「ねぇ、ほんとに行くのぉ?」
「当たり前じゃん。これはエルのためでもあるんだよ?」
「それはそうかもしれないけど…」
「あと私がイヤ」
「ズルいなぁ。それ言われたら断れないじゃん…」
二曲目を投稿した次の日の放課後、俺とアイは買い物に出掛けていた。
どうやら俺はまだ認識が甘かったらしい。
あれから俺はちょっとした有名人になっていて、学校ではクラスメイトはもちろん、他クラスや上級生、ミーハーな先生たちにまで声をかけられた。そのどれもが俺を称賛するものであったが、普段アイとしか話さない俺からすると、急に大勢から話しかけれるし、その間も俺を遠巻きに見る者や、俺の一言一句を漏らさないように聞き耳を立てる者など、今まで以上に注目されてしまってくたびれてしまった。アイはアイで俺から離れずに牽制してるし、周りは俺に話しかけたいし、そこらの駆け引き云々もその要因の一つであったことは否定できないが。俺もアイをクッションにして適度に躱しつつ、聞かれたことは答えられる範囲できちんと返した。
いつも通り素っ気なく返してもよかったのだが、近い未来にメディアに露出した時に、当時のクラスメイトにインタビュー企画等があった場合、こいつらに「トゥエルは見た目は良いけど性格は最悪だった」「星野アイ以外には冷たかった」等、悪い方の話題でスキャンダルが起こらないようするためだ。そのためにトゥエルムーブをしつつも、これまでより幾分か態度を軟化させる。完璧な嘘を貼り付けた笑顔が出来るアイとは違い、俺は笑顔になることすら出来ないからな。その分対話でしっかり株を上げていきたいと考えている。
そしてその時に気をつけるのは、余計な発言をしないことだ。アイとの関係性も今はまだ伏せておくのが正解だろう。これは動画内で報告するつもりだ。と言っても別に同棲してます!お互いに大好きです!くらいだけどね。キスくらいは見せつけるかもだけど。俺たちほどの見た目なら百合はむしろ歓迎される。なんならお互いに男の影がまったくないことの証明になり、さらに人気が出るかもしれない。
「なのでこれからは常に相手がボイスレコーダーで録音している、という
「有名人としての自覚を持ち、自分の発言に責任を持つことはとても立派なことよ。大人でも出来ない人はたくさんいるんだから。でも、何もそこまでしろとは言っていないわ。今からそんなことを気にしていたらストレスで逆に追い詰められちゃうわよ?まだ子供なんだから、何かあったら周りの大人を頼りなさい。施設の人でも、私でも。星野さんもトゥエルさんをしっかり支えてあげてね。あと、しつこいようだけど二人とも誘拐には十分注意するのよ」
「無論です」
「はぁい」
うーむ…。やっぱり良い人だなうちの担任は。普段あれだけ俺に邪険にされているというのに、指導者として、大人として俺を正しい道へ導いてくれようとしている。中身も含めたら俺の方が大人なんだがな。それでも良い意味で評価を改める必要がありそうだ。
放課後、担任から話があると言われて教室に残っていた俺とアイは三者面談を受けていた。
まぁ内容は予想通りで、顔出しのリスクやネットリテラシーについてや、発言の影響力に気を付けろ、と言ったものだ。
「ランキング一位の影響力ってすごいんだね…」
空を見上げながら、独り言のようにアイがぼんやり呟いた。
「ね。見誤ってた。まさかあんなに話しかけられるとは…」
「意外とみんな観てるんだね」
メディアに露出したわけでもない、言ってしまえば素人の集いでの一位だというのに、周囲のこの反応。俺の調べによると、まだ動画サイトも黎明期を抜けたところだというのに。人口もそこまで多くないだろうからと高を括っていた。
「いや、もしかしたらあいつらの親世代が観てるのかもしれない」
「あー、それはあるかも。そう言われると朝も大人からの視線の方が多かったしね」
「うん。たぶん私が動画の子だってバレてる」
いくらこの世界が前世の地球と比べても20年ほど時代を先取りしているとはいえ、まだまだ俺が生きていた年代には追い付いていない。俺のいた時はパソコンは一家に一台どころか一人一台だったし、小学生で携帯を持っている子もめずらしくなかった。だから誰でも簡単にインターネットにアクセスできて、各種SNSを観ることができる時代だった。でも、
アイの言うように、朝だって通学途中にいつも以上に大人たちからの視線を感じていた。戸惑いや驚愕、それらと比べると極々僅かだが──性欲的ものを孕んだそれ。きっと俺がトゥエルだということに気づいたのだろう。俺は圧倒的に目立つから。あとロリコン、ぺド野郎は去ね。
