Null Times :Romance   作:一途一

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伸びろ♡伸びろ♡


2023

エルフとは、北欧神話に登場していた精霊の様な扱いを受けている存在である。一般的なエルフのイメージの根底にあるのはトールキンの『指輪物語』であり、更に海外のゲームや海外の小説の挿絵などに用いられた尖った耳のエルフが日本人に定着し、現在の形が定まった。

 

 

指輪物語が発売されたのは第二次世界大戦終戦の九年後であり、勿論読むことは叶わないであろう。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「―――お前は本当にエルフなのか」

 

 

銃口は不思議と下がっていた。俺は見たことが無い筈なのに、不思議とコイツの事をエルフと認識している。そうじゃない筈なのに、そんな筈無いのに、俺は見たことが無い筈なのに!

 

 

「ええ、私はエルフだけど…――そのへんてこな形の物は何?武器のようだけど…」

 

「銃を知らないのか?」

 

「じゅう?知らないわ。」

 

 

全く分からないといった様子で話すエルフは、整った顔立ちをしている。まるで外の世界を知らないお嬢様の様な肌の色に、今まで生きている中で見たことも無い赤い瞳。おまけに歳不相応な白髪。日本人とも外国人とも言えないその顔は、まるで妖精のようだった。

 

 

「それより、ここは人間が立ち入ってはいけない…というか、人間は立ち入れない筈の場所よ。一体何処から入ってきたの?」

 

「ここは硫黄島じゃない…」

 

 

やはりとは思ったが、此処はあの地獄では無いらしい。

 

 

だとしたら、此処は天国か。そう感じた瞬間、俺の体に張り付いている装備は、やけに重く感じられた。

 

 

二年間。人生の中ではきっとあっという間に過ぎるべき時間だろう。しかし、この二年間は長すぎた。きっと俺の体は十年分の働きをし、十年分の傷を負ったはずだ。逃げていたと言っても、被弾した数は数えきれない。此処が天国だとしても、この体である限り、弾痕からは逃れられない。

 

 

しかし、そうだとしても、俺の脳は確かに喜びを感じているのである。戦いをしなくても良い、仲間の命が散る所を見ることも無いのだ。俺は薄々気づいていた。この戦争はもうすぐ終わる、と。しかし、精神はそこまで耐えれそうに無かった。まるで吐き捨てられる西瓜の種の如く、人は土に還っていく。その情景が見るに耐えなかった。

 

「―――は、ははは…」

 

乾いた笑いが止まらない。長く笑わなかったせいで、随分と笑うのが下手になっていたみたいだ。

 

 

俺は何時の間にか銃を地面に落とし、空を見上げていた。

 

 

 

「―――そうか、終わったのか」

 

 

体は熱と気の昂りに支配され、周りが見えなくなる。

 

 

「俺の戦争は…終わった!」

 

 

そこから俺の体は倒れ、暫く狂笑した後に意識を落とした。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

エルフの少女は戦慄していた。自分の集落を囲む結界の中で薬草の採取をしていた所、少女はこの男に出遭った。

 

珍妙な武器を向けられ少し戸惑ったが、構えている射程からして懐に持っているナイフは届かないと考えたため、渋々男の言うことに従った。

 

するとどうだ。少し言葉を交わしただけで男は武器を落とし、狂ったように笑い始めた。そして三分程ひとしきり笑っただろうか。男は電池を切らしたように気絶した。

 

 

「なんなのよ、一体…」

 

 

この男は人間(ヒューマン)だ。しかし、だからと言ってこのまま放置する訳には行かない。仕方なく男の服の端を掴み、引きずるように里まで連れ帰る。

 

 

家まで運び、小さいバッグや謎の見たことのない神聖物体(アーティファクト)の様な物を降ろしていく。唯一使用する用途が分かったのは腰に差されていた変わった刃の剣のみだ。

 

それにしても珍妙な格好をしている、と少女は思った。何処かの国の国旗の様な物が服に貼られていたり、高貴な人間の着そうな物の様な造りをしている割には、随分と汚れている。

 

 

「一体何処の人間なのかしら…」

 

 

暫くすると男が目を覚ました。特に取り乱す様子も無く、少女の説明を聞いた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「つまり、此処は天国なんかでは無いという事か」

 

「まあ、そうなるね。最初に『ここは天国なのか?』って聞いてこられたのはびっくりしたけど」

 

 

このエルフの少女の話を聞く限り、ここはエルフや人間、その他大量の種族が群雄とは言わない程度に割拠している世界らしい。魔力やモンスター(異形獣)という概念は非常に興味深かった。天国で無かったのは少し残念でもあり少し嬉しくもあるが、今生きている事に少しだけでも感謝しておこう。

 

 

「そういえば申し遅れたわね。私の名前はコスモスよ。花の名前なんて笑えるでしょ?」

 

