糸師サンドされたい。
【注意事項】必ず見てください
◇アイエル17歳設定なので本編のネタバレあり
◇ブルーロックアニメ派の方はネタバレあり
◇謎時間軸ですが気にしないでください
◇書きたいように書いているので地雷に配慮していません
◇絵心さんと糸師冴のキャラ崩壊気味
◇読了後のクレームはご遠慮ください
上記すべておっけー!という方のみどうぞ!
【前編】もしもブルーロックとクロスオーバーしていたら
「ブルーロック?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は今世で二度目となる記憶の奔流に襲われた。
ブルーロック──青い監獄プロジェクト。
日本サッカーにおいて、W杯で優勝を目指すことを念頭に、全国から300人のFWのポジションに就く高校生を集めて、世界一のストライカーを育成するという前代未聞のイカれたプロジェクト──という趣旨の漫画だ。
俺が前世で最も熱くハマっていた漫画でもある。
高校生を集めて世界一のストライカーを育成する、なんて言うと聞こえはいいが、その実態は現代版蠱毒だ。途中で負けた者はプロサッカー選手にはなれるものの、日本代表に入る権利を永久に失う。また、その後のアフターフォローもおそらくないものと思われる。
そんな地獄の中で、主人公の〝
俺はこの潔世一というキャラクターが好きだった。
普段は人畜無害の草食男子のくせに、一度ピッチに立てばそれはまるで嘘のように豹変し、普段の穏やかな気質からは想像もつかない暴言──レスバともいう──を吐いて、相手が格上格下問わず挑み矜持や信念をズタボロに引き裂くドSエゴイストと化す。
たとえ自分の才能の延長線上にいるとされる、同世代最強の人物に実力差を見せ付けられたり妨害されたとしても、まったく折れることなく逆にお前だけは100%殺すだの、俺の物語の道化になった気分はどうだ等、凄まじい煽りを返して、イカれてる…と言わしめるほど。
どんな逆境でも最後まで諦めずにチャンスを掴み獲ろうという姿勢は、よくあるスポーツ漫画の主人公そのものだが、彼の場合は根っこに自分でゴールを決めたいというエゴがあるため、味方をも利用して相手を出し抜いたり、何気ない会話から自己分析の末に自分の既存スタイルを壊して、その時の最適な動き方をパズルのように再構築して、自分の糧にしてしまうといった、普通のスポーツ漫画の主人公のとは一線を期す異質っぷりが最高にエゴくて好きだった。
どうして俺は今の今まで気がつかなかったのだろう。
そういえば昔、俺たちが配信を始めたばかりの頃に、糸師冴が天才サッカー少年としてメディアに取り上げられていたではないか。なんでその時に気付かなかった、俺。
この世界は、ブルーロックの世界だったのか…!
なんてことだ…知ってたらもっと早くにアクションを起こしていたというのに…!推しに、会いたかった…!会えるチャンスがあったのに──!
俺は思わず頭を抱えた。
いや、後悔しても仕方がない。とにかく今はこの千載一遇のチャンスをものにするしかない。
「エル?大丈夫?」
「どうした、トゥエル」
俺が黙り込んで頭を抱え出したのを見て、アイと斉藤社長が、方や心配しつつも不思議そうに、方や怪訝に俺を見ている。
「…いや、何でもない。それで、ブルーロックがなんだって?」
「そうか…ならいい。実はさっき、日本フットボール連合から『Mirastrea』に依頼が入ってな。一週間後に行われる、〝
「は?」
「わぁ!ブルーロックって今日本中で話題になってるサッカーのやつだよね?」
「そうだ。それのスペシャルマッチの出演依頼だ。依頼してきたのは日本フットボール連合の会長の〝
うわぁまじかよ…よりによって銭ゲバ狸からかよ…。
しかも一週間後って…。
「ずいぶん急だな」
「ほんとだよ~!仮に出るにしても準備とか一週間で何とかなるものなの?」
「それについては心配ないそうだ。どうやらお前たちが出演する前提で既にステージの設置や機材の搬入も行われているらしい」
「えぇ…」
絶対金絡みじゃん!このスペシャルビッグマッチをスペシャルビッグマネーに変える気満々じゃんあの銭ゲバ狸会長。
「俺も不乱蔦宏俊とやらを調べたが、こいつはどうも金絡みな気がして…というか十中八九そうなんだろうが、お前たちの知名度を利用してサッカーに興味がない層を取り込もうとしているんだろう」
「だよねー。しかもその会長って確かブルーロックを嫌ってたんだよね?なーんか怪しいな~」
「ブルーロック自体今も賛否両論だからな。最初の記者会見でも若い女の社員が熱弁して一方的に会見を打ち切ったからな。何人かは心打たれたようだが、それでも大多数はプロジェクトの印象も良くない」
もう既に社長とアイから散々な言われようだなあの会長…。まぁ実際作中で『銭ゲバ狸』なんて言われるくらいだからな。
「そもそも今回の試合はブルーロックの存続を賭けたものらしい。もしブルーロック側が負けたらプロジェクト自体が終わるんだと。しかも、連合は本気でブルーロックを潰したいのか、日本代表側に〝
すぐさま俺は携帯を取り出し糸師冴を検索した。
「糸師冴…。『日本の至宝』と呼ばれ13でスペイン最強のクラブ〝レ・アール〟からオファーがかかり渡西。現在はMFとしてレ・アール下部組織で活動中。卓越したパス技術や状況を的確に把握する戦術眼が特徴で、〝新世代
糸師冴はこの日本代表戦後は登場していないが、俺が見ていたブルーロックの最新話でも未だ最強格の一人だ。
彼を始めとする新世代世界11傑の連中は別格に描かれていて、その最たる描写が汗をまったくかかないことだ。汗をかかないということは力を抑えているということだ。それなのに主人公を始めとする監獄勢を圧倒する実力がある。本当に強いのだ。
ちなみに俺もアイとシてる時以外は汗をかかない。ああもちろんライブはちゃんと全力だからな?俺は無尽蔵の体力を誇るが、アイとシてる時だけは体が自分の制御下を外れて翻弄されてしまうのだ。昔からアイはテクニックすごかったし、俺の体はアイ限定でクソザコに成り下がるし…。
「へぇー、そんなすごい人が来るんじゃピンチじゃない?」
「まぁ俺もサッカーのことはわからねぇが、普通に行ったらブルーロックに勝ち目はねぇよな」
俺はこの結末を知っている。だが、それは今ここで言う必要はない。怪しまれるしな。
「なら私たちで勝たせればいい」
「えっ?エル…?なに?どういうこと?」
「ほう?どうやってだ」