「エルは虹色の瞳だから一発でわかっちゃうよね」
「だね。始める前は最強のアドバンテージだと思ってたけど、実際に注目を浴びると気圧されそう」
「大丈夫?次から歌だけにする?」
「ん?大丈夫だよ。急に大勢の人に見られたからびっくりしただけで、顔出し自体は抵抗ないし、より多くの注目を集めるのが目的だから、むしろ結果的には良いことだし」
「そっか…エルがそう言うならいいんだけど。無理だけはしないでね?」
「うん。分かってるよ。…ありがと、アイ」
表情や声色から、本気で俺を心配してくれているアイの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。アイの可愛さと優しさに心を癒されつつ、今後の展開を考える。
こうなってくると、今後注意しないといけないのはSNSでの拡散、地域特定、凸者が出るかも、という点だ。だがこれらは既に手遅れと言わざるを得ない。先日の家電量販店の一件から俺は謎の金髪美少女としてSNSに上げられてたっぽいし。地域が特定されるのも時間の問題だろう。俺の肖像権とは。
まぁ実際に襲われたとして、俺一人ならどうとでもなるが、アイには自衛は難しい。まだアイの存在は明かしてはいないがこれも時間の問題だし、何より毎日俺と通学帰宅してたら仲が良いんだってことは誰だって分かる。ストーカーの中には何日も前からルートや時間をシミュレーションしてる奴もいるらしいし。アイが一人でいるときに狙われる可能性もある。今は移動は常に二人一緒だが、今後ずっとそうだとは限らない。今もすれ違う人からの視線を感じるし、早めに何か対策を考えないといけないな。手っ取り早いのは思想思念を使って全人類に〝俺とアイに凸しない〟と思考誘導をかけることだ。これくらいの用途ならまぁ使ってもいいかなとは思ってる。
「うーん…」
「どうしたの?」
「自衛のために能力を使おうかなって考えてる」
「んー…、まだいいんじゃない?もう少し様子見てからにしよ」
「そうだね。さすがに早すぎるか」
「実害が出たらやろ!」
「うん。ま、何もないことを祈るかな。さっさと世界一になって海外行きたいなー」
「だねぇ」
お互い空を見上げて独り言のように呟く。
ぶっちゃけやろうと思えば今この瞬間にも世界一になれる。とても簡単なことで、全人類に『Mirastreaのファンになる』ように思考誘導してしまえば世界一のアイドルの爆誕だ。でもそれは…ねぇ?そんなんで世界一になっても意味がないというか。
前世の話になるが、『steam』で落とせるようなインディーズゲームの中には始めからコンソールコマンドが搭載されているものがあって、そこにはチートコードがあるんだけど、それを使えばゲーム開始から最強武器だったり、なんなら無敵になれたりするんだよ。でもさ、それってゲームの寿命を縮めてるし、それを使ってクリアしても楽しくないでしょ?だから基本的にプレイヤーはそれを封印していて、どうしても行き詰まった時だけ解放する、みたいな使い方で遊ぶ人が大多数なんだよね。
なんで今この話をしたかというと、俺にとって思想思念はコンソールコマンドと同じなんだよ。常識改編と思考操作が強すぎてその二つだけで何でも出来てしまうから。だから使えば一瞬で目標達成出来るけど、それをすると過程が楽しめなくなるのだ。だから今回みたいな俺たちに直接害を為す可能性が浮上する場合を除いて使わないことにしているんだよね。
「それはそうとエル──あ!こら、逃げるなエル~!」
その瞬間、後に続く言葉を理解した俺は走り出した。
が、先回りしたアイに回り込まれて捕まってしまった。
「まったくも~」
「ねぇ~、ほんとに行くのぉ?」
ぷんぷん可愛らしく怒るアイと、いじけてやだやだー状態の俺はとある場所に向かっていた。
「まだ着けなくてよくない?」
「よくない!私がイヤなの~!」
そう──先日俺とアイが一線を越えた時に起きた、『俺のおっぱい膨らみ事件(命名俺)』の件だ。
あれからアイが俺に下着着けて!って言うから買いに行くことになったのだが、俺ってまだ肉体年齢7歳だよな?なのにもう胸膨らむの?早くないか?確かに原作トゥエルちゃんは見た目の割にはあったけど。……ってか俺って自分の体好きなようにいじれるよな?アイと一緒に成長したいから、あえて肉体年齢を同じにして成長を解放してるだけで。……なんてことは言わない方がいいってことはさすがの俺でも分かる。
