Null Times :Romance   作:一途一

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二回ほど名前を変えましたが、決定しました。題名は『Null Time :Romance』

略してNTRで((((殴


兆し

あれから2日ほど。暫く安静にしていなさいと言われた通りに、俺はベッドの中で時を過ごしていた。目を覚ました時に服装が白を基調とした洋風の服になって居た時は寝ている間に何をされたか想像して少し戦慄したが、それ以外には特段変わった出来事は無かった。

 

 

「さて。そろそろ顔色も良くなってきたし、そろそろ家の事とか手伝って貰おうかな?」

 

「皿洗いとか洗濯か?」

 

「そうね。暫くは簡単な仕事をして貰って、体が完全に治ったらもう少し大変な事も頼もうかしら。家賃だと思って頑張って頂戴」

 

 

最初はどうも世話焼きだと思ったが、流石にそれなりの奉公はしなければならないらしい。そもそもに知らない人間をここまで泊めてくれる時点で相当世話焼きな性格だが。

 

彼女がいつも何処かに出掛けに行った後は、随分と時間がゆっくり過ぎている様に感じる。家の中で家事をしていない時は退屈だが、非常に平穏な時間を過ごせていた。紙とペンさえあれば小説でも書くことが出来るのだが、そのような物は家の中に見受けられなかった。何故か英語で書かれた紙があるにはあったが、その殆どが何かしらの書類であったため使うことは出来ないし、そもそも書き記す物が存在しなかった。ここはヨーロッパかアメリカなのか?

 

となると、この地域(世界?)では紙に文章を記すという文化はあるが、それを普段から使わないという事なのだろうか。それともエルフだけが持つ特殊な風習なのだろうか。本もないので、それを調べることが出来ないのが本当に心苦しい。

 

そしてぼーっとしたまま数時間過ごしていると、コスモスが仕事を終えて帰ってくる。彼女の仕事は『魔術師』と言い、それを利用して里の便利屋のような事をしているらしい。非常にそそられる名前の職業だが、実際に見せて欲しいと言ってみても魔術を見せてくれない事から、全容は未だに分からない。里を囲っているという結界も何か関係しているのだろうか。

 

 

「帰ったよ〜。元気にしてたかな?」

 

「それはもうすこぶる元気だったよ」

 

「そう?安心したわ」

 

 

このやり取りはたった三日の間に恒常化していた。『ただいま』や『おかえり』は一回も言われた事が無いが、これがその代わりなのだろうか。なんて考えを巡らせたりもしたが、よくよく考えなくても只の体調確認だった。因みに『おやすみなさい』は存在している。勿論ベッドは別々だ。

 

 

 

そんな生活を続けて一週間、俺は遂に心身ともに完全回復した。元々酷い疲労だけだったのでそれが治れば一気に体は全快した。明日は彼女と里を巡ってみる予定だ。この地域(世界?)での文化を見るのが楽しみだ。ついでに紙かペンがあったら手に入れる方法を探ってみよう。流石にコスモスに全て頼るのは申し訳無いし、何より俺が堕落してしまう。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

里―――『ヴァシダム』は随分広かった。どれぐらいかと言うと、平均的な町一個ぐらいである。今はその中の主な街道となる所を散策している。石畳の道の両端には露店と中世に建てられたような建物が所狭しと並んでおり、何時か行った外国の祭りを思い出させた。どうやらエルフの里らしいが、伝記や空想小説とは違い、妙に毛が薄い獣人や、背が小さい―――ドワーフのような種族も多々見掛けた。

 

 

「随分と広いな」

 

「でしょ?元はもっと小さかったんだけど、昔の戦争で民族の境界線が無くなっちゃったのをきっかけに随分と栄え始めたんだ。最近は純粋な種族よりハーフの方が生まれてくる数が多いって言うぐらいだからね〜」

 

「そうだったのか…」

 

 

これは初耳だった。やはりどの場所でも戦争は起こるものだなと思う反面、自分が少しその言葉に惹かれていたことが悔やまれた。あの日常が僅か数日でも過ぎ去っている今は、俺にとってのびっぐちゃんすと言うものだ。これを機に真っ当な人としての人生を取り返したい。

 

 

「あれ、聞いたこと無かった様な顔だね?あれだけ大きい戦争なら嫌でも知ってると思ったんだけどなぁ…―――まさか本当に『転移者』だったりして」

 