「ブルーロックを題材にした曲を作る。そして奴らのエゴを焚きつける。それだけ」
「ほぉ…」
「おぉ~」
曲はあの曲しかない。いや、もう一曲作って二曲歌うか。一つはもう決まっている。ブルーロックといったらあの曲だろう。もう一曲は…前世で好きだった歌手のあの曲にするか。アニメが違うけどブルーロックの世界観に合うはずだ。
「めずらしいなトゥエル。お前がこんなやる気になるなんて」
「確かに~。私は断ってもいいんじゃない?って思ってたし」
「…まぁ、奴らへの意趣返しだ。一週間前に依頼を出した挙げ句、こちらが参加することを見越した会場作り。私たちを利用して金を稼ごうという魂胆も気に入らないし、私たちのことをなめ腐っている姿勢も気にくわない。だからこそブルーロックを勝たせて奴らの計画をぶち壊してやろうと思ってな」
俺は利用されるのも、侮られるのも大嫌いなんだ。
それに──
「私たちは〝導きの星乙女〟。ブルーロックを勝利へ導く女神になってやろうじゃないか」
◆◇◆◇
次の日、依頼承諾の旨を伝えた俺たちは、打ち合わせのためにマネージャーのミヤコさんと共に日本フットボール連合に訪れていた。
スタッフに案内されるがまま、日本フットボール連合の極秘会議室とやらを訪れると、そこには会長の不乱蔦と幸の薄そうな男がいた。
「おー!よく来てくれた、『Mirastrea』のお二方!君たちの活躍は我々も耳にしているよ!」
「初めまして不乱蔦会長。私は『Mirastrea』のマネージャーを務めております、斉藤ミヤコと申します。そしてこちらが──」
「どうも。星野トゥエルです」
「星野アイです」
もうすっかり定着した新しい挨拶をする。今ではすっかり芸能界でも顔が売れて、仕事相手やスタッフ、プロデューサーとも顔馴染みとなったために初対面の人にこの挨拶をするのは久しぶりだ。最初のうちは反響がすごかったなぁ。それはもうお祭り騒ぎで。
一年前にアイと籍を入れて以降、俺たちは挨拶文を変えたのだ。それに合わせて芸名も〝本名〟である『星野トゥエル』と『星野アイ』に変えている。
「どーもどーも!日本フットボール連合の不乱蔦だ。こちらが──」
「初めましてお三方。U-20日本代表の監督の〝
互いに自己紹介を終えると、会長は俺たちを上から下までまじまじと舐め回すような視線を向けてきた。まぁこういう視線は初対面の奴には必ずといいほど向けられるから慣れている。
「テレビの画面越しでも大層美しいですが、本物はまさに常軌を逸した美しさですな」
「えぇ!特にトゥエルさんのお顔は本当にお綺麗で、虹色の瞳はどんな宝石よりも美しい!」
「ふっ…それはどうも」
「当然でしょ。エルは世界一の美少女なんだから。みんなして同じことばっかり」
そういう俺を褒めちぎるような言葉はあまりにも言われるから、俺の中で陳腐なものと化してしまっている。俺がクールに返すと、アイからも追撃が入る。
「こほん。会長、今回の打ち合わせの件ですが」
「おお!そうだった!トゥエルさんのあまりの美しさについ見惚れてしまっていたよ!」
ミヤコさんが場の空気を変えてくれる。まぁこういう相手は扱いやすいが、こいつは作中でも銭ゲバ狸と呼ばれる狡猾な爺だ。狸なんて言われてるくらいだから、おそらく体型だけを指しているわけではないだろう。仮にも会長まで上り詰めた男だ。
「Mirastreaのお二方には是非とも6日後の『U-20日本代表VS
こいつ、冷静に考えるととんでもないことを言ってやがる。6日後とか普通ならリハーサルも行えないだろうし、そもそも会場の設置だって間に合うか危うい。しかも、新曲を出せだと?俺の作曲スピードを見越した発言だろうが、6日で新曲とか普通のアーティストなら無理だからな?俺はアカシックレコードに接続できるから可能なだけで。
そういうところが気に入らない。ムカついて心を読めば案の定こちらを蔑んだ発言やどうすれば金に直結するかばかりだし。監督の方はミヤコさんのことばかり考えてるし。確かに俺から見ても美人だが人妻に手出しするな。
「うちの社長から概ね話しは聞いている。何でも既に今回の余興のために会場を作ってあるとか。移動式らしいな?」
「おお、それなら話は早い!ざっくり言うと、前半の後半の間のハーフタイムに、移動式の会場を運搬して、興奮覚めやまぬスタジアムを、お二人の歌唱力でさらに盛り上げて欲しいんだ!」
「…なるほど」
「
確かに利に叶っている。でもこのままハイわかりました、と受けるのも癪だ。こいつらだって無理難題を突き付けて来てるんだから、見返りとして俺たちだってある程度やりたいことをやらせてもらうからな?
「そうだな。お前の言う通りこれは双方に確実なメリットをもたらすことだろう」
「だろう?だからこれは他でもない、君たちにしか頼めないことなんだ」
「ただし条件がある」
「ん?なにかな?」
「まず私にブルーロック内のこれまでの選考の映像を送れ。お前の望み通り新曲を作ってやる。そのためのイメージとして、ブルーロックの選手たちの映像が欲しい」
これに関してはファンとして生の選手たちの映像を観てみたいからだ。特にチームZとチームV。主人公や白髪の天才がいるチームだ。
「……まぁ、いいよ」
「次に私たちをブルーロックに入館させろ。向こうの担当者とも話がしたい」
「それは…」
会長は都合が悪そうに言い淀んだ。俺たちの気持ちをブルーロック側に傾けたくないのだろう。だが残念だったな、俺は既に前世でブルーロックを履修済みだ。その時点でお前の負けだよ会長。
ちなみにこれもぶっちゃけ、絵心やアンリちゃんに会いたいってだけなんだが。
「なんだ?何か不都合でもあるのか?なら残念だがこの話はなかったことになるが」
「くっ……わかった。だが向こうも忙しいだろうから、今日中でいいかな?」
「問題ない」
やったー!ちょっと脅しただけでこうもあっさり許可がもらえるとは!会長的には俺たちの気持ちをブルーロック側に傾けたくないから渋ってたんだろうけど、そんなことはどうでもいい。
結局金のなる方を選んだようだし、どこまで行っても最後には金を取るような奴だ。〝サッカーはビジネス♡〟とか語尾にハートまでつけて言い切るくらいだし、目的と動機がはっきりしてる分、他の連中よりも動かしやすいな。
「私からは以上だ。アイは何かある?」
「んー…じゃあ、関係者用の席に私たちの分を用意してくれるかな?」
え?まさか過ぎる。つまりアイが試合に興味を持ったってこと?あのアイが?