まぁ確かに最近擦れて鬱陶しいとは思ってたし、これもアイの可愛い嫉妬心やら独占欲が招いた結果だと思えばいくらでも許せてしまうけどね。
だから今もアイに連れられてランジェリーショップに向かっているのだとしても、甘んじて受け入れようではないか。
前世男の俺には色々な意味でキツイものだとしても。
◆◇◆◇
「あぁ~…疲れたぁ…」
「大袈裟だなぁエルは」
数十分後、俺はげっそり顔で、アイはほくほく顔でランジェリーショップを後にした。
俺たちの手には質の良い高級そうな大きな赤い紙袋が一つずつある。
終わった。色々終わった…。元男として大切なナニカを失ってしまった…。
アイに促されて連れてこられたところは、俺でも知ってるような有名企業の経営する高級店舗だった。え?子供用の下着買うだけだよね?そもそもお金あるの?とか思ったけど、前者はともかく後者に関しては、今朝施設を出る前にめずらしくアイが女性の職員に話しかけていてお金を貰っていたなと思い出して納得した。その時チラッと見えた金額が万券数枚だったから戦慄したけど。いやまたかよ。前もそうだったけど小学生に数万も持たせるなよ…。それだけ俺たちを信用してくれてるのはありがたいけどさ。
店内に入ると、入り口近くにいたスタッフは俺とアイを見て一瞬驚いて目を見開くも、さすがプロと言うべきかすぐに切り替えていらっしゃいませと頭を下げつつ人受けするような笑みでこちらへ近付いてくる。
俺は何もわからないからアイに任せようと現実逃避していた。
「本日はいかがなさいましたか?」
「この子に合う下着を見繕って欲しいです」
「畏まりました。では──」
この時、俺は心を無にしてい時間が過ぎるのをひたすら待っていたから何をしたのかはあまり覚えていない。
確か──スタッフは俺がまだ膨らみ初めて間もないことや俺の年齢を聞いて、採寸しないでもいいブラトップやキャミソールを勧めてきて、それに対してアイがやたらギラついた目で採寸を頼んでいたな…。うん…結局アイの目の前でガン見されながら採寸したし、その後何故か意気投合してたアイとスタッフでフィッティング?されてハーフトップ、キャミソールを含むいくつかのスポブラ、ジュニアブラなんか買ったな…。俺の目は終始死んでいた一方、アイはキラキラした目で終始楽しそうにしていた。燦々と輝く一番星が印象的でしたね…。アイが楽しそうならそれで俺は満足です。
女の子って下着一つ買うのも大変なんだな…。
「アイ、私の採寸見て興奮してたでしょ」
「あ、あー…それはね?♡」
「…可愛いやつめ!」
「えっへへ♡」
隣を歩くアイの肩を抱き寄せて頭をうりうりする。
「私の時もお願いね♡」
「エ」
「え?」
「え~と、アイ一人で行くのは──」
「もちろん一緒に来てくれるよね?エ・ル♡」
「ウンモチロンイッショニイクヨ」
◆◇◆◇
施設に帰ってくる頃には時間は17時を過ぎていて、俺たちは会話もそこそこに夕食を終えて、風呂に入る前に動画の確認をしようということで二人でPC前に張り付いていた。
「100万行ってるかな?」
「どうだろ。二曲目だし全部英語だし。最初ほどの話題性はないと思うけどなぁ」
「エルは自己肯定感低いよね」
「んー?妥当じゃない?」
「全然妥当じゃないよ。エルが思ってるより皆エルに注目してると思うよ」
「ふむ…」
客観的に考える。
顔面国宝の外国産の天然金髪幼女が日本語のオリジナル楽曲を作ってそれを天使の美声で歌う。
うん。確かに客観的に見たらとんでもない逸材だよな俺。どこを取ってもバズる要素しない。改めて思うのはトゥエルってまさに最強で無敵だなぁってこと。
しかもこの幼女、日本語ペラペラな上に日本の文化にクソ詳しいんだぜ?もし俺が一般の立場でトゥエルを見たらめちゃくちゃ嬉しいわ。この子日本大好きなんだなって。ワンチャンあるんじゃないか、なんて期待を抱いてしまうかもしれない。いや、嘘。それはない。
「私ってすごくね」
「うん、すごい」
「まさに最強で無敵のアイドル!」
「まだアイドルじゃないけどね」
アイに突っ込みをいただいたところで動画を開こう。
伸びてたら嬉しいな。
「うわ」
「どれどれ……おおー!」
パッと見で再生回数がえげつないことが分かってしまった。
「162万とか」
「わーすっごい!さすがエル」
まさかの初日超えでビビる。あれか?やっぱり初日でだいぶ爪痕残せた感じかな?