「…そうなのかな」

 

「絶対そうだよ!私はニホンなんて国やっぱり聞いた事無いし、あめりかとかどいつとかも聞いたこと無いもん!」

 

 

それが正しいとすれば、俺は帰る方法を見つけようとするだろうか。いや、きっとしないだろう。こんなに自然に囲まれて、人が溢れていて、湧くような活気に包まれている。こんな空気から俺は逃れられる気がしない。

 

 

「まあそれは置いといて、今日は思いっきりこの里を案内してあげよう!多分転移者なシノマエ君はびっくりする物があるかもしれないね!」

 

 

それに加えてコスモスだ。太陽の様に眩しい性格の彼女はどうやら里の魔術師でも一番の腕らしい。さっきから何度も色んな人から挨拶をされていたのはそのせいだろう。本人は謙遜しているが、里の人々に質問して見た所、『何度も危機を救ってくれた救世主』と口を揃えて言っていた。

 

 

そんな人物と一緒に散策など、確実に目立ってしまう。きっと、ある意味で里の人々の意識に俺の姿が刻み込まれているだろう。職業柄相手の心情を考える事は多々あるが、ここまで心の底から慕われている様に見える人は久しぶりだった。見ず知らずの俺を助ける所から、随分とお人好しのようではあったがここまでとは。やはり異世界は予想の斜め上を行く場所である。

 

 

「まずはダマニカって言うエルフの伝統料理を食べに行こう!」

 

 

そこから数時間、俺は九割グルメツアーと化した里の散策を楽しんだ。最初はエルフ、次は獣人、その次はドワーフ…と、もう何処の種族の民族料理を食べたか覚えていない。

 

しかしそれでも一番食べて居たのはコスモスである。顔程の大きさの肉料理をものの数分で完食し、その後にその倍の大きさであろう魚の丸焼きを平らげた時は驚愕で体中を染めた。そんな感じで朝から食べ歩きをしていたせいか、夜は大分足取りが重くなってしまっていた。すっかり日は沈み、動力源の分からない街灯がぽつぽつ光を灯している。

 

 

「最後に少し酒場に行こっか。シノマエ君、酒は飲めるかな?」

 

 

連れてこられたのは『ドラクネス』という店だ。意味は『酒乱』である。入った瞬間に大勢の笑い声と熱気が体中を駆け巡る。居酒屋をもっと派手にしたような雰囲気のこの店は嫌いではない。席に着いた瞬間、コスモスは酒を二杯と、多分おつまみであろうものを頼む。二つの品物はすぐに到着し、俺たちは軽くジョッキを鳴らして酒を呑んだ。最初の乾杯はやはり万国共通のようだ。

 

 

「いやぁ、何時呑んでもお酒は美味しいなぁ。気分がふわふわするよ」

 

「そうだな」

 

俺はジョッキをぐい、と飲み干した。昔から酒に酔いにくいのもあるが、酒自体も少し酔いにくい様に感じた。やはり酒造技術の差があるのだろうか。味はビールに近いが、なんとも微妙に違う。不思議な味だった。

 

 

「それにしても今日は楽しかったね!久しぶりにあんなに食べたよ!」

 

「自分が大量に食べた自覚はあるんだな」

 

 

自覚があって彼処まで食べるのなら少し頭のネジが緩んでいるかも知れない、と思った。それにしてもあの量の代金は一体何処から出て来たのだろうか。恐るべし魔術師の財布事情。

 

そんな事を考えていると、唐突にコスモスの口から疑問が飛び出してきた。

 

 

「そう言えばさ、私が予想した通り君は兵士だって言ってたけど、一体どんな戦場に居たの?」

 

「………」

 

「ぁあっ、別に話したくなかったら話さなくても良いんだけどね?」

 

 

そうだった。完全に失念していたが、俺は彼女の中では兵士と言う認識なのだ。小説家では無く、血と硝煙の匂いを染み込ませた服を着た兵士だったのだ。だが、コレは俺が元に戻るためのチャンスだ。今兵士である事を止めれば、形だけでも俺は普通の人間に戻ることが出来るのだ。

 

 

「…地獄だよ。辺り一面を見渡せば屍体が倒れて居ない場所は存在しないし、環境も最悪だ。死ぬために行く様な場所だよ」

 

「…そう」

 