「いや、まあ反応には困るが…悪くは無いと思うぞ」

 

「…――そぅ?」

 

 

確かに名前に花の名前を付けるのは些か難易度が高い気がする。それより、この世界にコスモスが存在している事が驚きだ。実は此処だけ何かがおかしくて、ひょっとすると地球の何処かだったりするのだろうか。今度そこら辺も詳しく聞いてみよう。

 

 

「それで、貴方の名前は?」

 

「俺か?…ああ、確かにまだ言って無かったな。俺の名前は参二一(しのまえふたいち)だ。言いにくいだろうからシノマエで良いぞ」

 

実を言うとコレは小説を書くときに使うペンネームだ。本名は正直言って余り格好良くないので言いたく無かった。

 

「変わった名前ね」

 

「まあ確かに変わってるな。だけど気に入ってるよ」

 

「ふーん…シノマエね、シノマエ…」

 

 

 

コスモスは何度か名前を復唱した後、俺の服装や持っている装備について聞いてきた。着ている軍服のことだったり、その武器は一体どうやって動くのかとかだったり、その変わった剣は何なのか、だったり…兎に角色々聞かれた。特段隠すことも無かったので全部正直に答えたが、元の世界の日本やアメリカ、ドイツやソ連といった国についての事は話してみてもさっぱりのようだった。

 

 

「とても面白い話だったわ!今度その武器も何処かで使って貰わなきゃね?」

 

 

そう言ったコスモスは、突然少し前に出てきて、いかにも真面目そうな顔で此方を見た。

 

 

「それで…話して貰った限り貴方は兵士みたいね?貴方の言ったニホンという国は存在しないし、これからどうするつもり?」

 

「いや、特には…まあ、その辺りをふらふらとして行こうかな、と…」

 

「危険よ」

 

コスモスの顔がずい、と近づいた。整っている顔が近くにあるとどうも気が定まらない。少しふしだらな心を治め、何故なのか、と彼女に聞いた。

 

「何故って、さっきの話を聞かなかったの?モンスターに出会えば通常の人間なら瞬殺されるし、貴方の持っているその武器を使うにしても、きっと遠距離か中距離で使うものでしょう?近距離戦に秀でたモンスターと戦うにしては分が悪いわ。だから、悪いことは言わないから暫く此処で過ごした方が良いわ。この里の中なら結界魔法が張ってあるからモンスターが入り込んで来る事は無いし、安全極まりない。私の家が嫌って言うのならその辺の整った空き家を紹介してあげるから。取り敢えず迂闊に里の外に出ることは控えておいた方が良いわ」

 

 

 

「…何かすみません」

 

 

突如怒涛の説教的な物が始まり、少し腰が引けてしまった。そこまで言う程に外は危険らしい。まあ確かに、今の俺の姿は酷い物だろうからしょうがない事だろう。折角だしお言葉に甘えて、戦争で負った諸々の傷を治すまではここに居続けよう。

 

 

「いえいえ。それで、どうする?私は一人暮らしだから、一人ぐらい住む人が増えても構わないわよ?」

 

「……」

 

「構わないわよ?」

 

 

ここではこの家に留まるか、里の中の別の場所に移るか選択肢があるように見えるが、赤い目から感じる無言の圧で必然的に一つに絞られてしまった。

 

 

「―――………もう少しだけ、此処でお世話になろうかな」

 

「それが良いわ!」

 

 

俺は何か彼女にここまで世話される様な事をしただろうか。出会って数時間も経っていないのに此処まで親切にされるのは安っぽい官能小説(エロ小説)でも見たことが無い。現実(ノンフィション)にしても虚構(フィクション)にしても、些か設定がおざなりではなかろうか。

 

 

 

「私は少し里の皆に用事があるから、少し休んでいてね?」

 

 

 

そう言って彼女は出て行った。里と言うぐらいなのだから、それなりに人数が居るのだろうか。それにしても、赤い目をしたエルフは今まで読んだ本の中には存在しなかった。耳の方は不思議と脳味噌に馴染んだものの、あの赤い目だけが妙に頭に引っ掛かる。

 

潜在意識だが、エルフと言えば緑色の目をしているイメージが有る。それに神話では妖精や精霊の存在であることが多かった為、人ほどの大きさと言えどそもそもに生物であるという前提で考えたことが無かった。

 

 

「不思議な世界だ…」

 

 

不意に声が漏れる。短すぎるこの時間は、何故か人生で一番長く感じた。今度は久しぶりに筆を持ってみようか。

 

 

 

 

 

唐突に、体の動きが鈍くなってきた。ずっと気を保っていたからだろうか。一度眠っただけでは体は許してくれないようだった。

 

 

 

 

 

そのまま俺は、ベッドに沈みゆく意識と体を委ねた。




作者はこの作品が二十作目の未完結作品にならないように気をつけます。

今後ともヨロシク!
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