一応編集で字幕と意訳を載せたとはいえ、日本では馴染みのない洋楽なんだがな。
コメントを流し見る。赤字で大きく中央に「天使降臨」「世界の至宝」「顔面国宝」と書かれている。コメント職人ってやつかな?
『待ってました!』『キタキタキタキタ』『きたあああああ』『うおおおおおお』『かわああああ』『トゥエルちゃん!』『やったああああああ』『2曲目きたーーーー』『かわいい』『可愛い』『可愛い』『かわいいいいいいいいい』『クッソかわいい』『なにこの超絶美少女』『この子がトレンド一位の子か』『話題の子』『日本に降臨した天使ってこの子か』『これは確かに天使だわ』『顔面えっっっっぐ』『ネットニュースから来ました』『トレンドから』『かわいすぎ』『は?好き♡』『金髪幼女だ!』『これは天使』『ロリコンホイホイ』『俺もうロリコンでいいや』『好きです』『虹色の瞳綺麗すぎる』『美しい』『ふつくしい』『髪の毛つやつや』『目ほんと綺麗だな』『私もこの顔に生まれたかった』『顔 面 国 宝』『精巧なビスクドール』『約束された勝利の顔面』『全人類を公開処刑する幼女』『相変わらず無表情なのね』『←そこがいい』『←同じく』『←こういう子は特別な存在にだけ笑いかけるんだよな』『←俺のことか』『←俺だろボケカス』『←俺には毎日屈託のない笑みを見せてくれるよ』『←俺以外には笑わないんだよトゥエルは』『←トゥエルなら俺のとなりで笑ってるよ』『←トゥエルなら俺の膝に座ってニコニコしてるよ』『←ここまで非モテロリコンの妄想』『トゥエルちゃん何歳?』『SNSやってないのかな』『貢ぎたいのにどこにも貢げる場所がない…』『SNSやってる?やってたらアカウント貼ってほしい』『調べたけどやってないっぽいんだよな』『見つからないな』『これだけバズったらSNS始めた方がいいよー』『まだ小学生っぽいし携帯ないんじゃない?』『PCでも出来るよ』『SNSアカウント作ってくれー』
相変わらず歌パートまでは顔についてのコメントばかりだな。それはそうとSNS関連のコメントが散見され始めた。
実を言うとSNSのことを完全に忘れていたのよね。パソコン手に入って浮かれててさ、これで動画投稿できるー!ってウッキウキで投稿してそれで終わりにしちゃってた。本当ならSNSで告知したり、今後の状況を発信したりしてもっと集客力を高めたりするものなんだろう。でもさ──
「逆にSNSやってないのにこの伸びってすごくない?」
「すごいよ!だからエルは自己評価低いなって言ったの」
「SNSやればもっといくかな?」
「一ヶ月で100万人登録も夢じゃないと思う」
この勢いは有名芸能人が参入したレベルじゃない?でも俺ってまだ無名なんだよなぁ。となると、やっぱり顔か?世界で唯一の虹色の瞳持ちだし。
「やっぱり顔なのかな」
「顔だけじゃないよ。エルはずっと頑張ってたじゃん。一日中歌ってたときもあったし、声が枯れることもあったし、本当のアイドルがどれくらい練習してるのか知らないけど、間違いなくエルよりは少ないと思うよ。それを毎日続けてるエルは本当にすごいし、エルの集中力とか忍耐力とか向上心とか、本当に尊敬してるよ」
「あ、アイ…!」
「前にエルが私に言ってくれたこととはちょっと違うかもだけど…、私が大好きなエルを、エル自身が認めてあげて?」
「──アイッ!」
感極まってアイを抱きしめる。
「…ありがとう、アイ。今めちゃくちゃ嬉しい。心がぽかぽかしてる」
「よしよし」
アイは俺を受け止めて、優しく頭を撫でてくれた。
……嬉しい。
アイが俺をそういう風に思ってくれてたなんて。今すぐ全世界に発信したい──俺のパートナーはこんなに可愛くて格好いいんだぞって。早くアイと共演したい!予定早めちゃおうかな。