「あと兵士なのは徴兵されたからで、俺の本職は小説家だ。本来は紙の上に物語を連ねながら生活している。」

 

「ありゃ、徴兵制があるなんて珍しい国もあるのね?文字を書くのが仕事なら…紙が必要になるわね。いや、私の家ペンすら無かったわ」

 

「準備してもらえると有り難い」

 

 

意外、といった風な顔をコスモスはしている。まあこんな兵士以外でも何者でもない様な格好の奴を見掛けて軍人以外の職業で判断するのは難しいだろう。

 

 

「いやぁ、それにしても兵士じゃなかったなんてねぇ〜。魔力量が多いからてっきり魔導騎士とかそこら辺かと思ったんだけど、小説家とは…予想の斜め上を行ったわ。一体どんな物語を書いているの?」

 

 

待て、質問より先に聞き捨てならない言葉を耳にしてしまった。俺の魔力量が多いとかなんとかって一体どういう事なんだ。少なくとも俺はここの人間では無いし、日本でだって魔力などという物の力など欠片も感じたことが無かった。

 

「質問に答える前に聞きたいのだが、俺に魔力があるってどういう事だ?そんな物の存在は欠片も感じたことが無かったぞ」

 

「見たままよ。魔術師とか魔法使いは自分の目で相手にどれだけ魔力があるのか。とかがわかるんだけど、シノマエ君からはそれがダダ漏れなのよ。それもすごい量がね。で、どんな物語を書いているの?」

 

「あ、ああ。そうだな、転移小説なんて物を書いてた。丁度こんな感じの世界に飛ばされる物だな。まさか同じ状況を体験することになるとは思わなかったけど。」

 

「そう、じゃあこんな場所で呑むようなシーンもあるってこと?」

 

「そうだな、丁度主人公がヒロインに告白する所だった筈だ。まあ考えていた場所はこことは随分違うが。あ、別にコスモスにそんな感情を抱いてるとかは無いからな。間違っても襲うなんて事は無いから安心しろ」

 

「―――ふーん…」

 

 

ここで宣言しておかないときっと信頼は勝ち取れないだろう。俺は紳士的な人間だと自負している。決して変態紳士にはならない。もしこの里に新聞があるならば、手を出した翌日に『里の英雄魔術師に堂々夜這い!恩を肌で返す男』なんて見出しになりかねない。おそろしや。

 

 

「私にはそういう感情は抱かないんだ?もう一週間ぐらい一緒に住んでいるのに?」

 

「…?まあ恩人ではあるが、越えてはいけない一線と言う物があるからな。そこら辺は弁えている気だ」

 

 

彼女の言っていることは正直よく分からない。小説家は人の心を考えるのが得意だと聞いたことがあるが、残念ながら俺はそういうタイプの人間ではない。特に恋愛シーンなんて物は二度と書きたくなかった。

 

 

「…そう。―――まあ良いわ。取り敢えず、今度魔力の扱いについて教えてあげる。基礎からみっちり教えてあげるわ」

 

 

 

それは有り難い。しかしコスモスは何処か不機嫌に見える。俺が何かしてしまったのだろうか。そんな事を考えている内に、時間は無情にも過ぎ去っていく。雑談を交えながら話す時間は久しぶりだった。コスモスは案の定数十杯の酒を飲み干しへべれけ状態になってしまった。初めてのおんぶが酒酔い人とは少し損した気分ではあったが、酒で火照った体に優しく吹き付ける夜風がそれを打ち消していた。

 

石畳の路の中、コスモスは寝言の様に口を開く。

 

「しのまぇくぅん、■■■■ぃ…」

 

最後の言葉は、何故か突如吹いた強風の風切り音で掻き消された。

 

 

「本当に不思議な人だ」

 

 

今の家路への足取りは、不思議と軽かった。

 

 

 

 

…こんな幸せな日々が、いつまでも続きますように。

 

俺は、そう願った。

 

 

 




シノマエの所持品一覧


・三八式歩兵銃
・軍服(多分これから着ることは無い)
・昭和十三年制式の軍刀
・一〇〇式機関短銃《後期型》(ご都合主義で硫黄島に召喚。いつか活躍する…筈)
・弾薬盒(前後で120発入り)
・十四年式拳銃


シノマエの等級は秘密、ということで…少なくとも兵を統率する立場では絶対ありません。
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