アイの予想外の返答に、何を言われるかと身構えていた会長もほっとした様子だ。
「それなら全然いいよ!三人分でいいかい?」
どうせなら社長も呼ぶか。急だし忙しいから来てくれるか分からないけど。
「いや、事務所からもう一人呼びたいから四人分で頼む」
「おっけー!すぐに手配しておくよ」
「ありがと!…潰れた会長?」
「ッ…くふっ…くく…」
「ッ…ふ…んん!」
「ぷっ…ふふっ…」
出た、アイの渾身の名前間違え。それにしても潰れた会長って…最高だな。
思わず吹き出しそうになってしまった。ミヤコさんも一瞬表情が崩れたけど、すぐに立て直した。法一監督は普通に吹き出した。
「わ、私は不乱蔦だ…!」
「失礼、うちのアイは名前を覚えるのが苦手なだけで悪意はないのです。ご容赦を」
「アイは人の名前を間違えるのがデフォルトだ。あまり気にするな」
「つ、潰れた会長って…くくっ…うふふ…」
ミヤコさんと俺のフォローが入る。つーか監督、いつまで笑ってるんだ。見ろ、隣で会長すごい顔してるぞ。
「大丈夫だ…。で、法一監督、君はいつまで笑ってるのかな?」
「ハッ!ひ、ひぃ!申し訳ありません不乱蔦会長!」
ユースとはいえ日本代表の監督ともあろう人物がここまで怯えて頭を下げる。これが連合以外の言葉は聞く耳持たない、耳なし法一か。こいつにとって会長は絶対の存在なのだろう。恐怖政治みたいなものか。
その時、ノックもなしにいきなり会議室の扉が開かれた。
俺以外の全員の目がそちらへ向く。
「あ!ちょっと冴ちゃん、勝手に!」
冴…?まさか…!
その名前を聞いて俺も扉の方へ顔を向けた。こいつらは…!
「おー!これはこれは糸師冴くん!よくぞミーティングに来てくれた!」
スラッとした体躯に、小豆色の髪を前髪の部分だけアップにした、エメラルドグリーンの瞳の男。俺には及ばないものの、アイにも匹敵するおそろしく整った顔立ち。間違いない、こいつが糸師冴──!日本サッカー界における至宝と呼ばれる男だ。
「よろしく天才くん!」
突然の超新星の登場に一瞬面食らうも、すぐに気を取り直して握手を求める法一監督──そんな彼を無視して、その男はゾッとするほど冷たく告げる。一瞬こっちを見たな。
「誰だこのデブとオカッパは」
会長と監督が硬直した。俺が言えたことじゃないが、すごい不遜な態度だ。
慌てて彼のマネージャーの男──〝ジローラン・ダバディ〟がフォローに入る。
「ちょ…会長さんとU-20代表の監督さんだよぉ!?」
「…なら話が早いな。おいオッサンら。そのU-20日本代表とやらの映像をチェックしたが…一言で言うと『クソ』だ。特にFWはヘボを煮込んだゲロしかない。俺は
仮にも日本代表に選ばれた選手をクソ呼ばわり。それだけこいつは自分に自信があるのだろう。そして心底日本代表に興味がないのだと伝わってきた。まぁ本誌で観てたけど、実際ゴール入れたのはこいつとあの悪魔だけだからな。
あ、監督がぷるぷるしてる。心を読むまでもなく怒ってるのがわかる。まぁいくら相手が日本の至宝とはいえ初対面で自分のチームを侮辱されたらな。
「フォ…FWが気に入らないんだね、糸師冴くん?だったら誰か新しく招集してもいいよ!オーバーエイジ枠でも!」
えぇ…それはねーよ会長さんよぉ…。20歳以下のユースにオーバーエイジ枠入れるなよ。興醒めするだろうが。観客も微妙な空気になるぞ?あくまで歳の近いもの同士の熱戦が求められてるのであって、高校生相手に経験豊富なベテランなんて入れたら何も知らない観客からしたらただの雑魚狩りかと思うだろう。何のための〝アンダー〟だよ。
やっぱりこの会長はパフォーマンスよりも金を優先している。サッカー事情を知らない俺でも、これじゃあ日本サッカーは廃れる一方だなと思わざるを得ない。
俺が内心で呆れていると、会長の言葉を聞いた糸師冴は少し考える素振りをして、確認するように問いかけた。
「…誰でもいいんだな?」
「うん!うん!日本人ならね!」
うわっ、あの会長の目嫌だなぁ…。どれだけ必死なんだよ。
「…なら青い監獄にひとり、組んでみたいFWがいる」
おー!あの悪魔くんのことだな!ここで
「なんだと…!?」
「なんだ?誰でもいいと言ったのはそっちだろう」
「ぐぬぬ…!」
「か、会長…!この場にはお客さんもいるしここは素直に言うことを聞いておきましょうよ!」
苦虫を噛み潰したように顔を歪める会長に、慌てた様子の監督がこっそり耳打ちする。当然トゥエルの肉体を持つ俺には聴こえている。
「くっ…仕方ないか…。わかった。君の希望通り
「…〝
「おーけー!おーけー!手配しておくよ!」
ここで
ていうかさっきから俺たち空気なんだけど。まぁ本物の糸師冴に会えただけでも満足したが。
「と、ところで糸師冴くん!実は今回の特別試合のハーフタイム・ショーに、こちらの『Mirastrea』の二人が出演してくれることになったんだ!彼女たちは日本代表側で歌ってもらうから、是非ともよろしく頼むよ」
「…は?」
今のは俺だ。だって、勝手に日本代表側でって決められてるから。
「ねー潰れた会長。私たちいつ日本代表側で歌うなんて言ったっけ?」
「…ぷっ」
俺が口を開く前に、アイが俺の言いたいことを代弁してくれた。そして追撃とばかりに
「私たちは好きなように歌わせてもらう。それが出来ないならこの話は却下だ。異論は認めない」
「…い、いやー!ごめんよ二人とも、僕ったらつい日本代表に肩入れしちゃってて!なんせ
まだ言うか、こいつ。そもそも
「失礼ながら、不乱蔦会長。あなたがどれだけ日本代表に肩入れするのも勝手ですが、『
ミヤコさんが代わりに怒ってくれた。美人が静かに怒る姿って怖いよな。会長も監督もすっかりあてられて縮こまっている。それにしても、あのお金大好きだったミヤコさんが…。人は変わるものだな。
「い、いや私たちは決して彼女たちを道具だなどとは思っていなくて…!すまなかった…」
「謝罪は私ではなく彼女たちに」
「あ、あぁ…!二人とも私の言葉が足りないばかりに不快な思いをさせてしまったようで…悪かった…」
「別にいーよ」
「私ももう気にしていない。…それより私たちはこれからブルーロックに行く。早く手配しておけ」
俺は冷たく切り捨てるように言うと、踵を返して扉へ向かおうとした。その時だった。
「少しいいか」
背中を向け立ち去ろうとした俺たちに声がかかった。
「…糸師冴か。何の用だ」
「…………」
え、予想外なんだけど。あの糸師冴が俺たちに声をかけてきただと?