やっぱりアイに褒められるのは嬉しい。こうして自分が評価されることに慣れてないから初見は上擦っちゃうけど、落ち着いて見た時に自分が認められたんだって思えるから。
「続きみよっか」
「うん!」
歌パートに入る。歌詞は全て英語だ。
それに合わせてコメントも変わっていく。
『すげえ…』『歌うますぎ…』『英語もできるのすごい』『当たり前っちゃ当たり前だけど発言完璧だね』『ネイティブ』『素人でもわかるこれはすごい』『控えめに言って神』『イントネーション完璧』『逆にあれだけ日本語できるのすごいわ』『天使の歌声』『幼女特有の高い声と曲調が見事にマッチしてる』『帰国子女の俺が聴いてもこれはネイティブと変わらん』『出身どこなんだろ』『英語圏出身なのかな』『イギリス訛りっぽいけど確証はない』『イギリス人の友人(イングランド)に聴いて貰ったけど向こうと比べても何の遜色ないらしい』『確かにイングランドだなこれは』『RPっぽいけど』『←支配者階級のアクセントか?言われてみれば確かに語尾のR発音してないな』『←つまりトゥエルは貴族だった!?』『←その可能性マジであるぞ』『←だとしても何で日本で歌動画あげてるのさ』『日本語も英語もペラペラとか羨ましい』『俺はトゥエルをペロペロしたい』『←お巡りさんコイツです』『将来有望だな』『いいなあ学校のテストとか無双できるやん』『けっこう難しい曲っぽいけど全然音外さないね』『トゥエル何人なの?』『こんな逸材が日本にいたなんて…』『トゥエルちゃん○○辺りなのかな』『SNSやってほしい』『スマホ買ってもらおう』『トゥエルちゃん!トゥエルちゃんを推すためにもSNS初めて下さいお願いします!』『今一番推したい子』
よかった…歌の方も満場一致で高評価だ。ほっと息を吐いて胸を撫で下ろす。コメントを見る限り発音も完璧らしい。イギリス訛りってあるけど、全然知らなかった。RPって何だって思って調べたら王室とかBBCキャスターが使う英語なんだとか。まじか、上流階級のアクセントを使ってたのかトゥエル。まぁ原作でも世界のトップだったし納得だわ。
そしてやっぱりSNSに関するコメントが来てるな。携帯持ってないんだよなぁ。PCは外には持ち込めないから始めるならやっぱり携帯でやりたいけど…。また今度職員にお願いしてみるか…。アイにも数万渡してたし今すぐは無理だろうけど。早めに収益化しないとな。
「英語いけるね」
「私…自信ないかも…」
「大丈夫!私が教えるんだから!」
「なんでそこだけそんなに自信たっぷりなのエル…」
「え?だって…私だし?」
「答えになってないぃ…!」
「でも謎に自信たっぷりな私のことも?」
「好きっ♡」
「やったー!」
◆◇◆◇
「登録者40万人になってる」
「たった2日で40万…これは何かありそうだな」
「たぶん皆が言ってるようにSNSで話題になってるんじゃない?Twitterとか」
「それかインフルエンサーに紹介されたとかかも」
「あー」
「トレンド一位ってあったよね」
「それならまぁこの異様な伸びも納得できる」
もしかしたら有名なインフルエンサーか配信者辺りが紹介してくれたのかも知れない。
登録者増えるのは純粋に喜ばしいことだ。話題になったとしても動画だけ観て去る場合が大半だし、そんな中で40万人もの人が俺のチャンネルを登録してくれた。つまり、また俺の動画を観たいだったり歌を聴きたいだったりと思ってくれている人が40万人もいるということだ。再生数の割に登録者が多いのも嬉しい。それによく考えたらこの時代の40万人って相当すごいんじゃないか?前世と照らし合わせて考えた場合、全盛期まであと10年近くあるし。
「SNS始めないとなあ」
「お互いにパソコンあるしやる?」
「いや…まだいいかな」
