Null Times :Romance   作:一途一

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今のうちに魔術要素の基礎を固めたかった回です。


心掛かり

 

「魔術についてだけど…まずは、魔力の基礎から教えるわね。」

 

 

里巡りの2日後、俺は魔力についての教えを請う事にした。前日は酷い二日酔いに悩まされていたようなのでそっとしておいていた。弱い酒でもあそこまで飲めばそりゃあ二日酔いするだろう。吐かなかったのが不思議なぐらいだ。

 

「魔力っていうのは、体の中を巡っている血液のような物よ。勿論失くし過ぎたら体調に関わるわ。だから程よくトレーニングしましょう。」

 

 

コスモスは何処から取り出したのか、謎の器具を手に持っていた。機械の回りを囲む円のレールのようなものがあり、そこにはビー玉らしきものが置いてある。その中心には手形があり、きっとそこに手を乗せるのだろう、と思った。正直、俺自身で深く考えても説明しづらい形状をしている。

 

 

「これは魔力を引き出す機械よ。貴方もそうだけど、基本的に魔力は自力で引き出せるようになるまで、十年相当の鍛錬が必要になるわ。だけど『そんな事おちおちやってられない!』っていう事でこんな機械が発明されたのよ。これを使えば数十分で魔力を常に行使することが可能になるわ」

 

 

そんな魔法の機械があっても良いのだろうか。十数年掛かるものが数十分で終わるなんて技術革新どころの問題じゃない。技術革命だ。

 

 

「まあ少し痛むけど、多分大丈夫よ」

 

「はあ…」

 

 

そして俺は言われるままに機械の上に手を乗せた。ベルトのような物で固定され、完全に手が動かせなくなった。

 

 

「じゃあ始めるよ〜」

 

 

電源なのだろうか。カチッという音が部屋に鳴り響いた瞬間、機械の駆動音が鳴り始めたと思ったら視界が真っ白になった。

 

 

「お”ぉ”ぅ!?!?!?」

 

 

そうだ。こんな夢みたいな機械に副作用なんて無い訳無いのだ。こんな脳を直接刺されるような、抉り取られるような痛みに数十分も耐えなければならないというのか。

 

 

「あはは…ごめんね。こうなるって分かってたらきっとやってくれないと思ったんだ」

 

「じぜん”に”い”っでくれぇ”!」

 

 

腕の抵抗虚しく、段々と体に力が入らなくなってくる。椅子に座っているとはいえ、足に力を入れるので精一杯だった。

 

そのまま俺は耐え続ける。半ば拷問のような時間を過ごした俺は、機械の駆動音が止んだ瞬間に気絶してしまった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「どう?なんか巡ってる感じがしない?」

 

「そうだな、なんか暖かい…のか?不思議な感じだ」

 

 

あの機械は実力は本物のようで、無事に(無事ではない)魔力を引き出すことに成功した。右腕から半径20cmほどの感覚が無いのは気の所為だろう。きっと。

 

 

「それで、次はこの魔法陣に手を乗せてみよう。これで魔力量を測れるんだよ」

 

 

そう言って取り出したのは複雑な図形が絡み合った物が書かれている紙だった。コレに手を乗せろと言うらしいが、俺の右腕が麻痺しているのを知って言っているのだろうか。コスモスは意外と鬼畜な性格なのかもしれない。

 

しょうがないので左手を乗せた。

 

 

すると魔法陣が光り始め、そのまま紙に数字が刻まれた。

 

刻まれた数字は十万……十万!?

 

 

「十万かぁ…普通の魔術師より少し多いぐらいだね」

 

「あっ、これが普通なのか」

 

「そうだね。基本が八万ぐらいだから…すごい魔術師とかは五十万ぐらい持ってたりするんだよ」

 

「一つの魔法を使うのにはどれぐらいの魔力が必要なんだ?」

 

「そうね…通常の結界ぐらいなら千ぐらいの魔力量で十分だと思うけど」

 

 

どうやら一つの魔術に対する魔力の必要量が随分高いらしい。通常の魔法でも十回使えば魔力が枯渇してしまう。

 

「因みにコスモスはどれぐらい魔力量があるんだ?」

 

「そうね…ざっと三十六万ぐらいかしら」

 

 

 

 

…とんでもない化け物だった。数字というものはここまで明確に能力の差を突きつけてくる物なのだな、と思い知らされてしまった。

 

 

「言っておくけど…訓練すれば魔力量は増えるわよ?限界はあるかも知れないけど、普通に修行すれば二十万は絶対に行けるわ」

 

「魔術師も大変なんだな」

 

「そうね。ただ、極めれば人生は上手く行く。と言っても過言では無いと言えるわ」

 

 

そう言うとコスモスは椅子から立ち上がり、意気揚々と声を放った。

 

 

 

「それはそうとして、何事も実践よ!取り敢えず戦いに行きましょう!」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

最初にコスモスに出会った森林の中、俺たちは魔物を探していた。念の為腰には軍刀を差し、拳銃を提げている。

 

「結界の中は基本的にモンスターは居ないんだけど、結界が探知できないレベルに弱いモンスターはよく彷徨いてるんだよ。今日はそれを何体か倒して貰おうと思ってるんだけど…何か不満でも?」

 

 

俺は気づかない内に不満顔をしてしまっていたらしい。ここで嘘を付いてもしょうがないので、しっかりと本音を言うことにした。

 

 

「いやな、いくらなんでも進行速度が早すぎるななんて思っただけだ。気にすることじゃない」

 

「ありゃ、そんなに早かったかしら。私、師匠とかそういうのが居なくて全部独学だったからちょっと感覚が麻痺してるのかもしれないわね。次からは気をつけるわ」

 