無言で俺たちの…というか俺の前に立ち見下ろしてくる。思ったより身長高いな。180だっけ?作中じゃこれでも小さい方だというから驚きだ。それでも152センチの俺と151センチのアイからしたら巨人だ。あ、俺の身長は原作トゥエルと同じで止まった。アイも止まったし結果的に横に並ぶと同じ高さになるから良かった。
「……サインをくれ」
「……はい?」
「えっ」
「あら…」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。俺だけでなくアイとミヤコさんも驚いている。ついでに会長たちも。唯一糸師冴のマネージャーだけが小さな溜め息をついた。
「ごめんなさいね、二人とも。冴ちゃんは公言してないけどあなたたちのファンなの。サインしてもらえるかな…?」
「ちなみに箱推しのアイエル派だ」
「おー!いいじゃん!いいじゃん!」
いいものなのか、それ。
「サインか…うん。いいぞ」
「紙とペンはある?」
「…………」
「はいはい」
糸師冴は無言でマネージャーに目配せすると、彼はショルダーバッグから色紙とペンを取り出して俺に渡してきた。
「一枚の色紙に二人分書いてくれ。それと、『冴ちゃんへ』って書いてくれ」
「へぇ~、意外と可愛いとこあるじゃん!」
「可愛い系とかっこいい系があるが、どっちを希望だ」
「…可愛いで」
意外と注文多いな。確かにファンの中には彼と同様の希望を提示してくる者はいるが…なんというか、あの糸師冴が同じ要望を出してるって言うのがギャップがすごい。
とはいえ私たちのファンなら皆同じだ。まずは要望通り色紙の上の方に『冴ちゃんへ』と書いて、そのすぐ下に『Mirastrea』の名を書く。これだけで既に上半分が埋まっているが、何の問題もない。残りのスペースのうち右側に『星野トゥエル』の名を書いて、アイに渡す。受け取ったアイも同様に、空いた左側のスペースを『星野アイ』の名で埋めて、うんうんと完成したサインを満足気に頷いてから糸師冴に渡した。
もうすっかり夫婦サインも慣れたなぁ。確か初めて書いた時は俺がヘラって喧嘩に発展したんだっけ。今となっては懐かしい思い出だ。あれ以来俺たちは一度も喧嘩をしていない。
「……ありがとうな」
糸師冴はそれを見て満足気に頷くと、マネージャーに色紙を渡して丁寧に梱包させた。
「握手もいいか?」
「いいぞ」
最初この部屋に来た時に求められた法一監督との握手は無視したくせに、俺らには求めるのか…。なんてことを考えながら手を差し伸べると、あろうことか糸師冴は、左右から俺の手を握ってくれ、なんて言いやがった。
「ワガママ~!」
アイの発言に全面的に同意する。個別の握手ではなく、俺とアイを同時に味わおうとするとは…。これがエゴイスト…!
「ん」
直立して両手を僅かに広げる彼を挟むように、右側に俺が、左側にアイが立って、三人で繋がるように手を繋いだ。
「こうか?」
「あぁ…。この状態で写真撮ってもいいか?」
「うーん」
ミヤコさんに確認を取る。頷いた。ってことはいいってことか。
「いいってさ」
「そうか…。ジローラン」
糸師冴は一度手を話して携帯を取り出すと、カメラを起動してマネージャーに渡した。淡々としているが、どこか嬉しそうにも見える。
「はーい。じゃあ三人ともこっち向いて~。……3、2、1──はい、撮れたよ冴ちゃん」
「良くやった、ジローラン」
出来上がった写真を見て満足そうに頷いて…僅かに笑った。
何となく気になって、俺たちも画面を覗き込んだ。
「全員無表情じゃん!」
「アイまで無表情じゃん!」
俺とこの男が無表情なのはまぁお察しだが、この中では唯一の清涼剤であるアイまで無表情なのはちょっと笑う。アイは写真を撮られるときはいつも可愛い子ぶるから、こういう場面でのアイの無表情ってすごく新鮮というか。
「いやー、二人とも無表情だから何となく私も合わせてみた!」
「そんなところも可愛いなぁ」
えへへぇと甘ったるく笑うアイとぎゅっと抱き合う。昔と違ってお互い胸が大きくなったから、こうやって強く抱き寄せ合うとおっぱい同士が押し潰されるんだよね。
「でしょ♡」
「うん♡」
俺たちが抱き合うと、ずっと空気に徹していた不乱蔦会長と法一監督のねちっこい視線を感じる。
「おお…」
「これは素晴らしい百合だ…」
「…………」
ミヤコさんがそんな男二人に軽蔑の視線を向けていた。
「そろそろ行くわよ、二人とも」
「はーい。じゃあね、糸師冴さん!」
「またな」
「目的地は同じだろ?一緒に行くか?」
「……お誘いはありがたいが、これから三人でお昼なのでな」
それに俺たちがまとまって動いてたらあらぬ誤解を生むだろうが。こいつは普段のメディアへの対応を見るに、そういうのまったく気にしなさそうだけど、俺たちはアイドルだからな?