「そうなの?みんなやってほしいって言ってるよ?」
「それはそうなんだけどさ、アイとのデュエット曲を投稿してから始めたいんだよね…」
「えー、でもそれってけっこう後じゃない?その頃までやらないのはまずくない?」
「まずいかな…」
「うん…良くはないと思う」
確かにアイの言う通りだ。これだけコメントで催促されてるのにそれを無視し続けるのは心象が悪くなる。
批判の元になるような出来事は避けたい。
これは今日投稿する分の投稿者コメントに書いておくべきか。
携帯ないからすぐには始められないけどやる意思はある、と。これだけでもだいぶ違ってくるだろう。
「アイと同じタイミングで始めたい。これは絶対」
「そうだね。同時にやろう。…明日またお願いしてみる?施設の人に」
「…うん。俺のファンらしいからいけるかもね」
そして俺は三曲目を投稿した。
SNSについての見解を述べながら。
既に俺は大手と呼ばれる人たちの横に並んだ。金のなる木である俺が携帯が欲しいと言えばさすがに周囲も無視できなるだろう。アイと一緒じゃないとイヤ!と言っても問題なく通るはずだ。何故なら俺にSNSをやらせた方が圧倒的にリターンが来るからだ。ちゃんと施設にも還元すると約束してるし、アイと俺の二人分約20万円と引き換えにもたらすリターンはその10倍は軽く超える。俺ならそれができる。買うのはもちろん最新機種だ。
「最初の反響を見てさ、登録者50万行ったらアイを出演させようと思ってたのね」
「うん」
「私の目論見では毎日投稿して一週間くらいかなって」
「うん」
「…なんか、明日には届きそうで」
「そうだね…」
「さすがに3日目…4日目か。アイを出すのは早いかな?」
「逆に早い方が良くない?私が出たいからとかじゃなくて、私たち二人でMirastreaなんだし、遅くなればなるほど厳しくならない?なんでもっと早く紹介しなかったの?ってならないかな」
「あー…それもそうか…あまり遅いと売名と思われちゃうか…そうなったら私が許せないしな」
「でしょ?私もエルと並ぶのは公開処刑で怖い部分もあるけど、それ以上にエルと同じところに立ちたい。エルの隣に立ちたい」
俺が自分の実力にいまひとつ自信を持てないように、アイも自分の容姿に自信を持てないようだった。けど、それは間違いなく杞憂に終わると断言できる。だってアイは俺が認めた世界No.2なのだから。俺には僅かに劣るものの、アイだって世間一般から見たら文句無しの顔面国宝だ。
真面目な話、トゥエルとして自覚してから今日までに、アイより可愛い人物を見たことがない。それは学校や施設の人たち、その周りの通行人だけでなく、テレビで観るアイドルやモデル、女優も含めてだ。多少綺麗な人や可愛いと思う人はいることにはいるが、大人も子供も引っくるめて俺の中でアイを超える人物は現れることはなかった。そもそも世界一の美少女を自負している俺が、初見で〝とんでもない美少女〟と認識できた時点でアイはこの世界における顔面超越種と言っても過言ではないのだ。
「公開処刑なんかにならないよ。でも、そうだね。アイの言う通り、私たちは二人でMirastreaだもんね。じゃあアイ、明日は撮影だ。二人の…Mirastreaのデビュー曲のMV撮影だ。…いいかな?」
「もちろんいいよ。楽しみ。やっとエルと一緒に歌えるんだね…」
「こんなに早くバズるとは思わなかった。…こんなんなら最初から二人で出たら良かったな」
「まぁ最初はエルだけで良かったと思うよ。一人の方が顔面のインパクトの主調すごいし」
「あはは…」
顔面のインパクトの主調が強い、はどっちにも取れるな…。
さて──明日は忙しいな。
朝忘れずに職員に携帯をねだって、放課後にアイとMV撮影…編集して投稿。一日で終わるかな?