 

今日から気をつけることは無いんだな。と俺は思った。そんな話をしている内に、何時の間にか森林の奥深く…結界の端の付近に辿り着いていた。

 

 

「この周りにはビッグマウスっていう名前まんまのモンスターが居るわ。動きは鈍重だけど、一撃でも当てられたら骨が逝っちゃうから用心してね」

 

 

初めての実戦なのにそんな危険そうなモンスターを目標にして大丈夫なのだろうか。

 

 

「さっき行った通りの詠唱をして。慌てたら失敗しちゃうから落ち着いてね」

 

「了解した」

 

 

 

そのまま警戒しながら森を進んで行く。

 

 

「…!!」

 

 

周りの葉が微かに大きく揺れた。咄嗟に身構えると、案の定葉の奥に赫い目が二つ見えた。

 

 

ずっしりとした足つきで此方にやって来たのは異様にデカく、赤色の体毛を持った鼠のような何かだった。歩くスピードといえ、見掛けたことも無い赤色の体毛といえ、何もかもが常識と当てはまらない。

 

 

道中でようやく治った右腕をモンスターに向け、詠唱をする。今回教えられた物は短いもので、即席魔術と言うものらしい。

 

 

Laisse la flamme rouge gonfler et la percer(赤き炎を滾らせ穿て)

 

 

 

魔法陣が現れたかと思えば、すぐさまレーザー状の炎が放たれた。体を貫通する程の威力は欠片も無いものの、炎はモンスターの体を覆い、酸欠死へと誘っていく。

 

 

 

それにしても、やっぱり何度言ってもフランス語だった。文字は英語で言葉は日本語で詠唱はフランス語って…ごちゃまぜになって分からなくなりそうだ。

 

 

「威力は十分ね。残りの魔力量は多分99900ぐらいだから、あと999回は打てるわね」

 

「効率が良いな」

 

「最小威力だからね〜」

 

 

最小威力であれ程のモンスターを倒せるとは随分と凄い事ではなかろうか。銃を使っても十分倒せるだろうが、その数十倍は効率が良い。モンスターを倒すことに銃を使う機会が出てきたら弾薬も残り少ないしどうしようかと思ったが、その心配はもうしなくても良さそうだ。

 

 

「まあ、こんな風に結界の中のモンスターだったら低出力の魔法でも簡単に倒すことが出来ちゃうけど、外に出るとなると強さが段違いになるからね。結界の外に行くのは暫くここ(内側)で練習してからにしようか」

 

そう言うと、コスモスは俺の腰に帯刀されている軍刀に視線を向け、

 

「…まあ、兵士だって言うのならそこまでしなくても良いんだけどね」

 

「そうだな。あれぐらいなら負けることは無いだろう」

 

「だからって慢心するのはいけないからね。魔術を使うときは適度な緊張感を持つことが大事なんだから」

 

「心得た」

 

 

慢心することの危険さを俺はよく知っている。昔は慢心していたかも知れないが、戦場で自身が慢心して幾度となく命の危機にさらされた事で比較的冷静に物事を見ることが出来るようになった。戦場で得た、唯一の小説家としての進歩だろう。

 

 

「よし!じゃあ後20匹ぐらい狩ってみよう!肉が意外とよく売れるから、後処理は肉屋に持ってけばやってくれるよ」

 

 

 

そうして再び獲物探しが始まった。最終的には目標の二倍ぐらい狩ってしまったが特に生態系への影響は無いらしいので安心した。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

翌日、何時もの仕事をこなし、久しぶりに銃の点検をしていると、何時もより早くコスモスが帰ってきた。

 

 

「ただいま〜…って、何してるの?」

 

「銃の点検だよ。前も言ったが魔力で動くわけでも無いし、放っておいたらその内錆びちゃうからな。偶に手入れをしておかなきゃいけない」

 

「へぇ〜、やっぱり複雑なものを使うのは大変だねぇ」

 

「そうだな。単純な造りの包丁とかだったら手入れが簡単だが、車の手入れとかは特に大変……まあこっちには無いから分からないか」

 

「そうね…あっ。忘れる所だったわ」

 

 

そう言って後ろに背負っていたバックパックから取り出したのはペンと原稿用紙(日本で使っていたものとは違い縦線だけだが)、それと腕時計型の謎の器具だった。表面は七桁まで記録出来るような作りとなっていて、《0000000》

となっている。周りの銀色のフレームや、黒革らしきバンドが相まって非常に格好いい。

 

 

「ペンと紙は小説家であるシノマエ君への贈り物だよ。それで、この魔導具は残りの魔力量を測定するための物だよ。100を切ったら危ない印として文字が赤くなるんだ」

 

 

するとコスモスは人差し指を合わせ、もじもじとしたような感じを体現したような姿になって、小さい声で俺に聞いてきた。

 

「それで…デザインも君になるべく似合うように選んで来たんだけど……どうかな?」

 

 

その表情を見るに、相当熟考して選んできたのだろう。お陰で俺の趣味に丁度あったデザインになっていた訳だ。

 

 

「最高だよ。凄い格好いい」

 

「本当っ!?」

 

 

コスモスの顔がぱあっ、と明るくなった気がした。

 

 

そしてそこまで喜んでいる姿を見て、不覚にも俺は可愛いと思ってしまった。俺の年齢は二十五歳。もう人生の三分の一の地点を過ぎているというのに、こんなにも胸が矢に突き刺されるような感覚に遭うのは初めてだった。

 

 

 

…俺は彼女に、何を感じたのだろうか。

 

 

今日はその事だけが気に掛かった。




なんか主人公のキャラの上下が激しい気がするけど…けど…けど…(思考放棄)
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