「そうか…仕方ないな」
「僕たちももう行くよ、冴ちゃん」
「あぁ…。次は
残念そうに肩を竦めた糸師冴を後に、俺たちは今度こそ連合を後にした。
◆◇◆◇
場所は変わって、俺たちは今、ブルーロック行きのバスに乗っていた。世界一のストライカーを育成するという名目で建てられたこの施設は、世間から秘匿されたように山奥にひっそりと聳え立っている。
五つの五角形からなる巨大な建物。その一つの棟の入り口に着いてバスを降りると、女性職員がたった一人で待っていた。
アンリちゃんだ──!
彼女こそ日本フットボール連合の新入社員にしてこの壮大なプロジェクトの実質的リーダーの〝
「うわぁ可愛い…!あ、コホン。初めまして、私は日本フットボール連合の帝襟アンリです。『Mirastrea』のお二人と、マネージャーの斉藤ミヤコ様ですね?お会いできて光栄です!」
「初めまして、帝襟さん。斉藤ミヤコよ。こちらこそお会いできて光栄です」
「どうも、星野トゥエルです」
「星野アイです」
──わぁー!その挨拶めっちゃイイ!役員の相手と絵心さんの世話で荒んだ心が浄化されていく…!マネージャーさんもすっごく綺麗な人…!
元気な心の声が聞こえてくる。普通に美人だし快活で裏表がなさそうだ。一緒にいたら楽しそう。まぁまだ22歳だしな。
「それで…えっと、ずいぶんお若く見えるけど…あなたの他にスタッフはいないのかしら?」
「はい…。元々この
「そうだったの…。それはごめんなさい、嫌なことを聞いちゃったわね」
「い、いえ!全然気にしてませんから!それに、Mirastreaのお二人とお会いできてそれも吹き飛んじゃいましたから!」
さっき心の声で聴いたから、それは本当のことなのだろう。そういえば昔配信をしてたときも社畜たちが、俺たちを見て疲れが吹き飛ぶとか言ってたなぁ。まぁ仕事で疲れた後に国宝級美少女の百合を見たら荒れた心も清らかになるよな。俺もその気持ちは解る。
「それでは早速ご案内しますね!こちらの都合上、全てをお見せすることは出来ませんが、選手の居ないエリアはご案内できますので!」
どこかアイにも似た人懐こい笑みを浮かべると、アンリちゃんは俺たちを先導してくれた。逐一タブレットを確認して、選手と鉢合わせしないようにしながら各施設を案内してくれた。
「
「徹底してるのね」
「えぇ。彼らには完全にサッカーに集中してほしいので。ですが試合中にゴールを決めることで『ゴールポイント』を獲得できて、そのポイントに応じて持ち物を返却しています」
「なるほど。サッカー以外の娯楽が欲しければゴールを決めろと。実に合理的だな」
確か1ポイントでステーキかマッサージ、3ポイントで携帯返却、5ポイントで高級寝具、10ポイントで一日外出券だったはずだ。意外と携帯が3ポイントと低いんだよな。少し頑張れば一回で達成できそう。
「思春期の高校生にとって携帯がないのは死活問題だよねぇ」
「私はアイがいてくれるから最悪なくてもいいけど…いや、やっぱり携帯ないのはきつい」
「私もエルの写真たくさんSNSに載せて見せびらかしたいから、ないのは困るかも」
言われてみれば俺もアイの写真をたくさん撮って、自分のSNSに載せるのが日課になってるし、ないと困るな。
現代人にとって最早携帯は切っても切り離せないものと化している。携帯依存症なんて言葉が生まれたくらいだし。
「お二人は本当に仲が良いのですね」
「うん。最愛のパートナーだからね」
「うむ」
「羨ましいです…。マネージャーさんもご結婚されているようですし…、私にもそういう人がいてくれたら…」
俺たちの会話を聞いていたアンリちゃんが会話に入ってきたと思ったら、まさかの発言である。俺たちやミヤコさんの薬指を見ながらそんなこと言われても、正直どう返せばいいかわからない。俺もアイも、こういう時に気の利いた台詞を言うことはできない。
それに言われてみればアンリちゃんの過去って知らないんだよな。ブルーロック自体が恋愛色の薄い作品だし、アンリちゃんはサポートキャラみたいなものだったし。でも俺は良いと思うよ、絵心アン。
「あら。あなただったらすぐにイイヒトが見つかるわよ。顔もスタイルも良いし、話を聞く限り、上の人間に向かって物怖じしないで自分の意見を言える度胸もあるし」
「えっ…?」
アンリちゃんの、ある意味キラーパスに対応してくれたのは、我らが頼れる美人マネージャーのミヤコさんだった。
「女は度胸って言うじゃない。あなたの会見、観てたわよ。あれだけのバッシングの中で、自分の意見を世間に向けて堂々と言えるのはとても立派なことです。たくさん苦労したでしょう?それでもあなたは最後まで諦めなかった。自分の信念を曲げなかった。それはとても素晴らしいことだと思います。あなたがこれまでに努力してきたことは、必ず実を結んであなたに返ってくることでしょう」
「っ…斉藤さん…」
ミヤコさんすごい。アンリちゃんが泣きそうになってる。それにしてもミヤコさんが言うと深いなぁ。自分も夜の蝶として酸いも甘いも経験して、社長に拾われた後もマネージャーとして、俺たちが出てくる以前にいたであろう
「ありがとう、ございます。ごめんなさい、突然変なこと言い出してしまって」
「いいのよ。私の想像だけど、あなたの立場的に普段はこんなこと言えないでしょう?選手やスタッフの前で弱音も吐けないと思うし、私たちの前でくらい正直になりなさないな」
未だに保護者や世間の批判もすごいって聞くし、アンリちゃんの他にスタッフの描写がほぼないことを考えると、本当にアンリちゃん──と絵心──に全部押し付けてるんだろうな。世の中結果がすべて。うるさい外野は今度の試合で黙らせるしかないんだろう。
俺たちにできることは、選手たちの
「は、はい!ありがとうございます!……あの、もしよろしければ〝ミヤコさん〟って呼んでもいいですか…?」
「ふふ、かまわないわ。その代わり私も〝アンリ〟って呼ばせてもらうわね」