本当はアイをもう少しトレーニングさせる予定だったけど、予想以上の反響にアイを早めに出さないと後々面倒なことになりそうだ。俺は未だに自分の歌唱力がとの程度なのかいまいち把握しきれていない。コメントを見る限りではプロ級らしいが…なら俺から見て天才だと思うアイもプロ級なんじゃね?ならもう出しても問題ないかと考えた結果だ。
何だろう、自分が歌うときよりも緊張しちゃうな。アイなら大丈夫、と思っていても不安が完全に消えた訳ではない。俺が叩かれるのはいい。だがアイが叩かれたら…。そう思ったからこそアイはじっくりトレーニングさせて万全の状態に仕上げてから満を持してデビューさせるつもりだった。
いや、信じろ。俺自身を。アイを。大丈夫。アイも歌の才能は俺に匹敵する天才だ。天才と天才が喰い合うことで化学反応を起こしてお互いをさらに高め合うのだ。
やってみせる。
Mirastreaの名を、『エル』と『アイ』の名を、世界に轟かせる。
まずはその第一歩を踏み出すのだ。
◆◇◆◇
その夜――
「エ、エル!服脱いで服!」
「え…えぇ…」
「いいからッ!」
「わ、わかったわかった…」
ヌギヌギ
「ッ…!おおお~っ♡」
「見るな見るな…そんなに…」
「エルが…エルがブラジャーを着けてる…!うわぁ…なんかすっごくえっちぃ♡」
「うぅ、何でだろう…何も着けてないときより恥ずかしいんだが…」
「ひっひっひぃ♡私が脱がしてあげよう♡」
「っ!ば、ばか!やめなさい!自分ではず――」
プチン
「きゃあ!?」
「隙ありぃ♡」
「あっ♡え、ちょ、まっ、いきなり吸っちゃ――あぁんっ♡」
【天使】
動画投稿してから知らない人から話しかけられたり、視線を感じることが増えた。
元々容姿だけで天下を獲れるが、今後は歌でも天下を獲る。そして本人は無断で撮られる。撮られてることには気づいてるけど現状は放置。というより防ぎようがない。有名税だと割り切ってる。
アイの出演を早めることを決意。理由は遅れて出すことでのアイに対する売名行為云々の批判対策と、防犯対策。
初めからアイを出さなかったのは、自分とアイに実力差があると思っていたから。それでアイが叩かれるのを恐れていたから。これらを悪気がなく真面目に思ってるナチュラルクズ。自分の実力がどの程度がわからないけど、今のところはアイより自分の方が上手いとは思っている。実際は心の奥底ではトゥエルの体だし歌上手いんだろうなって思ってるけど、それを口に出して言えるほど自信はない状態。
ランジェリーショップにて元男としての尊厳を破壊された。アイにお願いされて彼女の時も同行して色々吹っ切れる予定。
が、今後成長するにつれてサイズが合わなくなり、その度にアイに強制連行されてやっぱり尊厳破壊される。
【一番星】
エルを見る周りの視線の変化に真っ先に気づいた。そういうのには敏感だからね。
SNSは前から興味があったけど、エルと同時に始めたかったから我慢していた。お金もないしね。この度コメントが追い風となってエルにSNSを始めさせるキッカケを作った功労者。
SNSをやりたい理由は世界中にエルとの仲を見せつけたいから。最高に素敵な理由でしょ?
天性のアイドルだから英語の才能は普通にある。なんなら今後英語を覚えていくうちに、他の教科はからっきしでも英語は歌詞でも出てくるし満点をとるのが普通じゃないの、と素で思うようになるまである。そういうところもエルとお似合い。
エルという怪物が近くにいるせいで自分の歌の技術は(エルと比べたら)下手だと思っている。しかし彼女とのトレーニングは確実にアイの歌唱力を上げていて、本人に自覚はないけど実際はもう既にプロ級の実力がある。しかもまだまだ伸びる。『天才』が『超越種』を超えることはないが、努力次第では並び立つことも可能。
ランジェリーショップでは色々楽しんだ。恥じらうエルはとっても可愛かったですごちそうさまでした♡脱がす楽しみが増えたね、エル♡