に生えているのは変わりないが、生えているものが違う。木の背が高すぎるのだ。もしかしたら杉の木よりも高いかもしれない。
見知らぬ景色に、無意識に銃を構える力が強くなる。硫黄島にこんな場所は無い筈だ。もし敵地のど真ん中だったりしたら目も当てられない。意味が無いのは分かり切っているが、もしもの時のために軍刀を抜けるようにしておく。
足音がした。
すぐさま周りを見渡し、敵が居ないかを探る。引き金に力が入り、脳が暫し興奮状態に陥る。
奥に見えたのは人影。見た限り武装はしていないようだが、
「…―――」
銃を構え、人影の方に向かっていく。訓練のお陰で隠密行動は板に付いていた。相手は気づくことも無く、前を向いている。シルエットからして、女性のように見える。
「手を上げろ…武器があるならば、地面に捨てろ」
3メートル程離れた場所から銃を突きつける。逃げる最中に海軍の屍体から拾った一〇〇式の機関短銃が肩に掛けてあるが、脅しに使うなら三八式で十分だ。
「そう言うあなたは一体誰?
聞こえたのは女性の声だった。声色からして大分若いようだが、妙に冷静だ。民間人なら銃を突きつけられた時点で顔が少し青褪めるが、随分と野太い神経を持っていると俺は見た。
「話は安全を確認してからだ。もう一度言うが…手を上げて、武器を持っているなら、地面に捨てろ」
「―――…しょうがないわね」
女は懐に持っていたであろうナイフを地面に置き、手を上げる。
「よし、そのまま後ろを向け」
女は少し躊躇いながらも、少しずつ動き始めた。布に覆われていた頭の全体像がその姿を現し始める。
そして顕になった物は、見たことも無いはずなのに、何か既視感のある物。存在しない筈なのに、見たことがある物。そして何より―――
―――完璧に整った顔に、その両端に付いた尖った耳。
「エル…フ、なのか?」
その
( ゚д゚)ハッ!