「是非ッ!」
なんだって!?そこでデレるのか!?ミヤアンの百合とかまさかもまさかなんだが!?…でもぶっちゃけミヤコさんの包容力えっぐいからなぁ。アンリちゃんが落ちるのも
「ねぇエル…」
「ん?」
「…私、今なら皆の気持ちが
「うん…私も…」
美人同士の百合はいいなあ。これが尊いってやつなのか。俺たちのファンもこういう気持ちだったんだな。
若干頬を赤らめて照れながらも嬉しそうに笑うアンリちゃんと、仕方ないわね、と言うように優しい笑みを浮かべるミヤコさんを見て、取り残された俺とアイはそんなことを思っていた。
◆◇◆◇
ミヤコさんのファインプレーによってすっかり立ち直ったアンリちゃんは、中断してしまったブルーロックの施設案内を再開してくれた。さすがに選手たちが寝泊まりしている生活スペースは紹介されなかったものの、それ以外の一階部分や二階より上のグラウンドや中央の食堂、モニタールームなんかは選手が居ないことを確認してから案内してもらった。
「エルの目がキラキラしてる」
「いや、ちょっと感動しちゃって…」
俺にとってはまさに聖地巡礼だ。あのブルーロックの中を自分が歩いてることが信じられない。それまでアニメや漫画でしか見ることのなかったブルーロック内を、こうして自分の目で見て回ることができて、俺は感動していた。
「トゥエルさんは
「ああ…私好みのイカれたプロジェクトだ。今回の試合の件、公的な立場上は中立だが、私はブルーロックを応援している」
「ッ…ありがとうございます!トゥエルさんにそう言っていただけるなんて…!この場に選手たちがいたらさぞ喜んだことでしょう!」
「そうなのか?彼らからしたら私たちはぽっと出の部外者じゃないのか?」
「いえいえ、そんな!とんでもないです!私も含め選手たちの中で『
まじか、それは嬉しいな。そう言えば糸師冴も俺たちのファンだったしな。
「さっきの糸師冴さんも私たちのファンだったもんね」
アイがそう言うと、アンリちゃんは驚きに目を見開いた。信じられないことを聞いてしまったと言わんばかりに。
「糸師冴…ですか?日本の至宝と呼ばれている、あの!?」
「うん、その糸師冴だよ。ここに来る前に…なんだっけ?日本フットボール協会?のビルで会ったんだ~!そこでファンを公言されて、サインとスリーショット撮ったんだよ。見る?」
「え、いいんですか!?」
「うん。…ほら」
実はあの時一緒になって写真を撮っていたミヤコさんを通じて、あのスリーショットは俺とアイのフォルダにも保存されている。そこで、アイが素早く携帯を操作して写真を選択すると、興味津々なアンリちゃんに画面を見せていた。
「うわ!すごい、本当に糸師冴選手だ…!うわぁ冴選手両手に花じゃないですか…って、なんで三人とも無表情なんですか?」
やっぱりそこだよな。あの写真、パッと見めちゃくちゃシュールだもん。証明写真かよってくらい全員真顔で真っ正面向いてるし。なまじ全員とんでもなく顔が良いためそれがシュールさを助長してしまっている。
「私は無表情がデフォだし、糸師冴もたぶんそういうキャラなのだろう。アイは私たちが無表情だから自分も無表情にしたそうだ」
「うん、その方が面白いかなって」
「確かにシュールとコミカルが絶妙ですね…」
これはこれでイイと思うんだ。アンリちゃんの受けも良さそうだし。やっぱり顔面が強いと絵になるんだよ。
そのまま歩いていると、一つの部屋の前についた。プレートには特別会議室とだけかかれている。
「さ、お待たせしました!うちの総指揮の元へご案内しますね!」
いよいよか…。気を引き締める。あの絵心甚八がこの先にいる。果たして何を言われるんだか。
「失礼します。絵心さん、『Mirastrea』のお二人とマネージャーさんをお連れしました」
「入ってもらって」
やや高めの声がした。その声に従いアンリちゃんが会議室の扉を開けた。
どうぞ、と案内される。俺、アイ、ミヤコさんの順番で入る。
良くある会議室の楕円形のテーブルの上座、そこに奴はいた。モニターを見ていたため入った時は背を向けていたが、クルリとキャスター付きの椅子を回転させてこちらへ振り向いた。こいつが絵心甚八…。
「やあやあ世界一のアイドルたち。待っていたよ。俺は〝
こちらも、まずはミヤコさんから名乗りを挙げる。
「初めまして、絵心甚八さん。私は『Mirastrea』のマネージャーを務めます、斉藤ミヤコと申します。本日はお会いできて光栄に思います」
「どうも。星野トゥエルです」
「星野アイです」
「立ち話もなんだし、適当に座りなよ。…アンリちゃん」
「はい。どうぞ皆さん、お掛けになってください」
全員が自己紹介を終えると、絵心はアンリちゃんに指示を飛ばして、それを受けたアンリちゃんが俺たち三人分の椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます。失礼します」
ミヤコさんを筆頭に、絵心から近い順にミヤコさん、俺、アイの順番で座り、ミヤコさんの対面にアンリちゃんが座った。この順番は特に意味はない。
「それで、俺と話がしたいって?」
ここからは俺の出番だ。
「そうだ。私が連合の不乱蔦会長に頼んだことだ」
「へぇ…。よくあの狸が許可を出したね。一応ここは関係者以外はメディアも含め立ち入り禁止のはずなんだけど」
「ブルーロックに入館させてくれないなら私たちの出演はなかったことにする…と言ったら簡単に許可をくれたよ」
「ハハハ、あの銭ゲバ狸らしい。よっぽど君たちという金のなる木を手放したくないみたいだ」
絵心は馬鹿にしたように嗤い、アンリちゃんは溜め息を吐いていた。仮にも一組織のトップだというのに、この人望の無さ。あの会長はある意味すごいと思うよ。絶対に見習わないけど。
「今思うと、糸師冴との訪問が被ったのも仕込まれていたのだろうな」
「だろうね。君たちの話はさっき彼から聞いたよ。ずいぶんファンサしたみたいじゃないか。奴は特別か?」
「まさか。日本の至宝だろうが私たちのファンであるなら他と差はない。たまたまアイドルとそのファンが至近距離にいて、ファンサービスを求められたから答えただけだ」
「そうか。意外だな。君はそういうのは断ると思っていたが…」
そこで区切ると、絵心は俺の瞳をジィ…と覗き込むように観察してくる。
「…噂通りのいい眼だな」
「…………」
「失礼、女性の眼をまじまじと観るものではなかったな」
こいつのそれは視界に収めるという意味の見るというよりも観察的なそれだ。まるで初めて会った時のうちの社長のようだ。
お前もこの俺を推し量るというのか…。
「で、何が訊きたい」
「別に。ただ会ってみたかっただけだ。この時代錯誤でイカれたプロジェクトを遂行するトップが、どんな奴なのか。この目で確かめたかっただけだ」
あとは聖地観光…。あわよくば選手たちの練習風景とか見たかったけど、俺たちの立場がそれを許さない。
「…ふーん。じゃあ実際に会ってみて感想は?」
「私の想像以上に熱い男だと思った」
「どんなところが?」
被せるように訊いてくるな…。会話のテンポも早い。人狼ゲームとかめちゃくちゃ強そう…。
「お前はそもそも、連合の人間ではなく外部から雇われた者だと聞いている。アンリちゃ…帝襟さんの熱烈なプレゼンによって雇われたんだと。その時点で並大抵の精神力ではないことが窺える。まぁそれは帝襟さんにも言えることだが。…何故ならこのプロジェクトはこのご時世では考えられないほど悪い意味で常軌を逸している。…ああ、あくまで客観的にみたブルーロックのイメージであって、私たちの総意ではない。むしろ私はブルーロックに共感すら抱いているよ」
「続けて」
「始める前から世間からの反発は目に見えている。かかる費用も膨大だ。だからこそ、失敗は許されない。失敗すれば二人はサッカー界隈から永久追放だけではなく、確実に世間からも悪者として仕立て上げられる。つまり、これは生半可な覚悟じゃ出来ない…。文字通り
「トゥエルさん…」
女性の新入社員という立場で、役員や会長相手に一歩も引かず、臆することなく自分の〝夢〟を語り、どれほどの逆風に煽られてもそれを実現させようとしている帝襟アンリ。
誰よりもサッカーを愛し、日本サッカーを見捨てずに、人々が諦めた〝
今の保守的な日本に、こんな燃え滾る〝野心〟を持つ人間など、金輪際現れないだろう。それこそ、日本が変わらない限り。
「お前と私は本質が似ている。…私には二つ夢がある。一つは将来的に、〝海外に別荘を買ってアイと蜜月を過ごすこと〟。もう一つは──〝世界一のアイドルになること〟だ。私は自分の夢のためならなんだって切り捨てる覚悟がある。同業者もファンも、私にとっては夢を追う過程の踏み台に過ぎない。そいつらの人生がどうなろうと知ったことじゃない。死人に口無しだ」
「うんうん!私もエルと同じ!周りのことなんてどうでもいい」
これは紛れもない俺の本心だ。初めはアイドルなんてただの手段の一つに過ぎなくて、必要なお金が貯まったらさっさと引退しようと思っていた。
だけど気づいたらアイと二人でアイドルをやることになって、動画を撮って歌を投稿して、それが意外と楽しくて…どうせやるなら世界一になってやろうと思うようになっていった。その過程でどれだけの犠牲が生まれようが、たとえ周りから恨まれようが、俺は己の歩みを止めるつもりは一切ない。もちろん最終的な目標は今も変わらない。アイと蜜月を過ごすことだ。
「絵心甚八…お前の瞳に宿るその熱が、私のそれと同じだからだ。お前は日本をW杯で優勝させるという確固たる信念の元に、他の全てを棄ててこのブルーロックへやってきたのだろう?だから、今回の
「お前が育てた
「──お前、最っ高♡」
絵心の眼に光が宿る。
「さすが、俺が唯一認めたアイドル様だ。言うことが違うね」
「それはどうも。…いい眼になったな」
熱のこもった視線をすぐ隣から感じたので、顔だけ向けてみると、アイが瞳を輝かせながら興奮気味に俺を見つめていた。
「エルかっこいい~♡」
「アイは可愛い♡」
「そりゃあ私は世界で二番目に可愛いからね!」
「私たち二人で世界一番と二番を独占してるもんね!」
昔の俺なら間違いなく照れていたであろう、アイからの羨望の眼差し。さすがに慣れたもので、さっきまで俺自身が声を張って熱弁していた余韻もあり、
そして──
「「ね~~っっ♡♡」」
お互いに向き合いながら、にっこり笑顔で首を傾ける。ここまでの一連の動作は、
これが俺とアイの化学反応の一つ、〝
〝
「えぇ…色々すごいですね…。ミヤコさん、なんですかこのお二人…特にトゥエルさんのテンションの高低差…。実際に目の当たりにすると、言葉が出ないです」
「アンリ、これがトゥエルよ。私も最初のうちは戸惑っていたわ」
そこの二人、しっかり聞こえてますよー。
「まったくすごいな君は…。さっきまで熱弁してた君と今の君、どっちが本当のトゥエルちゃんなんだい?」
「どっちも私だ」
「ハハハッ!そうだよねぇ!現状トゥエルちゃんは俺が知る限り最高のエゴイストだよ。今のやり取りといい、アイドルのくせして、俺の掲げるストライカーのすべてが君に詰まっている!」
「あんたにそこまで言ってもらえるなんて光栄だな」
あの絵心さんに世界一のエゴイスト認定されてしまった!つまり相当ヤバイ奴認定されてるってことか?あのノエル・ノアを超えて俺が世界一のエゴイストになるとか…。しかもアイドルって分野にも関わらず。
「トゥエルちゃんには是非とも原石たちに発破をかけて欲しいね」
「そうしたいが、私は立場上は中立だ。だが、当日歌う曲はこのブルーロックをイメージした曲にしようと思っている」
「ほんとですか!?」
俺の発言を聞いたアンリちゃんが勢い良く立ち上がった。ガタッと椅子が揺れ動く。
「うん。実はもう曲自体はできてるんだよね。今日ここに来たのは楽曲の提供も兼ねてる」
「おおおお!あの『Mirastrea』の新曲が、この
「にしても本当に大変だったよ。依頼届いたのも一週間前だしさ、あのクソ狸会長は新曲作れとか無茶ほざくし」
「完全になめてるよね私たちのこと。エルじゃなかったら一週間で新しい曲なんか作れないよ。私たちのこと自分のお金儲けに使おうとしてるしさ」
思い出しただけでもムカついてきた。あのクソ狸め…。そんな俺とアイの怒りを含ませた発言を聞いたブルーロック側の二人は、奴らの代わりとばかりに謝辞を入れてきた。
「…うちの銭ゲ──不乱蔦がご迷惑おかけして申し訳ありません…」
「俺からも謝ろう。正直話を聞いたときは断られると思っていた。すまなかった。…改めて、依頼を引き受けてくれて感謝する」
そう言って二人揃って頭を下げた。
「お二人が謝ることじゃないわ!どうか頭を上げてください」
「ミヤコさんの言う通りだよ!二人とも悪くないじゃん。悪いのはあの…えーと、潰れた会長だよ」
「つぶ…ぷっ!く、ふふ…潰れた会長って…ふふふ…アハハっ」
「……フッ」
アイの名前間違いがクリティカルヒット!アンリちゃんは普通に吹き出して、絵心ですら鼻で笑い飛ばした。何度聞いても潰れた会長の破壊力よ。アイの歴代の名前間違いでトップクラスの面白さだわ。
「あなた方に非礼はない。だからそう謝らなくてもいいが、気持ちは受け取っておく」
「あなたたちの気持ちはちゃあんと受け取ったよ!」
「はい…ありがとうございます」
「一段落ついたところで、そろそろ終わりにしましょうか?」
もう17時よ、とミヤコさんが告げた。この時期は日が沈むのが早い。ふと窓の外を見ると、すでに辺りは暗くなっていた。ここは山奥だから尚更薄暗い。
「ああ、実に有意義な時間だった。世界一のエゴイストの本質を知ることが出来て、満足だよ」
「私もだ。このプロジェクトの指揮官があなたで良かった。これからも可能な範囲で支援しよう。ブルーロックの勝利を願っている」
今日から試合が終わるまで、俺たちはブルーロックを勝利へと導く〝星乙女〟だ。
「トゥエル、楽曲提供だけしちゃって」
「うん。…これが今回歌う二曲が収録されたROMだ。どちらもまだ世に出回っていない新曲だ」
「アンリちゃん、貰っておいて。…これ、コピーしてもいいかい?」
「流出させないと約束できるなら」
「愚問だね。約束しよう」
「…あとで個人的に聴くつもりですね!ズルいです!私の分もコピーしますからね!」
「はいはいどーぞご勝手に」
「いやそれの著作権私にあるんだが!?」
その後は絵心の勧めで実際に特別試合が行われる予定の中央スタジアムに赴き、軽く当日の段取りを確認した。その際明日も来てリハーサルするかと打診されたが断った。明日は残ってる仕事を片付けて本番に備えたいからな。スタジオを借りて新曲の練習をしたいし。
それに俺たちにリハーサルなんてものは必要ない。段取りさえ分かれば、俺たちは世界一のアイドル、常に最高のパフォーマンスを出力できる。それがぶっつけ本番だったとしてもだ。
世界一のアイドルに不可能はないのだ。
【天使】
気付いたときには遅すぎた系天使。いや、まだ間に合う。現在17歳。この頃既にMirastreaの名は世界中に広く知れ渡っている。間違いなく世界一のアイドルだが、世界一になったら終わりじゃなく、もっと上を目指せると思っているから、自己評価はそこまで高くもない。
アイが16歳になったその日のうちに籍を入れた。式も海外で挙げて、晴れて二人は夫婦となった。ちなみにファンやネットでは満場一致でエルが母。メスガキだから仕方ない。
見た目は原作トゥエルそのもの。身長も無事(?)に152cmで止まった。もともとアイと同じに合わせるつもりだったので、アイの身長が一足先に151cmで止まったから自分も原作通りの身長になることにした。
糸師冴がまさかのファンだったことに驚いた。お前サッカー以外に知らないんじゃなかったのか!同時にあの日本の至宝すらも魅了する俺たちすげェ!ってなった。アンリちゃんは普通に可愛いし絵心さんは正直何言われるか構えてたけど、自分たちを肯定してくれるような発言に加え、想像以上に熱い男だと知って感動。でも背が高すぎて見上げる首がつらい。公的な立場は中立だが、気持ちは完全に監獄側。
後になってアンリちゃんとミヤコさんの年齢が四つしか違わないことに気づいてビビる。
『世界で最も美しい顔』一位連覇中。
【一番星】
世界一のアイドルの片割れ。こちらはエルと違ってちゃんと自覚済み。現在17歳。アイの16歳の誕生日にエルと籍を入れて夫婦になった。幸せ絶頂期。ファンやネットでは満場一致で父。実際に夜もアイが主導権を握ることが多い。でもここ数年はエルも割と攻勢に転じる。最近はエルに天使の姿になってもらっての天使プレイにハマっている。オーソドックスな格好でエルに覆い被さって天使の翼で包んでもらうのが好き。他にも空中でエルに駅弁のような格好で抱っこしてもらって、飛びながら突かれるのも好き。
二人の間に子供はいないが、エルに頼めばいつでも作れると分かってるから、そっちの部分でも精神的に余裕がある。というか今はまだエルと二人きりを楽しみたいという気持ちが強い。おそらく20歳を超えたら自然とそういう話が出てくる。
ブルーロックのことはなんか盛り上がってるなー程度には知ってるけど、選手の名前とかは知らない。そもそもエル以外どうでもいい。でも今回はエルがめずらしく名前を聞いた瞬間に強い反応を示したから興味が湧いた。
言葉には出さないが、糸師冴、アンリちゃん、絵心と同じサッカーに携わる人間でそれぞれ分野は違うが才能のある人間が多くて感心した。
『なりたい顔ランキング』一位連覇中。
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後編は一週間以内には…。